学園艦誕生物語   作:ariel

38 / 85
当初は第二部外伝扱いで前話も書いていたのですが、とある方からのメッセージで、幕間のような形の独立した章として書いた方が良いのでは?という提案があったため、少し当初の予定よりもエピソードを増やす事で章を独立させることにしました。おそらくこの幕間では戦車道の試合は行なわせません(試合自体は行なっても、それについては書かないと思います。)。ということで、普段の生活を中心に組み立てていく事にします。


第28話 邂逅

1961年 7月 熊本 黒森峰女学園

 

「そういえば、あの知波単学園で隊長が交代した、とお母様から聞いたんだが、真由子は何か知っているか?昨年の私達との戦いで、あれだけ善戦した隊長が交代したというのは、にわかには信じられないのだが…」

 

「あれ?隊長は知らなかったのですか?なんでも池田流の家元の孫娘が入学したので、前回戦った時の隊長だった村上早紀江が、隊長を代わってもらったという話ですよ。」

 

黒森峰女学園の隊長である西住なほは、自分の母で黒森峰女学園の教官であった西住さほから、『知波単学園の隊長が交代したそうだ』という話を聞き、少し驚きをもって受け止めていた。昨年の全国大会の際、勝敗では黒森峰女学園が勝利したが、圧倒的に弱い戦力を率いて尚、こちらの副隊長の島田真由子が搭乗していたパンター戦車を撃破されており、かなり優秀な指揮官が率いていたのだな…と感心していたため、それが一年で交代する事になったという話は、にわかに信用出来なかったためである。そのため、真由子から『家元の孫娘が入ってきたため、隊長が交代した』という話を聞いて、自分と同じような境遇の人間が知波単学園に入学した事を知り、少し興味を持った。

 

「前任の隊長がそれなりに実績を出している訳だから、新しく隊長になったその子は苦労するのだろうな。ただ私と同じような境遇である以上、それだけの訓練は受けているという事か…どんな子か、一度会って話がしてみたいものだな。」

 

「隊長が、誰かに興味を持つなんて珍しいですね。私が知る限り、西住流関係以外で、隊長が興味を持った人なんて初めてではないですか?その初めての人が男性でない所が、隊長らしいといいますか…あっ、いえ失言でした。申し訳ありません。」

 

幸いな事に、真由子のあんまりな発言はなほの耳に届かなかったが、なほが西住流関係者以外の人間に興味を持つのは珍しい事だった。特に最近は戦車道の訓練に勤しんでいる時間が多く、学園の外に出ることも稀なため、これについては副隊長の真由子を始め、黒森峰女学園の人間も少し心配をしていた。

 

「真由子、一度会ってみたいんだが、なんとかならないか?出来れば、来月の全国大会前に会ってみたいんだが…。流石に海の上にある学園艦では、潜入するわけにはいかないし…何か良い案はないかな?」

 

「…隊長、いきなり『忍び込む』なんてやめてください。隊長のお母様に頼んで、正式に知波単学園を訪れれば大丈夫でしょう。幸いなことに、うちも来年には学園艦に移るわけですから、それの実態調査ということにして知波単学園に体験入学させてもらえば、向こうで会う機会は出てくると思いますよ。」

 

返答をあまり期待していなかったなほだったが、真由子の考えはなかなか良い案だった。自分達が実際に学園艦生活を来年から送るために、実際の学園艦生活がどのような物か、少しの間実際に体験させてもらう名目で、知波単学園に入れてもらう。その間に、向こうの隊長と接触する事はおそらく可能だろう。

 

「真由子、お前にしては良いアイデアだな。分かった。早速お母様に相談してみよう。お前も勿論私と一緒に来るのだろう?」

 

「隊長…『私にしては』って、隊長が私の事をどう見ているかよく分かりました。なんでしたら、隊長はお留守番で、私と他の小隊長だけで行ってもいいんですよ?」

 

「わ…悪かった。謝るから許してくれ。とりあえず、私と真由子の二人で体験入学が出来るように、お母様に頼んでみる。」

 

なほはそう言うと、善は急げとばかりに、早速自分の母で師範でもある西住さほの居室に向かった。それを見た真由子は、隊長の行動力を考えると、おそらく来週には知波単学園に体験入学をする事になるだろうと考え、自分の準備と残る搭乗員達への指示を伝えるために、戦車格納庫に足を向けた。

 

 

 

教官室

 

 

「ですからお母様、視察です。私達が来年から学園艦に移っても問題なく過ごせるように、実際に学園艦に乗せてもらい、しばらく生活をさせてもらうのです。間違っても、向こうの家元の孫娘に会いたいという訳ではありません!」

 

教官室にノックもせずに飛び込んできたなほは、開口一番『知波単学園に転校させてください!』とさほに訴え、さほを呆れさせていた。詳しく理由を聞くと『学園艦生活を体験してみたい』というもっともそうな理由を話したが、本音は駄々漏れ状態であり、直ぐになほの真意を知る事になった。さほは、ここまで性急になほが動くとは考えていなかったため最初は少し戸惑ったが、自分の母であり家元のかほから『なほが池田美紗子に会いたいと自分から言い出したら、止めずに好きなようにさせてやるように』と言われていた事を思い出し、来るべき時が来た事を悟った。

 

「分かりました。そこまでなほさんが言うのでしたら、一週間という時間を限定して知波単学園への転校を認めましょう。お母様には私から伝えますし、先方にも私の方から連絡します。向こうが断ってきたらそれまでですが、おそらく断る事はないでしょう。あなた一人で行ってくるのですか?」

 

「ありがとうございます、お母様。私と副隊長の真由子の二人で行こうと思います。二人で向こうの学園艦の生活をしっかり体験して、こちらに戻ったらその体験をみなに伝えます。」

 

以前自分の母から、池田流の家元である池田美代子も、『自分の孫娘となほはそのうちお互いに引き寄せられるだろうから、それまでは静かに見守っていこう』と言っていた事を聞いていたため、おそらく今回の申し出を断る事はないだろうと、さほは考えていた。

 

「…なほさん、建前はもういいですよ。本当は池田美紗子さんに会いたいのでしょう?折角の機会ですし、このような機会はそれ程ないでしょうから、納得のいくまで話し合ってきなさい。あなたと美紗子さんは、これから同世代の人間として最後まで一緒に歩んでいく事になるのですから」

 

「あ…ありがとうございます、お母様。お母様は本当の理由を知っていたのですね。」

 

なほは、本当の理由はとっくに見破られていた事を知り、それでも許可を出してくれた自分の母に感謝した。一週間という時間は長いようで短い時間だが、それでもまとまった時間を向こうで過ごす事が出来れば、向こうで池田美紗子と話す事が出来る機会は増えるだろう。おそらくは、自分の生涯のライバルになるであろう子と会える事に、なほは心が躍っていた。

 

「いえ、私だけではありませんよ。あなたのお婆様も、そのうちこのような事があるだろうと考えていましたし、池田流の家元さん達も同じように考えていたようです。ですから、しっかり向こうで楽しんでいらっしゃい。」

 

「お母様、感謝いたします。向こうではどのような出会いになるか分かりませんが、楽しんでこようと思います。申し訳ありませんが、私が留守の間は皆をよろしくお願いします。」

 

 

 

熊本 西住流本家 居間

 

 

「そうですか、なほがそのような事を。どうやらその時が来たようですね。分かりました。私から池田美代子さんに連絡をしましょう。」

 

西住流本家の居間には、黒森峰女学園から戻ってきた師範のさほと、家元のかほが居た。さほの口から、今日なほから言われた事が伝えられると、かほは頷く。以前、池田美代子と話していた事がついに来たかという思いと、これがきっかけとなり二人がどのような関係を結ぶ事になるのか、楽しみと不安が入り混じる。叶う事ならば、自分と美代子のような良好な関係を築いて欲しいが、こればかりはお互いの相性もある。ただいずれにせよ、あとは二人に任せるしかない。

 

「それにしても、お母様。なほがあそこまで執着するとは思っていませんでしたから、私も最初は驚きましたよ。」

 

「そうですね…。あの娘はこれまで自分と同じような境遇の子に会った事はありませんでした。ですから、あの娘の周りはみんなあの娘に遠慮がありました。おそらく、あの娘はその事を無意識の内に感じていたのでしょう。ですが、美紗子さんは自分と完全に同じ境遇です。たぶん自分に遠慮せずに普通の関係が築ける子と会える…と考えているのでしょうね。」

 

さほの疑問にかほが答える。なほは幼少時から自分の孫娘ということで、最初から一目おかれていた。同年代の仲間は居たが、全く遠慮せずに付き合いが出来る子はおそらくいなかっただろう。そういう意味では、今回池田美紗子と会う事は、なほにとって非常に良い経験になるのではないか、とかほは考えていた。

 

「しかし、あの子がいきなり転校してきたら、美紗子さんも驚くでしょうね。どのような反応をするのか、残念ながら私は見る事は出来ませんが、見てみたいものですね。」

 

「お母様、なんでしたら私から美奈子さんに伝えておきましょうか。美奈子さんは丁度知波単学園で師範をやっていますから、おそらくその姿を見る事になるでしょうし。」

 

おそらく、向こうも自分の孫娘の名前くらいは知っているだろう。そして、おそらく自分のライバルになるだろうと、考えているはずだ。そんな子が何の心の準備もない状態で、自分の目の前に現れたら…どのような反応を見せるのか楽しみだ。後から、向こうの師範の美奈子から、色々と話を聞きたいものだ、とかほは思った。

 

さほが黒森峰女学園に再び戻ると、かほは池田流本家に居る美代子に直接電話をする事になる。その結果、美代子の一存で来週の始めから知波単学園で二人を受け入れる事が決まり、知波単学園の学園艦に直接ヘリコプターで来るようにと連絡があった。どうやら、池田美代子も、今回の申し出は渡りに船と考えたようだ。

 

 

 

1週間後 知波単学園学園艦 1年生教室

 

 

「Our subjects ever united in loyalty and filial piety have from generation to generation illustrated the beauty thereof. This is the glory of the fundamental character of our empire, and herein also lies the source of our education. よし、それじゃ次、柳瀬訳せ。」

 

その日、知波単学園の1年生の教室では英語の授業が行なわれていたが、突如凄い勢いで扉が開かれ、少女が二人駆け込んできた。

 

「美紗子様!大変です。ス…スパイが転校してきました!」

 

「いや、スパイって…美紗子様、西住です。西住なほがうちに転校してきたんです!」

 

駆け込んできたのは、二年生で現在の副隊長である村上早紀江と、昨年まで副隊長をしていた高橋節子だった。

 

「コラ!お前達、今は授業中だぞ。自分の教室に戻れ!大体、高橋はまだしも、優等生の村上まで教室を抜け出してくるとはどういうことだ!」

 

「せ…先生、持病の神経痛が…保健室に行かせてください!」

 

美紗子の仮病丸分かりの発言に教室中に笑いが広がった。担当教員は目をつぶり首を横に振っていたが、やがて仕方ないという顔になり、美紗子に退室の許可を与えた。

 

「池田、お前もしょうがないやつだな。まぁ、優等生の村上があそこまで血相を変えて飛び込んできた以上、お前も気になるんだろうがな。まぁいいだろう、保健室に行って来い。お前は勉強も出来るから大丈夫だと思うが、後から課題を提出しろよ。」

 

「先生すいません。失礼します。」

 

そう言うと、教室に飛び込んできた二人を連れて美紗子は退室していった。

 

「ちょっと、節子さんはまだしも早紀江さんまでどうしたの?流石に授業中に乱入は拙いと思うけどな」

 

「た…隊長。私だって勉強はそれなりにやっているぞ。そりゃ、隊長や早紀江のように頭は良くないけど、それでもそれなりに…」

 

「節子、今はそんな事いいの。美紗子様、今日知波単学園に転校生が二人来まして、私達のクラスに編入されたのです。その転校生がなんと、黒森峰女学園の西住なほさんと、副隊長の島田真由子さんなのですよ!うちの担任は、黒森峰女学園も来年から学園艦に移るため、その体験をしてもらうために一週間だけの限定的な転校だと言っていましたけど、おかしいと思いません?」

 

早紀江の言葉に、美紗子は少し戸惑った。西住流の家元の孫娘である西住なほは、自分も以前から興味を持っていたが、未だに面識はない。おそらくは生涯のライバルになるだろうと考えていたが、実際に会うのはおそらく全国大会のある8月だろうと考えていた。しかし、先方の方からまさかこの時期にこのような形でやって来るとは思っていなかったため、美紗子には心の準備がなかった。しかし、向こうの意図はまだ分からないが、折角のこの機会だ。出来る事なら、早い段階で実際に会って話をしてみたいと思った。

 

「早紀江さん、事情は分かりました。おそらく学園艦を見て見たいというのは表向きの理由。本当の理由はよく分からないけど。私が実際に会って話してみるわ。それによく考えて。向こうの方がうちよりも強いのよ?うちへのスパイを隊長自らする訳ないでしょう?あまり考えても仕方ないし、とりあえず今日の昼ごはんの時にでも会ってみるよ。それと放課後は戦車格納庫に呼んであげて。九七式中戦車にでも乗せてあげれば満足するんでないかな?」

 

「美紗子様…全然動揺しないなんて流石ですね。たしかに、うちのスパイなんて黒森峰女学園がする必要ないですよね。分かりました。昼食の時に美紗子様の席に連れて行きます。それに案外、うちの戦車に乗ってみたいだけかもしれませんね。うちの戦車珍しいですし。」

 

自分達はあまりの出来事に、物凄く焦りこのような行動をしてしまったが、その知らせを聞いても自分達の隊長である美紗子は落ち着いて対処した。その姿を見て、早紀江も節子も美紗子の事を改めて尊敬するのと同時に、冷静になって考えてみればスパイはないな、という事に気づいた。案外本当に九七式中戦車など旧日本軍の戦車に搭乗してみたいだけなのかも…と考えながら、もしそうならば九七式中戦車を愛して布教活動まで行なっている例の問題児達に引き合わせるのも良いかもしれない…ととんでもない事まで考え始めていた。

 

「ちなみに、なほさんってどんな感じの人だったの?私も写真や映像でしか見た事がないから、よく分からないんだよね。」

 

「そうですね。颯爽とした感じですが、どちらかというと近寄りがたいといった感じですね。それに、あまり人付き合いに慣れていないのかもしれません。最初の挨拶の時は少し戸惑ったような感じでしたよ。副隊長の島田さんの方は普通な感じで、どちらかというと、節子に似ているかなと思います。」

 

「ちょ…ちょっと待て!。私はあそこまで豪快じゃない。なんだよ、あの挨拶は『隊長に悪い虫がつかないように護衛と、隊長が羽目をはずし過ぎないように監視を兼ねてやってきました島田真由子です。』って。なほさんに睨まれていたぞ。」

 

二人が編入してきたクラスでは、最初に二人が挨拶をしたようだが、西住なほはかなり戸惑いながら挨拶をしたようだ。しかしなほの颯爽とした感じは、同じクラスに居た少女達をときめかせたようで、挨拶の後『キャー』という歓声が上がり、ますますなほを慌てさせていた。その後の島田の挨拶は、節子が言ったような感じで、冗談だと皆が分かっていた為、クラス中には笑いが広がった。いずれにせよ、二人はクラスに温かく迎え入れられていた。

 

「なるほどね。まぁ、とりあえず昼食の時、私は食堂のいつもの席に居て今日は周りを空けて貰うから、そこに連れてきてね。」

 

「分かりました、美紗子様。いきなり授業に乱入してすいませんでした。それでは後ほど。」

 

そういうと、早紀江と節子は自分達の教室に戻っていった。美紗子も自分の教室に戻ろうとしたが、昼食まで少しだけ心を落ち着かせたいと思い、保健室で少し時間を過ごそうと保健室に移動した。

 

 

 

昼食時 知波単学園食堂

 

 

知波単学園では、昼食は全校生徒が揃って食堂で食べられるように、広大な食堂が準備されていた。席は自由になっており、好きなように座る事が出来るが、多くの生徒は自分のお気に入りの場所を持っており、池田美紗子も自分のお気に入りである窓際の席で同級生達と食事をいつも取っていた。しかしその日は、いつも一緒に昼食を食べる同級生達にお願いして、6人席には美紗子が一人だけ座って食事をしていた。そんな姿を周りの一年生は不思議そうな感じで見ていた。美紗子は一年生の中では成績もトップクラスであり、一年生ながら知波単学園の戦車隊の隊長をしており、さらに池田流家元の孫娘ということで人気があったため、食事を一人でするような事はこれまでなかったためだ。そして、一人で座って食事をしている美紗子の元に、上級生で戦車隊の副隊長である村上早紀江と、同じく2年生の高橋節子、そして話題の転校生2人がやってきた事を知り、食堂中の視線が美紗子の居る机に集中した。知波単学園に転校生が来た事はこれまで無かったため、初めての転校生のニュースはその日の午前中には学園中に広がっていた。そしてそんな転校生だけでなく、二年生の中でも代表的な生徒が二人、美紗子の元にやってきた事は学園の生徒としては、それだけでも大ニュースであった。

 

「美紗子様、今日転校してきた西住なほさんと、島田真由子さんを連れてきました。」

 

「あ、早紀江さん。ありがとう。はじめまして、私は知波単学園の1年生の池田美紗子です。とりあえず、みんな座って昼ごはん食べながら話しましょう。うちの学園艦、これでも最近は食事美味しくなったんだから、黒森峰女学園がどうかは分からないけど、たぶん満足してもらえると思うよ。」

 

美紗子が半分冗談めかしながら、なほ達に一緒に食事を食べながら話そうと誘った。西住なほは、これが池田美紗子か…と思いながら、とりあえず美紗子の提案に従い美紗子の目の前に座る。それを見た真由子は『やれやれ』と思いながら、なほの横に座る。早紀江と節子は美紗子を挟んで美紗子の横に座った。

 

「私は、黒森峰女学園から転校してきた西住なほだ。そして、こちらが島田真由子。黒森峰女学園では、隊長と副隊長をやっている。本当の事を言うと、私達は美紗子殿に会って話をしたくて、ここに転校してきたんだ。」

 

「えっと、なほさん。私の方が年下なんだから、美紗子殿は止めてください。美紗子って呼んでくれていいよ。私も、そうだな…なっちゃんて呼ぶから。」

 

その瞬間、なほの横に居た真由子は吹き出した。黒森峰女学園では西住なほは、絶対的な存在で、間違っても『なっちゃん』と呼ぶような生徒はいない。また、西住流本家で訓練をしていた時も、『なほ様』と年上からも呼ばれていた。おそらく、そのように呼ばれる事など、なほにとっては初めてのことだろう。

 

「アーッ、ハハハハ。美紗子、あなた最高!なっちゃんか、それいいよ!」

 

「真由子!!な…なっちゃんは…その…そんな風に呼ばれた事がないから…いや、嫌という訳ではないのだが…」

 

真由子の吹き出したような笑いに困惑しつつ、なほは恥ずかしそうに美紗子に答えた。自分と同じような境遇の子だという事は分かっている。しかし、美紗子は自分にはないような明るさを備えているようだ。初対面の自分に、このように気さくに振舞ってくれる子をなほはこれまで知らなかった。どうやら、初めて友達と言えるような子と会えたのかもしれない、となほは感じていた。

 

「真由子さん、笑いすぎ!そんなに笑っているのなら、真由子さんも『まーちゃん』て呼ぶよ。」

 

「ブッ…まーちゃんって、真由子良かったな。そんな風に呼んでくれる子、黒森峰にはいないからな。真由子のあだ名と言えば『鬼の真由子』とか『しごきの真由子』くらいだからな。」

 

「た…隊長、なんでそんな事知っているのですか!それに隊長、なに笑っているのです!大体、美紗子のネーミングセンスは酷すぎます。早紀江さん、節子さん、いつもこうなの?」

 

目の前のやり取りを見ていた早紀江と節子は、驚いていた。自分達はかなり遠慮して二人に接していたのに、美紗子は直ぐに打ち解けたような感じで話をしている。流石に隊長は違うな…と早紀江は特に感じていた。

 

「いえ…美紗子様は、普段は真面目です。どうやらお二人がここに来た事が凄く嬉しいのだと思いますよ。まぁ、いずれにせよそのあだ名はお二人には良いかもしれませんよ…ハハハ」

 

「まぁ美紗子様は、人付き合いはいいけどな。それにしても、なっちゃんもまーちゃんも、ここだけのあだ名になりそうだな。流石に黒森峰女学園の他の生徒が居る前でこんな風に呼んだら拙い事になりそうだ。それにしても傑作だわ…ハハハハ」

 

最後は笑い始めた二人をなほや真由子は睨みつけたが、やがて仕方ない…と肩を竦めて、自分達にいきなり強烈な先制パンチを放ってきた美紗子に答える。

 

「分かった…ここに居る間はその呼び方でいい、なっちゃんか…少し戸惑いはあるが、直ぐに慣れるだろう。」

 

「まぁ、ここには私達を知っている人間は誰もいないですし、ここでのあだ名としては悪くないですね。美紗子ありがとう。」

 

その後、あっという間に打ち解けたなほと美紗子は様々な話をしながら、昼食の時間を一緒に過ごした。なほは昼食を食べながら、自分の母に無理を言って知波単学園に一週間転校させてもらった事を感謝した。どうやら自分にとって、初めて対等に付き合える友人が出来たという喜びを感じながら。




西住なほを一度知波単学園に転校させるアイデアは、第1章を書いている頃に少し考えていたのですが、やるとすると黒森峰女学園の学園艦が出来る前しか理由づけが出来なさそうだったので、このタイミングで当初のアイデアを文章にしてみました。元々、本編とはあまり関係のないエピソードなので、外伝で良いかな…と思ったのですが、少し加筆して長めのストーリーにすると本編に絡ませる事も出来そうなため、読者様の提案のように幕間として独立させました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。