学園艦誕生物語   作:ariel

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当初は試合部分は一回で書ききる予定だったのですが、なんだかんだと入れていくうちに長くなり過ぎたため、試合部分は前後編に分けました。以前の外伝1もそうでしたが、試合を文章で書くのは苦手です。

地点の名前ですが、一応少しだけ考えてつけていまして、左上からA01, A02, A03と右に進んでいき、二段目にB01, B02….と進んでいくイメージで付けています。ですから、Aが一番北、そして、B, C, D…と南に行き、01が一番西で、02,03….と東に行くイメージで頭に描いてもらえると、良いかもしれません。


第19話 対マジノ女学院(前編)

「隊長、ケヌ1号から入電。『我、敵と遭遇せり、場所D02地点』以上です。」

 

「いよいよね…D02地点というと、今回の試合場所の中でもかなり北西。ここに警戒線があるということは、やっぱりフランスのドクトリンと同じように超守備的な配置ね。ケヌ1号へ、そこから東に向かってください。おそらくその位置から東に向かって警戒線が伸びているはずです。撃破されないように気をつけてね。ケヌ2号は、ケヌ1号の援護をして。本隊も東側から移動しB05地点に向かいますから、そこで偵察部隊と合流しましょう。」

 

知波単学園の隊長である村上早紀江は偵察部隊からの連絡を受けて、本隊を動かすことに決めた。やはり想定していたとおり、マジノ女学院はフランス人教官から教えられていたため、超守備的な配置をとっているようだ。どうやらソミュアS35を、警戒線を作るために前線に出し、後方にB1bisを始めとする主力を置くことで、警戒線にかかった獲物を刈取る作戦を採ろうとしているなと確信する。

 

「パトリシア隊長、敵の偵察車と思しき軽戦車が来ましたが、どう対応しましょうか。」

 

「適当にあしらっておあげなさい。私達の目標はあくまでも敵の主力です。主力が出てくるまでは、ジッと我慢です。おそらく敵も嫌がらせ程度の攻撃しか出来ないはずですから、無暗に動いて警戒線のラインを崩されないように気をつけてください。」

 

一方、マジノ女学院も知波単学園偵察部隊と前線部隊が接敵した事を知る。こちらは、警戒線そのものが偵察の役割を果たしているため、隊長のパトリシアは、敵の偵察車に警戒線の配置を大きく狂わされ、その隙間を敵主力部隊に突っ込まれる事を恐れ、ソミュアS35部隊に積極的な行動を禁じた。

 

「隊長車、こちらケヌ2号、C04地点にてケヌ1号と合流しました。そのままB05合流地点に向かいます。また、これまで敵のS35を6両発見しました。」

 

「いよいよ勝負ね。第3小隊はC04地点に突入、適当に暴れたら節子が待ち伏せをしているF04地点に向かって後退してください。第1小隊と第2小隊は、これより私と共にB05地点に突入します。軽戦車と合流したら、敵主力に向かって前進し、一端砲火を交えた後に後退します。それでは行きますよ。戦車隊、前進!」

 

 

 

B05地点 マジノ女学院 ソミュアS35 6号車

 

 

「車長、前方に大規模な土煙が見えます。これって、敵の主力ではないでしょうか?」

 

「急いで後退! それとパトリシア隊長に連絡。敵主力部隊と思しき大規模な土煙を発見。」

 

マジノ女学院の警戒線の最東側を担当するソミュアS35の6号車は、知波単学園の主力が近づいてきたことを土煙から発見した。

 

「車長、パトリシア隊長から連絡です。これより本隊がこの場所に向けて前進するそうです。私達も含めたソミュアS35部隊は1号車のミシェル副隊長の指揮で、一端西に退避した後、敵の退路を塞ぐ形で、敵主力の西側から弧を描くように南進しろとのことです。」

 

「分かったわ。とりあえず西側に逃れましょう。」

 

ソミュアS35の6号車は、隊長からの指示に従い、一端西に向かって動き出した。マジノ女学院のソミュアS35は8両居るが、前線で警戒線を作っていたため一両ずつバラバラになっている。敵の退路を塞ぐ機動作戦に出る前に、まずは集結する必要があった。6号車がすぐ西隣で警戒にあたっていた7号車と合流した頃、本来であればその西隣に配置されている8号車から救援を要請する無線が飛び込んできた。

 

「車長!8号車から緊急連絡。敵の戦車隊と遭遇し、現在戦闘中。敵は目視出来る範囲に4両、至急来援を請う、とのことです。」

 

「なんですって、敵主力は私達に居た所に来たのではなくって?」

 

6号車の車長は、驚いた。自分達が見た土煙は囮だったのか?しかし、あれだけ大規模な土煙が出ていた以上、かなりの数の戦車が移動していたはずだ。それに8号車からの連絡では、4両だけ見えるとのこと。どうしたものか…。

 

「車長、1号車のミシェル副隊長から連絡です。8号車が現在戦っている場所を集結地点とするとのこと。6号車と7号車は東側から攻撃、残りの戦車はミシェル副隊長の指揮で西側から攻撃して挟み込むとのことです。」

 

「分かったわ。8号車が戦っている地点に向かって全速前進。」

 

 

 

C04地点 知波単学園 第3小隊 小隊長車

 

 

「小隊長、4号車のチハが敵戦車の撃破判定を出したようです。」

 

「分かった。おそらく、ここに向かって敵の前衛部隊が集まっている最中だろう。包囲される前に逃げるが、あまり敵を離してしまうと、敵をこちらの砲戦車の前に引きずり出すことは出来ない。敵と接触しつつF04地点に後退する。難しい任務になると思うが、操縦手頼むぞ。」

 

知波単学園の前身となった池田流では、公式戦ではチハ以前の車両を使用する事が決まっていたため、敵の強力な戦車に対してゼロ距離まで近づくことが宿命づけられていた。そのため池田流の訓練では、如何に相手のゼロ距離まで近づくかという訓練に重きが置かれており、敵主砲のタイミングを外す訓練、そして行進間射撃の訓練が盛んに行われていた。これにより、回避行動をとりつつの射撃こそ当てることは出来ないものの、それ以外の行進状態では距離200m以内であれば、ほぼ確実に相手に当てる技量を備えている搭乗員が数多く誕生していた。今回の練習試合で九七式中戦車からの車両変更を頑なに拒否した搭乗員達は、その中でも特に技量が優れていた者達で、突撃しつつソミュアS35が撃ってきた主砲弾を躱しただけではなく、行進間射撃にも関わらず、距離350m付近で相手に対して見事に命中弾を叩き込むことに成功した。

 

「小隊長、西側からも東側からも土煙が接近してきています。しかも西側からはかなりの数の戦車が来ていると思われます。急いで後退しましょう。」

 

「いや、まだだ。もう少し引きつけてから逃げなければ、敵を強引にこちらの希望場所には誘導出来ない。それにお互いに動いている状態であれば、余程の近距離でもない限り命中弾など、そうそう出ないさ。」

 

 

 

マジノ女学院 ソミュアS35 1号車

 

 

「ミシェル副隊長、8号車撃破判定が出ました。チハの行進間射撃が命中したそうです。」

 

「行進間射撃で当ててきたの?チハで撃破判定が出たということは、400mは切っているのでしょうけど、それでもその距離で命中弾を叩き込んだということね。おそらく、そのチハには相当なベテランが乗っているわ。全車に警戒するように連絡してください。」

 

5両のソミュアS35で集合地点に西側から向かっているミシェルの元に、先程救援要請を出していた8号車が撃破されたとの連絡が入った。しかも撃破判定を出したのは、今回の練習試合で最弱の戦車とされていた九七式中戦車チハ。どうやら相当の腕利きが搭乗しているようだ。マジノ女学院も戦車の訓練を日々続けているが、行進間射撃をあっさり決められるような腕の持ち主は、自分や隊長であるパトリシアの戦車にも居ない。幸いな事に、敵は4両でこちらは一両撃破されたとはいえ7両いる。戦車の性能差はそれ程ないため、純粋に数が約2倍のこちらが有利だろう。問題は搭乗員の腕だが、これは相手の方がかなり有利。しかし、数の力で押さえ込むことは十分可能だと判断したミシェルは、全車にそのまま前進し、集合地点に向かうように改めて指示を出した。

 

「ミシェル副隊長、前方に敵4両発見。距離、約1500m。一式中戦車3、九七式中戦車1のようです。東側から接近中の6号車と7号車も敵を発見したようです。」

 

「全車両、そのまま前進しなさい。まずは一式中戦車から仕留めます。九七式はかなりの腕利きが乗っているようなので、お互いに動いている状態でこれに当てるのは、おそらく無理でしょう。まずは、全車両で敵の左端の一式を狙います。さぁ、行きますよ。あと当初の予定とは異なりますが、敵の主力部隊の一部を発見したので、このまま敵を叩きます。そしてその後に、当初の予定通り敵の退路を塞ぐ行動をとります、とパトリシア隊長に連絡してください。」

 

 

 

C04地点 知波単学園 第3小隊 小隊長車

 

 

「敵、西側から5両、東側から2両、突っ込んできます。隊長、そろそろ後退しましょう。」

 

「そうね、全車両F04地点に向けて後退、早紀江と節子に連絡して。第3小隊はこれより敵7両を連れてF04地点に後退を開始すると。」

 

マジノ女学院のソミュアS35が左右から挟み込むような形で向かってくる姿を見た第3小隊の小隊長は後退を指示した。東側から接近してくる2両だけなら、各個撃破出来るのではないかと思ったようだが、ここで時間をかけて、逆にこちらが包囲され撃破されてしまっては折角の作戦が無茶苦茶になる。リスクを考えて安全策で行くことを決めたようだ。

 

「小隊長、流石に相手が7両となると厳しいですね。相対距離は縮まらないようにしていますし、各車上手に退避行動をとっていますけど、下手すると一発くらいは命中弾をもらうかもしれませんよ。」

 

「かなり無理して後退しているから、仕方ないな。それにこれくらいの間隔を保って後退しないと、相手も警戒して追ってこない可能性あるから。ただ例え何両か撃破されても、相手の機動戦力を完全につぶせるのであれば、こちらが有利になるから、ここは我慢の一手よ。」

 

知波単学園の第3小隊は、ミシェル率いるマジノ女学院のS35部隊と、約800m程の距離を保ちつつ、目的の場所に後退しつつあった。しかし、この800mという距離であれば、一式中戦車であれ九七式中戦車であれ、命中弾をくらえばその時点で撃破判定が出る。そのため、必死の回避行動をとりつつの後退となっていた。そして、知波単学園にとってはアンラッキーとなる命中弾がついに出てしまう。

 

「小隊長! 一式中戦車2号車に撃破判定が出ました!。まずいですよ、このままでは。」

 

「もう少し、もう少しで節子の部隊の前に敵を引きずり込める。なんとしてでも、このまま後退するよ。頑張って。」

 

マジノ女学院は時々停止しながら、射撃をしてくるため、前進速度はそれ程早くなく、第3小隊でも十分に並行後退が出来たが、それでも距離800m辺りで停止射撃され続けると、いつまでも躱わし続けることは出来なかった。特に、第三小隊の2号車に撃破判定が出たことで、マジノ女学院の士気が上がったようで、続けて命中弾が発生した。

 

「小隊長、3号車にも撃破判定です。残っているのは、私達1号車と九七式の4号車のみです。4号車からは、自分達が敵の攻撃を全部引き受けるから、1号車は先行して後退しろと言ってきていますが、どうしましょう?…ただ追伸として、この借りは大きいから、昼食3日分だと言っていますが…」

 

「4号車に、取引には応じられない、とっとと後退しろと連絡。あと1km程で目標地点よ。節子からは何か連絡は?」

 

 

 

B05地点 知波単学園 隊長車 (少し時を遡る)

 

 

「隊長、敵主力部隊と思われる部隊が接近しつつあります。このまま交戦に入りますか?」

 

「いえ、このまま敵と戦っても勝てない事もないと思いますが、当初の予定通り、完全に有利な状態で戦えるようにしましょう。一度一斉射撃を行なった後に、全車後退してください。東側から弧を描くような形で、節子の居るF04地点に移動です。」

 

早紀江の率いている部隊は、自分の戦車も入れると五式中戦車が1両、そして四式中戦車が2両に三式中戦車が4両いる。更に偵察に出ていた軽戦車2両も直ぐに合流するだろう。これに対して相手の戦車は12両居るが、こちらは帝国陸軍の最強戦車で搭乗員の練度・士気いずれを見ても相手よりも上だ。そのまま戦っても、負ける事はおそらくないだろう。しかし、前衛部隊のソミュアS35を取り逃がすと、殲滅戦ルールのため厄介な事になる可能性がある。それを考えると早紀江としては、当初の予定通り確実にソミュアS35を撃破する事が最優先だと思った。

 

「隊長、第3小隊から連絡です。敵のS35を一両撃破したそうで、これより後退戦に移るとのことです。」

 

「分かりました。第3小隊には現在位置を絶えず連絡させるように伝えてください。私達は、節子の部隊が撃ち漏らした戦車を確実に叩けるように急いで後退します。また軽戦車は、時間を稼ぐために敵主力の足止めを少しでも実施してください。捷一号作戦第二段階開始です。」

 

早紀江の部隊は三式以上の中戦車のみのため、かなりの速度で部隊移動が可能だった。これに対して、パトリシアの部隊は主力となるルノーB1bisはそれなりの速度が出せるが、中戦車のルノーD1の速度に問題があった。そのためパトリシアの作戦では、主力部隊が前線を押し上げつつ敵を拘束し、ミシェル率いる機動部隊が退路を断つことで包囲殲滅する予定だったが、肝心のミシェルの部隊が敵の主力部隊の一部を追って追撃を開始してしまったため、当初の作戦に綻びが出始めていた。そのため作戦の一部変更に対する指示のごたごたから、パトリシアの主力部隊に混乱が発生し、早紀江率いる知波単学園の主力部隊の拘束に失敗してしまい、彼女等の後退を許してしまうことになった。また、偵察に割り振られていた知波単学園の軽戦車も、時折側面や後方から発砲することで嫌がらせを行い、パトリシアの主力部隊を足止めしていた。

 

もっともパトリシアは、ミシェルからの連絡で既に敵の部隊のうち半数に撃破判定を与えたとの連絡を受けており、遠からず当初の予定通り、西側から知波単学園の主力部隊の後背にミシェルの部隊が攻撃をしかけ、改めて包囲殲滅出来るだろうと楽観的に考えていた。

 

 

 

F04地点 知波単学園 副隊長車

 

 

「副隊長、第3小隊から連絡。部隊の半数を失うも、敵の誘引に成功せり。あと数分でこちらの射程範囲に移動出来るとのことです。」

 

「2両やられたのか?思ったよりも厳しい後退戦になっているな。相手も1両撃破されているから、残り7両ということだな。こちらも丁度7両居るから、目標が被らないように割り振りをするぞ。あと、こちらは茂みでアンブッシュしているから、そう簡単には発見されないだろう。距離600m付近まで引きつけて確実に一発で撃破するぞ。」

 

副隊長の節子が率いる砲戦車部隊は二個小隊7両。道の両側の茂みに7両の砲戦車が配置についている。予定では、第3小隊が道を南に通り抜け、その後ろを追ってくる敵の部隊に対して、左右から一気に砲撃を浴びせ殲滅する予定だ。また、砲撃開始後、第3小隊は再び北に向かって前進し敵の前面を抑える。そして現在移動中の早紀江の主力部隊が相手の後背を抑え完全に包囲する計画となっていた。

 

「副隊長、第3小隊が目視出来ました。あと少しで攻撃目標も視認出来ます。目標への割り振りも終了しました。いつでも行けます。」

 

「分かった。砲撃のタイミングは私が出すから、もうしばらく待機。」

 

第3小隊の生き残り2両が、節子達が隠れている茂みの前を通り過ぎていく。また、その後ろをマジノ女学院の戦車7両が時折停止し射撃をしながら進んでくる。既に命中すれば撃破判定が出る距離までマジノ女学院の戦車が来ているが、節子は未だ砲撃命令を出さない。砲戦車は回転砲塔を持たないため、接近されると不利だ。そして、こちらと同数の戦車が居る以上、確実に命中出来る距離までは我慢するようだ。

 

「副隊長、目標まで距離700m、この距離なら当てられると思いますが、まだ打ちませんか?」

 

「まだだ。当初の予定通り600mまで我慢するぞ。向こうはこちらを発見出来ていなから、普通に第3小隊を追っている。奇襲が通用するのは一度だけだから、最初の一発で決めないと回転砲塔を持っていない私達が不利になる。だから、もう少しだけ待て。」

 

ミシェル率いるソミュアS35部隊は、未だ節子率いる待ち伏せ部隊には気づいていないようだ。これは第3小隊の戦車を2両撃破している事も影響していた。既に残り2両。このままいけば、時間の問題で全て討取れる、という気持ちが強くなり過ぎており、部隊を率いるミシェルも前方の第3小隊のみに注意を払いすぎていたのだ。

 

「全車、打て!」

 

節子の射撃命令で、左右に伏せていた砲戦車から一斉に砲撃が始まった。そして放たれた砲弾は一直線にミシェルの部隊に吸い込まれていく。

 

 

 

F04地点 マジノ女学院 ソミュアS35 1号車

 

 

「停止! 砲撃準備、 撃て!」

 

ミシェルが搭乗するソミュアS35の1号車が第三小隊に攻撃するために停止した瞬間だった。左右から強烈な砲撃がミシェルの部隊を襲う。

 

「マジノ女学院 ソミュアS35 7号車 命中 判定 戦闘不能」

「マジノ女学院 ソミュアS35 6号車 命中 判定 戦闘不能」

「マジノ女学院 ソミュアS35 5号車 命中 判定 戦闘不能」

「マジノ女学院 ソミュアS35 4号車 命中 判定 戦闘不能」

「マジノ女学院 ソミュアS35 3号車 命中 判定 戦闘不能」

「マジノ女学院 ソミュアS35 2号車 命中 判定 戦闘不能」

 

一瞬だった。たまたま砲撃のため急停止したミシェルの戦車を除き、全てのソミュアS35に撃破判定が出る。ミシェルは一瞬何があったのか分からなかったが、キューポラから顔を出し、周囲を確認したことでようやく現状が理解できた。

 

「操縦士、急速後退。右も左も敵戦車が居る。次弾が装填される前にここから逃げないと。通信手、パトリシア隊長に連絡、伏兵にやられ、残りは1号車のみ、急いで。」

 

ミシェルのソミュアS35は急速後退を始める。左右は知波単学園の砲戦車、そして前方からは今まで逃げていた敵の生き残りの2両が反転してくる。圧倒的有利な体制で追っていた者が、今度は追われる番になった。少しでも距離を稼がないと…とミシェルは焦りながらもなんとか自分の戦車の後退に成功する。しかし次の瞬間、ミシェルの顔には絶望が浮かんだ。パトリシアが補足していた筈の早紀江が率いる知波単学園の主力部隊が、ついに戦場に到着したからだ。全方位から打ち込まれる砲弾を避ける力は、もうミシェルには残っていなかった。

 

「マジノ女学院 ソミュアS35 1号車 命中 判定 戦闘不能」

 

 

 

E05地点 マジノ女学院 隊長車

 

 

「パトリシア隊長、大変です。ミシェル副隊長の部隊が敵の待ち伏せに合い、全滅した模様です。私達もこのまま進むのは危険だと思いますが…」

 

「なんですって!ミシェルの部隊がやられたとなると、こちらが数の上で不利ではないですか。あんなお猿さん達相手にミシェルは何をやっていたのです!だから、作戦通りに動きなさいと最初に言っておいたのに。」

 

ミシェルの別働隊が全滅した知らせが、マジノ女学院の本隊を率いて知波単学園の本隊を追っていたパトリシアの元に届いた。こちらは残っている戦車は主力部隊の12両、これに対して知波単学園の残っている戦車は、先ほどパトリシアの本隊が嫌がらせの攻撃をかけていた軽戦車を1両撃破したため17両。こちらのB1bisの重装甲を上手に使えば、未だ勝負は分からないが、それでも残存車両の数はこちらが不利だ。パトリシアは再び後退し、陣地を作ってから防御戦を行なう事も考えたが、自分のプライドがその決断を邪魔する。いくらいきなり不利な状況になったからといって、今更敵に背を向ける事は出来ない。

 

「まだ勝負を諦めるには早いですし、ここで後退して陣地戦を実行するなど、私達高貴な人間の選択肢にはなくってよ。私達のB1bisもそうですけど、偉大なるフランスが作った戦車の力を信じてこのまま突撃します。全車、このまま前進。 Vive! Lycée de Jeunes Filles de Maginot ! (マジノ女学院 万歳!)」

 

マジノ女学院の本隊は、B1bisを中心に左右に中戦車D1とD2を置いた状態で、知波単学園が待ち構えているであろう地点に向けて全車が前進していった。頼りにしていた快速戦車ソミュアS35部隊は全滅し、副隊長であるミシェルも退場してしまったが、まだ自分達の隊長のパトリシアは健在で、要の重戦車部隊も無傷なため、マジノ女学院の士気は未だ衰えていなかった。

 

 

 

観戦席

 

 

「これで勝負ありね。」

 

観戦をしていた西佳代が呟く。

 

「佳代ちゃん、流石に言い切るのはまだ早いでしょう。未だにマジノ女学院の主力は残っているのだから。それにいくら殲滅戦とはいえ、こちらがどれ程被害を受けるか、まだ分からないでしょう?」

 

「いや、佳代ちゃんの言うとおり、これで勝負ありです。マジノ女学院はもう抵抗出来ないでしょうね。」

 

池田美紗子の質問に対して、辻政信が答える。そう、これで勝負ありだ。マジノ女学院は戦場を自由に設定できる機動戦力の全てを失った。あとは、知波単学園の戦車隊は、好きな時に好きな場所で攻撃する事が出来る。また、ここから先は砲戦車による長距離狙撃も行なわれるだろう。そして、それを避けるだけの機動力を持つ戦車はもうマジノ女学院には残っていない。

 

実際に、練習戦は未だ続いているが、家元の池田美代子や西住かほを始め、戦車戦をよく知っている人間達は、既に勝負がついたと考えたのか、談笑し始めている。逆にマジノ女学院の関係者達の表情は暗い。

 

「あとは、マジノ女学院は何台道連れに出来るのか?という部分だけですね。マジノ女学院の隊長の指揮次第では、善戦はするでしょうが、それでも勝負は変わらないでしょう。」

 

辻が続ける。あとはマジノ女学院の隊長の指揮能力次第で、知波単学園の被害が決まるだろう。不利な状況にも関わらず、後退せずにそのまま勝負に出るようだから、無謀かもしれないが、部下からの信頼は篤いようだ。そういう指揮官が部隊を率いている場合、部隊の指揮系統は最後まで崩壊しない。となると勝負は決まったかもしれないが、もう少し戦いは続くのだろうな…と辻は再び戦況を観察し始めた。

 




マジノ女学院側のパトリシア隊長も、ミシェル副隊長もそんなに無能ではないのですが、いかんせん戦車道の対外試合は今回初めてのため、完全に経験不足という設定です。逆に池田流で訓練していた少女達は、本家で訓練していた頃には何度か試合をしていますので、その辺りの経験の差があるように書いてみました。

今回も読んでいただきありがとうございます。
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