学園艦誕生物語   作:ariel

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前回のあとがきでは日曜日に投稿出来たら良いなと書いていましたが、残念ながら間に合わず、月曜日の投稿という形になりました。この時期は飲み会が多すぎです(笑)。流石に酔った頭では文章書けないわけでして…、仕事納の日までは、なかなかまとまった時間が作れないな、と思いました。

当初の予定では練習戦は2話で終わらせ、その後日談を書いて第三章を終了させるつもりだったのですが、いつのまにか練習戦は3話構成になってしまいまして、少し伸びてしまいました。一応第三章は、この話を入れてあと2話で終わらせて、大洗女子学園の学園艦建艦の章に移したいと思っています。なんとか今年中に第三章は終わらせることが出来そうで、少しホッとしています。



第42話 決着

知波単学園 隊長車 九七式中戦車 池田美紗子

 

 

「美紗子…砲声が聞こえなくなったね。終わったみたいだよ。」

 

「そうだね。試合終了のアナウンスがないから、佳代ちゃん達の戦車が全部撃破されたということだよね…。通信手、佳代ちゃん達の部隊の交信から、残っている黒森峰女学園の戦車の数は予想できる?」

 

「たぶん残っている黒森峰女学園の戦車は2両か3両だと思う。早紀江先輩の戦車から最後の通信がなかったからその部分は分からないけど、節子先輩の戦車からは『ヤークトパンターを1両仕留めそこなった。』と最後に通信があったし、佳代さんからも『真由子さんのパンターGが盾になったので、なほさんのティーガーIの撃破に失敗しました。』と最後の通信があったから、2両は確実に残っているよ。」

 

「…そう。皆、頑張ってくれたみたいだね。残り2両でも3両でも、私達の5両でなんとかするしかないか。さ、それじゃそろそろ行くよ。なっちゃんも、私達と最後の決着をつけるのを待っているはずだから。戦車隊、進め!」

 

そう言うと、知波単学園に残された美紗子達の最後の九七式中戦車5両は、佳代達が戦った地点を目指して、一路西に移動を始めた。しばらく美紗子達の戦車が西に移動し林を抜けると、広く開けた地点に到着した。その場所は、さながら両校の戦車の墓場と化しており、その場での戦闘の激しさを物語っていた。また美紗子の正面には、五式中戦車に四号駆逐戦車がぶつかっている姿を見ることが出来、五式中戦車に描かれた『ニ七』という記号から、その五式中戦車が早紀江の搭乗車である事を確認した。

 

「早紀江さんの戦車に黒森峰女学園の四号駆逐戦車が横合いからぶつかっているという事は、最後の相打ち狙いの突撃で早紀江さんが撃破されたということだから、黒森峰女学園の残っている戦車は2両と考えても良さそうだよ。どうかな通信手?」

 

「うん、美紗子。黒森峰女学園の残りは、ヤークトパンターと隊長車のティーガーIの2両だと考えてほぼ間違いないと思う。」

 

自分達が最後に相手をしなくてはならない戦車をほぼ確定した美紗子達は、そのまま早紀江達が戦闘を行なった場所を抜けて、更に西に移動を開始した。そしてしばらく前進すると、美紗子達のはるか前方に自分達を待ち受ける最後の相手を発見した。

 

「予想通り2両か…。距離はおよそ1800mといった所だね。池田流の人間としてはあまりやりたくないけど、佳代ちゃんのアイデアに習ってみようかな。」

 

距離1800mを相手からの砲撃を浴びながら突撃するとなると、流石に自分達の錬度をもってしてもかなりの被害を被るだろう。そして場合によっては、自分も撃破される可能性がある。しかしこの戦いが始まる前に副隊長の佳代は、このような状況になった時に備えて美紗子に一つのアドバイスをしていた。しかしそのアドバイスの内容は、池田流の思想から全く外れたものであったため、美紗子はその策の実行に迷いもあった。とはいえ、折角佳代が作り出してくれた黒森峰女学園に勝てるチャンスをみすみす捨てる事は、この有利な状況を作り出すために犠牲になった、佳代や早紀江そして節子を始めとする知波単学園の搭乗員に対して申し訳ないという気持ちも美紗子にはあった。美紗子は少しの間目を閉じて心の中で葛藤したが、やがて目を開けて佳代のアドバイスに従う事を決断した。

 

「五号車は、ヤークトパンターを時間稼ぎでいいから、しばらく相手して。教祖様、今回だけはあなたたちに頼るからお願いね。残りは私の戦車を最後尾にして一列縦隊でティーガーIに突撃。みんな今回は私の盾になってもらうけど、ごめんね。」

 

「任せときなさい!私のチハちゃんで、ヤークトパンターは撃破してみせるから。こっちは心配しないで大丈夫。」

 

「了解です、美紗子様。私達が必ず美紗子様の突入を成功させてみせますから、必ず最後は勝ってくださいね。」

 

美紗子の指示に対して、指揮下の九七式中戦車全車から間髪入れずに了解の連絡が来る。美紗子は、最後の最後まで自分の指揮に従ってくれた自分の小隊に心の中で感謝すると、突撃の指示を出した。

 

「小隊各車、これより黒森峰女学園の残存する戦車に向けて突撃します。戦車隊、前へ!」

 

美紗子の指示で知波単学園の九七式中戦車5両は、二手に分かれて突撃を開始した。その様子を最後尾の九七式中戦車の車長席から見た美紗子は、手元の日本刀をグッと握り締めて独白した。

 

「辻さん…私にとっては、池田流としてのプライドまで捨てた一世一代の突撃の指揮だから、ちゃんと見ていてよ。私の指揮を見ると約束したのだから、約束は守ってよ…。」

 

 

 

黒森峰女学園 隊長車 ティーガーI 西住なほ

 

 

「ようやく来たか。決着をつけるときが来たな、美紗子。砲手、ここからは私が砲撃を行なう。悪いが車長を頼む。桜井、ここからは私は目の前の戦いに集中することになるから、お前達のヤークトパンターに指示は出せなくなるだろう。だから自分達が最善と思う行動を取れ。」

 

知波単学園の戦車5両が正面に出てきた事を発見したなほは、戦闘室内に戻ると自車の搭乗員に配置の転換を指示した。そして自らが砲撃を行なうべく、車長席から砲手の席に移った。それまで砲手を行なっていた少女は、なほに自分の席を譲ると、指示に従い車長席に移る。元々西住流本家に居た頃は、なほは砲手としてかなりの腕を持っていたことを、ティーガーIの搭乗員達は知っていたため、『いよいよ隊長自らが戦う事になるのか』と考え、最後の戦いに備えた。

 

砲手の席に移動したなほは、知波単学園の戦車隊が二手に分かれて自分達に向けて突撃を開始した事を、照準機越しに確認した。そして自身は照準機を見ながら車長に向かって話しかけた。

 

「来るぞ!どうやら美紗子は、一列縦隊で突撃してくるようだな。犠牲を覚悟でこちらに最後尾の一両を突っ込ませるつもりだろう。距離が1800m程あるから、タイミング的にはギリギリになるが、全ての戦車を接近前に叩けると思う。装填手、貴様の腕に全てがかかっている。頼むぞ。」

 

なほは、自分の搭乗車の搭乗員には『接近前に全て叩けるだろう』に言ったが、内心ではタイミング的にかなり厳しい戦いになると覚悟を決めていた。『よりにもよって一列縦隊か…一列横隊ならば美紗子の戦車を集中的に叩いていやるところだが、この状態では最後尾に居る美紗子の戦車は直接狙えない。犠牲覚悟の突撃か…。美紗子も池田流としてのプライドを捨ててまで勝負に出てきたという事か。それでこそ私のライバルだ!』なほは一列縦隊の知波単学園の車列を見て、美紗子の作戦を正確に理解し、それだけ今回の勝負に美紗子も賭けている事を知った。

 

「距離1500mで敵突撃隊の最前列の戦車を砲撃する。砲撃が済み次第、装填手は再装填を急げ。」

 

知波単学園の戦車隊が除々に近づいてくる様子を照準機越しに眺めていたなほは、知波単学園最前列の戦車の少し左に照準を合わせると、距離1500mで初弾を放った。初弾を放った瞬間、知波単学園の最前列の戦車は、丁度なほが照準をずらした方角に戦車をかわした為、正面装甲のど真ん中に直撃した。

 

「まずは1両撃破だ。装填手、再装填急げ!第2射は距離1000,m付近で撃ちたい。」

 

「了解しました、隊長。しかし、この距離で確実に当てるのですから、流石は隊長です!」

 

なほは、『当然のことだ。』という雰囲気を見せていたが、内心では『とりあえず、初弾は成功したか。美紗子の小隊である以上どの戦車も錬度は非常に高いから、こちらの射撃タイミングをよんで回避行動を必ずとってくる。そうなると、どちらに避けるかを直感で当て、その方向に偏差射撃を行なうしかない。自分の直感でどこまで行けるか分からないが、やってみるしかない…』と考えていた。

 

「隊長、装填完了!いつでもいけます。」

 

「第2射、目標知波単学園三番車、砲撃…よし!撃破。」

 

続けて、なほは知波単学園の三号車に対しても、先ほどと同様に直感で避ける方向を考え、偏差射撃により見事に撃破判定を出していた。知波単学園の戦車を立て続けに2両撃破したティーガーIの車内は一瞬盛り上がったが、直ぐにヤークトパンターからの悲痛な通信で沈黙が訪れる。

 

「隊長、ヤークトパンターの桜井から通信です。敵五番車からの砲撃が履帯に直撃し行動不能。現在の砲塔の射界から逃げられてしまったため、抵抗出来ないとのこと。至急救援を求むと来ていますが…どうしましょう。」

 

「通信手、こちらにそんな余裕はない、なんとかしろと返信。…それにしても、いくらあちらの方が多少先行していたとはいえ、まだ距離は700m近くあったはずだ。しかも行進間射撃で履帯に正確に砲弾を叩き込んできたという事か。たしか五番車は2年前に真由子のパンターをやった九七式のはずだが、相変らず出鱈目な錬度だな。装填手、急げ!再装填が完了次第、突撃部隊の二番車を狙う。」

 

 

 

知波単学園 九七式中戦車 五号車

 

 

「よっしゃ!流石は私のチハちゃんだけあるわ。特甲弾で履帯に直撃させれば、駆逐戦車だったら身動きとれなくなるし、固定砲塔だからこれでもらったわ!」

 

「あの…教祖、盛り上がっている所、大変申し訳ないけど…特甲弾、あと1発しかないよ…どうする?残りは、一式徹甲弾しかないけど…」

 

自分達が直接相手をする事になったヤークトパンターを行動不能にした五号車の車内では、教祖と呼ばれる車長が一人車長席で騒いでいたが、装填手の少女が教祖に肝心の特甲弾の残弾が1発しかなく、残りは一式徹甲弾しか残っていない事を告げた。この試合の開始前、特甲弾であれば新砲塔48口径47mm砲でも、ティーガーの側面装甲をゼロ距離から撃ちぬけると知波単学園では考えていたため、九七式中戦車は三発ずつ貴重な特甲弾の染色弾を搭載していた。

 

「あれ?特甲弾は3発ずつ持ってきていたから、あと2発…って、景気付けに試合開始時に撃ったの特甲弾だった??まぁ、ヤークトパンターを撃破してから考えればいいか!と…とりあえず、そのまま突撃。チハちゃん万歳~!」

 

流石にちょっと拙いかも…と思ったのも束の間。すぐに気を取り直すと、これまでと同様のテンションで再び突撃を開始した五号車だった。美紗子からの指示は、目の前のヤークトパンターを止める事。既に履帯を撃ち抜き行動不能にしているため、最低限の役目は果たしている。あとはヤークトパンターを撃破すれば、指示以上の事をした事になるため、おそらく後から怒られる事はないだろう!というのが教祖の判断だった。知波単学園の九七式中戦車五号車は、そのままヤークトパンターの射界外から最大速度で後背に接近すると、ゼロ距離からヤークトパンターの背面に砲撃を叩き込んだ。

 

「よっしゃ!ヤークトパンター討ち取ったり!流石は無敵のチハちゃん、強すぎるわ!」

 

「…で教祖、次どうするの?美紗子様の部隊は既に2両…って、今3両目もやられたんだけど。私達の持っている一式徹甲弾ではティーガーIは撃破出来ないから、打つ手ないよ?」

 

一式徹甲弾では、ゼロ距離からティーガーIの背面に当ててても撃破判定が出ない可能性が非常に高い。それが分かっている装填手は、ヤークトパンター撃破に喜ぶ車長に対して、次の行動を聞く。既に特甲弾は全て撃ちつくし、本来であれば自分達の九七式中戦車はこの試合では完全に戦力外だ。しかし、自分達の車長ならこの状態でもなんとかしてしまうのではないか?という期待もあった。

 

「! 無理が通れば道理は引っ込むと言うし、道理が引っ込むくらいの無理をしてやればいい訳だよね。このままティーガーIに体当たりしてやるわ!残念ながらティーガーIに体当たりしたら、最強の私のチハちゃんでも体重差でこっちの一方的な撃破になるけど、それでもティーガーIの動力系と相打ちならお釣りが来る。美紗子様の戦車がやられる前に、ちゃっちゃとぶつけるわよ。操縦手、そのまま突撃!全員衝撃に備えて。チハちゃん、万歳~!」

 

「…もうやけくそ!チハちゃん万歳~!」

 

車長の答えは、あらゆる意味で無茶苦茶だったが、これまでも彼女の無茶苦茶な言動に振り回されてきた五号車の搭乗員にとっては、ある種の説得力があった。とりあえず駄目元でやってみようということで、最終的には車長の考えを全員が受け入れ、操縦手は黒森峰女学園の隊長車であるティーガーIへの衝突進路を取った。

 

 

 

黒森峰女学園 隊長車 ティーガーI 西住なほ

 

 

「よし、あと1両だ。装填手、再装填急げ!こちらが先に装填するか、美紗子の戦車が先に突っ込んでくるか、時間との戦いだ。」

 

なほは、自分の戦車に向かってきた知波単学園の戦車4両のうち3両までを撃破していたが、最後の九七式中戦車は既に距離300m程の位置まで接近していた。向こうはゼロ距離射撃でなければティーガーIを撃破できないため、あと300m分の時間の余裕がある。それまでに自分達の戦車の装填が終わればこちらの勝ち、間に合わなければ厳しい勝負になる、なほはそう考えていた。スコープ越しに見える九七式中戦車は一直線に自分の戦車に向かってくる。残り250m…200m…150m…急いでくれ、焦り始めたなほの耳に装填手から装填が完了したとの言葉が入った。

 

「隊長、装填完了。いつでも撃てます!」

 

「…美紗子、私の勝ちだ。覚悟!」

 

なほのスコープには既に美紗子の戦車が入っており、照準も定まっていた。そしてトリガーをひき主砲を発射しようとした瞬間、物凄い衝撃がティーガーIの右側面を襲い、なほを始め全ての搭乗員が席から飛ばされた。

 

「何事だ!状況確認急げ!」

 

いち早く放心状態から回復したなほは、まだ自車に撃破判定が出ていない事に気付き、搭乗員達に状況の確認を命じた。なほの言葉で搭乗員達も放心状態から回復し状況の把握を始めたが、結果は撃破こそされていなかったが最悪の状態だった。

 

「隊長、右側面に知波単学園のチハ五番車に突入されました。右動力系は完全に停止、復旧の見込み…ありません。」

 

「隊長、知波単学園隊長車、左側面に回りこんできます。このままでは…。それに砲塔の動力系も寸断された模様です。残念ながらここまでです…。」

 

「最後まで諦めるな!左の動力系はまだ生きているし、砲塔は手動でも動く。操縦手、左動力系、後進一杯!少しでも車体を左に向けるんだ!車長、私と一緒に砲塔を手動で左に動かすぞ。…こんな所で私達が負けるわけにはいかない!」

 

なほの指示に従い、操縦手は左側のキャタピラーを後進一杯にし、少しでも車体を左に向けようとした。後部右側には知波単学園の五号車が突入しティーガーIの左旋回を邪魔しており、なおかつ通常の超信地旋回では右側のキャタピラーを前進させるがそれも出来ない。そのため、なほのティーガーIは左に旋回し始めたが非常に遅い速度だった。また砲塔の旋回も始まったが、手動による回転のため通常よりもゆっくりとした回転速度だった。そのため、知波単学園の隊長車に後背に回りこまれた時点で、砲塔はようやく必要な回転の3/4に達しているに過ぎなかった。

 

 

 

知波単学園 隊長車 九七式中戦車 池田美紗子

 

 

「…流石、教祖様。あそこまでの無理は私には出来ないわ。操縦手、教祖様が状況を変えてくれたみたいだから、今のうちにティーガーIの後ろに回りこんで!向こうは動力系に異常が出ているみたいだから、私達の動きには対応出来ない。なっちゃん…悪いけど、勝たせてもらうよ。」

 

美紗子の戦車は、なほの戦車に自校のチハが右側から突入し、完全にティーガーIの動きを止めた事を確認して、ティーガーIの後背に回りこむべく戦闘機動を開始した。突入したチハには撃破判定が出ているため、残っている戦車はお互いに1両。しかし相手は既に手負いの状態。『これなら勝てる!』という慢心が美紗子にも出てきたが、目の前のティーガーIが自分達の動きに合わせて左に砲塔を向け始めた事に美紗子は冷静さを取り戻した。

 

「あんな状態でも、まだ勝負を捨てていないか…危ない、危ない。慢心していたら、こっちがやられるって事だよね…。操縦手、全速力でティーガーIの後背に回り込んで!砲手、停止と同時に射撃。慌てず、急いで、正確に!」

 

美紗子の指示どおり、操縦手は突撃してきた速度を緩めず、そのままなほのティーガーIの左側面から後背に滑り込むような機動を行なう。そして九七式中戦車がティーガーIの後背で停止したのと同時に主砲の火が噴き、ティーガーIの後部の下部装甲に主砲弾が命中した。

 

「黒森峰女学園 隊長車 ティーガーI 命中 判定撃破。よって知波単学園の勝利!」

 

「か…勝った。」

 

知波単学園の勝利を告げるアナウンスが会場に流れたのを確認した美紗子は、ホッとしたような表情を浮かべた。自車の搭乗員達は『やったー』という歓声を上げていたが、美紗子にとっては、池田流としての戦い方を捨ててまで挑んだ勝負だったため、勝利した事に安堵する気持ちの方が強かった。美紗子が車長席で勝利の余韻に浸っていると、自分の戦車のハッチを外から叩く音がしたためハッチを開けると、そこにはなほが居た。なほの姿を見て、美紗子は急いでキューポラから体を出すと、なほが手をさし伸ばしてきた。

 

「美紗子、今回は私の負けだ。序盤の戦いは仕方なかったとしても、最後の美紗子との勝負は、こちらが勝てると思っていたのだが…。まさか、あそこで体当たりまでされるとは思っていなかったよ。油断したつもりはなかったが、まだ私も修行が足りないという事だな。今回は美紗子に勝ちを譲るが、次に戦う時は必ず私が勝つから、覚悟しておけ。…それと、あの子にも伝えておいてくれ、『次にやる時は、思い通りにはさせない』と」

 

美紗子はなほの手を握ると、ニヤッと笑って答えた。

 

「なっちゃん、今回は私が勝たせてもらったけど、やっぱり黒森峰女学園と西住流は強すぎるよ。でも、次に戦う時も負けないよ!またなっちゃんの度肝を抜くような戦い方で、こっちが勝たせてもらうから!あと、佳代ちゃんには伝えておくから。…それじゃ、またね。」

 

美紗子の答えを聞いたなほは、美紗子の手を離すと最後まで戦った自車の搭乗員達の場所に戻り、黒森峰女学園の観戦席の方角に歩き始めた。それを後ろから見ていた美紗子は、自分達も知波単学園の観戦席に戻ろうと、操縦手に指示を出す。

 

「それじゃ、私達も観戦席に戻ろうか。皆、首を長くして待っていると思うし、今頃大騒ぎしているだろうから。操縦手、戦車前進!途中で、教祖様達を回収していくよ。」

 

その指示で、この試合で最後まで生き残った美紗子の戦車は、知波単学園の観戦席を目指して前進を開始した。

 

 

 

メイン観戦席 貴賓席

 

 

「見事…」

 

知波単学園の勝利がアナウンスされた時、メイン観戦席では一般席も貴賓席も物凄い歓声に包まれたが、岸の隣に座っていた天皇陛下は『見事』と一言だけ発言した。あまりにも簡潔な一言に、隣にいた岸は何かこの練習戦で面白くない事でもあったのかと、内心非常に心配して陛下の顔を見たが、それが杞憂であった事は陛下の顔を見ればよく分かった。

 

「陛下、楽しんでいただけたでしょうか?戦車道連盟の会長として身贔屓はございますが、それでも今回の試合、双方ともに死力を尽くした名勝負だったと考えております。」

 

「岸、今日は良い物を見せてもらったよ。感謝する。それに最後の最後であの戦車でドイツの重戦車に勝つとはね。仲間の協力があったとはいえ、よくぞ勝ったものだ。実に見事。…おそらく学園長の細見にとっても冥土へのよい土産になるであろう。」

 

岸は、陛下の何気ない返答に少し引っかかることがあり、再び尋ねた。

 

「陛下、知波単学園の学園長に何かあったのでしょうか?冥土への土産とは、あまり穏やかな話ではございませんが。」

 

「岸はまだ知らなかったのか?だとしたら、私の失言であったな。岸、他言は無用にしてもらいたいが、今回私がこの試合を見に来たことも、それと関係があることなのだ。いずれ細見が直接話すだろうから、それまでは知らない振りをして欲しい。先日、私の元に細見が参内して、知波単学園の学園長職からの退任の意向を私に伝えたのだ。どうやら、かなり重い病のようだな。それで細見のこれまでの功に報いるためには、かの者がこれまで力を入れてきた戦車道なるものを私が直接見る事が良いと思ってね。」

 

陛下のその言葉で、岸はようやく今回の天覧試合開催の経緯を知る事となった。岸としては、細見からもっと早く伝えてもらいたかったという想いもあったが、この練習戦前にこの話が公になった場合の影響を考えると、この試合までは表立てたくないという細見の気持ちも理解する事が出来たため、複雑な気持ちだった。ただいずれにせよ、この事が早晩公になると、知波単学園のみならず細見には多大な恩義がある池田流や西住流にも激震が走ることになるだろう、そう岸は確信した。

 

こうして、戦車道にとって初めてとなる天覧試合は無事に終了した。結果は、知波単学園が勝利する事により、これまで一般ファン達の間で議論の的になっていた『本気の知波単学園と黒森峰女学園はどちらが強いのか?』という話題に一応の決着がついたが、これからこの練習試合が毎年開催される事が合わせて公表されたことから、黒森峰女学園のファン達の『来年こそは、必ず黒森峰女学園が勝つ!』という気炎があちらこちらで上がっていた。。




チハでティーガーIに勝たせようと思うと、こんな感じにしかアイデアが出ませんでした^^;。カタログスペック上では一応、新砲塔チハの48口径47mm砲の貫通力を考えると、W-Cr鋼製の徹甲弾(特甲弾)を使用した場合、ゼロ距離からなんとかティーガーIの側面及び背面装甲を上回るのですが、結構微妙なんですよね^^;。ただ、ティーガーIIやヤークトティーガーでは背面でも抜けなさそうなので、チハとの戦いの前にどうしても消えてもらう必要があり、前回のような形で退場させました。

考えれば考えるほど、黒森峰女学園の戦車って反則級の強さなんですよね(だからこそ元アニメでは、私は黒森峰女学園が一番好きだったわけですが(笑))。これで、マウスなんて出てきた日にはどうしたものやら。正攻法ではプラウダ高校くらいしか勝てないのでは…と思ってしまいました。

今回も読んでいただきありがとうございました。
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