1953年11月 東京 自由党本部
この年の選挙で、岸は自由党の候補者として選挙を戦い、見事当選を果たしていた。11月某日、議員としての立場を得た岸の元に、辻と服部が呼び出された。そして岸の居室に入った二人を迎えたのは、岸ともう一人の男だった。
「岸さん、あなたなら分かっていて付き合っているのだと思うが、こんな旧陸軍のゴロツキとの関係は、早いうちに絶った方がいいですよ。」
「まぁまぁ、実は今回の計画、発案者はそこに居るゴロツキでね。昔の事は全て水に流した…とまではいかないが、今回は協力してくださいよ…鳩山さん」
服部と辻を迎えたのは、岸と日本自由党の総裁である鳩山一郎だった。二人の姿を見て、同じく政治家である辻は、いよいよ岸さんも吉田さんと袂を分かつ気なのだと確信した。二人に席を勧めると、岸が話しをきりだした。
「おそらく、早晩現在の吉田内閣は倒れるだろう。そして次の首相は十中八九そこにいる鳩山さんがなる。そこでだ、以前君達と話した際に出てきた、例の「学園艦」だが、鳩山さんが政権を握った時に世界に対して建造を発表しようと思うのだよ。これまで欧米を中心に学校を船上に作った「学校艦」というものは存在していたようだが、一つの都市を丸ごと艦上に作る「学園艦」というものは存在しない。しかも、空母型の巨大艦など前代未聞だろう。誤解を受けないような上手いストーリーを考えなくてはならない。何か良い案はあるかね?」
「私も、岸さんからこの話を聞いて最初は困惑したが、考えてみれば面白い発想だし、海上を移動する都市など男の浪漫だね。場合によっては私の私費を投入してでも建造したいと思っているよ。もっとも、発案者については、岸さんは何も教えてくれなかったが(笑)。ただ、軍艦の形をしている巨大な船である事は間違いない。アメリカにどのように言い訳をするか…それが頭の痛いところになりそうだよ。」
岸だけではなく、鳩山も計画自体は気に入っていた。戦車道は別にして、海上を移動する都市というだけでも、男の浪漫だ。問題は、世界にどのようにアピールするか…やり方を間違えたら、また大変な事になる。
「大丈夫ですよ。納得してもらえるかは別ですが、私に良い案があります。空母の形をした巨大艦を提案した際、これをどうやって世界に受け入れさせるか?というのは私自身感じていました。それで、少し私なりに考えてはいたのです。」
辻はそういうと、持参した鞄から一枚の紙を取り出した。その紙にはこのように書かれていた。
『来るべき国際化社会ために広い視野を持ち大きく世界に羽ばたく人材の育成と、生徒の自主独立心を養い高度な学生自治を行うために、これからの教育は海上で行うべし。』
「いかがですかね?ついでに少し付け加えるのであれば、戦前は国家によって完全に教育が管理されてきた結果、画一的な思想となり、それが先の大戦に繋がりました。新生日本はそれを反省し、ノビノビとした環境でより生徒に高度な自主性をつけさせることで、多用な価値観を持つ人材を作ろうと思います…のような感じで。まぁ、その船を使って戦車道がやりたいから造ります…とはまさか言えませんから(笑)」
やはり、もう考えてあったか…と岸は思った。理由づけは、少しわざとらしい部分もあるが、一応強弁しても問題はなさそうだ。もっとも、それを実現するためのコストを考えると、全くもって不合理な計画だが。ところが、それを聞いていた鳩山は満面の笑みを顔に浮かべると、辻の手を握って叫んだ。
「素晴らしい!」
まさか、そのような反応があるとは思っていなかった辻は驚いた。
「辻君、これは素晴らしいよ。そう、人間は多用な価値観に基づき、相互尊重、相互理解、相互扶助がなければならないのだ。そのためには、広い視野や自主独立心は非常に重要だよ。私もこの理由なら共感できるよ。」
辻は焦った。今更、「戦車道をやるためには、どうしてもこの船が必要で、それを建造するための理由なんて後付です、ただの方便です。」などと言えるような雰囲気ではなかったのだ。そんな辻の気持ちを岸は理解したのか、苦笑いを浮かべつつ鳩山に言った。
「まぁまぁ、鳩山さん少し落ち着いてください。この二人が来る前に話しましたように、この船を使って戦車道をやらせるのが本来の建造目的ですよ。辻君が今提案した理由は、国際社会に対する方便です。」
「岸さん、そんな事はこの鳩山一郎、よく分かっている。ただ方便とはいえ、これを国際社会に正式に発信する以上、まったくの方便では済まなくなる。そうなると少なくとも形式的には、この方便に従った学園運営となるだろう。たとえ方便だとしても、これは素晴らしいと思うし、私が理想としている教育の姿なのだよ。」
たしかに方便とはいえ、この内容で発表してしまえば、これが前面に出る事になる。そうなると、多少はそれを意識した運営を行わなくてはならないだろう。
「岸さん、それに辻君に服部君。僕はたとえ方便だとしても、この理由は非常に気に入った。これはまさに私が理想とする教育の姿だよ。学園艦の件だが、私が責任を持ってなんとかしよう。それと…この艦の建造の件なのだが、一番艦建造には、私に建造資金の一部を寄付させてもらえないだろうかね?自分の理想を形にする以上、私自身も政治家としてではなく、一人の人間としてお手伝いしたいのだよ。」
おやおや…えらくご執心だな…と岸は思ったが、このような純真な所が鳩山の良い所でもあることを思い出し、納得した。だが、鳩山は分かっているのだろうか、この一番艦は試験艦のため、最初の学校機能は「機甲科」単科の学校になるということを。
「鳩山さん、気持ちは嬉しいが、最初の艦はおそらく規模が小さい実験艦だよ。そうなると、通常規模の学校ではなく、戦車道を行う機甲科単科学校になるよ。鳩山さんの理想とは少し異なってしまうのではないかな?」
「いや、岸さん。たとえそうであっても、この学園艦システムの根幹には、今辻君が提案した思想が基づくだろう。そうなるのであれば、結果的に私はこの思想に対してお金を出す事と同じだと思う。だから、その思想が最初に海に浮かぶ事になる一番艦に個人的に寄付するよ。」
なるほど、そこまで分かっているのであれば問題はないか。鳩山家はお金持ちの家だ。自分の理想のために金を使えるのであれば、本人も満足なのだろう。
「岸さん、最初の学園艦は機甲科単科学校になるのですね?だとすると、その理由もついでに考えませんか?」
服部がもう一つの疑問を出す。普通科ではなく機甲科単科にする理由。だが、これは直ぐに理由はついた。
「これから日本は工業国として進んでいく。男子学生の方は、また別の学園艦を考えるが、少なくとも最初のこの学園艦については、戦車道という武道を通して、女子学生にも機械に触れさせ、工業国家の土台を作るため、機甲科単科学校を設立する。こんなところかな?」
岸が理由をそらんじた。これについては岸の中で、解答が既に作られていたようだ。どうやら船についてはなんとかなりそうだ。あとは、実際にどのようにしてそのような巨大艦を作るのか…これが問題になるな、と服部は考えていた。
一応、ガルパン内で語られていた学園艦の設定に合うように徐々に収束させていますが、さすがに一人の人間の資金で学園艦を建造させるのは無理だな…と思い、建造資金の一部を寄付という形で乗り切ろうとプロットの段階で考えていました。まぁ、ガルパンの時代からはだいぶ昔の話なので、真実に尾ひれ背びれがついて、ガルパンの時代ではそのように言われている…でも良いかなと^^;。蛇足ですが、この時代にこれだけポンと金を出せそうな人間をあまり知らないため、鳩山家に登場してもらったのですが、「友愛」と絡めて意外とスッキリ落ち着いたかな…という気もします。鳩山一郎がここでかなりの資金を寄付していますと、この世界の由紀夫ちゃんには現実世界と比べて子供手当てがいかなくなるような(笑)。
あと、本設定では昔から学園艦があったという事になっていますが、学校機能のみの船という形で解釈し、町もそろって船にするのは初めて!という形で書いています。西住流がドイツ戦車を手に入れる下りについては、そのうち外伝で書いてみようかな…と思っています。やっぱり、知波単学園中心で書きたいので^^;。ちなみに、池田流が今回手に入れた戦車ですが、試作五式砲戦車ホリと五式中戦車チリは実際には未完成だったと思います。ただ、将来的に黒森峰と練習戦ではガチで戦わせたいので、無理やり完成したことにして戦力強化させています。