学園艦誕生物語   作:ariel

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第2章 戦車道開始
第15話 入学式


1960年 4月1日 知波単学園 学園艦

 

「本日、知波単学園に入学する723名の皆さん、当学園の学園長の細見です。まずは、入学おめでとう。また勇気をもって、日本初となる海上にある学園に入学してきた事に、私は心から敬意を評します。本学は今年度より開校した新設校です。したがって、皆さんの頑張りがそのまま、本学の歴史となり伝統となって、次年度以降の後輩達に受け継がれていくことになるでしょう。これから3年間、全てが初めての試みとなるため、皆さんには大変なご苦労をかけることになりますが、私を始め教員も、可能な限り皆さんの希望を叶える事が出来るように努力したいと思います。これからの3年間が、皆さんにとって実りのある時間になることを切に願っています。」

 

知波単学園の初代学園長である細見惟雄は、初めて知単学園に入学してきた約700名近い少女達を前に挨拶をした。当初は、池田流の門下生と少数の入学希望者しか居ないのでは?と危惧されていたが、蓋を開けると、学園艦という新しい物に夢を見た者達が全国から集まることとなり、最終的には700名を超える生徒が入学してくる事となった。また、現在も新設の学園艦の建造が進む中、学園艦が完成した後、すみやかに教育を始めることが可能なようにと、臨時に陸上で新設校が幾つか誕生している。これらの新設校は、建造中の学園艦が完成した時点で、生徒達は移る事となっているが、これらの新設校にも多くの入学希望者が殺到した。

 

細見にとっては、入学者が当初の予定を大幅に上回り、また来年度の入学希望者も非常に多いことが予想出来たため、一安心といったところであったが問題も抱えていた。知波単学園は計画通り、機甲科単科の高校として出発したが、学園艦に夢を見た、特に機械弄りなどが好きではない少女も入学してきているのだ。また、戦車道を中心に行う予定のため、池田流が全面的にバックアップしているが、池田流に所属していない戦車道希望者も多く入学してきたため、これから様々な問題が出てくることも確実視されていた。

 

 

 

1960年 4月4日 知波単学園最上甲板 戦車格納庫前

 

 

「さてさて、それでは戦車道を希望する皆さんは、そこに整列してください。」

 

好々爺とした老人が、集まった少女達に話す。老人の横には、優しそうな顔をした婦人が立っていた。

 

「全員整列! 急ぎなさい!」

 

「ゲッ、なんでこんな所に師範が居るのよ…、折角本家から脱出して学園艦に入ったのに…」

 

「早く並ばないと、拙いよ…」

 

横に居る婦人をよく知っている少女達は、指示に従わなかった時の恐ろしさをよく知っているため、急いで整列した。それにつられて、よく知らない少女達もまた、急いで整列した。

 

「うんうん、きびきびしていて実に良い娘さん達だね。そう思わんかね、美奈子さんや。」

 

「星野閣下…あまり、あまやかしてもらっては困りますよ。」

 

総勢200人程の少女達が並んだのを見て、老人が少女達に語りかけた。

 

「皆さん、よくここに来てくれました。私は、顧問を務める星野利元と言います。先の戦争では、満州で戦車師団を率いていました。それもあって、ここに居る池田美奈子さんの父上である池田末男君とも縁がありましてな。今回は、この知波単学園で池田さん達が、戦車道を行うという事なので、是非そのお手伝いをと思い、学園長の細見君に頼んでこうやって来たわけです。皆さん、これからよろしくお願いしますよ。」

 

「よろしくお願いします!」

 

整列した少女達の元気な声が続く。その後、横に居た婦人も挨拶をする。

 

「皆さん、私は星野閣下のお手伝いとして、しばらくこの学園艦で皆さんに戦車道を実際に教える事となる池田美奈子と言います。既に知っている子もいるでしょうが、戦車道池田流で現在師範をやっております。色々と厳しい事を言うかもしれませんが、皆さんが頑張ってついて来てくれる事を願っています。どうぞよろしくお願いしますね。」

 

「よろしくお願いします!」

 

池田流にこれまで所属していなかった少女達が元気に挨拶する。

 

「…お手柔らかに、よろしくお願いしま~す。」

 

池田流でこれまで美奈子に厳しく指導されてきた少女達は、小声で言う。彼女たちは、池田流本家で厳しい訓練にこれまで耐えてきて、学園艦に入学したら自由にやれるだろうと夢を持って入学したのだが、その夢は入学して僅か数日で打ち破られた。

 

「美奈子さん、あとはよろしく頼みますよ。私は細見君と少しこれから話す事がありますからね。」

 

「はい、星野閣下。後は私にお任せ下さい。」

 

星野は、これから学園長である細見と学園艦の運営について相談があるため、少女達に挨拶をすると、艦橋にある学園長室の方に向かって去っていった。星野が去ると、美奈子が集まった少女達に話し始めた。何人かの少女は、美奈子の目つきが急に厳しくなった事に気付き、緊張が走る。

 

「これから皆さんに自分達が動かす戦車を選んでもらい、実際に動かしてもらうわけですが、その前に皆さんの隊長さんを決めなくてはいけません。隊長は戦闘では指揮を取らなくてはいけませんし、皆さんの模範になるような子でなくてはいけません。また、叱られる時は皆さんを代表して叱られる事もあるでしょう…誰か立候補する人はいますか?」

 

美奈子は少女達を見回す。美奈子の視線を受け、池田流で美奈子に厳しく訓練されてきた少女達は全員目を逸らす。そう、美奈子が今話した最後の部分が問題だった。『叱られる時は皆さんを代表して叱られる事もある』、これは池田流に居た頃は、美奈子の実の娘である美紗子の役割だった。自分達が問題を起したりミスを連発した際、師範である美奈子から直接説教を受けるのは美紗子であり、その精神力の強さには、一歳年長のここに居る少女達も全員敬服していたのだ。しかし美紗子は来年度入学予定のため、ここには居ない。あの役割を自分達の誰かがする事になるのか…勘弁してくれ…というのは、偽らざる気持ちだった。

 

誰も立候補しない様子を見た美奈子は、イライラしながら門下生だった少女達が集まっている周辺を睨みつける。そして、ある少女の前に立つと改めて立候補の希望を募った。勿論美奈子の目は、目の前の少女を見ている。

 

「隊長に立候補する人は誰も居ないのですか?」

 

その場に集まった全員の視線がその少女に集まる。美奈子に目の前に立たれた少女は、目をつぶっていたが、やがて観念したのか目を開けるとおずおずと挙手した。

 

「師範、私が、立候補します。」

 

「あら、村上さんが隊長に立候補してくれるのね。感心だわ。他に立候補する子はいますか?」

 

勿論、誰も手を上げなかった。池田流に所属している少女達は、助かった…とホッとしながら、所属していなかった少女達は、これから戦車道を実際に教えてくれる教官の怖さの一端を目にして沈黙を守った。

 

「はい、それでは村上さん、皆さんに挨拶してください。それと、副隊長を選任してくださいね。流石に副隊長は隊長が最もやりやすい子を選んだ方がいいでしょうから。」

 

美奈子の言葉に、村上と呼ばれた少女の周辺の数人の表情が固くなる。まだ副隊長の役職が残っていた、しかも今回は村上が選ぶことになる。頼むから自分は選ばないでくれ…そういう思いを持ちながら。

 

「皆さん、私は村上早紀江と言います。今回、いえ今年一年間、皆さんの隊長として頑張りますので、どうぞよろしくお願いします。そして、副隊長は…高橋さんよろしくね。」

「…分かった。頑張るよ。」

 

「村上さん、別に今年一年ではなく卒業するまで隊長でいいのよ?」

 

早紀江の挨拶に美奈子が答える。とんでもない…来年は美紗子が入学してくるから、隊長は美紗子で決まりだ。自分は副隊長でいい。そして二年後は、西佳代も入学してくる。そうなれば自分は自由だ…早紀江は、一年だけ精一杯頑張ろうと思ったようだ。

 

「池田先生! 私達は戦車を動かすよりも、整備やエンジンの改修に興味があるのですが、そちらを中心に活動してもよろしいですか?」

 

いよいよ戦車と対面する段になったのだが、何人かの少女達が整備を中心に行いたいと美奈子に申し出た。どうやら、機械そのものに興味があるようで、戦車を動かすよりも戦車を弄る方が良いようだ。

 

「勿論、構いません。いえ、むしろそれは望ましい事でしょうね。今の整備は専門の人間が居ますが、ゆくゆくは自分達で戦車の整備なども出来た方が良いでしょうからね。分かりました。整備長には私から伝えますので、あなたたちは整備やエンジンの改修など中心に活動してください。」

 

流石に、学園艦という新しい試みに果敢に入ってきた少女達だ。将来は、整備なども全て少女達が行い、戦車道を行う。おそらく学園艦のあり方も、当初の計画からどんどん変わっていくのだろうな…と学園艦の計画段階から話を聞いていた美奈子は思った。実際に、学園長である細見の元には、入学してまだ数日しか立っていないにも関わらず、何人もの生徒が学業以外に様々な事をここで挑戦したいと申し出たようだ。なんでも、学園艦の運行、学園艦内での食料生産の手伝いなど、多岐に渡る提案が既にあったようで、生徒達の希望を可能な限り叶えようと考えていた細見は、その調整に追われているようだ。

 

まだ先の話になるが、これらの試みの結果が、知波単学園を始めとする各学園艦に航海科や農業科など様々な学科が誕生するきっかけとなる。

 

 

 

戦車格納庫内

 

 

格納庫内には、戦車が並んでいた。以前、細見が松代に隠していた戦車、そして今は亡き服部がアメリカやイギリスなどに接収されていた物を取り返してきた戦車、その多くは未だに池田流の本家で使用されているが、その中から学園艦で使用する分が、ここに運び込まれていた。戦車の周りには、整備をしている男達が取り付き、戦車のメンテナンスをしている。池田流に所属していない少女達にとっては、これだけの戦車を纏めて見るのは初めてだった者もいるようで、喜びながらも驚いている者も数多くいた。そんな少女達の姿を見て、美奈子が新しく隊長となった村上に小声で指示する。

 

「早紀江、まずはどの戦車に誰が乗るかを決めなくてはいけません。それと、小隊編成もです。やることは多いですよ。最初は池田流でやっていた子を中心に編成すれば良いでしょうが、折を見てそれ以外の子を上手に纏めていく必要があるでしょう。あなたの役割は大事ですよ。来年度は美紗子が入ってきますから、あの子に全てを任せれば良いと思いますが、それまではあなたが頑張るしかありません。なるべく良い状態にして、来年度に繋げてあげてください。あなたには、無理を言って申し訳ないのですが、今年についてはあなたに頼るしかないのです。頑張ってくださいね。」

 

「分かりました、師範。一年という限られた期間でしたら、私も全力でやれます。よろしくお願いします。」

 

早紀江は、師範の美奈子から一年間だけという確証がもらえた事で、少しホッとした。自分の役割は、最初の一年間で上手に知波単学園の戦車隊をまとめて、来年度に池田美紗子にそれを渡すこと。一年間だけと分かっていれば、燃え尽きずに全力でやれるだろう。それが分かった早紀江は、少女達の前に立つと力強い声で、全員に指示した。

 

「みんな注目!。これから、自分達の乗りたい戦車を選んでもらいます。ただし、一つだけ先に伝えておくことがあります。私達知波単学園は、公式戦ではそこにある九七式中戦車と、九五式軽戦車しか使うつもりはありません。これは、この学校が出来る前から決まっていた事、変える事は出来ないルールです。ですから、これからみんなに選んでもらう戦車は、公式戦以外で使いたい戦車です。勿論、九七式中戦車を選んでくれてもいいです。あと、それぞれの戦車は乗れる人間の数が決まっていますから、上手に分かれてください。それでは一端解散。」

 

早紀江が指示すると、少女達がワーッとそれぞれの戦車に向かって駆け出していった。さて、自分はどの戦車を選ぼうかと、早紀江は周りを見渡す。公式戦は、自分は九五式軽戦車に乗る予定だ。これは譲れない。しかし、公式戦以外は大きな戦車も乗ってみたいな…と思い、四式中戦車を見る。五式中戦車も良いが、個人的に四式中戦車の方が形のバランスが取れていて早紀江は好きだった。また五式砲戦車も格好良いな…と思っていたが、池田流に居た彼女は五式砲戦車を選ぶことは出来なかった。あれは、二年後に本来の乗員が入学してくる事が分かっていたから。

 

「二番車、悪いけどあなたの所から二人もらうわよ。」

 

「はい、小隊長。」

 

早紀江は、池田流本家で訓練していた頃に、自分の九五式軽戦車小隊に居た二番車の車長に声をかける。四式中戦車は乗員が5名。自分の九五式軽戦車の乗員3名と、二番車の車長以外の2名で丁度乗員になる。二番車の車長だった少女は、池田流本家に居た際に早紀江には色々と世話になっていたため、快く願いを聞いてくれた。

 

「隊長、私達戦車動かすのは、今回初めてなのですが、どれを選べばいいですか?」

 

「隊長、私達もまだ動かしたことありません。どうすればいいですか?」

 

早紀江の周りに、多くの少女達が集まってくる。実際に、池田流に居た少女達以外で戦車を動かしたことがある少女達はほとんど居なかった。早紀江は少し悩んだが、自分達が訓練を始めた頃を思い出すと、初心者の少女達に言った。

 

「どの戦車でもいいけど、最初は小さい戦車の方が動かしやすいと思うよ。それに、運転や戦闘なんて慣れれば簡単。ガンガン前進してバンバン撃ってれば、そのうち慣れるよ!」

 

「エーッ!」

 

こうして、知波単学園での戦車道の初日の訓練が始まった。

 




学園艦誕生物語の第二部を始めます。もう学園艦が誕生してしまっているので、誕生物語というのはおかしいかもしれませんが、一つのシリーズということでこの題名は変えずに行こうと思います。

第二部の最初ですが、知波単学園の戦車道が始まるところからのスタートです。
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