学園艦誕生物語   作:ariel

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外伝2-4 会談

1954年5月初旬 西ドイツ首都ボン シュテルンホテルスイートルーム

 

 

シュテルンホテルは、ボン大学の近くにある老舗ホテルとして有名なホテルだ。そしてこのホテルで、ポルシェから紹介されたドイツ人三人と西住かほと藤村善郎、そして通訳のコンラートの三人が会う事になっていた。当日ホテルに三人が赴くと、既にドイツ人三人は部屋で待っているとの情報をフロントでもらい、三人は指定されていた部屋に急いだ。部屋の中には、初老の人物が一人と中年の人物が二人、かほ達三人を待っていた。

 

部屋で待っていた三人は歓談していたが、かほ達が部屋に入ってきたの見ると、椅子から立ちあがり、挨拶した。

 

「はじめまして、私は国防軍で、最後はヴァイクセル軍集団を率いていましたゴットハルト・ハインリツィと言います。今回は、ポルシェさんから少し事情を聞きまして、私で力になれる事なら手伝おうと思い、ここにやってきたのです。」

 

「エルンスト・バルクマン元親衛隊曹長だ。最後は西部戦線で戦ったが、俺の戦歴の多くは東部戦線だ。ポルシェから聞いた話では、あんた等イワンの戦車を叩き潰したいって話だろ?だったら、俺に任せておけ。」

 

「オットー・カリウス元中尉です。私もバルクマン曹長と同じく最後は西部戦線で戦いましたが、東部戦線でイワン共と戦っていた方が圧倒的に多いですね。奴等に一泡吹かせるのでしたら、私も力を貸しますよ。まぁ、曹長は戦車の動かし方を教えるだけなら良いでしょうが、小隊単位の連携戦術でしたら私の方が上でしょうね。」

 

「カリウス!お前一言多いよ。俺だって、小隊指揮くらい問題なくやってみせるさ!」

 

「おや、あなたと一騎打ちなら勝負は時の運でしょうが、小隊戦であれば私は負けませんよ。」

 

三人が名乗った。バルクマン、カリウスと言えば、泣く子も黙るドイツ戦車隊のスーパーエースだ。最後は西部戦線で戦っていたため、生き残ったという事を風の噂では聞いていたが、まさかその本人達が目の前に居るとは…かほの手は震えていた。そしてハインリツィ元上級大将、地獄の東部戦線でソ連軍相手に防御戦を戦いぬいた司令官、そして機甲戦術のエキスパートでもある。まさか、こんな大物に会えるとは…

 

「はじめまして、私は日本で戦車道という武道をやっております、西住かほと申します。こちらは、私の通訳などをしてもらっています、元駐独日本大使館の駐在武官補佐官であった藤村善郎さん、そして通訳のコンラート君です。本日は、私のためにここに集まっていただき感謝しております。」

 

かほは、三人に頭を下げた。最初の挨拶を聞く限り、私達の希望に対してかなり前向きのようだ。ただ、時々彼等の会話の中に「イワン共」という単語が出てきているが…やはり「ソ連」という言葉が利いたのか…とかほは感じていた。

 

「さてFrau西住、大方の事情は先日Herrポルシェから既に聞いています。戦車道というのは私は未だによく分からない所がありますが、婦女子が戦車を用いて試合を行なうという事は理解しました。そして、あなたが世界最強のドイツ戦車を用いてその戦車道をこれから行ないたいという事も理解しています。ただ、私としては疑問に思うことが幾つかあるので、その回答をあなたから直接聞いたうえで返事をしたいと思い、今日ここに来ているわけです。お前達二人もそうだな?」

 

「Ja, Generaloberst. (はい、上級大将閣下)」

 

どうやらポルシェは、最低限の情報を既にこの三人に伝えてくれていたようだ。そして、こちらの希望も既に向こうは知っている。おそらく、未だかかえている疑問さえ氷解すれば、こちらの希望通り、西住流の指導をしてもらえるだろう。

 

「まず、基本的には私はあなたの力になりたいと考えています。ポルシェから聞いた話では、アメリカやイギリス、そしてソビエトが近い将来戦車道に参加するだろうとのこと。そしてそれらの国の戦車に対して、あなたはドイツ戦車を用いて戦いたいと言う。そうであれば、我々ドイツ国防軍が実際に使用していた戦術を駆使し、偉大なるドイツの強さを示してもらうためには、私はその技術の全てを教える用意があります。しかし、いくら我がドイツの戦車が強いとはいえ、本当にあなたはそれで良いのですか?あなたは日本人として、自国の戦車を使用して戦う事が、自分達の誇りを守る上でも良いのではないか?それが私の疑問なのです。」

 

ハインリツィが質問した。先の大戦、大日本帝国では、数多くの若者達が自爆攻撃で散っていったと聞く、そして国土を守るためには文字通り部隊が全滅するまで戦い抜いたという話も聞いた。我がドイツも誇り高い国家だが、それでも全滅するまで戦い抜いた戦場は多くない。それ程までに誇り高い国の国民が、いくら強いとはいえ、簡単に外国の戦車に乗り換えてよいのだろうか?それが、ポルシェからこの話を聞いた際のハインリツィの疑問だった。

 

「ハインリツィ閣下、まずは私達の希望を聞いていただきありがとうございます。そして、閣下が疑問に思われた事、私の中にも葛藤がありましたし、それは日本に居る私の娘達も同じです。しかし、私達は敢えて名を捨ててでも実を取ろうと決断したからこそ、今私はこの場に来ています。これから私達の流派ではドイツ戦車を使用し、ドイツの戦術などを学ぼうと考えています。しかし、私達の中にある日本の心は変わりません。そういう意味では、折角技術などを教えていただいたとしても、部分的には受け入れる事が出来ない部分もあるかもしれません。しかしその上で、私達は閣下等から技術を学びたいと考えているのです。」

 

かほは一気に答えた。かなり微妙な回答のためコンラート少年の通訳も一時的に止まった部分もあったが、藤村のフォローなどによりどうやらハインリツィ達にかほの心は伝わったようだ。

 

「ふむ。何か都合の良い所だけもらおう…と聞こえなくも無いが、たしかに心を変える事が出来ない以上、完全に我がドイツの技術をコピーするという訳には行かないだろう。それに、貴方達日本人の心と交わる事で、ひょっとしたら我がドイツの技術もより良く改良されるかもしれないわけですな。面白い!私は日本に行き、あなたの戦車道のために力を貸しましょう。お前達はどうするのだ?」

 

「まぁ、どうせ今は暇してるからな~。」

 

「閣下が行くのであれば、我々も同行しますよ。」

 

 

ハインリツィの決断に対して、バルクマンとカリウスも訪日する旨を伝えた。

 

「ところで、西住さんよ?イワン共と戦うのは、何時くらいになりそうなんだ?それに、俺達が教えるのはどういう生徒なんだ?女学生とは聞いているが、考えて見れば、俺はあんたのところの事情は全然分かってないんだよ。」

 

バルクマンはかほに質問する。たしかに、かほもポルシェに自分の流派の事をあまり説明していなかった。そのため、彼等が実際に教える相手の事を、彼等はまだ知らないようだ。

 

「日本で戦車道を行なうために、現在『学園艦』というものが建造されています。そしてその第一号艦が完成し、そのシステムが動き出した時をもって戦車道の試合が開始する予定になっていますから、最初はおそらく今から6年後になるでしょうね。ですから、皆さんには3-4年かけて教えて欲しいと考えています。そして生徒の事ですが、10代前半の少女達になると思います。流石にハインリツィ閣下による作戦立案指導については、私達大人も参加させていただきますが、お二方が教える戦車の機動方法については、この年代の少女達が中心になります。」

 

かほの回答を聞いて、バルクマンもカリウスも目を丸くする。…ちょっとまってくれ、ドイツの重戦車の主砲は88mm砲だってある。あの砲弾を装填するだけでも、そんな年齢の少女達では大変だろう。本当に大丈夫なのか?とバルクマンは考えたのだろう。

 

「いや、ちょっとまってくれ。いくら何でも、そんな幼い少女達を戦車に乗せるのは厳しいだろう。砲弾の装填だってかなりの力が必要だぞ。第一、いくら相手が少女達でも、教える時は俺はかなり厳しい口調になる、本当に大丈夫なのか?」

 

そう、自分は地獄の東部戦線で戦ってきた人間だ。新兵が配属されてきた時は、自分達が生き残るためにも新兵を教育せねばならず、その時はお世辞にも丁寧な言葉で教えていたとは思えない。おそらく、少女達を教育する時もこれまでの癖で同じような扱いをしてしまうだろう…。ところが、このバルクマンの心配に対してかほは即答した。

 

「問題ありません。私達大和撫子は、耐える事には慣れています。決して教官の指導にめげて脱落するような者は、少なくとも西住流には一人もいません。お二方が戦時中にやられていた教育をそのまま行なって頂いて結構です。」

 

このやり取りを聞いていたハインリツィは大きく頷いて言った。

 

「曹長、これは一本とられたね。たしかに、先ほどのFrau西住の回答ではないが、日本人の心意気を捨てるつもりは全くないようですね。曹長、多少はお行儀良くやる事だね。」

 

「まぁ、私はバルクマン曹長とは違って、普段から紳士ですから全く問題ありませんがね…曹長は少し気をつけたほうがよろしいでしょうね。ところで、私達はどんな戦車を使用した戦術を教えればよいのですか?」

 

最後に、カリウスもかほに尋ねた。使用する戦車の種類によっては、その教育方法も変わってくる、今でも残っている戦車を使用する以上、戦車に合わせた戦術を組み立てる必要があるだろう。

 

「今、私達の仲間が、アメリカ、イギリスに鹵獲されていたドイツ戦車をかき集めています。おそらく一通りの戦車は集まるでしょう。それと、ポルシェさんのところで、ポルシェ式ティーガーとエレファント、マウスを手に入れました。」

 

ティーガーとエレファントはまだしも、マウスか…それにティーガーもポルシェ式…こいつは、少しやっかいな事になりそうだな、とカリウスは考えた。

 

「まぁ、アメリカとイギリスからどのような戦車が来るかを見て考えた方が良さそうですね。ただ、もし通常のティーガーが両国から手に入るようでしたら、ポルシェ式は外した方が良いでしょうね。あれは故障が多すぎます。あと、マウスは…これもなかなか使用が難しい車両ですね。ですが、私も自分が出来る限り、考えてみますよ。」

 

彼等の言葉を聞いたかほは、自分は賭けに勝ったことを確信した。これで、我が西住流は、名実共に世界最高峰の戦車と技術を手に入れる事が出来た。その後、様々な雑談なども含めた歓談が進み、最終的に三人は8月頃、日本に向けて出発する事が決まった。なんでも、訪日のために連合国の高等弁務官の許可が必要なようだ。もっとも、アメリカの高等弁務官ジェームズ・コーナントは、ここボンに駐在しており、西住達にも本国の指示もあってか好意的なため、それほど問題にはならないだろうと思われた。先日、ポルシェが会うのであればボンで会った方が何かと良いだろう…とは、この許可の事だったようだ。

 

同日 ボン 滞在先ホテルのロビー

 

「コンラート君、あなたのおかげで会合は問題なく終わりましたし、私の目的も達成する事が出来ました。本当に感謝しています。これは僅かですが、今回のあなたの仕事に対する報酬です。」

 

西住かほは、ハインリツィ達との会合が終了した後、自分達の滞在ホテルまで戻ってくると、通訳をしてもらったコンラート少年に給金を渡した。

 

「大切な仕事を僕にやらせてくれて、どうもありがとうございます。」

 

コンラートは顔に笑みを浮かべながら、かほからお金を受け取った。これは、自分が働いて得た正当な報酬だという事が分かっているため、彼の顔は明るい。その笑顔を見てかほは、先日藤村と話していた事を切り出した。

 

「ところでコンラート君、実は長期に渡ってあなたにお願いしたい仕事があるのですが、よければ少しお話しませんか?」

 

これまでボンで、まとまな仕事にありつけなかったコンラートにとって、それは渡りに船であった。コンラートが了承した事を受けて、かほと藤村、そしてコンラートはホテルロビーのカフェテリアに席を移した。

 

「実は、今日お話した三人のドイツ人の方が私のところにやってきます。そして、あなたも理解したと思いますが、私の門下生に対して、講義を含め実践的な訓練を行なう事になるでしょう。しかし、私の門下生はドイツ語が分からない人間が圧倒的に多いです。そこであなたに、その時の通訳をお願いしたいと思っているのです。」

 

「えっ?」

 

コンラートは驚いた。先ほどの会合の際、旧国防軍の上級大将が出て来た事には驚いたが、その相手が出来る程、かほの日本での立場は高いだろうと考えた。そして、彼等が日本に数年の間滞在し、かほの門下生に教育する事も分かっていた。もし自分がその通訳をするということは、自分も日本に行き数年を過ごす事になる。

 

「勿論、急な話ですし、直ぐに決める事はできない話だとは思います。ですが、出来れば私はあなたにその役をやってもらいたいと考えているのです。身内の方と相談してからでいいので、早いうちに回答を聞かせてくださいね。ただ、もし引き受けるとなると、おそらく3年はドイツに帰る事は出来なくなるので、その覚悟だけはしてください。それと、日本での生活は苦労させませんし、それなりの御給金も用意します。」

 

かほは本気の用だ…とコンラートは理解した。少なくとも、かほは自分の力を必要としている。そう考えたコンラートは決断した。

 

「是非やらせてください。叔母は私が説得しますし、おそらく叔母も喜んで送り出してくれると思います。頑張りますので、これからよろしくお願いします。」

 

コンラートの答えを聞いてかほは喜んだ。これで、ドイツでのかほの仕事は全て終わった。

 

 

 

1954年9月  熊本 西住流本家 戦車訓練場

 

「Achtung !」

 

「全員 気をつけ!」

 

その日、西住流本家の戦車訓練場にはアメリカなどから運びこまれたドイツ戦車の極一部と、400人程の少女達が整列していた。そして少女達の前には、旧ドイツ国防軍の制服に身をつつんだ軍人が三人、そして通訳となる銀髪のドイツ人少年が立っていた。

 

「本日より、我々が貴様達にドイツ戦車の操縦方法、戦闘機動、戦術に至る全てを教える事となった。最終的な勝利を得るために、我々は手を抜かないし手加減もしない。厳しい訓練が続くと思うが、脱落者が一人も出ない事を願う。以上」

 

「Jawohl, Herr Kommander ! (了解! 指揮官どの!)」

 

ここから、後の常勝軍団「黒森峰女学園」の戦いが始まった。

 




以上4回に分割して投稿した外伝2でした。これで黒森峰女学園側の準備も整ったかなと思います。ガルパンの世界では黒森峰女学園の見事なパンツァーカイルが出てきましたが、あれは日本の戦車戦術ではないですから、どこかで技術などを輸入してこないと…と思い、こんな感じの外伝を考えたわけです。

これで第一部に関わる外伝は、終わりかな…と思います。あとは、書いている途中でボツにしたネタくらいしかありませんので、出来れば最後の外伝3は、それら小ネタの短編集を作ろうかな…と考えています。
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