学園艦誕生物語   作:ariel

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黒森峰女学園対プラウダ高校の決勝戦もついに決着がつきます。黒森峰女学園の後手からの一撃は完璧なタイミングで決まり、プラウダ高校は一気に崩れていきます。一応、当初考えていたドイツ式の強さが少しは出せたかな…と考えていますが、どうでしょうかね^^;


第26話 ジーク・ハイル

黒森峰女学園 隊長車

 

 

「…初代優勝校として歴史に名前を残すのは、お前達プラウダ高校ではない…我々黒森峰女学園だ。全車、合成硬核徹甲弾装填、一撃で勝負を決めるぞ。ヤークトティーガーは正面、私のティーガーIは左、エレファントは右のJS-2を狙う。敵が丘の上に頭を出したら、急進して相手が反応する前に黙らせろ。第一小隊、前進…Feuer !」

 

プラウダ高校の突撃隊が丘を登りきった瞬間、逆斜面に隠れていたなほの第一小隊は急進し、近距離からの砲撃を行った。プラウダ側は、黒森峰女学園は一端後退し部隊の再編成をしていると考えていたため完全な奇襲となり、すぐ目の前に現れた黒森峰女学園の戦闘車両に対して全く反応する事が出来なかった。その一瞬を狙った砲撃の結果、3両のJS-2は自慢の122mm砲の真価を発揮する前に撃破判定が出てしまう。プラウダのJS-2を撃破した黒森峰女学園の第1小隊は、残っている3両のT34-85も撃破しようと砲塔を向けつつあった。しかし、流石にプラウダ側も衝撃から回復し、急いで反撃を行う。

 

プラウダ高校の砲撃は、突如前方から現れた戦車の中で最も大きいヤークトティーガーに集中したが、戦闘室の前面に250mmもの重装甲を持つヤークトティーガーはその攻撃を尽く弾き返し、撃破判定は出なかった。そしてまさに、プラウダ高校のT34-85がヤークトティーガーに反撃を行った瞬間、副隊長の島田真由子が率いるパンター8両が丘の上に姿を現す。

 

「真由子、こちらに構うな。そのまま敵の重戦車群に突っ込め。相手は坂を登っている途中で速度は出ていないし、小回りもきかないだろう。それに対してこちらは下り坂だからいつも以上の速度が出るはずだ。行け!」

 

なほは戦況が一気に動いた今、相手を立ち直らさせないために一気に畳み込む事こそが重要だと考えた。そして残った3両のT34-85は自分達だけで片付ける事を決め、真由子の部隊をプラウダ高校の重戦車部隊に突入させた。

 

 

 

黒森峰女学園 副隊長車

 

 

「了解、隊長。パンター全車、敵を追い落とせ! Panzer Vor!」

 

副隊長の真由子が率いるパンターG型は、突撃隊型を維持した状態で一気に坂を駆け下りていく。坂を登っている最中であったプラウダ側のKV-2、JSU-122、JSU-152は、既に丘の上でJS-2が全滅した事を連絡されていたが、8両もの戦車がこちらに向かって坂を駆け下りてくる姿を見て、焦りが生じていた。こちらは3両で、相手は8両。しかも相手は機動力があり回転砲塔を持っているのに対して、こちらは小回りがきかず固定砲塔だ。それでもソ連軍人がこれまで厳しく訓練を施してきただけあり、3両の重戦車は焦りながらも黒森峰女学園の突撃部隊に砲撃を行った。プラウダ高校の砲撃は黒森峰女学園のパンター部隊の速度を見誤り、3発の砲撃の内2発は外れてしまったが、JSU-152の砲撃はパンター戦車の砲塔正面を捉えた。パンターG型は砲塔正面に110mmという重装甲を持っていたが、東部戦線ではアニマルハンターとまで命名されていたJSU-152の152mm砲は、いともたやすくパンター戦車に撃破判定を与えていた。

 

「怯むな!相手は一度砲撃したら、そう簡単に次弾装填は出来ないし、小回りも効かない。しばらく相手は砲撃出来ないから、背後に回りこんで一気に撃破しろ!」

 

真由子の指示で、残った7両のパンターは、プラウダ高校の重戦車に回りこむような形で一気に近接する。プラウダ側も黒森峰女学園のパンター部隊に背後を取られないように戦闘機動を試みるが、圧倒的な機動力差によってあっという間に背後や側面に取り付かれてしまった。

 

「Feuer !」

 

真由子が射撃指示を出したのとほぼ同時に、パンター全車の主砲が火を噴く。装甲110mmという重装甲を誇るKV-2も、1000mの距離ですらソ連の誇る重戦車JS-2を撃破可能なパンターG型の主砲を近接された状態で打ち込まれては耐える事は出来ず、全ての重戦車が撃破されてしまった。

 

「パンター3両は左翼の第二小隊の援護に向かえ、残りの3両は私と一緒に右翼の第三小隊の援護に向かう。既に敵の中央部隊は崩壊し、左右の敵は完全に孤立している。焦る必要はないから確実に敵を撃破しろ!」

 

真由子の指示でパンター戦車隊は左右の二手に分かれ、それぞれの目的地に向かって前進していった。

 

 

 

黒森峰女学園 防御戦右翼 第三小隊小隊長車

 

 

なほの部隊がJS-2を撃破した頃、防御線右翼においても戦いが再開されたが、他の戦線とは少し様子が異なっていた。こちらは隊長車のティーガーIIと四号駆逐戦車の2両に対して、プラウダ側はT34-85が2両。総合力から行けば黒森峰女学園が有利だが、プラウダも強力な85mm砲搭載車であり同数の戦いのため、お互いに油断は出来ない。

 

「砲手、あの岩の向こうに隠れているT34-85を狙うぞ。相手が顔を出したらこちらの88mm砲を叩き込んでやれ。通信手、四号駆逐戦車に左の岩に隠れている、もう1両のT34-85を砲撃で牽制するように伝えろ。無理に撃破する必要はない、最悪時間を稼ぐだけでも構わないぞ。時間が立てば、なほ隊長か副隊長が救援に来るだろうからな。」

 

第3小隊の小隊長である吉村真美は、どちらかというと攻勢に強い指揮官であったが、今回は大事な決勝戦でしかも防御戦を戦わなくてはならないという事から、いつも以上に慎重になっていた。しかも最初の相手の突撃を防ぐ際、不用意に砲撃を命じた結果、敵のJS-2などの長距離狙撃によりヤークトパンターが2両撃破されてしまった事も、彼女をより慎重にさせていた。これに対してプラウダ側のT34-85は、2対2の状況とはいえ、相手には強力なティーガーIIが残されている事を把握しているため、やはりこちら側も慎重になっており、結果的にお互いに決め手を欠き、膠着状態に陥っていた。

 

プラウダ側は斜面に存在している岩陰に隠れこちらへの砲撃の機会を伺っているが、黒森峰女学園側も相手が顔を出すのを待っているため、お互いに動いた方が負けるという状況になっていた。小隊長の真美は、時折挑発するために機銃を打ち込んでいたが、プラウダ側もなかなか挑発には乗ってこず、完全に千日手の様相を呈していた。しかし副隊長の真由子からの連絡により、いよいよその均衡が破られる時が来た。

 

「小隊長、副隊長の真由子さんから連絡です。今からパンター4両でそちらに応援に向かうとの事です。これで勝負がつきますね。」

 

「了解だ。副隊長が来るまで、この状態を維持するぞ。あと少しの辛抱だ、みんな頑張れよ。」

 

数分後、副隊長の真由子が率いるパンター4両は、岩陰に隠れていたT34-85の1両を横合いから一気に撃破した。それまで第3小隊との対峙に全ての気を取られていたプラウダ高校の戦車は、横合いから出現した真由子の部隊に気づかず、なすすべもなく撃破されてしまう。残ったもう1両は僚車が撃破された事を知り、自分達が完全に取り囲まれた事を認識した。そして破れかぶれになり第3小隊に向かって突撃しようとした所を、岩陰から出てくるところを狙っていた真美のティーガーIIに撃破された。右翼の戦いにこうして決着がついた頃、左翼でも残っていたT34-85に撃破判定が出ており、残すは中央部の勝負だけとなっていた。そして防御線中央部分では、最後の局面を迎えようとしていた。

 

 

 

黒森峰女学園 隊長車

 

 

「残りは1両だな。もはやこちらの勝ちは決まったが、最後まで粘るな。」

 

隊長のなほは、最後に残ったT34-85の奮闘ぶりに賞賛を送る。JS-2が撃破された後、なほの率いる第1小隊は残っていた3両のT34-85を攻撃し、そのうちの2両を既に撃破していたが、最後の1両の撃破に手こずっていた。既に丘の上という狭い地域での機動戦に移っており、動きながらの攻防のためお互いに有効弾をなかなか出せない事が原因だった。また相手の砲手もかなり優秀なようで、こちらが停止射撃を実施しようと足を止めれば、確実に有効弾を叩き込んできそうな雰囲気があるため、なほも慎重な行動をとっていた。

 

「このままでは埓があかない。小隊各車に連絡、こちらは3両で向こうは1両。こちらが1両撃破される事を許容すれば相手も確実に叩ける。私の合図で一斉に停止射撃を行う。各車装填準備は出来ているな?」

 

なほが小隊各車に確認をとる。これ以上粘られて不測の事態が生じる可能性があるならば、一両を犠牲にしてでも確実に今相手を倒した方が良いだろう、となほは考えていた。なほは幼少の頃から家元であるかほや師範のさほから、西住流の教えを聞かされて育ってきた。『犠牲なくして大きな勝利は得られない』、おそらく敵のT34-85は、第1小隊の中では最も正面装甲が薄い自分が搭乗しているティーガーIの撃破を狙っているだろう。勿論、そう簡単に撃破判定を与えてやるつもりはないが、それでも停止射撃をする以上命中弾をもらう可能性は高いし、この距離からの砲撃では例え前面装甲が100mmあっても、当たり方によっては撃破判定を出される可能性はある。しかしたとえ自分が犠牲になっても、ここは確実に相手を仕留める必要がある、となほは決断した。

 

「Jetzt…Feuer ! (今だ、撃て!) 」

 

なほの命令で、第1小隊の各車は一斉に停止して射撃を行った。プラウダ側も相手が停車した事を受け、一瞬の遅れはあったものの急停止して射撃を行う。黒森峰女学園の放った弾は、3発ともT34-85に吸い込まれるように命中した。T34-85が放った最後の弾も、なほの搭乗するティーガーIの前面砲塔部分に命中した。

 

「プラウダ高校 T34-85 8号車 命中弾3 判定撃破」

 

「黒森峰女学園 隊長車 命中弾1、ただし貫通は認められず戦闘継続可能」

 

「…よって、黒森峰女学園の勝利!」

 

試合会場に審判長のアナウンスが響き渡る。

 

「勝ったか・・・」

 

試合終了と、自分達の勝利を告げるアナウンスが会場に流れたのを聞いたなほは、自分の乗るティーガーIの車長席に疲れたように腰を下ろした。決勝戦の間、そのほとんどの時間をキューポラから半身を出し指揮をとっていたための疲労もあるが、絶対に勝たなければならないという強力なプレッシャーからようやく開放されたという安堵感から、これまでの疲れが一気に出たようだ。

 

「隊長!勝ちましたね。私達の優勝です!しかも第1回大会の優勝ですよ!」

 

なほが搭乗していた戦車の中では、搭乗員達が喜びを爆発させていた。それを聞いたなほは、疲れきったような表情を無理やり押さえ込み、搭乗員達に笑顔を向けた。

 

「我々の優勝だ。みんなこれまで良くやってくれた。これからもよろしく頼む。さぁ、我々の観戦席に戻ろう。みんな待っている。」

 

 

 

黒森峰女学園 観戦席

 

 

黒森峰女学園の観戦席では勝利のアナウンスが伝えられた時、生徒達の歓声が上がった。特に西住流に入門してそのまま黒森峰女学園に入学した少女達は、カリウス等から指導を直接受けていた者も多かった。そのため、これまでの厳しい訓練が報われたと感じて、一緒に観戦していたカリウス等と共に喜んでいた。バルクマンやカリウスも、なほが今回行った『後手からの一撃』が成功した時、既に勝利を確信していたが、それでも勝利のアナウンスが伝えられた時は立ち上がって喜んでいた。

 

「バルクマン、カリウス、本当にありがとうございました。今日私達が優勝出来たのは、貴方達のおかげです。戦車道が復活した時、こんなに早くこのような日が来るなんて考えてもいませんでした。」

 

西住流師範の西住さほが、カリウスとバルクマンに頭を下げる。戦車道復活の話が始まって7年、池田流と協力しながらようやくここまで来た。その間、ドイツから教官を招き、ドイツ戦車を揃え訓練を行うなど、長いようで短い7年だったな…とさほは思い返していた。

 

「さほ、俺達もこんな楽しい物を自分の目で見られたんだ、感謝してるぞ。それに、イワン共を倒しての優勝だからな。わざわざ日本まで来た甲斐があったぞ。たぶんこの話を聞いたら、ドイツに居るハインリツィ閣下も喜ぶだろうな。」

 

「さほさん、私も曹長と同じように嬉しいですよ。私達もここまで教えてきた甲斐がありました。なほさんの成長した姿も見られましたし、本当に満足していますよ。」

 

バルクマンとカリウスも、喜びながらさほに答えた。そうしていると、出場していた搭乗員たちが観戦席の近くまで戦車と共に戻ってきた。隊列の先頭には、なほの搭乗するティーガーIがあり、隊長のなほもキューポラから半身を出して観戦席に向かって手を振る。その姿を見て、観戦席では一際大きな歓声が上がった。

 

 

 

試合会場 中央観戦席

 

 

今回の中央観戦席には、ロシアから試合を見るために急遽来日した政府高官や軍高官も多数おり、勝負が決まった時は地面を蹴って悔しさを表現していたが、試合終了から少し経過した今は落ち着きを取り戻し、黒森峰女学園の学園長の島田や西住流の家元である西住かほに拍手を送っていた。ただドイツの戦車に負けた事については物凄く悔しかったようで、次回の大会では今回以上の戦車を本国から運んでプラウダ高校を強化するとかほ達に伝え、まだ強化するつもりか…とかほ達を呆れさせていた。ソ連高官達の黒森峰女学園関係者に対する挨拶が一段落した頃、池田流の家元である池田美代子と辻政信がかほの元にやってきた。

 

「かほさん、おめでとうございます。ソ連の戦車相手にあそこまで見事に立ち回れるとは、お見事でした。やはり西住流は強いですね。うちではとてもあのようには戦えませんから。」

 

「いえいえ、美代子さん。知波単学園も練習試合では本気で戦うのでしょう?実をいうと、今回のプラウダも確かに強かったですが、貴女の所が本気で戦う方が余程怖いと思っていますし、楽しみにしているのですよ。ただ…以前は来年にでも是非練習試合でお相手しましょうと言いましたが、来年は難しそうです。」

 

美代子がかほに優勝のお祝いを述べた事に対して、かほは知波単学園との練習試合の方が今回の決勝戦よりも楽しみだと返した。プラウダ高校は戦車の性能を考えると黒森峰女学園に匹敵するものを持っていたが、かほにとっては一回戦でチハにパンターを撃破された事が余程印象に残っていたようだ。そして個々の搭乗員の能力が非常に高い知波単学園が、それなりの性能の戦車で対戦してきたらどうなるのだろうか?と好試合になるだろう期待と勝敗への不安の両方を持っていたようだ。また、以前は来年度に一度練習試合を行おうという話だったのだが、かほの方から難しそうだとの返答があった。

 

「西住さん、何かあったのですか?あの練習試合については、あなたの方もかなり乗り気だったと思うのですが。私も池田流と西住流の戦いを楽しみにしていましたし…もし何かあったのでしたら、言ってもらえませんか?私で解決出来ることなら…」

 

一緒に居た辻が、かほに言った。学園艦、そして戦車道復活に尽力してきた辻にとっては、日本の二大流派である西住流と池田流の本気の試合は、是非一度見てみたいと思っていたものでもあり、何か問題があるのであれば自分が解決しなければならないという思いから出た発言だったが、かほの返答は辻が考えていたような回答ではなかった。

 

「いえ、辻さん、美代子さん。問題という事ではなく、黒森峰女学園の学園艦の件なのです。再来年の4月に私達も学園艦に移る事になるのですが、実際には街機能や学園機能の移転は来年の中頃から徐々に始まります。ですから、来年の全国大会は前回優勝校として出ざるを得ませんが、こちらに時間的な余裕が全くないのです。ですから申し訳ないのですが、練習試合は再来年まで待ってもらえないでしょうか?」

 

かほの答えに美代子は、『たしかにこれは仕方ない』と思った。自分達も知波単学園の学園艦が就航し、そこに街機能や学園機能そして戦車道のための設備や戦車を運び込む事に物凄く苦労していたからだ。

 

「かほさん、分かりました。それではうちとの練習試合は再来年に行いましょう。お孫さんのなほさんもまだ在学中でしょうし、うちの孫も在学していますから、良い試合になりそうですね。」

 

「そうですか…再来年ですか…。こればかりは仕方ないですね。」

 

再来年に練習試合を行うのなら、西住なほは学園生活最後の3年生、そして孫の美沙子は2年生として戦う事になる。なほが卒業してしまっていては問題があるが、双方が在学中であれば白熱した戦いが期待出来る。そう考えた美代子は頷いた。辻は少し何かを考えていたが、かほ達の苦労は理解出来るため、頷いた。

 

「そう言ってもらえるとこちらも助かります。さて、それでは申し訳ないのですが、私はこれで席を外させてもらいます。流石に黒森峰女学園の祝賀会に私が居ないのもどうかと思いますから。」

 

そう言って、かほは黒森峰女学園の学生が集まっている観戦席の方に去っていった。

 

「かほさんも、嬉しそうでしたね。いつもは冷静なかほさんが、あそこまで喜んでいる姿は、私も初めて見ましたよ。」

 

辻が美代子に話しかけた。これまで辻は学園艦建造のために何度も美代子やかほと会合を持った事があるが、あそこまで喜びが表に出ていたかほを見るのは、初めてだった。

 

「かほさんも今日は嬉しいでしょう。なんと言っても、かほさんの決断で西住流はドイツ式に変わり、かほさん自らがドイツまで出向いて指導する人間を連れてきて、黒森峰女学園を強化した結果が今回の優勝ですからね。自分の決断が正しかったと、おそらくホッとしている所もあるのだと思いますよ。」

 

辻の疑問に美代子が答えた。自分がかほの立場だったら、まだ戦車道がどのようになるのか分からなかったあの時代に、完全にドイツ式で行くという決断をする事はおそらく出来なかっただろう。かほはよく「西住流は常に前に進む流派、犠牲なくして大きな勝利は得られない」と言っていたが、西住小次郎が創りあげた帝国陸軍式の戦車道を棄てるという大きな犠牲を払った結果手に入れた今回の勝利は、かほにとっては特別な物だったのだろうな、美代子は考えていた。

 

「ところで、お孫さんの美紗子ちゃんを、今回なほさんに会わせなくても良かったのですか?来年になれば、お互いに戦車道で戦う間柄になるでしょうし、今大会で引き合わせても良かったのではないですか?」

 

「いいえ、辻さん。美紗子は来年にはあちらさんと公式戦で戦う事になるでしょうし、再来年には練習試合でお互いに死力を尽くして戦うことになります。それに、あの子達はお互いに将来は家元として切磋琢磨していく事が定められています。今日引き合わせなくても、お互いに引き寄せられるように繋がりが出来るでしょう。ですから、かほさんとも相談したのですが、私達はあの子達については、一切手を出さないでおこうと決めたのです。」

 

美紗子となほは、お互いに同年代。これから何度も戦う事になり、また現在の自分とかほのように時には協力していく仲になるだろう。だから敢えて二人を自分達が紹介して、強制的に関係をもたせるのは止めよう、と美代子とかほは同意していた。いずれお互いが相手のことを意識する時が来るだろうから、それまでは何もせず黙って見守る、それが美代子とかほの考えだった。

 

第1回戦車道全国大会は、黒森峰女学園の優勝によって幕を閉じた。この全国大会をもって、戦前とは少し異なる戦車道が華々しく日本で再開することとなった。また、今大会で負けた高校を支援してきた各国は更なる支援を決定し、新たな国の参入も既に日本政府に打診があったと言われている。おそらくは学園艦が次々と就航していく事に合わせて、戦車道もどんどん大規模になっていくだろう。そしてそのような戦車道の黎明期、後に『戦車道最大のライバル対決の起点』と記録され、世代を超えて戦っていく事になるライバル対決の火蓋が切られる時が近づきつつあった。

 

 

第二部 完

 

 

 




今回の話で、戦車道の開始を書いた第二部が完了します。第一部で学園艦が完成し、第二部で戦車道が復活、そして次の第三部で池田流対西住流の対決にしようと考えていましたが、なんとか予定通り第二部まで来る事が出来ました。ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

第三部の開始地点は、一気に2年経過した西住なほが黒森峰女学園の3年生、池田美紗子が知波単学園の2年生の時代になると思います。ひょっとしたら、第三部を書き始める前に、第二部と第三部の間の時代を第二部の外伝として少し書くかもしれませんが、現在のところまだ未定です。ガルパン本編に出てくる大洗艦が出てくるのは、おそらくもう少し後の時代になると考えているので、この時点ではまだ大洗艦は出てきません。折角なので、そのうち大洗艦の初期の戦車道についても少し書いてみたいのですが、そこまで行けるのだろうか^^;。

次の投稿までは、少し時間があくと思いますが、どうぞよろしくお願いします。
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