1976年 10月10日 対知波単学園練習戦 知波単学園隊長車 福田遼子
「隊長車、こちら第二小隊、座標061023で大洗女子学園の戦車小隊と遭遇。相手の戦力は私達と同じ帝国陸軍三式中戦車です。数は3ですから、私達が有利ですけどどうしますか?指示をお願いします。」
「こちら隊長、ただちに攻撃して。小隊戦の指揮は小隊長に一任します。深追いは駄目よ。撃滅もしくは大洗女子学園が一気に後退した場合は、東に向かって第三小隊と合流して。それでは幸運を。」
「了解です、隊長。目にものを見せてやりますよ。」
練習戦が開始してしばらくした頃、知波単学園の最右翼を任されていた三式中戦車3両と四式中戦車1両からなる第二小隊が、おそらく大洗女子学園の最左翼の部隊とぶつかった事を報告する無線が、第二小隊の小隊長車から打電された。そして福田が第二小隊に攻撃を指示した時、その他の部隊からも大洗女子学園の戦車隊と交戦に入ったことを伝える連絡が立て続けに入電する。
「福田さん、こちら第三小隊。座標058039にて敵の戦車小隊と遭遇したよ。敵は帝国陸軍一式中戦車3両。こちらが有利だから攻撃に出るからね。」
「第三小隊こちら隊長車、了解。すぐ西で第二小隊も交戦に入っているから、連携が出来そうなら連携も考えて。これ以降の小隊戦は小隊長に任せるから、何か大きな変化があったら連絡してね。」
「了解、福田さん。」
「隊長さん、こちら第四小隊です。進撃中に大洗女子学園の戦車小隊に横合いから割り込まれました。被害はないので、このままその小隊を追撃しつつ攻撃に出ます。現在地は042063です。」
「第四小隊、こちら隊長。了解。相手が判明したら相手戦力の特定をしたいから、こちらに連絡してね。」
「分かりました隊長さん。たぶんドイツの三号戦車だったと思いますけど、一両それより小型の戦車がよく分かりませんでした。特定できたら連絡します。」
「遼子、こちら第五小隊の枝里子だ。座標064085にて大洗女子学園の有力な戦車小隊と遭遇。相手戦力はドイツの四号戦車2両、そのうち1両は長砲身のF2、それとポルシェ式ティーガーも居るようだ。ここで戦闘に入るが、場合によっては応援を要請するかもしれないから、よろしく頼む。」
「枝里子、大丈夫?なんなら私の第一小隊から直ぐに応援を出すけど。」
「一応こっちの方が数は多いし、私の五式も居るから、余程の事がない限り大丈夫だろう。ただ万が一という事もあるから、一応頭の片隅に入れておいてくれ。それじゃ、また後で。」
最後の最左翼に居た第五小隊を率いる副隊長の三杉枝里子からの報告は少し気になったが、五式中戦車1両、そして三式砲戦車2両、一式中戦車1両という、知波単学園ではかなり強力な戦闘車両を副隊長自らが率いている以上、おそらく大丈夫だろう。それにしても・・・
「やっぱり西先輩の薫陶が行き届いているか・・・。今時、小隊単位で独立した戦いが出来る学校なんて、うちくらいしか残っていないと思っていたら、まさか遥か昔の黒森峰女学園との試合のような戦いを私達がする事になるなんて思っていなかったわ。」
「隊長、この間の大洗女子学園の全国大会の試合、見ておいて正解でしたね。何も予備知識がない状態で、こんな小隊戦を仕掛けられていたら、私達でもたぶん混乱していましたよ。」
「そうね・・・まぁ、あの西先輩が指導している学校なんだから、こういう戦いを仕掛けてくるのは当然といえば当然だし・・・。それに元々、こういう小隊単位の戦い方を考えてうちで実行したのは、西先輩達なんだから、大洗女子学園の辻さん達がこうやって挑んでくるのは、なんとなく分かっていたのよね。まぁ、小隊戦はうちの十八番でもあるから、辻さん達に負けるとは思っていないけど、それにしてもやっかいよね…」
現在の戦車道で、小隊規模に分かれて隊長の統制下で小隊戦が実行出来る学校は、知波単学園しか残っていない。これはこのような戦い方をする場合、小隊長の負担は大きく、余程優秀な小隊長が揃っていなければ実現出来ない事もある。また、西が知波単学園の現役時代最後の試合で、このような小隊戦により黒森峰女学園に対して圧倒的とも言える勝利を上げていた事もその一因になっており、知波単学園では伝統的に隊長や副隊長以外にも小隊長のような中級指揮官の指導には定評があった。元々ライバルでもあった黒森峰女学園も開学当初は、知波単学園のように小隊長クラスに優れた人間が揃っていたため、戦車道の初期の頃は、今回の試合のように小隊戦が各場所で繰り広げられるような試合もあったが、最近は戦力の集中運用という方式に切り替えたようで、このような戦いを行っていなかった。そのため福田達も、このような形式の試合を行う事は初めてのケースになっていたが、それでも知波単学園では伝統的にこのような戦い方を行ってきたという自負があり、遅れを取る事はないと考えていた。しかし少し安心していた福田の元に、各小隊から一気に連絡が入ってきた事で、福田はこれまでの戦いとはだいぶ異なるという事を思い知らされる。
「隊長、こちら第二小隊。大洗女子学園の小隊が分散しました。1両は東に向かい、2両は西に向かっています。私達は、確実に戦力を削るために1両を追い詰めますが、私達のすぐ西側に居る第三小隊に警告してください。」
「なんですって!分かりました。急いで追っている1両を撃破して、すぐに第三小隊の方向に向かって!」
「隊長さん、こちら第四小隊です。先程横合いから割り込んできた戦車を見失い・・・あっ、後方より1両発見!。直ぐに撃破します・・・ですが、2両は行方不明です。申し訳ありません。」
「第四小隊、こちら隊長。了解です。出来るだけ急いで攻撃を。それと残りの戦車を早く見つけて。」
第三、第五小隊からの連絡は未だにないため、小隊戦が続いている筈だが、第二、第四小隊の場所では、敵が分散したり見失ったとの報告を受け、隊長の福田はまさか小隊以下の単位まで戦力分散する事が出来るのか?と焦った。しかし自分が現在、小隊戦を指揮している立場から考えると、そんな事はありえないと自分の中で否定する。現在小隊単位の指揮ですら、自分も通信手も手一杯の状態になっている。これよりも細かい戦力の統制など事実上不可能だろう。そして大洗女子学園は未だに戦車道を開始してそれ程経過していないため、おそらく何らかの混乱が出て戦力がバラバラになったのだろうと想像した。隊長の福田ですら、まさか大洗女子学園の隊長車に無線機が何台も搭載されており、通信手が隊長も含めて三人も搭乗しているとは想像していなかったようだ。
大洗女子学園隊長車 辻正子
「HQよりエリア1の三式中戦車、1号車は西に向かって時間稼ぎを。2号車と3号車はエリア2に西側から突入して、これより2号車と3号車の指揮はエリア2の一式中戦車5号車に任せます。エリア3の38t戦車10号車へ、相手の四両に対して攪乱をして。可能ならば南側のエリア7に引きずり込んで。三号J型の7号車、8号車、9号車は、そのまま東側からエリア2に突入して。この三両の指揮は一時的にエリア2の一式中戦車6号車に任せます。」
辻が管理する無線からは、辻から一方的に指揮下の戦車達に命令が伝達されていった。そして連絡が終わると、辻は手元にある地図に置かれているマーカーを移動させていく。その横では、通信手となっている二人の少女達が指揮下の戦車との連絡や、戦車間の連絡の受信を行なっていた。
「三田さん、こちらHQの真田。辻さんからの連絡があったから分かっていると思うけど、エリア7に10号車の38t戦車が相手の戦力の誘導を行うから、それに対応して。相手の想定戦力は三式中戦車2両と一式砲戦車2両よ。」
「真田先輩、了解!こっちは任せておいてください。」
大洗女子学園の編成は、3両ずつある三号突撃砲と一式砲戦車の部隊には、小隊長が配置されて小隊規模での運用が出来るようになっていたが、その他の戦車については、便宜的に同型車が一緒に行動をしているだけで、普段は決まった小隊長が設定されていない。そして作戦に合わせて辻から直接指示を行う戦車が指定される形になっていた。そのため、臨時に様々な形で小隊を編成する事が可能となっており、戦力を比較的自由に再編成する事が出来た。この場合、指揮戦車を指定する辻の隊長車が撃破されてしまえば、全ての指揮統制が失われてしまい抵抗は全く出来なくなるという弱点も存在していため、辻の戦車は最後まで絶対に撃破される訳にはいかず、それもあって毎回、試合開始後直ぐに後退しなくてはならなかった。
「辻さん、1号車撃破されました。しかし戦力を集中したエリア2ではこちらが優勢です。相手の3両を撃破、しかしこちらも三式中戦車の2号車と一式中戦車の4号車を撃破されました。エリア3では38tの10号車が無事にエリア7に後退成功。エリア4は四号戦車が2両とも撃破。残りはP式ティーガーだけのため、エリア8に後退中ですが追撃を受けています。相手は1両撃破したため、残り3両。」
「分かったわ、近藤。流石に近藤ね。あれだけ混乱していた部隊間通信で、これだけの戦況把握が出来るのだから・・・。全体的にはうちが押されているか・・・エリア2の全戦車、8号車を警戒のために残して、残りの戦車は全てエリア1に東側より突撃。ティーガー19号車へ、可能ならエリア8を更に南進してエリア12へ、追撃が振り切れない場合は、エリア8で時間を稼いで。一式砲戦車部隊はエリア11に展開して。」
「辻さん、エリア7で三田さんの三号突撃砲部隊が相手の戦車小隊を2両撃破。残った2両は北に向かって退避中よ。こっちの被害は囮に出た38t戦車のみ。」
「OK、真田。これで少し戦線が落ち着いたわね。あとは東から突っ込んできている知波単学園の戦車隊をエリア7かエリア11の砲戦車で補足出来れば、万々歳だけど・・・。」
知波単学園隊長車 福田遼子
「やってくれるわね・・・まさか、小隊以下の戦力単位で戦車隊を完全に統制して運用してくるとは思っていなかったわ。でもね・・・、相手が何処にいるか、ある程度把握できてしまえば、そう簡単にはやらせないわ。枝里子、今追っているティーガーは無視して、座標078072に居ると思われる砲戦車部隊に突撃。第四小隊からの連絡ではそこには3両の突撃砲が居るはずだから、注意して。第一小隊も途中で第四小隊の残った二両と合流して078072に突入するわ。第二小隊は、第三小隊の残存戦車と合流して相手の戦車隊と交戦して。」
福田はここが勝負所だと踏んだのか、自らが率いる全て九七式中戦車からなる第一小隊に前進を命令した。知波単学園では、開学当初は様々な編成が試されたり、現在大洗女子学園で指導者をしている西が隊長として率いていた時代を別にすると、伝統的に隊長車と隊長が率いる第一小隊は、練習戦でも九七式中戦車のみで編成されている。非力な九七式中戦車では、例え新砲塔を搭載しても相手の戦車に対してかなり近距離まで接近する必要があるため、この第一小隊の搭乗員はどの時代でも知波単学園で最高の練度を誇る搭乗員が選ばれていた。そのため、第一小隊の搭乗員に選ばれるという事だけでも名誉な事であり、まさに知波単学園の最精鋭部隊と言える小隊だった。第一小隊は途中で砲戦車に狙撃されて退避してくる第四小隊の2両を吸収すると、そのまま小型のパンツァーカイル体制で先程第四小隊が狙撃された地点に向かって前進を開始した。
「枝里子、こちら遼子。配置についたから、枝里子の部隊が東からまずは攻撃して。相手は突撃砲みたいだから一発もらったら、こっちにも撃破判定が出るから、十分注意して。相手の居場所を確認したら、一気に正面から突っ込むから、誤射だけは気をつけてね。」
「了解した。第四小隊の仇は取ってやろうぜ。」
福田からの命令に従って、副隊長の三杉が率いる3両の戦車は東側から一気に突入を開始した。そしてそれに合わせて三つの砲撃が確認されたが、突入してくる一式中戦車を撃破したものの、残っている五式中戦車と、三式砲戦車は見事に砲撃を避けたようで、速度を維持した状態で火点に向かって突入を続けた。また、その様子を確認した福田は、キューポラから上半身を出すと、手を振り下ろしながら自分の第一小隊に命令を伝えった。
「今よ、敵の火点に向かって突撃!第一小隊、進め!」
大洗女子学園 三号突撃砲部隊 三田泉美
「しまった・・・。」
大洗女子学園の三号突撃砲部隊を率いている小隊長の三田は、東側より突っ込んできた五式中戦車、三式砲戦車、そして一式中戦車の姿を確認すると、自分の指揮下の三号突撃砲に撃破を指示していた。一応、こちらはまだ発見されていないという自信があったため、極力引きつけて狙撃をする予定だったが、狙撃をするギリギリの段階で発見されてしまったようで、こちらの砲撃タイミングを計ったようなタイミングで回避行動を取られてしまい、結局一式中戦車の撃破には成功したものの、残りの二両の突撃を止める事は出来なかった。また悪い事に、それに合わせる形で北方から6両もの戦車が突入してくる様子を確認した。流石に自分の突撃砲3両の小隊で、8両の相手は無理だ。しかしタイミング的には、もはやる逃げることも難しいだろう。
「辻会長、ごめんなさい。判断を誤りました。敵を一両撃破したものの、残り8両に追われています。タイミング的にはもう逃げられないと思います・・・本当にごめんなさい。」
三田は、隊長車との連絡に割り振られていた周波数で辻の隊長車に侘びを入れた。ここで大洗女子学園の中で大きな打撃力を持っている自分達の部隊が退場してしまえば、戦力のバランスは一気に知波単学園に傾いてしまう事は、三田にもよく分かっていた。
「HQから三号突撃砲18号車、三田ちゃんへ。」
辻からの指示を受けるために周波数を合わせた無線機から辻の声が聞こえる。この大切な段階で致命的なミスをした自分に対して試合中とはいえ叱責があるだろう・・・三田はそう考えて身を固くしたが、流れてきた辻の声は次の指示を示すものだった。
「三田ちゃん、最後まで諦めては駄目よ。1両でもいいから、急いでそこから南進してエリア11に向かいなさい。エリア11に一式砲戦車の部隊が展開しているし、後退してきたP式ティーガー19号車も展開中だから。それと、さっきこっちに連絡があったけど、エリア1で知波単学園の戦車隊に壊滅的な損害を与えたけど、こっちの中戦車部隊も全滅しているの。もう後がないけど、エリア11で最後の勝負をかけるわ。だから、三田ちゃんも簡単に諦めないで!最後までベストを尽くしなさい。」
「了解です、辻会長!」
本来ならば、この周波数で自分達が辻に返答を送る事は御法度だったが、指揮をするための周波数で辻が直接自分に連絡をくれた事が嬉しかったようで、三田はその周波数で辻に返信を送った。どうやら辻は、自分達の現在居るエリア7の南側に設定しているエリア11で最後の勝負を行うようだ。だとしたら、なんとしてでも自分達の戦力の一部でも無事にエリア11に後退させて、辻の最後の勝負に少しでも戦力を送らなくてはならない。そう考えた三田は、指揮下の三号突撃砲に指示を送る。
「たぶん、辻会長からの指令はみんな聞いていたと思うけど、なんとしてでも私達の3両のうち1両でもエリア11に後退させなければいけません。このタイミングからの後退は至難の技だし、相手はこちらの約3倍です。私の突撃砲が援護しますから、16号車と17号車は急いで後退を」
「小隊長、駄目ですよ。その指示には従えません。私達の16号車と17号車で援護しますから、小隊長は急いで後退してください。最後の戦いを仕掛ける以上、一番上手な突撃砲が残っていないとお話になりませんからね。私達には構わず、一気に後退を。今は時間が惜しいですから、余計な事はこれ以上言わないでくださいよ。」
「・・・分かったわ。ごめん、皆援護をよろしく。操縦手、後退するわ。急いでエリア11に向かって転進!」
知波単学園副隊長車 三杉枝里子
「逃がすな!ここで三突を逃すと後々やっかいな事になる。なんとしてでも、ここで3両とも撃破しろ!第五小隊!損害に構うな、突撃!」
目の前で、隠れていた三号突撃砲が急に後退を開始した事を見て、東側から突撃をしてきた第五小隊を率いる副隊長の三杉は声を張上げた。ここまで追い詰めて逃げられる訳にはいかない。北側からは隊長の福田が率いる6両が追撃中だが、未だに有効弾は出ていない。数ヶ月前に見た大洗女子学園の実力ならば、こちらの砲撃をこの距離で避ける事などほとんど出来なかった筈だ。まさかこの短期間でここまで上達しているとは・・・と三杉は考えていたが、だとしたら余計にここを逃がす訳にはいかなかった。そのため、既に自車も含めて二両に減らされていた自分の小隊に対して果敢にも突撃命令を下していた。
「副隊長!隊長の率いる第一、第四小隊が突入を開始しました。」
「よし!北と東から半包囲になったな・・・そのまま締め上げてやれ。」
「副隊長、三式砲戦車に撃破判定・・・大洗の三突と相撃ちです。」
東から突入していた三杉の第五小隊を形成する三式砲戦車は、突撃命令で一気に大洗女子学園の三号突撃砲に向かって突撃すると近距離から砲撃を浴びせた。その結果、正面を向いていたとはいえ75mm砲の威力は三号突撃砲の正面装甲を打ち抜くのに十分だと審判に判断されたようで三号突撃砲に撃破判定を与えていた。しかし、もう1両の三号突撃砲からの射撃によって、突入した三式砲戦車もまた撃破判定が出ていた。
「糞・・・流石に一両では無理は出来ない・・・操縦手、少し速度を緩めろ。」
「了解です、副隊長。あっ、第四小隊が三号突撃砲を撃破したようです。残りはあと一両。たぶん時間の問題でしょう。」
「そうだな・・・とりあえず、一両ではなんともならないから、隊長の所に合流しよう。」
残っている三号突撃砲は1両、それに対して北側から6両の戦車が追撃中だ。おそらく撃破は時間の問題だろう。そう三杉は考えていたが、自分達も急いで福田達に合流しようと進路を変更した頃、隊長の福田達の戦車は追撃を止めて停止してしまった。
「枝里子、こちら遼子。残念だけど追撃は中止よ。急いでこっちに合流して、状況が変わったわ。」
「遼子、どうしたんだ?こっちの無線機には何も入っていないが。」
「枝里子、あなたの戦車のアンテナ、爆風か何かでダメージが出ているんじゃない?ま、それはとにかく、第二小隊と第三小隊の生き残りが、座標068029で大洗の戦車部隊と交戦して、相手を全滅させたけど、こっちも残ったのは第二小隊の四式中戦車と三式中戦車1両の2両のみ。第三小隊は全滅よ。一端戦力を再編成した方がいいわ。戦況分析では、大洗に残っている戦車は、さっき逃げられた三突も含めて6両だけだからこっちの方が有利よ。折角、向こうが引いているんだから、こっちも一端仕切りなおしましょう。」
「分かった、遼子。了解だ。それではこれから合流する。」
大洗女子学園隊長車 辻正子
「うぅぅ・・・こっちは、私等も入れて6両だけか・・・。ティーガーと三田ちゃんの三号突撃砲が残っているのはまだ救いだし、一式砲戦車も打撃力はあるから、最後の勝負は出来るけど、厳しい戦いになりそうだね・・・私等の八九式はこの状態じゃ、ほとんど役に立たないし・・・近藤、知波単学園の残っている戦力は分かる?」
「通信からの判断だから、多少違っているかもしれないけど、大体予想は出来るよ。まず向こうの隊長の福田さんが率いている第一小隊の九七式中戦車4両は、ほとんど戦闘に参加していないから無傷。それと、こっちの中戦車部隊がエリア1で戦った時の残存戦力が四式と三式中戦車1両ずつという最後の報告だったから、この2両は確実に残っているわね。それと、三田さん達がエリア7で戦った相手の残存戦力だから、五式中戦車1両と、一式中戦車1両、三式砲戦車1両の、合計9両ってとこかしら・・・。」
「五割増か・・・しかも、あの第一小隊が無傷というのも厳しいね・・・。」
辻達は、昨年知波単学園を訪れた際に、実際に当時の第一小隊の戦車に搭乗させてもらい、知波単学園のOGとの模擬戦を経験している。たしかに模擬戦ではOGの圧倒的な力によってねじ伏せられたが、それでも自分達が搭乗していた第一小隊の戦車を動かす搭乗員達の腕の凄さは、現在操縦手をしている副隊長の中村を除いて三人とも身をもって体験している。あの第一小隊相手に自分達が勝利出来るのだろうか?
「ねぇ、辻さん、私はあの時教祖様の戦車に乗っていたから、分からないけど、そんなに凄かったの?私の方からは、教祖様がいとも容易く打ち抜いていった感じだったんだけど。あっ、でも最後の隊長車との一騎打ちは、教祖様も本気だったからやっぱり凄いんだよね?」
「中村・・・あんたも、あの時に第一小隊の戦車に乗っていれば分かると思うよ。たしかにあの時は負けたけど、それでも凄い腕だったんだから。まぁ、今嘆いていても仕方ないか・・・やれるだけやるしかないわね・・・。とはいえ、どうしたものか・・・。」
辻は、自分達に残された戦力を考えると、ほとんど選択肢が無い事に気付いた。まともにやりあえば、練度の差から押し切られるだろう。また、相手には五式中戦車や四式中戦車まで残っている。P式ティーガーを全面に押し出して勝負する事も考えたが、近づかれたら撃破されるだろう。だとしたら、全滅覚悟で距離を詰めて乱戦に持ち込み、勝機を掴むしかない。
「HQより残存戦車へ。長距離砲撃戦ではこちらの練度が低いから不利。だから一縷の望みに賭けて、乱戦に持ち込んで勝機を掴みに行くよ。P式ティーガーを真ん中に楔形隊形を組んで相手に対して突撃。突撃が成功したら、各車自分の判断で攻撃続行を。もう後退する場所もないから、撃破されるまで暴れて頂戴。それじゃ、最後の勝負よ。皆頑張って!」
知波単学園隊長車 福田遼子
「来たか・・・。不利を承知で突撃してきた以上、受けてたってやりましょう。枝里子、集成第二小隊の指揮は任せるわ。第一小隊は私が直接指揮をとります。知波単学園全戦車へ、これより相手部隊に対して突撃します。突撃後も小隊長指揮で攻撃続行を。自由戦闘にはしないから、最後まで小隊長の指揮で戦う事。いいですね?枝里子、そっちは頼んだわよ」
「わかった、遼子。こっちは任せてくれ。それにしても辻の奴、結構頑張るな。この状態で突撃してきたら、うちとしては受けて立たざるを得ないからな・・・。」
「そうね枝里子。うちとしては・・・というより、池田流として受けてたたないといけないと言った所だけどね。これがあの西先輩だったら、『フッ、馬鹿め』とか言って、最後まで長距離砲撃で型をつけそうだけど、生憎私はそこまで割り切れないし・・・。」
「あの先輩なら本当にそうしそうだな・・・ハハハ。まぁ、無駄話はそこまでにして型をつけてやるか。遼子、いつでもいいぞ。」
「了解。隊長車から全戦車へ。これより大洗女子学園の突撃隊列に向かって、私の戦車を中心にパンツァーカイル隊形で正面から突撃する。戦車隊、前進!進め!」
キューポラから上半身を出した福田は、左手で指揮刀を握り締めると、大洗女子学園の戦車隊が向かってくる方角に向かって右手を降ろした。そして福田の指揮下、知波単学園の戦車隊は瞬時にパンツァーカイル隊形を取ると、大洗女史学園の突撃隊列に向かって進撃を開始した。。
メイン観戦席
「大洗女子学園の全戦車が撃破されたため、知波単学園の勝利!」
結局最後の辻達の突撃は、知波単学園の戦車2両を撃破したが、最終的に大洗女子学園の全て戦車に撃破判定が出て、大洗女子学園の敗北が決定した。しかし、二ヶ月前に一回戦で全国大会から姿を消した新鋭校が、伝統校にして本気で戦えば最強校の一角として君臨する知波単学園を相手に13両撃破した事は、大洗女子学園の奮戦ぶりを表していた。
「佳代、本当に頑張りましたね。わずか1年半で、ここまでやるとは私も想像していませんでした。あなたの新しい戦車道、たしかに見させてもらいましたよ。」
「ありがとうございます、家元。」
結構良い勝負をするだろうと思っていた池田流家元の美代子も、まさかここまで知波単学園が打ち減らされるとは思っていなかったようで、大洗女子学園の、そしてそれを指導した西の健闘を称えた。
「それにしても、指揮の方法一つであそこまで変わるとは、私も想像していませんでした。うちの福田もそれ程悪い指揮ではなかったと思うのですが、それの上を行かれたと言った感じですね。」
「そうですね、お母様。福田の指揮は悪くなかったと思いますし、たぶん今年は黒森峰女学園との練習戦でも勝てると思います。その福田達をあそこまで打ち減らしたのですから、辻さん達の頑張りもよく分かりますわ。これで、辻さん達がもう少し戦車を上手に扱えるようになれば、大洗女子学園はもっと強くなるでしょうね。」
師範の美奈子も、自分の想像以上に大洗女子学園が強くなっている事に気付き、手放しで賛辞を送った。
試合が終わって両校の搭乗員達が握手をしたり話をしている様子がここからでも見えるが、辻を問い詰めている福田の姿も見える。おそらく辻に、どうやってあれだけの戦車の統制を試合中に行っていたのか、聞き出そうとしているのだろう。そんな様子を微笑ましく美代子や美奈子、そして西は見ていた。
「家元、今回は練習戦で戦ってくれてありがとうございました。今の状態で、ここまで知波単学園を相手に戦えたことは、私もそうですが辻達にも良い自信になると思います。来年の全国大会、楽しみにしていてください。」
「佳代、こちらこそお礼を言わなくてはいけません。福田達にとっても、来月に黒森峰女学園との試合を控えて、今回の試合は良い刺激になったでしょう。佳代、来年の全国大会、私も楽しみにしていますから、これからも頑張ってくださいね。」
来年度の全国大会まで、まだかなりの時間がある。それまでに辻達が更に経験を積み練度が上がれば、大洗女子学園は更に強くなるだろう。そしておそらく、その強さは強豪校相手でも、かなり良い勝負が出来るだけの物になるだろう・・・。
この時点で知波単学園に勝てる程、大洗女子学園は強くありませんし、善戦したと言っても、知波単学園の戦車の約6割を撃破したという状態です。ただ全国大会では、今回の練習戦とは違いフラッグ戦のため、上手くいけば・・・と言ったところでしょうか。そういう意味では、フラッグ戦の方が大番狂わせが起こりやすそうですね。
とりあえず、辻が2年生の時代は、この話で終了させ、次回からは辻達が最終学年になる年に移ります。一応予定では、戦車道の試合を書くのは後2戦分になると思いますので、これまで通り1章を12話分にするとなると、ストーリーで使えるのは5回分くらいか・・・と行った所になります。
今回も読んでいただき、ありがとうございました。