大洗女子学園 隊長車 八九式中戦車
「中村、真田、近藤?これからの指示だけど、私達の戦車を先頭に、残っている黒森峰女学園の戦車隊に対して突撃して、私達の手で型をつけたいと思っているんだけど・・・いいかな?」
大洗女子学園の戦車隊が全て集結した状態になっても、辻は何も指示をしないため、八九式中戦車の中で少し心配そうに辻の方を見ていた三人だったが、辻がようやく口を開いたためホッとする。ただ普段とは異なり、命令ではなく提案という形だったため少し戸惑うが、すぐに同意という形で返事を返す。
「いいんじゃない?うちの戦車道は、元々辻さんが始めた物だから・・・」
少し言葉を濁しながらだったが、真っ先に去年まで副隊長として辻を支えていた中村が同意を伝える。ここまで自分達が有利な状況になっているため、わざわざ自分達の戦車が撃破されるリスクがある作戦を選ばなくても・・・とも思うが、自分達の学園艦の戦車隊は、辻が自分の夢を実現するために動いた結果、出来た物だ。ならば、その言い出しっぺの辻が「どうしてもそうしたい」と決めた以上、最後まで付き合っても良いだろう。そして、同じように考えたのか、砲手の真田も通信手の近藤も同意する。
「辻さん、任せておいてよ!私が必ず相手戦車に砲弾は当ててあげるから。それに・・・、私達にとっても今回は最後の年の公式戦だから、私達だって戦闘に参加したいし!」
「辻さん、了解!残りの戦車に連絡するね!」
近藤は、辻の指示を集合している生き残り戦車に連絡をする。各車からは一瞬の沈黙の後、次々と「了解」という連絡が入ってきたが、やはりと言うか一年生にしてポルシェ式ティーガーの車長という形で参加しているイーレンから反論があった。
「辻会長、私は反対ネ!折角ここまで追い詰めて勝つだけの状態になったヨ。会長の戦車が前線に出る必要ないヨ。私達だけでやれるネ。それに、隊長が撃破されたら私達が逆転負けネ。折角勝てるのに勿体ないヨ。」
イーレンの反論は、辻からの指示を聞いた戦車の搭乗員達誰もが思う反論だった。戦車道を大洗で開始する事になった立役者の辻の指示であるから、無理やりにでも納得していたが、それでも折角楽に勝てる機会なのに・・・と思うのは誰もが同じで、そのため無線機にはイーレンの反論に対する辻の言葉を聞こうとしているのか、沈黙が支配する。そしてそんな様子を理解した辻は、苦笑しながら無線機のレシーバーを近藤から受け取り、話し始めた。
「隊長の辻よ、みんなよく聞いて。私の我侭だと言うのは分かっているけど、最後の決着は自分の手でやりたいの。それと…、うちの学校の将来の事を考えると、私自身がこの攻撃に参加しないと、ちょっと拙いんだよね~。というわけで、よろしく!」
辻の無線を聞いた生き残りの各車の搭乗員達は、決して納得はしていなかっただろうが、辻の言葉に対して次々「了解」と送ってきた。また、真っ先に反対を唱えたイーレンも神妙な声で「了解」と返信する。全車からの無線連絡を受け取った辻は、久しぶりに配下の戦車を直接指揮するためにキューポラから半身を外に出すと、黒森峰女学園が居ると思われる方角を指差し指示を送る。
「目標、黒森峰女学園戦車隊。隊長車を中心に楔形陣形を組んで前進…進め!」
メイン観戦席
「お馬鹿!何、辻さんまで突っ込んでいるのよ!佳代ちゃん、これ佳代ちゃんが指示していたの!?」
メイン観戦席のメインモニターに、辻が半身を外に出し、自らの戦車を中心にして前進を開始した姿が映し出された瞬間、元知波単学園の池田美紗子は、声を上げる。ここまで追い詰めている以上、リスクを犯さなくても勝てる筈だ。一体何故…そう考え、自分の友人でもある大洗女子学園を指導してきた西の方を向いたが、西は落ち着き払ってモニターを見ているだけだ。この事を予想していたのだろうか?いや、これも何か作戦の一環なのか?美紗子はそう考え、西に声をかける。しかし西から返ってきた返事は、美紗子が想定していたものとは異なっていた。
「まぁ、予想はしていたけど…、やっぱり、こうなったわね。他の戦車もついて来ているという事は、全員納得している…もしくは、辻さんの我侭に付き合うと決めた訳ですね。であれば、私が何か言う必要はないでしょう。美紗子?目先の勝利に拘る私だったらこんな事は絶対にやらないけど、辻さんはもう少し先の事が見えているみたいね。」
「??どういう事?佳代ちゃん。」
西の指示ではない事は分かったが、一体辻は何を考えてこのような事をしたのか?美紗子には未だによく分からなかったため、佳代に続きを促す。そんな美紗子の表情を見て、西は「あくまでも推測だけど」と前置きをした上で、美紗子に辻が考えていそうな事を説明してやる。
「美紗子?さっきまでメインスタンドでは、『黒森峰女学園、負けるな!』の声援一色だったと思うけど、今はどうかしら?」
西の指摘に美紗子は『あっ』と声を出す。先程まで、通信妨害というルール違反スレスレの方法で大洗女子学園は黒森峰女学園を追い詰めていたため、『判官贔屓』や『手段に対する反発』もあってか、本来であれば中立に近い筈のメインスタンドでも、圧倒的な黒森峰女学園への応援が展開されていた。しかし現在、辻が先頭となって黒森峰女学園の戦車隊に向って進む姿を見た観客達は、辻達大洗女子学園にも声援を上げ始めている。
「う~ん、佳代ちゃんの言いたい事は分かるけど、まさか人気取りのためにリスクを負って突撃した…と言われてもね。だってここで安全に勝った方が、新規参入校でありながら、あの黒森峰女学園に勝った高校の隊長という事で、プロになりやすいと思うんだけど。たしか、辻さんの進路志望ってプロリーグだったよね?」
「えぇ、そうよ。でもね?それを考えても、今回の辻さんの決断は、プロになる以上のお釣りが来るわね。そう思いませんか、なほさん?」
美紗子は元々暢気な所があり、池田流家元の孫娘にしてプロリーグ設立当初から強豪チームの中心選手であるため、なかなか理解出来ないだろうと考えた西は、美紗子よりはもう少し現実を理解しているなほに話を振る。
「そうだな…佳代の言うとおり、今回の決断を見て、まともなスカウトなら辻を自分のチームにスカウトするだろう。プロと言っても、最近は高い技術は持っていても、小粒な選手が多く特徴のある選手は少ない。そう考えれば、たとえ結果的に負けるにせよ、最後にリスクを負ってでも先頭にたって強豪の黒森峰女学園に立ち向かった…それに自分の手で戦車道のチームを立ち上げた…こういうストーリーがある選手なら、人気は集中するだろうな。実際、今のメインスタンドの状況がそれを説明している。どちらに転んでも、辻にとっては損のない決断という事か…それに…戦車道連盟にとっても…」
なほは最後の言葉を濁したが、美紗子がそれに喰いつくよりも早く、試合に動きが出たようで、観戦客の声援が大きくなる。大洗女子学園と黒森峰女学園の生き残りが、最後の勝利を賭けて真正面からぶつかるようだ。
大洗女子学園 隊長車 八九式中戦車
「目標正面!全車横陣に展開しつつ突撃!射撃は有効射程に入った戦車から適時射撃を!目標、黒森峰女学園隊長車ティーガーI!中村、真田!操縦手と砲手のあんた達の腕の見せ所だから、頑張るのよ!」
「了解、辻さん!最後まで避けきってみせるから、任せておいて!」
黒森峰女学園の残存戦車3両を真正面に発見した辻達は、それまで組んでいた楔形陣形を横一文字の隊列に変えつつ突撃を開始した。相手もこちらをほぼ同時に発見したようで、こちらに向かって突撃を仕掛けている。お互いに隊長車を狙っている事は確実で、しかもお互いに相手の隊長車を撃破可能な車両が残っている以上、どちらが先に撃破判定を得るかの勝負になる。
「中村!来るよ…今!」
辻は、一年生の時に知波単学園を訪問した際、当時の知波単学園の隊長車に乗せてもらった時を思い出し、当時の知波単学園の隊長が行っていたように相手の射撃タイミングを見計らって、操縦手の中村の右肩を蹴飛ばした。それに呼応して中村が進路を右に切った瞬間、黒森峰女学園の戦車の主砲が火を噴き、自分達の戦車の近くを砲弾が通過していく。
「ふぅ…ギリギリだよ…。やっぱり、知波単学園の福田さんのようには簡単に出来ないね~。中村、ナイス!」
「辻さん、避けたよ、避けた!三両からの砲撃を避けたんだから、もっと喜んでもいいよ!」
「いや…そうなんだけどね?こっちの砲撃も、肝心のイーレンや三田ちゃんの砲撃が避けられているから…一応四号F2と三式中戦車の砲弾は当たったみたいだけど、撃破判定は出ていないんだよね…。次が勝負か…。全車、もっと距離を詰めて!」
大洗女子学園からの砲撃は、二発程黒森峰女学園の隊長車に命中したようだったが、撃破判定が出るまでには至っていない。そのため、辻は僚車に更に距離を詰めるように指示をする。また黒森峰女学園の側も、さらに前進を続けてくるようで、次の攻撃はお互いに当たったらその時点で終了になる事は確実だ。
「中村!次来るよ…今!」
辻は再び相手の砲撃タイミングを読み、今度は中村の左肩を蹴る。そしてそれと同時に八九式中戦車は左に進路変更をしたが、流石に何度も幸運が続くという事はなかった。左に回避行動をとった辻達が搭乗する八九式中戦車に、次の瞬間もの凄い衝撃が襲い、辻達は配置から投げ出される事になった。
「イタタタタ…やられた…。みんなゴメン…負けちゃったみたい。でも、最後までありがとう。」
いち早くダメージから立ち直った辻は、自分の戦車に撃破判定が出ている事を確認すると、同乗者の三人に謝り、そして感謝を伝える。同乗者の三人とは入学以来の三年に渡る付き合いだが、最後まで自分の我侭に付き合ってくれた。残りの隊員には後から謝らなければならないが、自車の搭乗員だけには先に感謝を伝えておきたかったようだ。
「ちょっと待って、辻さん!まだ負けたわけではないよ?まだうちが負けたというアナウンスはないから…。」
次に衝撃から立ち直ったのは、通信手の近藤だった。近藤も自分の戦車が撃破された事を確認し「負けてしまったか…」と思ったが、同時に本来であれば試合会場に黒森峰女学園が勝った事を知らせるアナウンスがあるはずなのだが、それがまだ行われていない事に気づく。近藤の指摘に辻はキューポラから顔を出し、周りを見回すとようやくその理由を知った。
「黒森峰女学園の隊長車にも撃破判定が出てるよ!…どっちが勝ったんだろ…。」
メイン観戦席
「大洗女子学園隊長車、黒森峰女学園隊長車、共に撃破!勝者の判定につきましては、映像で確認するため、しばらくそのままお待ちください。」
メインスタンドには、勝利判定の審議が行われる事を知らせるアナウンスが流れる。最後の瞬間、お互いの戦車隊から放たれた砲弾は、相手の隊長車に命中し、お互いに撃破判定が出ていた。観客が気づいた時には、既にお互いの隊長車は撃破されていたため、「一体どちらが勝ったのだ?」というざわめきが会場を覆っていたが、先ほどのアナウンスが流れた事で沈黙が支配する。
「これは微妙な勝負になりましたね…かほさん…どっちが勝ったか分かりますか?」
「そうね…このタイミングでは、どちらとも言えないですね…美代子さん。まさか映像判定で勝敗を決める事になるとは思っていなかったですが…いずれにせよ、うちが負ける覚悟は出来ています。」
戦車道の家元達でも分からない微妙な判定という事で、どちらが勝っていてもおかしくないのは間違いないようだ。観客席では近くにいる人間同士がヒソヒソ声で話し始めていたが、しばらく経過すると待望のアナウンスが流れる。
「映像による判定の結果をお知らせいたします。まず最初の弾着は知波単学園隊長車による黒森峰女学園隊長車への着弾ですが、これは八九式中戦車からの着弾のため撃破判定は出ません。次の弾着は黒森峰女学園隊長車からの大洗女子学園隊長車への弾着。この後、大洗女子学園の戦車からの黒森峰女学園隊長車への着弾が連発しますが、最初に撃破判定が出たのは大洗女子学園隊長車になります。したがって、黒森峰女学園の勝利!」
「か…勝った…魔女を倒しましたよ、隊長!」
黒森峰女学園の勝利を知らせるアナウンスが会場に鳴り響いた瞬間、観戦席では『ワーッ』という歓声が支配する。そして黒森峰女学園の指導者である野中は、半分安堵の表情を込めて、自分が現役時代に隊長だった西住なほに話しかけた。
「野中…良かったな。私も伝統が続いた事でホッとしている。だが…」
少し歯切れは悪かったが、なほも野中に対してお祝いの言葉を述べる。辻の行動がなければ、間違いなくこちらが負けていたが、経過はどうあれ勝った事は間違いない。
「美鈴、おめでとう。完敗とは言わないけど、私の負けです。現役時代も含めて、ようやく私に勝ちましたね。私も、最後の相手が再び美鈴になるとは思っていなかったですが、私は今回の試合、満足しましたよ。」
「…っ。佳代さん、ありがとう。とはいえ、本当なら負けていた事は間違いないから…あまり諸手を挙げて喜ぶ訳にはいかないですね。それと、やっぱり戦車道から離れるのですか?」
「えぇ。辻さんが卒業するまでと決めていましたから。まだ練習試合で何試合かは面倒を見ることになるでしょうけど、本戦はこれで終わりです。」
なんとなく予想はしていたが、現役時代も含めてこの瞬間まで一度も勝つ事が出来なかったライバルが、また戦車道から離れていく事を美鈴は知る。
「そうですか…。佳代さん、これまでありがとうございました。」
「いえいえ…こちらこそ楽しかったですよ。」
両校の指導者が、お互いに最後の挨拶をしているのを背中で聞きながら、戦車道連盟会長の岸と副会長の中曽根は小声で話していた。
「中曽根君、辻君のお孫さんだが…実際の思惑はどうあれ、最終的には作戦ミスのような形で負けてしまったが、あの娘はプロリーグに行けるかね?」
「会長、先ほど西住流の娘さんが言っていたように、今回の試合をここで見ていたスカウトであれば、前半部分の指揮能力、そして後半には人気も得たという事で、間違いなく彼女を指名する事になるでしょう。それと…本人がどこまで考えていたかは分かりませんが、結果的に戦車道連盟は彼女に大きな借りが出来た事は間違いありません。」
「そうだな…。あの辻君のお孫さんだから、連盟に恩を着せるために負けてやった…と言っても不思議ではないわな。中曽根君、次期会長となる君に、私からお願いがあるのだが…。あの辻君のお孫さん、プロリーグを引退したら戦車道連盟の然るべく役職につけてやってくれないか?おそらくあの娘の視野は、かなり広いと私は踏んでいるのだが…。」
「分かりました、会長。その時は然るべく取り計らいます。たしかに、もし今回の事…こちらの思惑も理解して、あのような行動に出ていた…となれば、政治的センスはかなりあるでしょう。血は争えないという事ですかね…。」
この場で行われた二人の会話により、辻はプロリーグの現役を退いた後、当時の連盟会長である中曽根によって強引に戦車道連盟の事務局にその席を置く事となる。そして、この日岸が予想したとおり、連盟内でその才能を発揮させ、最終的には連盟の事務局長として実務のほとんどを取り仕切る事になる。
「美代子さん…終わりましたね。まぁ結果的には、うちは伝統を守り、辻さんのお孫さんは夢を叶える事は出来なかったですが、結果的に様々な物を手に入れたようですし…これで良かったのでしょうね。」
「そうね、かほさん。これだけあの子の活躍を見る事が出来れば、私も満足です。もう思い残す事もないですね…。ところで、かほさん?あの子はプロリーグのどのチームに行く事になるのでしょうね?出来れば、うちの門下生が多い名古屋スピカに来て欲しい所ですけど。」
「どうでしょうね…。私としては、出来れば福岡シリウスに来て欲しいところだけど、あの子の目標は西住流を倒す事でしたから、うちの門下生が多い福岡シリウスや広島カペラは対象外でしょうね…。あの子なら、うちのなほの引退後の中心選手になると思いますから残念だわ。」
観戦席中央付近では、二人の家元が今回の試合を見てお互いに満足そうな表情を浮かべていた。考えて見れば二年前の四月、辻が池田流本家に押しかけてきた事から始まり、二人の家元は辻達の成長を様々な場所から注意深く見守ってきた。そして今日、天下の黒森峰女学園をあわや…という所まで追い詰めた。そのため西住流家元のかほにとっても、辻達の頑張りに非常に満足したようだ。この年が終わる頃、二人の家元はお互いにその地位を娘に譲り、完全に戦車道の世界から引退する事になるが、その際『もうやるべき事は全てやり終えたので、後は任せます。』とそれぞれの娘達に伝えたと言われている。
1978年 3月 大洗女子学園学園艦
「中村、近藤、真田?本当にあんた達もこれで良かったの?別に私に最後まで付き合わなくても良かったのに。」
「何、水臭い事言っているんですか!戦車道連盟の利益のために、辻さんの夢は高校時代には叶わなかったわけですから、プロに入ってまた西住流と戦うと言っていたでしょう?私達も最後まで付き合いますよ!」
昨年あった戦車道全国大会の試合後、メイン観戦席で戦車道連盟関係者や、家元達が話していたとおり、戦車道プロリーグは辻の公式戦での行動を高く評価し、その年の選手指名では多くのプロチームが辻を指名した。大洗女子学園の戦車道が始まる際、辻が池田流本家に押しかけた事は既に多くの人間に知られているため、当然の事ながら辻達は池田流のお膝元にある名古屋スピカに行く事になると多くの人間が予想していたが、辻が希望したチームは万年Bクラスの仙台リゲルであり、周囲驚かせた。
また最近のプロ入りでは珍しく、高校時代に搭乗していた戦車の同乗者全てが、同じチームにプロ入りしたという事でも注目を集めていた。これは辻の契約の際の条件だったとも言われているが、いずれにせよ辻達四人はこれからもしばらく同じ目標に向って進む事になりそうだ。辻が、所属するチームを選んだ際に中村がした『何故、強豪チームではなく仙台リゲルにしたの?』という問いには、辻は短く『弱小チームの方が面白いじゃない。』と答えただけだったが、辻の入団により仙台リゲルが注目される事は確実で、結果的に辻は戦車道プロリーグの活性化にも一役買うことになる。
「辻さん、卒業おめでとう。来月からは仙台のチームでプロリーグだけど、そのうち私も見に行くわ。それと、これで辻さんの方が私よりもお金持ちになるから、お礼を期待していますね。契約金、もう入ったのでしょ?」
「あっ、教授。これまでありがとう。三年間、教授に教えてもらって本当に楽しかったよ。教授の大学の近くのチームにしたのだから、そのうち本当に見に来てよ。見に来てくれたら、その日の食事くらい奢ってあげるから!」
辻が卒業するこの日、東北大から戦車道連盟に頼まれていた研究を行うという名目で大洗女子学園に来ていた西も、三年間に及ぶ大洗女子学園学園艦での滞在を終わり、東北大学に戻る事になっていた。この三月の前半には西の研究成果を活かしたプロリーグの試合も行われ、それは大成功に終わった事から、引き続き戦車道関係の研究を続ける事は確実だが、これで戦車道そのものからは離れる事になる。辻は、西に指導してもらった三年間を思い返しながら、目の前に居る女性が居たから自分はここまで来られたという事を再認識し、西に感謝の意を伝えた。
「辻会長、これまでありがとうございました。来年は私が頑張って、今度こそ黒森峰女学園を倒して見せます。ですから、時々は学園艦に来てくださいね。」
「会長、後の事は私達に任せていいネ。私も楽しかったヨ。」
来年も学園艦に残る三田やイーレンを始め多くの在校生達も辻に話しかける。この様子なら来年自分が居なくなっても、大洗女子学園の戦車道の光は消えないだろう。そしていつの日か、自分が果たせなかった夢を後輩達が叶えてくれると辻は信じていた。辻の夢は、これから数十年が経過してようやく実現する事になるが、その結果を戦車道連盟の事務局長として見る事になる。
「大洗女子学園か…結構楽しい高校生活だったかな。私は会った事もないけど、こんな楽しい生活を送らせてくれた学園艦を作ったお祖父様には感謝ってとこかな…」
「辻さん、何感慨に耽っているのよ!これから卒業の祝賀会だよ。辻さんが来ないと始まらないんだから、早く行くよ!Panzer Vorだよ、Panzer Vor!」
「分かった、分かった、中村。そう急かさなくても行くよ!」
学園艦の艦橋に一礼した辻は、中村に急かされながら卒業祝賀会の会場となっている校舎に向って走り出す。
こうして普通の公立学園艦でありながら、これまで国立学園艦のみが参加していた戦車道全国大会に果敢に挑んだ大洗女子学園は、その始動時期を無事に終える事になる。学園艦の父と呼ばれた辻政信の孫娘である辻正子という特異的な存在が一期生に居た事、当時の学園長が青山一郎という新しい事を行う事に理解があった人物であった事、そして西佳代というその分野のエキスパートが同時期に存在した事、様々な運が絡んだ結果、一介の公立学園艦だった大洗女子学園は、それまでの公立学園艦とはだいぶ異なる歴史を歩みだす。それは学園艦の歴史の中でも、輝かしい出来事として記録される事になる。
試合結果は、大洗女子学園が負けなければ話にならないため、最後は負けてもらう事になりました。原作の前時代という設定で書いているため、原作を壊すわけには行きませんので、こればかりは^^;。辻が最後に突撃するシーンの理由付け…結構微妙な理由になりますが、著者としては『祖父の作った戦車道連盟が不利益を蒙るような事は出来ない。しかし自分の勝利も追及したいから、運を天に任せて自分も一緒に突撃する』という形にしました。まぁ、一介の高校生がこのような政治的判断を…というのは、疑問も残りますが、それは軍人でありながら政治的な行動を好んだ辻~んの孫娘という事で…(笑)。ちなみに、私も含めて日本人は「悲壮感」とか「判官贔屓」という感性を結構持っていると思いますので、実際の試合でこういう事があれば、おそらく観戦客は応援する事になるのではないかな…と思います。
個人的には、書いてみたかった話は大体書けたかな…と思っており、非常に満足しています。出来れば、ガルパンに登場していた西住みほ・まほ姉妹の母ちゃんの時代も書いてみたかったですが、あれは他の人も書いていそうなので…。他に書いていないようでしたら、そのうち外伝が別小説で書いても面白そうですが^^;
出来れば、このまま連続投稿するエピローグまで続けて読んでいただけると、著者としてはとてもうれしいです。最後までお付き合いいただきありがとうございました。