綺羅ツバサの弟《リメイク》   作:しろねぎ

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2話目。


1年生ピアニストと生徒会長

朝、教室に入ると俺に気が付いた“高坂穂乃果”が駆け寄ってくる。俺にスクールアイドルの活動を手伝えと言ってくる張本人である。凄い勢いでこっちに来る。コミュ障には辛いわ。

 

「師匠!スクールアイドルの話は考えてくれた?」

 

満面の笑みで聞いてくる。高坂は手を貸して貰えると信じて疑ってないみたいだな。まぁ手を貸すんだが、ここで『手を貸そう』なんて言ったら調子に乗りそうなので、少し意地悪をしてやる。と言うか師匠呼びやめろ。

 

「まだ考え中だ。それにお前、去年も少し手を貸したよな?“剣道”で。只でさえ強引に協力させたんだぞ。マジで勘弁してくれよ……人とあんまり関わりたくないんだよ」

「うっ、それは……確かに師匠が手伝ってくれたお陰で優勝は出来たけど、結局新入生は増えなかったし……と言うか最高の結果を出したのに増えないのがおかしいんだよぉ……」

「俺の机に顎を乗せるな。パーソナルスペースに侵入してくるな」

 

高坂がバツの悪そうな顔をする。去年に行われた剣道の大会で優勝して、廃校を阻止しようとした高坂。見事に優勝した高坂だったが、それでも新入生が増える事は無かった。最高の結果を以てしても、生徒の減少は変わらない。剣道って結構人気無いからな……多分。

 

「寧ろ優勝したのに生徒が増えなかったんだ。もう諦めろよ。何より優勝するとは思わなかったわ」

「ダメだよッ!私、この学校が大好きだもん!優勝したのは師匠のお陰だし!」

「だからってスクールアイドルってなぁ……あれは数ヶ月でどうにかなる物では無いだろう」

「それでも何とかしたいの!」

「やめろそれ以上顔を近づけるな」

 

正論をぶつけても高坂は食い下がる。顔が近い。俺の精神が磨耗する。それにしても手を貸すとしたら、やることは多い。現状を把握しておこう。行き当たりばったりの可能性が高いし。

 

「お前の熱意は分かったが、どこまで話が進んでいるかだな。衣装、作詞、作曲、メンバーは、お前と南だけか?」

 

高坂に問い掛けると高坂は自慢気に答えた。

 

「衣装はことりちゃん!作詞は海未ちゃんにお願いしたよ!作曲はピアノの上手な1年生の子が居たから、その子にお願いしようかなって!」

「成る程、それなりに進んでるのか。お前に計画性があったとは」

「あの、ツカサ?何故メンバーの話で穂乃果とことりの名前が出てきて私の名前が出ないんですか?」

 

横から高坂の幼馴染みである“園田海未”が話し掛けてくる。

 

「南はともかく、園田は人前で踊るのとか嫌がるタイプだろ?違ったか?俺の仲間だ。人前は嫌いだろ」

 

園田は大和撫子と言った感じであり、人前で踊るのは無理だと思っていたが、どうやら巻き込まれたみたいだな。御愁傷様。

 

「な、何ですか!?何故そんな哀れみの目で見るのですか!?確かに最初は嫌でしたが穂乃果が本気でやろうとしているので!だから後悔はしていません!」

「どうせ南に懇願されたんだろ?しかし作詞なんか出来るとは意外だな」

 

実際スクールアイドルといい、作詞といい、園田のイメージとは随分とかけ離れている。

 

「海未ちゃんは中学生の時にポエムを書いてたんだよ」

「ちょっ、ことり!?その事はあまり言いふらされてはっ!」

 

南にポエムを書いていた事をばらされ、顔を真っ赤にする園田。成る程中学の頃の黒歴史を活用されているのか。地味にえげつないな幼馴染は。

 

「ああっ!またツカサが私に哀れみの目を!」

「で?高坂。作曲は1年生に頼むんだったな?今日頼むのか?」

 

とりあえず、園田はスルーしよう。話が進まない程に不憫なエピソードが出てきそうだからな。

 

「うん!今日の休み時間に頼みに行こうかなって!」

「そうか、なら着いていっても良いか?1年の奴にノート貸してやる約束してるんだよ」

「分かったよ!それで、結局師匠は手伝ってくれるって事で……」

 

高坂が言い終える前に、チャイムが鳴り、先生が入ってきた。

 

「後で答えを聞かせてね!」

 

そう言い残し、高坂は自分の席に戻って行った。さて、ピアノが上手い1年生って言ったら、恐らく西木野だろう。作曲を引き受けてくれるとは思えないが、まぁ、とりあえず様子見をさせて貰おう。

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

 

さて、休み時間になった訳だが、自信満々に1年生の教室で『こんにちは!スクールアイドルの高坂穂乃果です!』って宣言した高坂だったが、教室に居た1年生全員がポカンとしてるぞ。浸透してないな。まぁ、当たり前か。さっきグループ名とか決まってるのか聞いたら、『絶賛募集中だよ!』なんて言い出すからな。この結果は仕方無いだろう。さて、下級生にガン見されるとかただの処刑でしかないから気配を消そう。俺は今から空気だ。

 

「あれ?全然浸透してない!?」

「当たり前です!」

 

高坂が慌てふためき、園田が高坂にツッコミを入れた。漫才しに来たのかお前らは。

 

そんな様子を見ていたら、教室の入り口が開き、目的である“西木野真姫”が入ってくる。

 

「あっ!あなた!」

 

西木野を見るなり西木野の肩をガシッと掴む高坂。あれはビビる。

 

「あなたに用事があったの!ちょっと良い!?」

「う゛ぇえ!?」

 

ほら、強引過ぎて西木野から変な声が出てるぞ。西木野も地味にコミュ障だからな。

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

 

「お断りします!」

 

西木野を屋上に連れてきた高坂は、作曲をして欲しいと言う旨を西木野に伝えるが、一瞬で断られていた。正に瞬殺だったな。

 

しかし高坂も一度断られた程度では諦めない。

 

「もしかして、ピアノは弾けるけど、作曲は出来ないとか?」

「出来るわよ!それくらい!」

 

高坂の言葉に西木野が噛み付く。少しプライドが傷付いたらしい。

 

「え〜!それじゃあ何で!?」

「と、兎に角やりたくないんです!」

「学校を救う為だよ!?」

「お、お断りします!」

 

そのまま立ち去ろうとする西木野を俺は止めた。ノート渡さないといけないし。

 

「ちょっと待て西木野」

「う゛ぇえ!?先輩!?居たんですか!?」

「気付いて無かったんかい……まぁ確かに一言も喋って無かったけどな。目立ちたくないから気配も消してたし」

「どんな原理ですかそれ」

 

それにしても西木野の驚いた時の声が気になって仕方ない。

 

「先輩はスクールアイドルに賛成してるんですか?」

「どっちでもないな。俺が目立たない裏方だけをやれるならやっても良いって認識。あと、コレが約束のノートだ。高1の時の奴を纏めて持ってきた。頑張れよ」

「そうですか……ノートありがとうございます……失礼します」

 

西木野はノートを持って屋上から出ていった。西木野の態度が不満だったのか、高坂が文句を垂れていた。

 

「お断りします!だって…海未ちゃんみたい!」

「あれが普通の反応です!」

 

さっきと同じ様に漫才を始めた二人。それと同時に、屋上に一人の生徒が現れた。

 

「あなた達……ちょっと良いかしら?」

 

生徒会長の“絢瀬絵里”先輩だった。嫌な予感がする。逃げる準備を……

 

「ツカサ、貴方もよ」

 

ギロリと睨まれる。どうやら逃げられないらしい。いや、怖いです。気配消したのに何で気が付くのこの人。

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

 

「失礼しました……」

 

正に意気消沈と言った感じで高坂達が生徒会室を出ていくのを見送ると、生徒会長が口を開いた。

 

「ツカサ……どう言うつもりかしら?」

「どう言うつもり、とは?」

「惚けないで!」

 

絢瀬会長が机を叩く。備品は大切に扱って下さい会長。壊したら弁償ですよ。

 

「惚けるも何も、生徒の相談に乗っていただけですよ?生徒会として……」

「……そんな事に構っている暇は無いのよ?放っておきなさい」

「何?生徒会とは生徒の相談には親身になるのでは無いのか!?」

「ふざけないで!真面目な話をしてるのよ!」

 

うわ、渾身のネタがバッサリと切り捨てられた。滅茶苦茶勇気出して頑張ったんだけど。しかし今ので確信した。絢瀬会長は焦っている。

 

「何をそんなに焦っているんですか?大体、スクールアイドルにそこまで反発する理由は何ですか?さっき高坂達に言った事だけじゃ無いですよね?」

「………軽いのよ。スクールアイドルなんて唯のお遊びにしか見えないの。一番実力の有ると言われているA-RISEも同じよ」

 

“お遊び”か。成る程、確かに第三者から見ればどのスクールアイドルも同じに見える事は有る。人間って自分が興味が無い事に関しては結構厳しいからな。

 

「会長の考えは分かりました。でも、それは高坂達を止める理由にはなりませんよ」

「どう言う意味かしら?」

「簡単な話が、高坂達がスクールアイドルをやることにデメリットが無いんですよ」

 

俺の言葉を聞いて絢瀬会長は溜め息を吐いた。何でだ。

 

「私の話を聞いてたかしら?もし失敗して駄目でしたってなったら皆どう思うかしら?」

「別にどうも思わないと思いますよ?元々こっちは廃校寸前の崖っぷち。スクールアイドルだろうが、何だろうが打てる手は全て打っておくのが当たり前です。駄目だったら廃校になるだけで、別に現状と変わらないでしょう?」

「そんなギャンブルみたいな方法じゃなく、もっと…そう、正攻法なやり方もある筈よ!」

 

ギャンブルか……負けても内臓とか取られる訳でもあるまいし。

 

「会長、正攻法が通用するのは自分が有利な状態か、最低でも対等な状態じゃないと通用しませんよ。それに、正攻法でどうにかなるならとっくに理事長が何とかしてますよ。あの人は人脈はかなり広い方なので。引きこもりの俺には出来ない事ですね」

「……」

 

絢瀬会長が閉口する。議論においての閉口は敗北を意味する。

 

「……もう、アカンよツカサ君?あんまりエリチを虐めたら」

「虐めてるつもりはありませんよ。それに、会長も状況が分かってるからこその閉口でしょうし。焦るのは分かりますけど、ゆっくりと考える時間も必要でしょう」

 

ずっと俺と会長のやり取りを静観していた“東條希”副会長が口を開いた。

 

「それはそうやろうけど、エリチ泣きそうやで?」

「えっ?いやいや、あの絢瀬会長が泣くわけ……」

 

東條副会長に言われて絢瀬会長を見ると、うっすらと目尻に涙が浮かんでいる。マジで泣きそうだった。この人打たれ弱いのか。豆腐メンタルの仲間が増えるね。

 

「……える」

「えっ?何ですか?」

 

会長がボソッと何かを呟いたので、耳を傾ける。すると耳をつんざく大声で会長が叫んだ。

 

「エリチカおうち帰る!!ツカサのバカーッ!」

「ああああぁぁぁ!?耳がああああぁぁぁッ!?」

 

そのまま絢瀬会長は生徒会室を飛び出して行った。なんて破壊力!音割れ絢瀬!!

 

「あーあ、エリチせっかくお気に入りのツカサ君と一緒やって喜んでたのに……でも、変わったよね、ツカサ君も……他人に興味が無いって感じやったのに。これからもエリチを宜しくね?」

「え?何ですか?耳が聞こえないんですけど……耳から血が出てないですよね?」

「何でも無いで〜」

 

その後、聴力が回復したのは放課後の事だった。音割れ絢瀬は絶対に流行らせろ。




音割れエリチカ
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