学園艦誕生物語   作:ariel

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外伝2-1 西住流の出発

1954年 1月 東京 岸信介私邸

 

西住流は、軍神である西住小次郎が作り出した、戦車道の中でも由緒ある流派の一つだ。『撃てば必中、守りは堅く、進む姿は乱れなし。 鉄の掟、鋼の心』という教えを持ち、戦車道では集団戦闘と統制された攻撃には定評がある。そして、何があっても前へ進み、最終的に勝利を得る事を大事にする流派のため、軍人を中心に支持されており、多数の軍人の娘が西住流に入門していた。そんな戦車道の巨大流派である西住流も、終戦後は故郷熊本で細々と戦車道の訓練を続ける毎日であった。

 

しかし前年、辻政信や服部卓四郎、岸信介等の協力により、戦車道が復活、そして学園艦という新しい形式が出来る事となり、西住流も本格的な戦車道復活に向けて始動し始めた。ところが、肝心の戦車がない。ライバルである池田流はこれからも帝国陸軍の戦車に拘る事を表明しており、それを受け先年の夏、自分の夫の上官でもあった細見惟雄の協力により、長野の松代に保管されていた帝国陸軍の戦車を受領している。西住流では、勝利のため、今後はより強力なドイツ戦車を使用したいという考えがあるのだが、肝心のドイツ戦車をどのように手に入れるのか?その部分が悩みの種だった。そんな中、故西住小次郎の妻で家元である西住かほは、戦車入手の件で話があるという岸の呼び出しを受け、新年早々東京の岸の私邸にやってきた。岸の私邸には、岸の他に戦車道復活の発案者の一人でもある服部卓四郎も呼び出されていた。

 

「さて、西住さん。池田さんの方は、前年長野で大量の帝国陸軍の戦車を手に入れたが、次はあなたの番だ。希望はドイツ戦車、そして希望する戦車は重戦車を中心に一通り揃えて欲しいということだね。ただ、これだけの数となる大変な仕事になるだろう。」

 

服部卓四郎がまずは切り出した。前年長野から熊本に戻った後、かほは自分達が新しい戦車道をするために必要なドイツ戦車のリストを作成し服部に渡していた。とりあえずは希望なのだから、駄目元で最大限の希望を書いておこうとかほも考えたようで、リストの中にはティーガーIIやヤークトティーガーといった重戦車や重駆逐戦車まで含まれており、リストを作成したかほも、全てが叶うとは思っていなかった。

 

「服部君の持っているアメリカコネクションで、まずはアメリカが押収した車両を抑えるのが一番先だろう。希望リストに入っていた戦車は、ほぼ全てそれで手に入るのではないだろうかね。その後は実際にドイツに行って、現地で残されているかもしれない車両を抑えるしかあるまい。こちらは、ひょっとしたら無駄足に終わるかもしれないが、やるだけやった方がいいだろう。アメリカの方は服部君が行き、向こうで交渉、そしてドイツの方は西住さん、もしくは誰か代理の人間が行くしかなかろう。」

 

「ドイツには、私が直接行きます。しかし、私にはドイツで頼れる伝は何もありません。岸さん、服部さん、どなたか紹介していただけないでしょうか?」

 

岸の提案に、かほは自ら直接ドイツに赴く旨を伝えた。この訪独は自分の流派にとって最大の転換期になるだろう。そうである以上、家元である自分自らが動かなくてはならない。しかし、現在ドイツは未だ連合国により管理されており、連合国の高等弁務官が存在している。そのような中に、女である自分一人が行って目的を達する事が可能だろうか?そんな心配が頭を掠めたのだろう。かほは、岸と服部に何か頼れる伝はあるのか尋ねた。

 

「旧帝国陸軍でドイツとのコネクションとなると、駐独日本大使であった大島さんでしょうが、あの人は今A級戦犯として終身刑になっていますからね…。それに、あの人のコネクションはナチス寄りの伝ですから、国防軍への伝となると難しいでしょうね。そうなると、海軍から駐在武官補佐官としてドイツに居た藤村善郎さんにお願いした方が良さそうですね。」

 

服部が答える。仲間の恥を晒すつもりはないが、大島浩 元駐独日本大使のコネクションでは、おそらく使い物にならないだろう。また、ドイツにコネクションを持っていた他の元陸軍軍人達もその多くは戦死したり収監されている者が多い。となると、恥を覚悟で旧海軍の藤村に頭を下げるのが一番良いだろう、と服部は考えた。

 

「藤村君というと、あのジュピターコーポレーションの藤村君の事か?彼の会社なら防衛産業だから、保安庁長官である木村君からお願いさせれば、快く引き受けてくれるだろう。それに、彼はわざわざ防衛産業の会社を興したのだ。おそらくドイツへの伝も残っているのではないかな。」

 

岸が答える。とりあえず保安庁長官の木村篤太郎からお願いをすれば、嫌とは言えないだろう。まぁ、多少は入札の際に便宜を図ってやる事になるだろうが、それ程大きな問題ではない…岸の中では既に結論が出ていた。

 

「よろしい。それでは西住さんは、来月の頭頃にはドイツに渡航、そして服部君はアメリカに渡航ということで決まりだな。船のチケットや向こうでの滞在先については、私がなんとかしておく。これでも私も多少なりとはいえ、影響力は持っているからね。」




本編は池田流中心で知波単学園が出来上がりましたが、やはり西住流の方も書いておかないと・・・ということで、外伝2は西住流がドイツから戦車を手に入れてくる話で書きます。
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