2012年 10月 東京 某独立行政法人理事長室
「はい・・・。あら、楠審議官ですか?一体どうしたのです・・・私のように文科省を石もて追われた人間に連絡など取らなくてもいいのですよ?」
「辻さん・・ご冗談を。貴女が一昨年、昨年と文科省の事務次官として事業仕分けで戦ってくれたからこそ、文科省の被害が最小限に抑えられた事は、心ある文科省の職員は皆分かっています。どうせ現在の政権など、次の選挙で倒れる事は間違いありません。もう少しだけ、ご辛抱ください。・・・とはいえ、今日はその現政権が、最後っ屁よろしくやっかいな事を進めようとしているので、こうやってご相談に・・・」
辻正子の姉である辻信子は、東大を卒業した後は文部省に入省し必死の努力を積み重ねた結果、2009年の政権交代により当時の次官候補者達が尻込みしたという幸運も重なったが、ついに文部科学省の事務方の頂点である事務次官の地位まで上り詰めた。しかし信子にとって運が悪い事に、元々自民党系の官僚であった信子にとっては、政権交代後の現政権下での事務次官の席はまさに針の上の筵状態だった。また更に運が悪いことに、現政権が始めた事業仕分けにおいて、文科省側の答弁者としてそれに臨んだ信子は、現政権の政治家と徹底的にやり合う事になり、それもまた現政権下での立場を悪いものにしていた。
とはいえ、その信子の事業仕分け会議での奮戦もあってか、文科省は他の省庁に比べれば見直し判定や廃止判定を受けた事業は少なく、そういう意味で信子は文科省を身をもって守った名事務次官として省内やOBからは高く評価された。もちろん現政権としては、それは非常に面白くない事実であり、それもあって昨年度の末、信子は人事異動の折に、続投を望む声が多かったにも関わらず、事務次官を退任させられてしまった。とはいえ、既に現政権が末期状態である事、そしてOBや現役官僚の尽力もあり、退任した信子は一時的に小さな独立行政法人に理事長としての席を与えられ、現在は悠々自適な生活を送っていた。ところが、そのような悠々自適な生活を壊す事になる連絡が、未だ文科省内に残っている信子の元部下から伝えられる。
「辻さん・・・学園艦統廃合計画の話はご存知かと思います。貴方が事業仕分けの際に強行に反対してくれたおかげで、現政権の計画は大幅に縮小する事は出来ましたが、それでも1もしくは2艦の学園艦の廃艦は避けられません。そのため文科省で、どの学園艦を廃艦にするかについて検討が始まったのですが・・・。『大洗女子学園』・・・辻さんはよくご存知かと思いますが、ここの名前がリストのトップに上がっています。たしか、妹さんの母校でしたよね?なんでも、貴方に恥をかかされた現政権のクズの一人が、貴方への腹いせの意味もあって、この学園の名前を上げたようです。それに元々この学園艦の建艦経緯からこの学園を気に入らないと考えていた現政権寄りの主流派が乗っかった・・・といった感じです。」
「・・・そう。例え政権末期とはいえ、決められてしまったらそれを引っくり返すのは難しいでしょうね・・・。まして現在の事務次官はあいつだから、現政権に反対する胆力や気概はないわ。楠?そのリストはまだ公表はされていない筈、どれくらいなら引き伸ばせる?」
「辻さんがGoサインを出せば、現在の主流派に反発している人間が決済ラインに居るので、そこで2週間程であれば決済を引き伸ばせます。しかし、そこで2週間引き伸ばしたとして、現政権の任期はまだ残っています。どうされるおつもりですか?」
辻は楠からの報告を聞き、現在の文科省を牛耳っている面子の顔を思い浮かべると、やはりこうなったか・・・と考えた。辻が退任させられた前回の人事異動で、辻派と思われていた上級官僚は軒並み冷や飯を食わされた。現在電話で連絡をいれてきた楠も、本来であれば辻がもう一期事務次官を務めた後に、事務次官職に就く筈だった文科省のエースだったが、辻派の人間という理由で審議官に横滑りし、事務次官の目はなくなっていた。それにしても、自分が退任してまだ一年も経っていないというのに、もうこのような報復行動が進んでいるのか・・・と辻は、半分呆れるような感想を持った。しかしだからといって今回の暴挙をそのまま進めさせる訳にはいかない。既に現役ではなく、出来る事も限られているが、妹のためにも多少の抵抗をしなくては・・・と考え、久しぶりに頭をフル回転させる。
「楠、大洗女子学園を統廃合計画のリストのトップに持ってきた理由はどうなっているの?流石に私の妹の母校だからと言う訳にはいかないでしょう?何か対外的な理由がある筈、それを教えて。」
「一応理由としては、近年顕著な業績が見られない事、それと茨城県には三つの学園艦が存在するため、統廃合による大きな効果が予想される事・・・となっていますね。まぁ、この理由であれば、他にも幾つか候補がある筈なのですが・・・。」
「でしょうね・・・。楠、私見でいいから答えて頂戴。このままこれが進むとしたら、どのタイミングで今回の案が決定され、大洗女子学園に伝えられる事になるかしら。」
「そうですね・・・。通常のプロセスですと、決定前に内々に大洗女子学園に打診がある筈です。これは一般的には省内の決済が終わった後になりますから、決済で2週間引き伸ばすとしたら、来月の頭になるでしょう。そこで大洗女子学園からの反論を形ばかりでも聞くことになり、その後に大洗女子学園の反論を却下する。反論の種類にもよりますが、少なくとも半年から一年の猶予はあるはずなので、再来年の頭頃に正式な決定となるのではないでしょうか。」
楠の話は、これまで辻が文科省で経験してきたプロセスの進み方を考えれば非常に妥当な物であり、辻の考えとも一致していた。だとしたら、大洗女子学園を生き残らせるためには、決済を引き伸ばす二週間の間で対応策を取り、最初の反論の場でなんとかするしかないだろう。
「私の想定も大体そんな感じね。ところで楠?大洗女子学園の廃艦の理由として顕著な業績がないという事だけど・・・もしこの一年の間に何か特筆すべき物が出れば、どうなるかしら?もしくは大洗女子学園を擁護するような組織が現れたとしたら。」
「そうなりますと、廃艦理由自体が消滅してしまいますから、当然の事ながらこの話は流れるでしょうね。それに、そんな頃には現政権は潰れており、文科省内の現主流派は失脚しているでしょうから、問題なくその作業は進められるでしょう。それと、擁護するような組織が出てくれば、そんな面倒な学園艦を潰そうなどとは考えないでしょうね。何か当てがあるのですか?」
楠の話を聞いて、辻は『一応チャンスはあるか・・・』と考えた。もっとも、辻にはそんな当てはない。
「私にはそんな当てはないわね。とはいえ、そういう事は当事者が考えることでしょう。これから私は妹に連絡して、何か対応策を練りなさいと伝えるわ。楠、申し訳ないけど決済をギリギリまで引き伸ばして頂戴。場合によっては、私の名前でOB達の力を借りてもいいから、よろしくお願いね。」
「分かりました。私の方でも出来る限りの事はします。」
受話器を置いた辻は、急いで自分の妹の携帯電話の番号を押す。妹はこの時間はまだ仕事をしている筈だが、今回は緊急事態だ。少しでも早く連絡した方がいいだろう。
「・・・オハヨー、姉さん。こんな時間に何?」
「おはよーって、あんた一体何言ってるのよ!今は16時よ!一応、あんたには連絡しておこうかと思ったんだけど、止めようかしら。」
「あっ、日本は今16時なんだ。姉さん、私、今は高校生の戦車道国際大会開催委員会に出るためにベルリンに居るのよ。こっちはまだ朝の9時だよ。・・・で、何の用?」
よりにもよって、この大事な時期に海外か・・・信子はそう思ったが、それでも今伝えておいた方がいいだろうと考える。妹の正子は大洗女子学園を卒業した後、戦車道プロリーグに入り既に引退しているが、現在は戦車道連盟の事務局長という要職に就いている。それに高校生の戦車道国際大会については、自分が事務次官をしていた時にそんな話が上がっており、あれがようやく開催出来る所まで漕ぎ着けたのか・・・と感慨を持ったが、今はそれどころではない。
「正子、国際電話だから一度しか言わないから、よく聞いて。まだ表沙汰にはなっていないけど、あんたの母校が無くなる可能性があるわ。」
電話口の向こうでは、自分の妹が息を呑むような音が聞こえたが、それには構わず、信子は先ほど楠から聞かされた事を妹に伝える。そしてそれを伝え終わると、最後にそっちで何か策を考えるように言う。
「いい?私が出来るのは、対策を考える猶予を二週間用意する事が精一杯。正子は、あそこのOG会長やっているんでしょう?あんたがその対策を考えなさい。いいわね?」
そう言うと、信子は妹の返事も聞かずに受話器を切る。今の段階では、これでいいだろう。後は、あの妹が何か対策を考えるはずだ。自分は文科省内に残る自分の派閥の生き残りを使って、妹が考えるであろう大洗女子学園からの反論を無理やりにでも認めさせる方向に進めるだけだ。
同時刻 ベルリン
「・・・さん、・・・辻さん!どうしたのですか?今回の会議、私は連盟会長として一応来ていますが、実際の取り纏めはあなたの仕事ですよ。ボーッとしているようですが、大丈夫ですか?」
「あっ・・・なほ会長、すいません。ちょっと色々ありまして・・・。」
今回のドイツでの会議は、戦車道国際大会に対する各国の利害を調整しなくてはならず、中心国である日本から来ている戦車道連盟事務局長の要職にある辻は、その調整役として非常に大きな役割を求められていた。また現在の日本の戦車道連盟会長である西住なほも会議には来ているが、こちらは名目だけの存在であり、会議の行方は全て辻の双肩にかかっている。そんな大事な役割を果たさなくてはならない筈の辻が、何故か今日はボーッとしているのに対して、会長のなほは少し心配になり、辻に声をかける。これまでプロリーグで現役の時も、辻はどんな事にも首を突っ込みたがる厄介な性格だったが、少なくともこんな辻を見た事はない。今日の辻は、心ここに在らずと言った状態だ。
「辻さん、何があったのですか?ホテルで電話を受けてから、心ここに在らずと言った感じですが・・・一体どうしたのです。」
数年前、戦車道連盟会長の座を中曽根から禅定された西住なほは、西住流家元の座は娘のしほに譲っており、実際の戦車道の活動そのものからは少し遠ざかっているが、それでも現役時代に試合で見せた勘は今でも鋭く、辻に何か心配事が出来たのだろうと見破っていた。
「そ・・・それが、日本に居る姉から連絡がありまして・・・私の出身校が無くなってしまうらしいのです。それで・・・」
辻は、自分の姉から伝えられた事情を会長のなほに全て話す。なほは、最初は驚いた表情で辻の話を聞いていたが、途中から目をつぶり何かを考えるような素振りを見せながら、辻の話を最後まで聞いた。
「前会長時代の戦車道連盟であれば、政治的に極めて大きな力を持っていましたが、私の代になってからはそんな力も無くなってしまいまいた。これは私の不徳のいたす所ですが・・・今回の件は少し困りましたね。辻さんの力になってあげたいのは山々なのですが、戦車道連盟が現在戦車道を行っていない大洗女子学園の支援をするというのは難しいですし・・・。いえ・・・辻さん、一つ確認しますが、大洗女子学園で戦車道を復活させる事は出来ないのですか?それが可能であれば、ある程度の条件付きで連盟が支援するという手は取れると思いますが。」
「そうですね・・・なほ会長・・・復活させる事は不可能ではないと思います。たしか、戦車道が大洗女子学園で廃止するとき、いくつかの戦車は当時の学園長の指示に反抗して学園艦のどこかに隠されました。ですから学園艦内にはまだ戦車は残っている筈です。ですから、復活させる事はおそらく出来ますが・・・でも、復活させただけでは連盟が支援するという訳には行かないのでは?」
辻の疑問になほは少し考え込む。たしかに先代会長だった中曽根であれば、強い会長として連盟を取り仕切っていたため、かなりの無理を会長一任で通せただろう。しかし自分は中曽根程の政治力はなく、自分の友人が家元をしている池田流や、娘が家元をしている西住流の支援はあるものの、先代に比べれば弱い会長であり、自分の我が儘を全面的に通す事は難しい。
「そうですね・・・連盟の評議会で支援を決定するには、最低でも全国大会の一回戦くらいは勝てなくては、全面支援という訳には行かないでしょうね・・・やはり、難しいですか?」
「厳しい条件ですね。おそらく、今の大洗女子学園には戦車道を行った事がある人間は居ないでしょうし、それに何両戦車が残っているかも分かりません。私が現役時代時の西教授のように、優れた指導者や、卓越した指揮が出来る経験者が一人でもいれば、相手によっては一回戦を勝つことも可能なのかもしれませんが・・・。」
辻はなほの確認に言葉を濁す。大洗女子学園は二十年程前に資金難及び人員不足で戦車道の活動を停止しており、それ以来大洗女子学園の戦車道の火は消えている。今更、戦車道の経験者が大洗女子学園に入学している事はないだろう。まして、有り合わせの戦車で全国大会の一回戦を勝つとなると、かなりの指揮能力を持った人間、もしくは優れた指導者がいないと難しい。丁度自分達の時の西のような存在が・・・。
「なるほど、人の問題ですか・・・。佳代さんは、まだ自分の仕事で忙しいようですから、今更頼めないですし・・・。いえ・・・私に一人だけあてがありますので、日本が夜になった時間を見計らって、相談してみましょう。上手くいけば、解決出来るかもしれません。ですから辻さんは、会議の方に集中してください。いいですね?」
「分かりました、なほ会長。ありがとうございます・・・。」
この件で戦車道連盟の力が借りられるとは思っていなかったため、辻はなほの言葉に感謝したが、それを聞いたなほは、心の中だけでつぶやいた。
(辻さん、あなたが現役時代に自分の夢を捨ててまで、西住流や黒森峰女学園…いえ戦車道連盟のためにしてくれた事を、私は忘れていないですよ。あなたは最後まで認めなかったですけどね…。今度は、戦車道連盟…いえ西住流があなたを助ける番です。)
黒森峰女学園学園艦
「隊長の妹だからと言って、何やっても許されるなんて思わないでよ!今回、うちが決勝戦でプラウダに負けたのは、全てあなたの責任よ。初の十連覇を逃した責任、どうとるつもりなの!?」
「あ・・・あの・・・私は、そんなつもりじゃ・・・なく・・・ただ・・・」
「ふざけないでよ!あなたのせいで、私達まで迷惑を被っているのよ?これで私達がプロリーグに入れなかったら、どう責任とるつもりよ!西住流の家元の娘だからって、全部許してもらえるなんて考えていたら大間違いよ!」
今年度の戦車道全国大会の決勝、史上初の十連覇がかかった大事な決勝戦。一年生ながら黒森峰女学園の副隊長を任された西住みほの決断で、黒森峰女学園は優勝を逃していた。隊長であり姉のまほは、それについて特に何も言わなかったが、今大会を最後に引退する予定だった現三年生を中心に、一年生ながらに名門黒森峰女学園副隊長を任されたみほへの反発も合わさり、陽に陰に様々な嫌味や罵声が飛んでいた。
みほの同級生で友人でもある逸見エリカ等は、極力みほをかばっていたが、上級生である三年生を中心とした非難の大合唱を全て抑える事は出来ず、日に日にみほの精神状態は追い詰められていった。
「先輩・・・そこまでにしてください。妹・・・いえ、副隊長には私から話します。みほ、部屋に戻っていろ。」
「お…お姉ちゃん・・・」
今日も戦車道の練習終了後に、みほは三年生達に捕まり、様々な非難を受けていたが、たまたま通りかかった隊長のまほがそれに気付き、みほを部屋に戻らせる。まほも、みほを全面的に助けたい気持ちはやまやまだったが、自分の母親であり家元のしほからの叱責、そして隊長としての立場がそれを邪魔しており、完全に自分の妹を守る事は出来ず、忸怩たる思いを持っていた。そしてその日、この問題を隊長としてどうやって解決しようかと、自室に戻り頭を抱えていると、携帯電話の振動に気づく。
「もしもし、まほです・・・っ、お祖母様!?今、ドイツに居るのではなかったのですか?・・・はい・・・大丈夫です。」
連盟の仕事でドイツに居るはずの祖母からの電話に、まほは驚いたが、受話器の向こう側からは、『周りに人が居るようだったら、後からかけ直すから教えて欲しい』との言葉に、少し緊張する。自分がまだ中学生だった頃、戦車道連盟会長に就任するために西住流家元の地位を自分の母に譲っていたが、自分が小さな時は時間がある時は練習などを見てくれた祖母は、まほにとっては厳しさ一辺倒だった母と比べると話しやすい人であり、様々な相談に乗ってくれた人だった。しかし、そんな祖母も連盟会長になってからは、話す機会はめっきり減ってしまった。その祖母からわざわざ電話があり、更に周りに人が居たら問題があるような話とは、一体何なのだろうか?
「お祖母様、私は自室に居ますので、問題ありません。ところで、何かあったのでしょうか?」
(まほさん、まずはお元気そうね。話というのは、あなたの妹のみほさんの事です。ですが、これから話すお話は、公になると非常に問題があるお話なので、しほさんにも内密にお願いします。いいですね?)
家元の自分の母にすら話してはいけない・・・そう言われてまほは更に緊張したが、自分の妹に関連する話となると、約束するしかない。
「分かりました、お祖母様。これからの話は、誰にも話さない事をお約束いたします。」
(ありがとう、まほさん。ところで・・・みほさんは、あれからどうですか?あの試合の後、物凄く落ち込んでいましたし、しほさんを始め様々な人から非難されたと聞いています・・・。ですが、私はあの判断は間違っていなかったと思います。まぁ、しほさんにとっては弱い戦い方で西住流として問題がある・・・と見えたようですが・・・。)
祖母からの言葉にまほは少し安心した。たしかに現在家元をしている自分の母は、妹の戦い方に『犠牲なくして、大きな勝利を得ることは出来ない』と説教をしていたが、自分はあの行為を非難する気にはなれない。そのため、祖母が妹の行動を支持すると言った事で、ホッとする事が出来たためだった。とはいえ、あれにより妹の立場が黒森峰女学園内で微妙な物になっている事は間違いない。
「それが・・・お祖母様・・・。あの後、黒森峰女学園では十連覇を果たせなかった事に対して、みほへの非難が大きくなり・・・。私も可能な限りフォローはしているのですが、このままでは・・・。私が不甲斐ないばかりに、申し訳ありません。」
(まほさん、あなたまで思い詰めては駄目ですよ。分かりました。みほさんは現在学園内で孤立しているのですね?そういう事でしたら、好都合です。)
好都合?一体何を言っているのだろう?祖母の言葉に少し反発を覚えたまほだったが、とりあえず祖母の話を聞くしかない。
(最終的な判断はあなたに任せますが・・・それだけ孤立しているのであれば・・・みほさんを転校させてみてはどうですか?)
祖母の言葉に、まほは一瞬驚いた。自分達西住流家元の直系の人間にとって、居るべき場所は黒森峰女学園の学園艦しかありえない・・・そうこれまで考えてきたまほだったが、祖母はあっさりと転校させてみてはどうか?と提案してきている。現在生きている西住流関係者の中で、誰よりも西住流を理解している祖母が、そのような提案をしてくるというのは、どういう事なのだろうか?まほの中で疑問が沸く。
「お祖母様?お言葉ですが、西住流の人間が・・・まして家元直系の人間が黒森峰女学園以外の学園艦に移るというのは・・・」
(まほさん、何か問題があるのですか?それに、その黒森峰女学園でそれだけ孤立してしまっているのです。一度場所を変えて仕切り直すという選択肢があってもよろしいのではないですか?)
なるほど・・・一旦外に出て仕切り直すという事か。だとしたら、転校先はやはり戦車道が盛んな知波単学園になるのだろうか?あそこなら、もう一つの大流派池田流のお膝元だ。西住流家元の直系の娘が居るには少し問題があるかもしれないが、それでもあそこに入ってしまえば、少なくとも外部からの雑音は無くなり、みほは再び平穏な日々を取り戻すことが出来るだろう。しかし、知波単学園への編入は可能なのだろうか?
「分かりました。お祖母様。たしかにお祖母様の言うとおり、一度環境を変えてあげる事がみほには必要なのかもしれません。みほの方には私の方から説明しますので、お任せ下さい。ところで転校先は、やはり知波単学園なのでしょうか?」
(いえ・・・美紗子の所ではありません。私が紹介する場所は、大洗女子学園という名前の公立の学園艦です。)
大洗女子学園?たしか昔、公立の学園艦でありながら戦車道全国大会に参入し、一世を風靡した学園艦だ。しかしあの学園では、当の昔に戦車道は活動停止になっており、現在は特色のない普通の公立学園艦の筈だ。一体どうして?
「お祖母様?私の記憶が正しければ、大洗女子学園の戦車道はかなり昔に廃止されていたと思います。みほを戦車道そのものから遠ざけるつもりですか?それに、公立の学園艦にうちから転校するとなると、かなり難しい手続きも必要になりますし、知波単学園への転校を勧める方が良いと思うのですが・・・。」
(まほさん?たしかに大洗女子学園の戦車道は現在活動を停止しています。ですが、みほさんが移る事によって、再び復活するかもしれませんよ?あの子には、全く新しい環境を与えてあげた方が良いと私は思っているのです。それと・・・まほさん?私も人伝に聞いているだけなので、確固たる情報ではありません、黒森峰女学園の学則を一度確認してください。私の友人の話では、大洗女子学園への編入については特例がある筈です。)
何故祖母がそこまで大洗女子学園への転校に拘っているのか・・・まほにはそれは分からなかった。しかし、自分達姉妹にいつも優しく接してくれていた祖母が、自分の妹に対して不利益になる事をするとは考えられない。おそらく何か遠大な計画か勝算があるのだろう。だとしたら、理由は分からないが祖母に従うのが良いだろう・・・そうまほは結論づける。
「お祖母様、私は未だにお祖母様が、みほの大洗女子学園への転校を勧める理由は分かりませんが、お祖母様の言うとおりにします。とりあえず、これから黒森峰女学園の学則を調べてみますが、みほにはどのように伝えれば・・・。あまり露骨に転校を勧めると、私がみほを黒森峰女学園から追い出そうとしているように思われそうで・・・流石に私もそれは・・・。」
(分かっています、まほさん。黒森峰女学園から大洗女子学園への編入の規則ですが、その友人の話では、編入する本人の意思が重要だとの事です。ですから、あくまでもみほさんが自主的に動けるようにしなくてはいけません。ですから・・・)
まほは祖母の話を聞いて、このやり方ならば自分が変な誤解を受けずに勧める事が出来るという事を理解した。あとはいかにそれを偶然を装って行うか?祖母が言うとおり、間違っても他の人間、まして自分の母にこの計画を知られる訳にはいかない。だが、この計画を上手く進める事が出来れば、結果的にみほは守られるだろう。自分が頑張るしかないか・・・。
「お祖母様、今日は本当にありがとうございました。これで、私もみほを救ってやる事が出来るかもしれません。それと今回の電話の件は、お母様やみほにも内緒にします。」
(よろしくお願いしますね、まほさん。それと・・・公式には、今の電話は無かった・・・あなたは黒森峰女学園の自室でこの時間は勉強をしており、私はドイツでレセプションに参加していたという事になります。いいですね?)
「分かりました、お祖母様。必ずこの計画は成功させてみますので、ご安心ください。」
そう言って、まほは電話を切る。あまりの話に一度深呼吸をしたまほは、直ぐに行動に移った。まずは図書館に行き、自分の学園艦の学則を調べて、祖母が言っていた規則が本当にあるのか・・・そして、もし存在している場合、正式にはどのような規則になっているのかを調べる必要がある。
翌日 黒森峰女学園 西住みほの居室
「みほ、ちょっといいか?」
「あっ、お姉ちゃん…。あ、あの…」
祖母からの電話があった翌日、まほは黒森峰女学園の図書館に篭り、自分の学園の学則について調べた。これまでそのような物をわざわざ読んだ事がなかったまほだったが、祖母から言われた規則は確かに載っており、今でもこのルールは有効である事を確認すると、急いでそのルールの載っているページをコピーする。そしてその足で、妹のみほの部屋を訪れる。
「みほ…大丈夫か?あの戦いの後、色々あったと思うが、あまり守ってやれなくてすまない。それで今日は、その事で相談があって来た。」
「あ…あの、お姉ちゃんが謝ることはないよ、私のせいでこうなったんだから…。それと…今日お姉ちゃんがここに来た理由もある程度、分かっているよ。私を副隊長から解任するんでしょう?」
自分の計画の第一段階は、みほを一時的にでも守るために戦車隊の副隊長から外す事だ。これは、大洗女子学園に転校するまでの間、みほを周りから守るのにどうしても必要な事。しかも、副隊長を解任された事で一応責任は取ったという形にもする事が出来る。流石にこの辺りの事は、妹のみほも分かっていたか。
「そうだ、みほ。申し訳ないが、みほを副隊長から解任する。ただ分かって欲しい。これは、結果的にみほを周りから守るための一時的な処置だ。」
「分かってるよ、お姉ちゃん。私を守ってくれてありがとう。…でも、私は…。」
妹が少し口篭ったのを確認して、まほは小さく深呼吸をする。ここからが勝負だ。
「みほ…戦車道を続けるのがつらいのか?」
「…そ…そんな事はないよ!お姉ちゃん。」
少し慌てた様子でみほは答える。昔からそうだったが、相変わらず嘘をつくのは上手くないな。だが、この様子ではお祖母様から勧められた大洗女子学園への転校に前向きに考えてくれるだろう。なんと言っても、あの学園は現在戦車道が停止中なのだから。
「そうか、それならいいのだが。まぁ、もしみほが辛いと考えていて、しばらくの間でもいいから戦車道から離れたいと思っているのなら…これが参考になるかもしれないな。休んでいる所をすまなかったな。私はこれで帰るよ。」
そう言うと、まほは図書館からコピーしてきた黒森峰女学園の学則をみほの机の上に置くと、後を振り返らず部屋を出た。そして部屋を出ると、扉の前に集まっていた三年生に伝える。
「私が妹の部屋に来た事を気にしていたようですが、隊長として伝えるべき事を伝えただけですからご安心ください…先輩方。明日には公になると思いますが、私はみほを副隊長から解任する事にしたので、みほに伝えに来たのです。後任は来年の事もありますから、一年の逸見に頼む予定です。先日の失敗の責任を取らせるために解任した訳ですから、先輩方もこの辺りでみほの事を許してやってください。」
「そ…そうですか。流石はまほさん。西住流家元の娘さんだけありますね。妹だからと言って甘く見ずに、きちんと責任を取らせるというのは中々出来る事ではないでしょう?私達も、みほさんが責任を取ったという事でしたら、これ以上は言うつもりはありません。」
…お前達がここまで騒がなければこんな事にはならなかったはずだ。先輩達は卒業後プロリーグへの入団を希望しているから、将来の西住流家元である私には何も言えないから、妹の方にその矛先が行っているだけ…。まほは心の中で、妹の部屋の前に集まっていた三年生に怒りをぶつけたが、顔には出さずにやり過ごす。どうやらお祖母様から提案された、みほの解任によって時間を稼ぎ、その間に転校の手続きを進めさせるという作戦は成功したようだ。あとは、みほが自分で決断をするしかない。
1週間後 大洗女子学園 生徒会長室
「辻のおばさん、久しぶり!」
「角谷さんは、あいかわらず元気ね。久しぶりに顔を見たけど、以前と全く変わらないようで安心したわ。それと、言うのが遅くなってしまったけど、生徒会長就任おめでとう。でも、これから大変よ?覚悟は出来ている?…それと、そちらのお二人を紹介してもらえると嬉しいのだけど。」
ドイツの会議から戻った辻は、そのまま母校の大洗女子学園の学園艦にやってきた。大洗女子学園のOG会長でもある辻は、毎年入学式や卒業式に学園艦を訪れているが、今回のような急な訪問は最近ではほとんどなく、今年の9月から生徒会長に就任した角谷杏は、少し驚きつつも辻の突然の来訪に応対した。
「あ~、こっちは私の友達で、副会長の小山、それでそっちが広報の河嶋だよ。小山、河嶋、うちのOG会長の辻のおばさんは、知っているよね?うちの学園の初代生徒会長でもあった人で、今でもうちのOG会長として学園に睨みを利かせている怖い人だから、失礼な事はしないよ~に!」
角谷のあんまりな紹介に辻は苦笑いしながら、久しぶりの生徒会長室を見回す。自分が居た頃とは大幅に変わってはいるが、変わっていない部分もあり懐かしい気持ちになりながら、この空間を無くすわけにはいかない…と改めて自分に言い聞かせる。
「それで…そのOG会長さんが、私達現役生に何の用でしょうか?」
広報担当の河嶋が辻に訪ねる。こんな時期にOG会長がやってくるような要件は無いはずだ。目の前の三人が少し不安そうな顔をしているのを辻は見て、どうやって話を切り出すべきかを悩む。とはいえ、今更隠しても意味はない。やがて辻は意を決すると、角谷達に今回の訪問の目的を説明し始めた。
「角谷さん、落ち着いて聞いて頂戴。まだ公にはなっていな事だから、どこからの情報かは聞かないで欲しいのだけど、これから言う事は間違いなく事実です。このまま行くと、この学園はあなた達が卒業した年に廃校になるわ。私が今日ここに来たのは、この事を現役生のあなた達に伝える事。」
「…ちょっと待ってくれ、我が校が廃校!?そんな馬鹿な!」
「お…落ち着いてよ、桃ちゃん…。会長、どうしましょう?」
辻の言葉に真っ先に反応したのは、先程広報の河嶋と紹介された娘で、副会長の小山と紹介された娘は会長の角谷に心配そうに聞く。角谷は、少しの間目を瞑っていたが、やがて目を開くと辻に答える。
「廃校か…それは、ちょっと困るな…。でも辻のおばさんが、こうやってわざわざ私達現役生に伝えに来るという事は、本当にそうなるって事だよね?どうせなら、それの対抗策も教えてくれると嬉しいけど…あるんでしょう?」
目の前に居る初老の女性は、大洗女子学園の一期生にしてOG会では絶対的な権力を持っている人間だ。未だに公になっていないような情報が手に入るような立場に居るという事は、それの対抗策を持っていても驚かない。問題は、どこまで助けてくれるか?という事だ。
「フフフ…。角谷さんを見ていると、まるで自分が現役生だった頃を思い出すわね。あの頃は私もよく学園長先生を相手に噛み付いていたましたしね。対抗策ですが、ないとは言いません。」
「そんな対抗策があるのなら、最初から教えてくれてもいいじゃないか!」
「えぇ、あるにはあるのですが、それを実行するのが非常に難しいと言ったところですね。それこそ、象を針の穴に通すような確率ですが、どうしますか?やる気があるのなら、教えますが」
広報の娘が噛み付いてきたが、そんなに事は簡単ではない。私の力を持ってしても、可能性を示すのが精一杯の確率だ。さて、この現役生達はどう出るだろうか。自分達が卒業した後の事までは知らないと言われてしまえば、それまでだ。
「辻のおばさん。私達現役生を甘く見ないでよね。流石に辻のおばさんが現役の頃にやったような、大立ち回りは出来ないかもしれないけど、それでも自分の学校が廃校になるような事態は避けたいから、頑張るよ?だから、対応策を教えてよ。」
どうやらやる気はあるようだ。まずは第一のハードルは越えたという事か。
「分かりました。それでは端的に対応策を言いますが、おそらく来週か再来週には文科省の役人がこの学園艦にやってきて、大洗女子学園の廃艦について通知してくるでしょう。今の学園長はあまり頼りになりませんから、生徒会長である角谷さんが先頭に立つ必要があります。まずは、この役人と会った時に、廃艦理由を尋ねなさい。おそらく顕著な業績がない…などのような表向きの理由を言ってくるはずです。そこで最初の対抗策ですが、顕著な業績を上げれば問題ないのか?と訊ねて、文科省の言質を取りなさい。」
「辻のおばさん、それはいいけど、どうやって業績をそんな短期間であげるつもり?言ってはなんだけど、うちの学園は平凡な公立の学園艦だよ?文科省が認めるような業績をあげられる要素はないんだけど。」
現在、生徒会長として学園艦の様々な情報を握っている角谷は、文科省が認めてくれるような顕著な業績をあげる事が可能な要素は、今の大洗女子学園にはない事をよく知っている。そのため、いくら『顕著な業績を上げれば廃艦はなしになる』という文科省の言質を取ったところで意味はないのでは?と考えた。
「えぇ、今現在の状況は私もよく知っていますが、このままでは無理でしょうね。そこでです。一つ提案ですが、戦車道を復活させて全国大会に復帰なさい。」
「えっ!?」
辻が角谷達に『戦車道を復活させろ』と言った瞬間、目の前の生徒会の面子は、三人揃って驚きの声を上げた。流石にちょっと驚かせすぎたか、と考えた辻は、まだ衝撃から立ち直っていない三人に対して少し説明を始める。
「まぁ、驚くのも無理はないけど。ちょっと話を聞いて頂戴。まず、文科省の決定に対抗する以上、ある程度の力を持った組織の後ろ立てが必要。そこで出てくるのが、私が今居る戦車道連盟。一昔前に比べると政治的な力は弱くなったとはいっても、それでも未だに政界や財界などに一定の力が行使出来る以上、ここが後ろについてしまえば、文科省と言えども、ちょっとやそっとでは、廃艦に出来なくなるわ。ただ、戦車道を行っていない学園に戦車道連盟が力を貸すわけには行かない。そこで、昔この学園で行っていた戦車道を復活させて、全国大会に復帰してもらいたいの。勿論、ただ出場するだけでは駄目で、それなりに成果は見せてもらわないといけないけどね。」
「辻のおばさん。助けてくれるのはありがたいけど、それは無理だよ。だって、うちに学園に戦車なんてもう残っていないし。」
戦車道の火が大洗女子学園から消えてかなり経過しており、現在の現役生は廃止当時の事情をもう知らない。そのため、学園艦内にまだ戦車が何両か残っているという情報も書類の山に埋もれたか…そう辻は理解した。
「いいえ、廃止当時の事情を私は知っているから言うのだけれど、まだ何両かの戦車は確実に学園艦内に残っているわ。いつか大洗で戦車道の火が再び点く日に備えて、当時の部員達が学園の色々な場所に戦車を隠して、当時の学園長が全ての戦車を売り払う事に抵抗していた筈だから。」
辻の言葉を聞いて、角谷達は顔を見合わせる。流石は一期生にして、これまで長い間OG会長として君臨してきた人だ…、そんな情報まで持っていたか。
「分かったよ。辻のおばさん。とりあえず、復活出来るように頑張って見るけど、具体的にはどれくらいの事をすれば、戦車道連盟は助けてくれる?連盟の中枢に居るおばさんの事だから、もう話はついているんでしょう?」
流石は学園艦の生徒会長、話は早い。とはいえ、これに対してどのように答えるべきか。一応、連盟会長のなほとの話では、一回戦を突破出来るレベルであれば支援をしても大丈夫だろうと言われているが、しばらくブランクがある状態から勝利をあげる事は並大抵の事ではない。だとしたら、かなり高い目標を設定しておいて、それに対応出来る練習をさせた方が安全だ。
「優勝してもらうしかないわね。これなら文科省の方にも、顕著な業績だと言えるでしょう?実際、戦車道の世界大会がもうすぐ開催されるから、文科省は戦車道に注目している。だから、この全国大会で優勝したとなると、顕著な業績として認めるだろうし、連盟も大洗女子学園を手助けする良い理由になるわ。」
「ちょっと待ってくれ。我が校は、しばらく戦車道なんてやっていない。それで優勝なんて出来るわけがないだろう。それにいくら戦車があったとしても、そんなに簡単に優勝なんて出来る訳がない。」
「河嶋さんでしたね?それでもやるしかないのよ。難しい事は分かっています。でもね、可能性が0%だった所に、私が0.1%かもしれないけど希望を持ってきた。0には何をかけても0だけど、0.1%ならあなた達の努力次第で可能性を上げる事が出来る。まぁ、一期生の先輩の意地で、希望の灯は点してみたけれど、後はあなた達の頑張り次第よ。角谷さん?どうかしら?」
「辻のおばさん…サンキュー。可能性が0じゃないだけ、まだマシって所だね。やれるだけやってみるよ。ただ…私等の中に戦車道の経験者が全くいないんだよね?ここまで道を作ってくれた先輩として、もう少し手助けはないかな?」
やれやれ、この子はまるで現役時代の私のようだ…角谷と話していて辻はそう確信する。とはいえ、彼女が言っている事はもっともで、誰も経験者が居ない状態で、このまま突き放す訳にはいかない。それに先日、連盟会長のなほから、誰が来るかは教えてくれなかったが、あの名門黒森峰女学園から大洗女子学園に一人経験者を転校させると言われている。
「そうね…私のちょっとした伝で、戦車道の名門である黒森峰女学園から一人、来年度に大洗女子学園に転校生が来る事になっているわ。その娘を頼りなさい。」
「流石!そこまで準備してくれているなら、後は私達現役生が頑張るしかないよね。小山、河嶋、ぐずぐずしている時間はなさそうだから、急いで書類を集めて残っている戦車について調べて。それと来年度の最初に、戦車道に参加してくれる生徒を募集するから、それの準備も!」
角谷が目の前で次々に指示を出していく様子を見た辻は、後は現役生に任せようと考えたのか、席を立つ。
「角谷さん、後はあなたたちの頑張り次第よ。OGとして期待しています。それと、廃校の件はしばらく誰にも言わないように。幸運を」
「ありがとう、辻のおばさん。頑張ってみるよ!」
2013年 3月 黒森峰女学園 学園艦艦橋付近
三学期の終業式を終えた黒森峰女学園では、つかの間の静けさが訪れていた。そんな中、戦車隊の隊長を務める西住まほは、学園艦の艦橋付近から今まさに学園艦を発艦しようとするヘリコプターを眺めていた。
「隊長、ここに居らっしゃったのですか。」
「エリカか。急に副隊長に就任してもらう事になり、すまなかったな。」
「とんでもありません、隊長。私は、隊長の元で副隊長を務める事が出来て光栄です。しかし・・・妹のみほさんの事を考えると・・・」
みほの副隊長解任を全員に伝えた日から、一応責任を取ったという事で、三年生からのみほへの嫌がらせは止んだ。そしてみほの代わりに、今目の前に居る逸見エリカが副隊長となり、新たな黒森峰女学園の戦車道は動き出したが、未だにあれで良かったのか?と思う時がある。みほは、あれ以来表向きは落ち着きを取り戻したようだが、お祖母様からの連絡では、大洗女子学園の学園長への申請が通り、大洗女子学園に転校する事が決まったようだ。本人からは何も私に言ってこないため、おそらく何も伝えずにこの学園艦を去るつもりなのだろう。
本人が嫌がっている以上、見送りをする事も出来ないが、ヘリコプターの搭乗予定者のリストから、今日みほが目の前で発艦準備をしているヘリコプターで黒森峰女学園の学園艦を後にする情報を掴んでいる。
「エリカ・・・みほも事情は分かっているし、あれ以来だいぶ落ち着きを取り戻している。あれで良かったんだ。・・・エリカ、お前には苦労をかけるが、これからよろしく頼む。」
「了解しました、隊長。逸見エリカ、全身全霊で頑張らせていただきます。」
エリカが答えた時、ヘリコプターが学園艦を発艦した。あのヘリコプターにはみほが乗っている。戦車道連盟会長であるお祖母様が絡んだ話での転校だ。一応、大洗女子学園には戦車道はないと言われているが、現在の戦車道連盟事務局長も大洗女子学園の出身者と聞いている。このまま何もない等という事は、ありえないだろう。
(みほ・・・さらばだ。しばらく戦車道から離れてゆっくり休め。だが、いずれ私の目の前に今度は敵として現れる事になるだろう・・・。その時は、全力で相手をしてやる。)
そして、学園艦の歴史に新たな一ページが加えられる事になる。
都合、投稿を始めて半年以上が経過してしまいましたが、なんとか学園艦誕生物語を無事に終わらせる事が出来てホッとしています。当初は、今回投稿していた物語の第一章の部分のみを想定して物語を書いていましたが、少し欲が出てきて二章・三章と物語を続けることになりました。また、今回最後に投稿しましたエピローグ部分は、単発の短編小説として三章を書いていた頃に書き終えていたのですが、この短編を最後のエピローグにするような物語に出来ないか?と考え始め、この部分を最後のエピローグに持っていくために四章・五章と続けた経緯があります。したがって、エピローグ部分はかなり前に書いていたため、今回の投稿に合わせて修正をしていますが、一部修正しきれなかった部分が残っているような気がしており、矛盾点があるような気もしますが、笑って見逃してもらえたらな・・・と思っております。
正直言いますと、このような長編の二次小説をこれまで書いた事がなかったため、大体のプロットは作ってあったものの、途中で本当にこの物語を最後まで終わらせる事が出来るのだろうか・・・と心配になってきた事もありました。実際に長編を書いてみますと、他の二次小説長編を書いている作者様達が、どれだけ苦労しているのか・・・というのをなんとなく理解する事が出来ました。また、アニメなど映像として楽しめる物を文章のみで表現する事の大変さも、なんとなく理解する事が出来、もし次に二次小説の長編を書く事になった時は、今回よりは多少マシな物が書けるかな・・・と今は、思っています。
最後になりましたが、エピローグまでお付き合いしてもらえた読者の皆様、ありがとうございました。次・・・何を書きましょうかね・・・。