学園艦誕生物語   作:ariel

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第68話 初勝利の味

1977年8月

一回戦第三試合 大洗女子学園対マズルカ学園

大洗女子学園 隊長車 八九式中戦車

 

「流石はアンナさん…あれを突破してきたか…。絶対に前線で潰せると思っていたんだけど、そんなに甘くはないか。」

 

「辻さん、のんきな事言ってないで、早く退避するわよ。向こうは機関銃しか積んでいなくても、こっちの装甲だと機関銃でも撃破判定出る可能性あるんだから。…で、どっちに逃げる?」

 

自分が指示した包囲網を突破し、なおかつ自分達の隊長車に肉薄する位置まで接近してきたマズルカ学園隊長車の7TP DWの姿を見て、大洗女子学園隊長の辻は感心したようにつぶやく。想定では、川向こうに形成した前線部隊の包囲網によって全てのマズルカ学園の戦車を撃破するはずだったが、あの包囲網を突破してくるとは…という驚きが辻の素直な感想だった。しかし操縦手の中村からの撤退の提案については、直に却下する。

 

「中村?撤退の要なし!ここで迎え撃つわ。隠している四号F2型の狙撃を確実に実行するためには、私達はここで動かずに迎撃するのが一番よ。多少のリスクはあるけど、相手の射程などを考えれば、こちらが狙撃する方が早いわ。近藤、四号F2に連絡して。隊長車はここで迎え撃つから、相手は一直線にこちらに向かってくる筈。そっちの射程に入り次第叩くように。」

 

「了解、辻さん。」

 

マズルカ学園のアンナが気づいているかは分からないが、こちらにはまだ長砲身の45口径75mm砲搭載の四号F2型が控えている。装甲が僅か17mmの7TPであれば、相手がこちらを射程に入れる前に、攻撃が可能だ。そう計算した辻は、少しでも相手の機動を読みやすくするために、自分達は動かない事を決断した。いずれにせよ、向こうは機関銃のみの装備のため、最悪の場合は自分達が射撃するとしても、まだ距離に余裕があるだろう。

 

「いよいよ最終局面ね…。初勝利まであと僅かだけど、ここからひっくり返されないように、頑張るよ!」

 

辻の言葉に、隊長車内の残りの三人は頷く。ここまで来たら、是が非でも初勝利を飾りたいという思いは、全員に共通していた。

 

 

 

マズルカ学園 隊長車

 

 

「アンナ隊長!10時の方向、丘の上。大洗女子学園の隊長車を発見!このまま突撃しましょう。」

 

「了解、少しでも時間が惜しいです。このまま相手に向かって直進してください。左砲塔の機関銃は私が担当しますから、右はお願いしますね。射程距離に入り次第、機関銃で掃射します。相手の装甲はこちらと同じ17mm。機関銃でも十分に撃破判定が出ますので私達に勝機はまだありますから、頑張りましょう。」

 

大洗女子学園の前線突破に成功したマズルカ学園の隊長車では、渡河成功と同時に相手の隊長車の居場所の発見にも成功し、車内ではこのまま勝てるかもしれないという雰囲気が漂っていた。このような雰囲気も理由の一つになるが、マズルカ学園隊長のアンナも、二年連続の初戦突破に向けて大きく前進していると思い始めていた。大洗女子学園の前線には8両の戦車が存在しており、隊長車の他にもう一両所在が不明だが、所在不明の戦車は四号戦車であり、おそらく偵察に向かったものの空振りし、前線に復帰する前に自分達が突破に成功したのだろう・・・。自分達と大洗の隊長車の間には何もなく、だとすれば連射が可能な機関銃を二丁搭載している自分達の方が圧倒的に有利なはずだ。

 

「隊長!二年連続の初戦突破は目の前ですね!学園艦に戻ったらパーティーになる事、間違いなしですよ。これでOGの先輩達にも自慢出来ます。」

 

「そうね、これまでの先輩達も二年連続で一回戦勝った人達は居なかったですからね・・・。私達がマズルカ学園の歴史を作りましょう。」

 

マズルカ学園の隊長車は、車内の興奮をそのままに全速力で大洗女子学園の隊長車に突進を続けていく。何故か知らないが、大洗の隊長車は微動だにせず、砲塔のみをこちら側に指向している。おそらく、射程ぎりぎりでこちらに射撃し一発で撃破判定を勝ち取るために、停止射撃を考えているのだろう。しかしそれを避けてしまえばこちらの勝利だ。また相手の有効射程を考えればもう少し距離に余裕がある筈。それまでは、少しでも時間を縮めるために直進して一気に距離を縮めるべきだ・・・。

 

「もう少し・・・もう少しで・・・アッ!」

 

隊長のアンナは、左砲塔の隙間から大洗女子学園の隊長車を目視していたが、その瞬間もの凄い衝撃が自車を襲い、7TP DW型に搭乗していたアンナ達四人は全員配置から投げ出されていた。

 

「マズルカ学園、隊長車。撃破!よって大洗女子学園の勝利。」

 

その衝撃から立ち直りかけた時、無情なアナウンスが会場に響き渡る。アンナは一体何が起こったのか全く分からず、困惑しながらキューポラから顔を出した。相手の隊長車の主砲の威力を考えれば、こんな距離でこちらが撃破される筈はない。またいくら染色弾とはいえ、これほどの衝撃が発生するような火力ではないはずだ。しかしキューポラから顔を出したアンナは、大洗女子学園の隊長車の手前の茂みから現れた戦車を見て、ようやく事情を理解した。

 

「偵察に行っていたのではなくて、隊長車の護衛をしていたのですね・・・やられました。たしかに勝てると思って油断はしていたのかもしれませんが、居る事が分かっていてもあの戦車には私達では勝てなかったでしょうから・・・私達の完敗ですね・・・勝ちたかったですね・・・。」

 

「・・・隊長。残念ですが、仕方ないですよ。二年連続一回戦突破は、そのうち後輩達が成し遂げてくれますよ。今回は残念な結果になりましたが、私は隊長の元で三年間楽しく戦う事が出来ました。誰も隊長に文句を言う人なんて居ないと思いますよ。」

 

「・・・そうですね、ありがとうございます。さぁ、負けてしまった以上クヨクヨしていても仕方ないですね。私達の応援席に戻りましょう。皆待っているでしょうから。」

 

負けてはしまったが、圧倒的有利な相手の包囲網を突破し相手隊長車に肉薄するなど、自分達のベストは尽くした。今回の敗北はあまりにも相手の戦力と自分達の戦力に差があったため・・・そう自分を納得させると、アンナはマズルカ学園の応援席に戻るように指示を出す。そして小声で、試合前に話をしていた大洗女子学園の辻の事を考えながら『初勝利おめでとう』と呟いた。

 

 

 

試合会場 メインスタンド

 

 

「中曽根君の想定どおり、無難に勝った感じだね。流石に、このレベルの学園相手の場合は、危なげなく勝つという事か・・・。辻君のお孫さんも、とりあえず満足しているだろう。」

 

「岸先生・・・今回の戦いを見た感じですと、中堅校相手でも良い勝負が出来そうな強さを大洗女子学園は持っているようですね。次の試合相手は黒森峰女学園になる事はほぼ確実ですから、流石に今回のようには行かないと思いますが・・・。」

 

メインスタンドで観戦していた戦車道連盟会長の岸と副会長の中曽根は、今回の試合が自分達の想定通りに進んだ事に安堵しつつ、自分達が考えていた以上に大洗女子学園が強い事を認識した。次戦はおそらく黒森峰女学園が相手になるため、流石に準決勝への進出は難しいだろうが、副会長の中曽根はそれについて一抹の不安を感じた。

 

「ただ、勝敗は時の運とも言いますので、万が一という事もありえます。現在の大洗女子学園の戦力であれば、その万が一が起こる可能性は捨てきれません。これは、少し組み合わせに失敗したかもしれませんね・・・会長?もし、黒森峰女学園が準決勝に進出する前に敗れるような事になった場合、どうしますか?」

 

「中曽根君、流石にそれは心配のしすぎではないかね?黒森峰女学園は、これまで全国大会の決勝で敗れる事は数回あったが、決勝に出られなかった事はない学園だよ?ポッと出の新設校に負けて準決勝に出る前に消える事はありえないだろう。まぁ、あくまでも仮定の話になるが、もし黒森峰女学園が二回戦で敗れるような事があれば、それは戦車道連盟にとっては大打撃になるだろうね。そんな事はありえないだろうが。」

 

黒森峰女学園は、これまで26回開催されてきた戦車道全国大会において、唯一決勝以外で負けた事がない学園だった。以前はプラウダ高校もそこに名前を連ねていたが、第10回全国大会においてクジの妙で、一回戦で黒森峰女学園とプラウダ高校が激突する事態になり、その大会以降、その名誉は黒森峰女学園だけの物になっている。ちなみに第10回全国大会では、一回戦でプラウダ高校を破った黒森峰女学園がそのまま優勝したが、その時の大会の盛下がりは尋常ではなく、戦車道連盟としては大きなトラウマを抱える出来事となった。

 

そしてその大会以降、暗黙の了解で、黒森峰女学園とプラウダ高校は決勝でなければ当たらないようなトーナメントが組まれるようになったが、それでも一度失ってしまった『必ず決勝までは勝ち上がる学園』という名誉は二度と戻る事はない。そのため、ここで唯一その名誉を持っている黒森峰女学園が負けるような事があれば、戦車道の人気という点から、戦車道連盟として大きな痛手になる事は間違いなかった。

 

もっとも、副会長の中曽根も『万が一』という言葉も使っているように、そのような事態が今回起こることは流石にないだろう。それが、一般的な見方だった。

 

 

 

大洗女子学園 観戦席

 

 

「勝った・・・勝ちましたよ、西先生!まさか・・・開学三年目で、全国大会で勝つ事になるとは考えてもいませんでしたが・・・こんな事があるんですね・・・。本当にありがとうございました。」

 

「いや・・・学園長先生。今回は勝つべくして勝っただけです。戻ってきたら辻さん達を褒めてあげてくださいね。この二年間、必死に練習してきたのですから。それに、本当に大切なのは次の試合です。学園として嬉しいのは分かりますし私も嬉しいですが、あまり浮かれてもらっては困ります。」

 

大洗女子学園の勝利がアナウンスされた瞬間、大洗女子学園側の観戦席は『ワーッ』という歓声に包まれた。学園長の青山も、まさか三年目で勝利出来るとは考えていなかったようで、生徒達に混じり大騒ぎをしていたが、これまで指導してきた西の姿を見つけると、今回の勝利について感謝の念を伝える。しかし戦車道連盟の思惑も知っている西にとっては、今回の勝利は想定内の話であり、それほど驚く事でもなかった。問題は次の試合だ。

 

「西先生、次の試合と言いますと、ほぼ間違いなく島田学園長の黒森峰女学園ですよね?流石にここに勝てるとは思えませんので、今回は初戦突破だけでも満足ですよ。ただ、生徒達や大洗の地元の皆さんもこんなに喜んでくれていますから、そのうちもっと勝ち進みたいものですね。」

 

青山は、学園長の研修で一時期滞在していた黒森峰女学園の強さを知っているため、流石に現在の自分達がここに勝てるとは考えていない。そのため、今回は運が悪かったと思って諦めているが、そのうちもっと勝ち進んで自分の学園の名前を広めたいと考えていた。しかし、そんな青山の言葉を聞いて、西は不思議そうな顔をする。

 

「学園長先生?何を言っているのですか?次の試合も勝ちに行きますよ?勝算もありますから。」

 

「えっ?」

 

まさか黒森峰女学園相手に勝てると言われるとは思っていなかった青山は、一瞬唖然とした表情を見せたが、西は大言壮語をはくような人間ではない事はこれまでの付き合いで分かっている。まさか、本当に勝てると思っているのだろうか?

 

「そ・・・その・・・西先生?相手はあの黒森峰女学園ですよ?勿論、勝つつもりで戦わなくてはいけないというのは理解していますが、本当に勝てるのですか?」

 

「えぇ。そのつもりで、辻さんに指示して、1回戦はこちらの手の内を見せないように戦わせたのですから。あの・・・学園長先生?うちの学園、結構強いですよ?」

 

西の言葉を信じる限り、今回の試合はかなり余裕をもって戦えたという事だ。まさか最初から二回戦の黒森峰女学園戦を想定して戦っていたとは・・・。これは本気で黒森峰女学園を相手に勝ちにいくつもりなのだろう。それが理解でき青山が少し驚いていると、試合会場から辻達が戦車に搭乗した状態で観戦席付近まで戻ってきた。先頭の八九式中戦車のキューポラから辻が顔を出し、こちらに向かって手を振ると、周りの歓声は一層大きくなる。

 

「辻さん、お疲れ様。どう?初勝利の感想は?」

 

「あっ、教授。私達ついに勝ったよ!勿論、初めての勝利だから嬉しいけど・・・。」

 

それまで満面の笑顔で観客に答えていた辻だったが、指導者の西が近づいてきて、改めて勝利の感想を聞かれると、少し言葉を濁した。

 

「あら、どうしたの?一応、初勝利だからもう少し喜んでいると思ったのだけど。」

 

「いや・・・その・・・次の相手を考えるとね・・・。勿論、戦車道で黒森峰を倒して見返すという私の夢が叶うかもしれないから、全力で戦うつもりだけど、今は向こうの強さもよく分かるから・・・ちょっと不安も・・・。」

 

ところが、辻の返答を聞いた西は大笑いを始めた。

 

「っ!教授、何もそこまで笑わなくても…。」

 

「あ~、ごめんなさい辻さん。いえね、辻さんがそこまで成長したかと思うと嬉しくてね。でもね?そんな心配は私がする事だから、辻さんは心配しなくてもいいのよ?あなたは隊長なのだから、皆と一緒に喜んできなさい。まぁ、今の知波単学園の隊長だと、そういう心配もしないといけないようだけれど。」

 

西は辻に対して、作戦や勝ち方は自分が指導出来るから、今は皆と一緒に喜んできなさいと言い、辻を大洗女子学園の搭乗員達が集まり喜び合っている場所に送り込んでやる。

 

「教授?『今の知波単学園の隊長だと、そういう心配も』っていうのは、何ですか?」

 

「そうネ。私も知りたいネ。」

 

「あなた達も、素直に喜んで来ればいいのに…。まぁ、あなた達はたぶん来年度の隊長と副隊長になると思うから、知波単学園と同じような苦労をしそうだけれど…。」

 

辻と一緒に西の傍にいたため、未だに喜びの輪に加わっていない三田とイーレンは、西の言葉に疑問を持つ。少し困った顔をした西は、この二人はおそらく来年度には同じような苦労をすることになるだろうと考え、事情を説明してやった。

 

「今の知波単学園はまともな指導者がいないから、隊長や副隊長が、今回私がやったような作戦立案や方針まで全てを決めないといけないのよ。…まぁ、一応指導者という名目で名古屋スピカの教祖様が居る事になっているんだけど…、あの人がまともな指導なんてする訳ないから、結局その時の隊長や副隊長が全部やらざるをえない…というのが真相なんだけどね。」

 

「あ~…私たちが来年は同じ苦労をする事になるというのは、来年には教授は東北大に戻ってしまうから、うちの指導者が居なくなってしまうから…という事ですね?」

 

西から知波単学園の事情を聞かされた三田は、自分が同じ状況になる…という意味を理解した。

 

「半分は正解だけど、半分は間違いね。一応、戦車道連盟に新しい指導者を派遣するように言ってあるから、指導者は居ると思うわ。ただ、これまでのように全て指導者任せだと大変な事になるでしょうね。どんな方が次に来てくれるかも分からないのだから。」

 

「教授のような人は、そんなにいないネ。だから、自分たちでも作戦が立てられるようにしておいた方いいネ。よく分かるヨ。」

 

戦車道連盟には自分の後任を大洗女子学園に派遣するようには伝えてあり、連盟からは、それに前向きな返答をもらっている。ただし、どんな人間が派遣されるかは完全に運任せ。場合によっては、指導者(乙)の資格のみを持っているような人間が来る可能性もあるため、三田達には自分達で作戦を立案できるようになってもらった方が無難だろう。

 

「教授?という事は、教授の作戦で私達が戦えるのは、今回が最後という事ですよね?次はおそらく黒森峰女学園戦になりますが、教授の作戦楽しみにしていますよ。」

 

三田は少し前に辻から、西が来年度には東北大に戻るという事を聞かせれ、少し驚いていたが、まさか来年度は自分が作戦立案まで行わなくてはならなくなるとは考えていなかった。しかし今日の西の話を聞き、次は自分の作戦で大洗女子学園が戦う事になる可能性が高い事を知り、西の作戦で戦える機会はもうそんなに残っていない事を理解した。

 

「私も楽しみネ。黒森峰女学園相手に、最高の戦いが出来るように、教授にお願いするヨ。」

 

「はいはい…二人とも分かったから、私にあまりプレッシャーをかけないで頂戴。といっても、もう作戦は考えてあるのだけどね。ということで、あなた達も今日くらいは喜んできなさい!」

 

 

 

数日後 大洗女子学園 学園艦

 

 

全国大会では全ての一回戦が終わり、少し時間を空けて二回戦が順次開始する。大洗女子学園の二回戦の相手は、大方の予想通り黒森峰女学園となり、来週には東富士演習場で試合が行われる事が正式に大洗女子学園に伝えられた。辻達は『来るべき物が来たか』という思いで日々練習に打ち込んでいたが、いよいよ黒森峰女学園戦の作戦を西から伝えられる日がやってきた。その日練習終了後に、隊長の辻や、副隊長の三田、そして主な戦車の車長が集められ、西から作戦の概要を説明される。

 

「はい、みんな注目!来週の試合は、うちにとって大一番になるわよ。相手は、あの黒森峰女学園。ここ数年連覇している最強校です。中途半端な作戦は力技でねじ伏せてくるだけの強さがあるから、まともな戦いは成立しないと覚悟しておきなさい。」

 

いきなり西の口から『まともな戦いは成立しない』と言われ、集まった生徒達の間でざわめきが起こったが、その声は直ぐに収まる。自分達をこれまで指導してきた西の事だ、何か対策を用意しているのだろう。

 

「教授?まともな戦いは成立しないって事は、まともじゃないやり方なら通用するという事?」

 

「そういう事ね、辻さん。これから作戦の概要を説明するけど、通用するのは一回だけだから、間違いは許されないわよ。まず近藤さん?今度の試合会場を管轄する事になる東海電波管理局に、黒森峰女学園が使用申請している周波数は確認している?」

 

「はい教授。試合日に使用する周波数は周知のために管理局で公開していますから、簡単に分かりました。当日、黒森峰女学園が申請を出しているのは433.28MHzです。」

 

この日より少し前に、隊長車でメインの通信手を務める近藤は、西から東海電波管理局に黒森峰女学園が試合で申請してきている周波数を確認するように言われていた。当初近藤は、通信傍受をいよいよ行うのか?と考えたが、西の答えはNoだった。傍受をしないのであれば、わざわざ相手が申請している周波数を調べる必要はないのでは?と考えたが、続いて西から耳打ちされた目的を聞いて、近藤は今回の調査に納得した経緯がある。

 

「よろしい。これで大丈夫ですね。いいですか?黒森峰女学園は昔から非常に強い学園でしたし、現在はその技術も更に磨かれ、ちょっとやそっとで勝てるような相手ではありません。しかし、あまりにも統制された行動に慣れてしまっているため、一度崩れるとそう簡単に復帰出来ないですし、うちのような小規模編成で戦える学園ではありません。ですから、いかに相手の統制を崩すかが、私達の最初のポイントになるでしょう。そこで、一度しか使えませんが、通信妨害によって一時的に相手の動きを麻痺させて、そこを一気に叩く方法を取ろうと思います。」

 

西の口から、通信妨害を行うと言われ、近藤など一部の通信手の人間を除き、普段あまり通信に関わっていない人間は不思議そうな顔をする。周りが自分の説明にあまりついてきていない事を確認した西は、近藤に説明をさせた。

 

「いい?私達の強さは、この私が二級アマチュア無線の資格を持っている事。電波法に従って通信を行う以上、電話級しかもっていない黒森峰女学園は最大出力10Wでの交信しか出来ないの。でも私は、二級を持っているから430MHz帯を使用する場合は最大出力50Wまで使えるの。だから、相手が使用している帯域に最大出力で強引に通信をかぶせたら、黒森峰女学園の通信は全て通じなくなるのよ。…教授に聞いたら、一応現在のルールでは問題ないみたいだから…ここぞという場面で通信妨害を仕掛けるわ。」

 

西は以前から黒森峰女学園の弱点を考えていたが、昨年行われた知波単学園との定期戦の際、黒森峰女学園の隊長車が不運な一発により撃破された後、それまで統制を保って戦っていた黒森峰女学園の戦車隊が一気に崩れていく様を録画で見た。一応、副隊長や各小隊長はその時点では残っていたが、最後まで全体としての指揮系統が復活する事はなく、最終的に知波単学園がその年の定期戦を勝利している。それを見た西は、以前から思っていた『現在の黒森峯女学園には怖さが見られない』という理由がなんとなく分かったような気がした。

 

おそらく今の黒森峰女学園は、崩れなければ確固たる指揮統制下で圧倒的な力を見せる事が出来るが、なんらかのトラブルや不慮の事故からの立て直しは上手ではない。もっとも、個々の戦車は非常に強力なため、崩れたとしても力で押し切る事が出来る場合もあるだろうが、それでも黒森峰女学園の一番の強みは消えてしまう事は間違いない。そう理解した西は、当初から考えていた通信妨害により、黒森峰女学園の統制を一時的にでも麻痺させてしまえば、こちらにも勝機はあると考えたようだ。

 

こうして、この試合後あまりにも強力過ぎるという理由で、戦車道連盟によるルール改正で禁止される事になる通信妨害を中心とした黒森峰女学園の攪乱作戦が、大洗女子学園の手で行われようとしていた。また黒森峰女学園でも今回の試合での苦い経験から、ルール上は禁止されたにも関わらず、通信手を対象に二級アマチュア無線技士の資格をとらせるようにカリキュラムが変更される事になる。

 




相手が相手ですから、無難に初勝利という事になりました。というより、ほとんどの戦車が八九式中戦車レベルのマズルカ学園に負ける相手というのは、少数派だと思いますが^^;。次回から黒森峰女学園との戦いになりますが、一応『通信妨害』という手段で大洗女子学園は黒森峰女学園に対抗しようとしている事にしました。実際に、無線機による連絡が全て邪魔されるとなると、黒森峰女学園にとってはかなり厳しい戦いになるのではないかな…と思います。

アニメ版本編では、サンダースが通信傍受をしていましたが、あれはルール上問題ないという事になっていましたが、通信妨害はしていなかったと思います。ですから、そちらについてはルール上禁止された…という解釈で、今回の物語は作っています。

今回も読んでいただきありがとうございました。
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