学園艦誕生物語   作:ariel

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実際のところ、大洗女子学園がどのように戦車道を開始したのかは設定がありませんので分かりませんが、こんな感じで生徒の暴走により開始されたというのも楽しいかな…と思い、この話になりました。


第51話 期待

1975年4月中旬 大洗女子学園 学園長室

 

 

「秘書さん、今日は辻さんとの面談の予定は入ってないのですか?」

 

「はい、学園長。今日は特に面談の予約は入っていないですね。なんでしたら、これから呼び出しましょうか?」

 

「! いえいえ、それには及びません。折角静かな時間が送れるのですから、わざわざ呼び出して騒がれても困ります。今日は丁度良い骨休めですよ…ハハハハ。」

 

その日、それまで入学式以来毎日のように面談の予約をしてきた辻が、珍しく秘書課に学園長との面談の予約を入れていなかった。学園長の青山は、今日も17:00になると辻が押しかけてくるのか…と部屋で身構えていたが、17:00に辻の代わりに入ってきた秘書から、今日は面談の予定はないと伝えられると、拍子抜けしたような表情になり、降って沸いた平穏な時間の到来を喜んだ。

 

「学園長?これまで毎日のように押しかけられていましたから、急に来なくなると寂しいのではないですか?なんだかんだ言っても、学園長も辻さんとの話を楽しみにしていましたよね?」

 

「とんでもない!あの子と話しているとこちらのペースが乱されますし、無茶な要求を無理やり押し通そうとしてくる事もありましたから、毎日が胃の痛くなる思いでしたよ。たまには休ませてもらわないと、私の体が持ちません。」

 

「休養は良いですけど、明日になったら今日の分も加算されて色々と言われるのではないですか?まぁ、明日は覚悟した方が良いですよ。」

 

秘書は、『辻が今日は来ない』という情報に学園長が露骨にホッとした表情をしていたため軽口を叩いたが、まさかそれが本当の事になるとは、その日は考えてもいなかった。

 

 

 

翌日 昼間

 

 

「あの…学園長。先程、辻さんのクラスの担任から渡されたのですが、辻さんからの手紙です。それと、辻さんと先日学園長室に一緒に来ていた中村さんは、今日は学園を欠席しているようです。病気ではないですよね?」

 

秘書の話では、今日は辻と中村は午前中の授業を欠席しているようだった。そして、辻が友人を通して担任に渡した封筒には、表に「学園長へ」と書かれていたようで、昼休みにその担任が学園長の秘書に封筒を手渡したようだった。

 

「わざわざ手紙を寄越しているのですから、病気ではないでしょう。それに中村さんも一緒に欠席というのは、少し気になりますね。まぁ、その手紙を読めば事情も分かるでしょうから、今から読みますよ。」

 

そう言って青山は、秘書から封筒を受け取り、内部に納められていた手紙を手にとって目を通した。しかし手紙を読み始めた青山の顔は見る見るうちに強張り、読み終える頃には顔色が真っ青になっていた。手紙には次の事が書かれていた。

 

『学園長へ

 

先日、学園長が話してくれた大洗女子学園での戦車道実現のため、私と中村の二人は愛知県の池田流本部に行き、戦車を融通してもらえるように直談判してきます。一週間程学園を留守にしますが、学園長にこの手紙で欠席の理由を伝えましたので、無断欠席にならないようにお願いします。戦車が貰えるまで粘ってきますので、たぶん戦車と一緒に学園艦に帰ることになると思います。ですから、学園の倉庫を整理して待っていてください。それでは行ってきます。

 

追伸:学園長の夢を叶える為に頑張るわけですから、無断欠席の処理の件についてはくれぐれもよろしくお願いします。

 

辻正子』

 

辻がここまで何も考えずに一気に行動に出るとは、学園長の青山も予想していなかった。辻と中村がこれから行こうとしているのは、戦車道の大流派のひとつである池田流本家だ。おそらく門前払いされ手ぶらで帰ってくる事になるだろうと青山は予想したが、万が一にも屋敷内に通されでもしたら、池田流の人間にどんな無礼を働くか…。そう考えると、青山はなんとかして二人を止めなければと考えた。しかし既に学園を出発してしまっている以上、今から止める事は不可能だった。そして、その焦りが青山に最悪の選択肢を取らせてしまった。

 

「秘書さん!急いで黒森峰女学園の学園長の島田さんに連絡をつけてください。向こうも現在は停泊中ですから、電話が繋がるはずです。急ぎの理由で相談があると言ってくれれば、向こうも断らないでしょう。事は一刻を争いますので急いでください。」

 

青山は池田流に伝がないため、池田流に直接『二人の暴走生徒がそちらに行くので、絶対に屋敷に入れないで、門前払いしてください』と注意喚起することは出来なかった。そして池田流に伝がありそうな人物というと、青山の思い浮かぶ限りでは研修を受けた黒森峰女学園の学園長である島田豊作しか思いつかなかった。そのため、島田を経由して池田流に連絡を取ろうと考えたのだが、青山が辻の名前の力を過小評価していた事に気付くのは、事が大事になった後だった。

 

「学園長、内線1番に黒森峰女学園の島田学園長です。」

 

昨日は青山に軽口を叩いていた秘書も、手紙を見て青山の顔が真っ青になった事を見て、今回は本当に一大事だという事を認識して、直ちに黒森峰女学園への連絡を行った。そして運が良いことに、すぐに学園長の島田と話す事が出来、大洗女子学園学園長の青山が緊急に話し合いたい事があると伝えたところ、島田は快諾した。

 

「もしもし、大洗の青山です。島田さんご無沙汰しております。実は、島田さんの助けが必要な事態になりまして、急で申し訳ないのですが連絡いたしました。どうか、私を助けてください。」

 

連絡を受けた島田は、『まだ入学式があって二週間程しか経過していないのに、もう問題が発生したのか』と思ったが、青山がかなり焦った口調だったため、とりあえず青山の話を聞こうと考え、青山に少し落ち着くように言うと話の先を促した。

 

「実は、お恥ずかしい話なのですが、うちの学園に行動力だけは物凄くある問題児が入学してきまして…これまで生徒達の纏め役となり私を助けてくれていましたので、私もつい気を許してしまい『戦車道をこの学園で行いたかった』という私の夢を話してしまったのです。そうしたら、その子が池田流か西住流の本家に押しかけて戦車を融通してもらおうと考えたようで…。現在、学園艦を飛び出して池田流のある愛知県に移動中なのです。ですから島田さんにお願いして池田流本家に連絡をとってもらい、『すぐに学園艦に戻るように』と伝えてもらうのと、必ず門前払いしてくださいとお願いしようと思いまして…すいませんが、お願い出来ませんか?」

 

黒森峰女学園学園長の島田は青山の話を聞いて、大笑いするのと同時に『今時、凄い行動力のある少女もいたもんだ』と感心した。自分が学園長を勤める黒森峰女学園でも開学当初は、無断で知波単学園に忍び込んだ西住なほや自分の孫娘の島田真由子のような行動力のある生徒達が在籍していたが、昨今は大人しい生徒ばかりで島田としては物足りない思いを持っていた。とはいえ青山が本当に困っている様子なので、池田流本家に連絡を取る程度ならそれほど時間も必要としないため、青山のお願いを引き受けようと考えた。しかし、ここまで行動力のある生徒に興味を持った島田は、その生徒について青山に尋ねた所から、事情が大きく変わることになる。

 

「青山さん、分かりました。私の方から池田流本家には連絡を入れましょう。ところで、こんな事をやらかした少女はかなり行動力のある子ですな。どんな子なのです?」

 

「それが…島田さんの黒森峰女学園の入試に落ちてここに入学してきた子でして…その…実を言いますと、学園艦計画を作った辻政信さんのお孫さんなのです。ですから、今回の件も出来るだけ穏便に済ませたいと思っていまして…」

 

青山の答えを聞いた島田は、驚くのと同時に直ぐに方針変更する事を決断した。辻の名前があれば、おそらく池田流は戦車を渡すだろう、そして間違いなく西住流も右に続く事になる。そうなれば、青山が希望していた大洗女子学園で戦車道を始める事が出来るのではないか?もっとも、青山が当初考えていたような小規模ではなく、二つの流派が手を貸す以上、大々的に行ってもらう事になるだろうが…。方針変更を決断した島田の動きは早かった。

 

「青山さん、この件の処理は私に一任してもらえないでしょうか?いえ、決して青山さんが困るような事にはしませんのでご安心を。いいですね?」

 

島田が有無を言わせない口調で青山に許可を求めてきた事を受けて、青山は少し驚いた。今回の件は、島田には何も関係ないはずだ。それなのに何故、一任してくれと言っているのだろうか。しかし研修中に何度も相談にのってくれた島田は、信頼に足る人物だという事を青山は理解していたため、その島田が悪いようにしないと言っている以上、任せた方が良いだろうと考えた。

 

「分かりました。島田さん…いえ、島田学園長、どうかこの件はよろしくお願いします。」

 

そう言って、青山は若干不安を感じながらも受話器を下ろすことになる。

 

 

 

黒森峰女学園 学園長室

 

 

「家元、早速辻さんのお孫さんがやってくれましたな。何かやるとは思っていましたが、まさか入学して二週間で動くとは予想以上です。それに、まさか青山君の学園艦に入学していたとは思いませんでしたよ。もっとも、あそこは一期生の募集でしたから、それを見て大洗女子学園に行ったのかもしれませんな。」

 

「そうですね、学園長。実に辻さんらしいと言いますか、お祖父さん譲りの行動力ですね。学園長が先程電話で話していた件ですが、私が直接池田流本家に行って話をしてきましょう。美代子さんも年のせいか最近体調を崩しているという話なので、そのうちお見舞いに行こうと思っていた所ですから丁度良い機会です。すいませんが、池田流本家への連絡と学園艦のヘリを貸してもらえますか?」

 

黒森峰女学園の戦車道について相談するため、黒森峰女学園の学園艦に西住流家元の西住かほがその日訪れていた事が、事態を更にややこしい物にしていた。島田は、丁度学園長室に居たかほに、青山から伝えられた辻の行動について話したところ、かほはその事をとても喜んだ。そして自分が直接池田の所に行き、家元の見舞いついでにこの件について直接伝えると言い出した。

 

「ヘリコプターで直接池田さんの本家に移動すれば、ここからでも夕方には到着出来ますし、今日は池田流本家で泊めてもらいますよ。そうすれば、明日辻さんが池田さんの所に来るのを見ることも出来ますからね。辻さんのお孫さんが戦車道をやろうと動いているのですから、結果がどうあれ、この騒動の結末まで見たいと思うのは当然でしょう?それに、おそらくこの事を伝えれば池田さんも元気になるでしょうから、私が直接行く価値は十分にあります。」

 

家元のかほにここまで言われてしまっては、学園長の島田といえども断る事は出来なかった。当初島田は、電話で池田に事情を伝えて『辻に戦車を渡してみてはどうだろうか?』と伝える予定だったが、かほが直接乗り込むと言っている以上、その方が池田流にとっても良いだろうと考えたようだ。そして、学園のヘリを使用する許可書を作成するとかほに手渡しながら言った。

 

「私の方から池田流本家に電話で、家元がそちらにヘリで向かう事を伝えます。それでは、あとの事は家元に任せますよ。辻さんの孫がどんな子だったか、戻ってきたら是非教えてください。それと、可能ならば辻さんのお孫さんを後押しして、大洗女子学園で戦車道が出来るように手助けしてやってもらえますか?私も学園艦で学園長をやっている以上、辻さんには恩義がありますから。」

 

島田の言葉にかほは頷くと、学園長室を後にした。かほとしても、今回の一件では辻を手助けして、戦車道を辻の孫にやらせたいと考えているようだ。そして、おそらく自分の西住流からも何両かの戦車を大洗女子学園に渡す事になるだろうな、と考えていた。

 

 

 

同日夕方 愛知県豊橋市 池田流本家 

 

 

「かほさんがこんなにも急に私のお見舞いに来ると連絡があったので、何事かと思ったらそういう事でしたのね。しかもヘリコプターで直接本家に乗り付けると連絡してきたのですから、私は池田家で誰か危篤にでもなったのかしら、と思いましたよ。」

 

「ごめんなさいね、美代子さん。西住流の家元が池田流本家を訪れるとなると何かしら理由が必要ですから、美代子さんの体調不良を利用させてもらいました。お互いに流派が大きくなってしまったから、昔みたいに気軽に会って話すという事も出来なくなってしまいましたわね。」

 

その日の午後、島田が池田流本家に『池田流の家元が体調不良と聞いて、そのお見舞いに西住流の家元がヘリで行くから、受け入れ準備をしてくれ』と連絡があった。たしかに池田流家元の池田美代子は、ここのところ少し体調を崩していたが、それでも西住流の家元がヘリコプターで直接本家に乗り付けてくるような深刻な状況ではない。一体何事かと思って、美代子はかほを自室で迎えたが、かほから事情を聞いて、何故かほがこんなにも急に池田流本家にやってきたのかを理解した。そして事情を聞いた美代子は、直ぐに本家の正門を閉めさせ、玄関番のお手伝いには『明日、二人の少女が訪れてくるだろうが、絶対に屋敷に入れないように』と伝えた。また『屋敷には入れる必要はないが、必ず誰か人をつけて、遠くから見守るように』とも付け加えていた。

 

「美代子さん?屋敷には入れないの?私はてっきり辻さんのお孫さんだから、戦車を渡すと思っていのだけど。」

 

「かほさん、少なくとも明日一杯は入れるつもりはないですよ。拒絶されて一日くらいで諦めて帰るような子でしたら、辻さんの血は受け継いでいないですし、そもそも戦車道をゼロの状態から始めるなんて不可能ですからね・・・。数年前、辻さんの孫娘がうちの学園の普通科に入学してきたのですが・・・」

 

「なるほど・・・その子は、美代子さんのお眼鏡には叶わなかったようね。でも今時、知波単学園の普通科に入学してきたのですから、優秀な子だったのではないのですか?明日ここに押しかけてくるお孫さんの方は、ちょっとおっちょこちょいな所があって、うちの学園を不合格になりましたが。」

 

かほの言葉に美代子は頷いた。実際のところ、数年前に辻の孫娘が知波単学園に入学する事を知った美代子は、当初非常に喜んでいた。自分にとっての恩人で、結局最後まで辻に恩を返せなかった美代子は、その分、辻の孫娘に目をかけてやろうと考えていたのだが、入学してきた子は機甲科ではなく普通科を選択していた。そして戦車道には見向きもせず、また普通科でも特に目立つような行動を取る事がなかったため、途中で注意を払うこともなくなってしまった。学園長の星野の評価も、『能力は非常にあるが、自分から何かをやろうとする子ではないな』というものだった。そのため、卒業後は東京大学に合格しその優秀さを示したが、美代子や星野にとっては『これが本当に、あの辻の孫娘なのか?』という評価であり、期待外れだったようだ。

 

「まぁ、うちに来た子は優等生だったと思いますが、辻さんのような破天荒さや人を惹きつける力はなかったですね。いえ、仮にも旧第一帝大に入学したのですから、能力はありましたし非難するような事ではないのですが、何かしてくれるだろうという期待が高かった分、がっかりしてしまったのですよ。ですが今度の子は、期待できそうですね。」

 

「そのようね、美代子さん。まさか戦車道を開始するにあたって、いきなり池田さんの所や、私の所から戦車を譲ってもらおうと考えて、実際に行動に移すというのは・・・。破天荒というより無鉄砲と言った方が良いのですが、行動力はありそうですね。ですから島田学園長からこの話を聞いた私も、実際にその子を一目見てみようと思ったので、こうやってお邪魔させてもらったのですよ。明日、その子が一日で諦めずに美代子さんの元までたどり着いて欲しいと、心から思っていますよ。」

 

その日、かほは池田流本家で泊めてもらう事となり、久しぶりに夜遅くまで美代子と昔話に花を咲かせた。そして明日やってくるだろう辻の孫娘がどんな子なのかと、二人とも期待しながらその日は床についた。

 

 

 

翌日 正午頃 池田流本家 正門前

 

 

「やっと着いた・・・やっぱり茨城からだと遠いね。中村、フラフラしているけど大丈夫?」

 

「辻さん・・・私は、もうヘトヘト。あの夜行列車では眠れないよ・・・。これが帰りもあると思うと、もう心が折れそう。それに早いところ用事を済ませて帰らないと、私の出席日数が・・・」

 

辻に無理やり連れられて大洗女子学園を出た中村は、当初東京から豊橋までは新幹線で移動出来ると考えていたようで、初めての新幹線を楽しみにしていた。しかし辻から『新幹線で二人往復出来るようなお金はない!』と言われ、まさかの大垣夜行による夜行電車の旅となった。そして夜行電車とはいえ、寝台車もついていない通常のボックスシートでは眠るに眠れず、朝早く豊橋に到着した時にはボロボロの状態だった。そしてそこからバスを乗り継いでようやく池田流本家に到着した頃には、大洗女子学園を出発してから一日が経過していた。

 

「やっぱり門は閉まっているか・・・とりあえず呼び鈴と・・・」

 

辻は池田流本家の正門が閉まっていたため、門についていた呼び鈴を鳴らした。しばらくすると門の中から男が一人出てきて、辻に要件を尋ねた。

 

「どちら様でしょうか?面会の予約はありますか?」

 

「大洗女子学園の辻です。面会の予約はありませんが、池田流家元にお会いして、戦車を融通してもらおうと思ってここに来ました。すいませんが、池田流の家元に会わせてください。」

 

「申し訳ありませんが、予約や紹介状のない方をお通しする事は出来ません。お引き取りください。」

 

そういうと、その男は扉を閉めた。辻は、あまりにもあっさりした対応に驚いたが、これで引き下がる気は全くないようで、同行していた中村に『ここまでは想定の範囲内。ここからは持久戦よ。相手が根負けして扉を開けるまで粘るわよ。』とのたまった。

 

「辻さん、いつまで粘るの?豊橋駅で、『たぶん持久戦になるから、新聞紙の用意と食料と飲み物を買い貯めしておけ』と言っていたから、食べ物は結構持ってきているけど・・・私は学園の出席日数が怖いから・・・その・・・」

 

「大丈夫!学園長に書置きはしてきているし、学園長の夢を叶えるために来ているのだから、後からちゃんと今回の欠席について配慮してもらうから問題ないよ!私に任せておきなさい。それにいざとなったら、学園長室で大暴れしてやるだけだから。第一、池田流の方も、本家の正門前にこんなに儚げな女の子が二人ずっと立っていたら、そのうち外聞を気にして私達を中に入れるに決まっているわ。そこからが勝負よ!」

 

自分はともかく辻が『儚げ?』と中村は思ったが、言っても碌な結果が待っていない事を知っていたため、何も言わなかった。それにたしかに辻の言うとおり、戦車道の大流派の本家正門前に少女が二人ずっと立っていたら、外聞を気にして何らかのリアクションがあるだろう。電車の中で辻は『屋敷に入れてくれるまでは、3日でも4日でも粘る』と言っていたが、屋敷の中に入れてもらうだけなら、それ程時間はかからないだろうと中村も考えていた。

 

 

 

屋敷内 応接室

 

 

美代子は昨日は自室でかほに対応したが、辻の孫娘が押しかけてくる事を聞いた事で今日は体調も少し良いのか、応接室でかほと談笑をしていた。そうすると、門番として雇っていた男が入ってきて、昨日言われていた二人の少女がやってきた事を告げた。そして、言われたとおり門前払いしたところ、正門の前で粘っているという事を伝えた。

 

「いよいよ来たわね、美代子さん。それで明日までは待つとして、今日はどうするつもりなの?流石に正門前に年若い娘さんがいつまでも立っていたら、外聞もあるでしょう?それに、警察が来たらどうするの?その子達がどのような手続きで学園艦を出てきているのかは知らないけど、その子達の学園の学園長は連れ戻そうとしていたみたいだから、ろくな理由でない事は間違いないわ。警察が来て職務質問したら厄介な事になると思うけど。」

 

「かほさんは結構心配症ですね。大丈夫よ。警察には昨日の内に事情を伝えてあるから、今日一杯は問題ないわ。それに外聞と言うけど、それくらいでヒビが入るような看板はあげていないつもりだから大丈夫です。それよりも、後でこっそりその子達の様子を見に行きませんか?」

 

なんだかんだ言いつつ美代子も楽しんでいるなとかほは感じたが、実際のところ自分も辻の孫娘の姿を一度も見たことがなかったため、早いところ顔を見てみたいと考えていた。そのため美代子の申し出を受け、夜になったら二人でこっそり様子を覗きに行く事に同意した。

 

「あらあら、完全に持久戦の用意までしてきているのね。どうやら私の心配は杞憂だったみたい。あれは間違いなく辻さんのお孫さんよ。たぶん、右側の仕切っている方がお孫さんで、左側は巻き込まれた友達と言ったところかしら。どうでしょうね、かほさん?」

 

「本当ね、美代子さん。門前払いは最初から想定していたようですし、ここまで我が儘に付き合ってくれる友達も居るみたいね。美代子さんが昨夜話していた、もう一人のお孫さんとはだいぶ違うようね。こっちのお孫さんは、おっちょこちょいな所はありましたけど、破天荒さや人を惹きつける力を辻さんから受け継いだのでしょうね。こんな事なら受験番号の件など無視して、うちの学園に無理やり入学させておけば良かったわね・・・惜しい事をしたわ。」

 

夕食後、すっかり周りが暗くなった時間に、二人の家元は正門の外が見える屋敷内の窓から、そっと外の様子を伺った。正門の外では、昼間に来た二人の少女が未だに粘っているようで、ロウソクの灯が見える。そして寒さ予防に新聞紙を体に巻きつけ、おそらく買い込んできたのであろう食料を頬張り、二人で大笑いしながら話している様子からは、悲壮感などは一切感じられなかった。どうやら最初からこの事態を考えて準備をしてきており、またそれに付き合ってくれる友人も居ることを確認した二人の家元は、そっと窓を閉じ応接室に戻っていった。そして、『ここ最近、心が躍るような事はなかったが、久しぶりに明日は楽しい事になりそうだ』とお互いに感じていた。




恩人の子孫がお願いに来たら…たぶんほとんどの人は、そのお願いを聞くことになるような^^;。またこの物語の設定では、国立の学園艦のみで戦車道全国大会を戦っていますから、長らく新規参入のない状態でした。ですから、新しい血を入れて活性化させるという意味でも、二人の家元が新設学園に戦車を渡す理由にはなるのかな…と考えています。しかし、そういう微妙な心境や理由を文章にするのは、本当に難しいな…と、最近特に感じています。

次回は、辻と家元の直談判になりますが、どうなるかはもう決まっている状態で書く事になるため、比較的楽かな…と思っています(慢心ですって?うぅん…そうかな? 気をつけますねw)。ちなみに辻の方は、西住流家元もここに居る事を知りませんし、自分がここに来た目的を二人が知っている事も知りません。ですから、その辺りの心境の違いが出せるように書いてみたいですね…。

今回も読んでいただきありがとうございました。
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