生徒会長と一悶着あった後の放課後、教室で帰る準備をしていると、スマホにメールが届いた。差出人はツバサ。嫌な予感がする。
やっぱりと言うべきか、メールには面倒な事が書いてあった。
《今日、家に英玲奈とあんじゅを呼んでパジャマパーティーする事にしたの!だから夕飯の買い出しお願いね♪》
パジャマパーティーとか勘弁して欲しい。結構皆に誤解されがちだが、ツバサが居るからと言って家は豪邸とかに住んでいる訳では無い。普通の一軒家だ。確かに普通の家庭よりは多少裕福ではあるが、平均の域を大きく逸脱する事は無いと断言出来る。
何が言いたいかと言うと、“部屋が足りない”この一言だろう。リビング、両親の部屋、ツバサの部屋、俺の部屋が、大雑把ではあるが家の間取りである。そして、それぞれの部屋も広いと言う訳では無く以前に英玲奈さんと、あんじゅさんが泊まりに来た時も部屋が足りないと言って、ツバサが俺の部屋で寝て2人はツバサの部屋で寝たのだ。そして俺はリビングのソファーで寝た。酷くないか?何でツバサが俺の部屋に来るんだよ。頑張って3人同じ部屋で寝ようぜ。
「とは言うものの、拒否権は無いんだよな。一度決めたら絶対にやるだろうし」
半ば諦めて買い出しへと向かった。まだ耳が若干痛いけど。
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スーパーに到着。これより買い物を始める。もうカレーで良いよな?当たり障り無いし。カレーは万能。そうしよう。
カレーに決めた俺は材料を買っていく。すると精肉売り場がタイムセールをしているらしく、人だかりが出来ていた。その中に見知った顔が居た。あの黒い髪のツインテールは……!
「矢澤先輩か?あ、人に飲み込まれてく。あの中入る勇気無いわ。矢澤先輩……南無三」
“矢澤にこ”先輩。アイドル研究部の部長である3年生の先輩だ。A-RISEのファンで、ツバサの弟である俺にちょくちょく絡んでくる。因みに身長はツバサと同じ154㎝らしい。
そんな小柄な先輩があの人だかりに勝てる筈も無く無情にも流されて行く。あれ?こっちに来てる?うわ、逃げよう。
「何で逃げるのよ!」
「何でって……自分の買い物を優先するに決まってるでしょう。矢澤先輩も買い物ですか?」
「別の意図が見えた逃げ方だったけどまぁ良いわ……豚肉を買いに来たのよ。安いから」
「豚肉かぁ……ポークカレーも良いな。良し、カレーはポークカレーにしよう」
「じゃあ私の分の豚肉も取ってきなさいよ」
「人混み嫌なんで勘弁してくださいよ。普通の値段の肉で良いです」
「アンタ私を放っておくの!?」
「えぇ……」
そんな事急に言われてもな。深い付き合いでも無いし。
「私の部屋に毎日入り浸ってるのに!」
「部室ですよね」
「とにかく買ってきなさいよ!」
「頑な過ぎ……」
「妹達が待ってるのよ!」
「しょうがないな……社会的弱者からの頼みなら仕方無い」
子供は極力食べたい物を食べないとな。まぁ俺達も大人って訳じゃないけど。
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「あ、ありがとう…今度何かお礼するわね?」
何とか肉を入手し、矢澤先輩に渡せた。しかし何あれ?最近の主婦は弱体化したと思ってたら寧ろ主夫が増えててパワー勝負になったぞ。気配を消してすり抜けなければ即死だった。まだ人混みに流されていた序盤はマシだったのか。あれに矢澤先輩が入ったら……
「ええ、命の恩人なので滅茶苦茶感謝して下さい。矢澤先輩が潰れて御臨終するのを救ったんですから」
「私は潰れたりしないわよ!」
「そうですか。じゃあ次からは矢澤先輩を見つけたら、人だかりに放り込みますね?」
「私が悪かったわよ!感謝するから!」
さっきの人だかりを思い出したのか、焦り出す矢澤先輩。動きが子供っぽくてツバサと同じ身長とは思えない。
「そう言えばアンタ…」
「何ですか?」
真剣な表情で話す先輩。大方高坂達の事だろう。
「スクールアイドルの活動を手伝ってるって本当なの?」
予想通り過ぎて……
「まだ手伝ってる訳では無いですけどね。まぁ、反対はしてないですよ」
「綺羅ツバサの近くに居るアンタがあんなのを認めるの?」
矢澤先輩の考えは当然と言うべきだろう。矢澤先輩はスクールアイドルが大好きで、スクールアイドルの苦労、そして挫折を知っているのだから。だが、だからこそ言いたい。
「綺羅ツバサの近く……弟だからこそ、反対はしないんですよ。勿論スクールアイドルの辛さは知っているつもりですよ?でも、それ以上にスクールアイドルの楽しさも知っているつもりです。毎日遅くまで練習して帰ってくるツバサは充実した顔をしてますから。人前に自分を晒すとかあり得ませんけど、楽しそうなのは伝わってきますし」
「……そう、アンタの言い分は分かったわ。でも、誰もが綺羅ツバサみたいに強い訳じゃ無いのよ。少なくとも、にこの周りはそうだったわ。今日はありがとう、また学校で会いましょ」
「ボッチ同士仲良くしましょうや」
「ボッチじゃないわよ!」
そう言って、矢澤先輩は帰って行った。俺も帰り道を歩きながら考える。
「ツバサみたいに強い訳じゃ無い…か」
まぁ、考えても無駄だろう。少なくとも高坂はツバサと似たような物を持っていると確信していた。良い意味でも悪い意味でも。
「ん?」
スマホが鳴ったので確認してみると、またもやツバサからのメールだった。
《今日はポークカレーが良いな~》
「……あいつ見てたんじゃないよな?」
そんな事を考えながら家に帰った。