1953年11月 横須賀 とある会社の会議室
既に冬の寒さが感じられる11月、しかしここ横須賀にある会社内の会議室では男達の激論で熱気があふれていた。先日、帝国海軍の元軍務局長であった保科中将から、学園艦計画の事を聞いた元艦政本部長の渋谷隆太郎は、そのあまりにも大きな艦の建造計画に感動し、昔の艦政本部に居た部下を呼び出し、この学園艦の設計を行なおうとしていた。しかし、呼び出した二人の部下も渋谷もお互いに自分の案を譲らず激論となっていた。更に間の悪い事に、どこからこの話を聞きつけたのか分からないが、陸軍出身の辻政信と服部卓四郎が居た事も話をややこしくしていた。
「渋谷さん、やはりこれだけの船を世界に先駆けて造る以上、ここは鳳翔をベースにした形しかありません。鳳翔は、世界で初めて就航した始めから空母として設計した船です。鳳翔型こそ、学園艦第一号艦にはふさわしいはずです!」
元部下だった男がこぶしを握り締めて力説する。たしかに、鳳翔は世界初の空母であり、帝国海軍の誇りの一つだ。しかしあまりにも設計が古過ぎるし、元の形としては小さすぎるのではないだろうか…と渋谷は考えていた。そうしていると、もう一人の元部下の演説が始まった。
「たしかに、鳳翔は帝国海軍の名誉ある船です。しかし、あまりにも古過ぎる!ここは、先の大戦で最後まで奮戦した翔鶴型の瑞鶴をモデルとした形で行くべきです。それに彼女は幸運艦でもありました。学園艦の第一号艦のモデルとしてこれ程ふさわしい船はありません!」
瑞鶴は、帝国海軍機動部隊を最後まで支え続けた幸運艦だ。また、ワシントン条約の制限から外れた状態で設計しているため、装甲空母である大鳳や戦艦からの改造である信濃を別にすると、通常空母の中では帝国の技術の粋を集めた最高峰の空母型だ。しかし渋谷には、どうしても瑞鶴は心に響かなかった。渋谷の中には別の案があったのだ。
「君達の言いたい事は分かるが、帝国海軍の機動部隊の誇りといえば、やはり開戦時の一航戦の赤城だよ。あれには私も思い出がたくさんあってね、特に三段式甲板など男の夢ではないかね?」
渋谷は自分が若い頃に建造に関わった事もあり、赤城には並々ならぬ思い入れがある。
「本部長!お言葉ですが、三段式甲板など過去の遺物で問題外です。やはり、鳳翔しかありません!ご決断を。」
「いえ、本部長!やはり、帝国海軍の技術の全てを注ぎ込んだ瑞鶴しかありません!」
渋谷も含め三人の意見は何処まで行っても平行線だった。困った渋谷は、同席していた陸軍の辻と服部を見て思わず尋ねてしまった。それが更なる問題を引き起こす事も知らずに。
「ところで、陸軍さんはどう思いますか?やはり機動部隊の誇りは赤城しかないでしょう?」
それを聞いた辻は、服部の方を向いて目で会話した。辻の視線を感じた服部は、辻に対して無言で頷く。二人とも同じ思いに違いない事は、服部は確信していた。辻は立ち上がると、こぶしを握り力説した。
「陸軍としては、海軍の提案は全て反対である!」
言い争っていた場を沈黙が支配した。静かになった事を確認すると、辻は更に力説する。
「そもそも今回の学園艦計画では、艦上で戦車を走らせることが目的である。つまり、この学園艦の管轄は当然我が陸軍である。すなわち、鳳翔だの瑞鶴だの赤城だの、海軍の船は話にならないわけであって、ここは当然我が帝国陸軍の空母『あきつ丸』こそが相応しいと、小職は確信しているのである!」
辻の演説に服部は無言で頷く。
「海軍としては、陸軍の提案には全くもって賛同出来ない!いくら戦車道を行なうとはいえ、これは海の上の事ゆえ、これは海軍の管轄である。陸式は黙っていろ!」
渋谷は、売り言葉に買い言葉で辻に反論する。『帝国陸海軍は全力を以って相戦い、余力を以って英米と戦う』という仲の悪さは一朝一夕で修復するようなものではなかった。
しかし、このまま行くと辻が提案した「あきつ丸」が二票、それ以外は各一票であり、数の力で押し切られる危険があることは渋谷も理解していた。渋谷が元部下二人に目配せをすると、元部下達は仕方ない…といった雰囲気で答えた。陸軍の提案が通るくらいなら、自分の提案を我慢してでも海軍の提案を通そう…そう考えたのだろう。
「渋谷さん、赤城で行きましょう。」
「私もそれで構いません。」
こうして、初の学園艦は赤城型で決定することになる。