綺羅ツバサの弟《リメイク》   作:しろねぎ

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ベッドの下漁ろう


ベッドの下

今日のパジャマパーティーの発端は私の一言からだった。それはいつもと同じ様にA-RISEとしてのレッスンを終えた後のメンバー同士の何気無い雑談が引き金。

 

「そう言えばツカサが音ノ木坂に入学して1年近く経つけど、中々面白い学校みたいよ」

「ほう。どう面白いんだ?」

「ツカサくん絡みでツバサちゃんが面白いって話題を振るのは珍しいわね」

 

二人とも興味津々みたいで思わず話してしまったの。『私達以外の人間に興味を持ったみたい』と。あのコミュ障が。

 

今思えばそれは失敗だった。私を始めA-RISEは結構自尊心、つまりプライドが高い。ツカサは中々人に興味を示さないタイプだから、A-RISEに興味を持って貰うのに一時期躍起になっていた時もあった。それはもう必死にやったわ。

 

私達はそれだけ必死にやったのに、高校で他の人にもツカサが興味を示したと言ったら、ツカサが興味を示したのがどんな人物か気になるのは当然だった。それからは英玲奈とあんじゅの行動は早かったわ……

 

「先ずはツカサに会わないとな。ツバサ、今夜はツバサの家に泊まれるか?」

「……えっ?両親は仕事で今年中に帰って来るかも怪しいけど……まさか?」

「ならパジャマパーティーって事にしましょう!ついでに今度のステージ衣装も持って行って驚かせましょう!サプライズよ!」

「良いアイデアだあんじゅ!ツバサ、ツカサに連絡を入れておいてくれ」

「えぇ……?」

 

それからツカサにメールして現在に至る。ポークカレーは私の個人的なリクエストだけれども。

 

「それにしても……何でそんなにもツカサに対して必死なのよ。確かに私もツカサがどんな人に興味を持ったのかは気になるけど、そこまで必死になる必要はないでしょう?衣装まで持ってきて……」

 

私は体を洗いながら、既に湯槽に浸かっている英玲奈とあんじゅに問い掛ける。

 

「ツバサには分からないだろうな……あの素晴らしい魅力は。常に観察していたい」

「そうね。完璧超人で特に、ツカサくんの家族であるツバサちゃんには分からないわね~。ツカサ君の持つ強大な庇護欲をそそる存在感は」

「何よそれ……庇護欲って。それよりもあんじゅ、また大きくなった?」

 

よく分からない返事をする二人。でもそれよりも私の興味は、未だに発達を続けるあんじゅに実っている二つの果実に移っていた。何よあれ。何でまだ大きくなるのよ?

 

「ツバサちゃんの視線が怖いわ。獲物を狙う獣の眼光よ!」

「そんなもの育てるのが悪いのよ!」

「ツバサ……いや、何でもない」

「何よ英玲奈、ハッキリ言いなさいよ?らしくないわよ?」

 

普段と違って良い淀む英玲奈。彼女らしくない態度に私は不安を覚えた。英玲奈がこんな態度を取るのは大体が良くない時だ。

 

「その、ツバサ……お前も何と言うかな、ある意味立派だと思うぞ?A-RISEの非公式の掲示板を覗いていたら“ツバサは尻だろう”って盛り上がっていてな」

「…………」

 

知らなくても良い事実ってやっぱりあるのね。闇が深いわ。

 

「ツバサちゃん?無言でシャワーを冷水に切り替えないでくれる?」

「そしてそれを私達へ向けないでくれないか?」

「ごめんなさい…八つ当たりしたいの♪」

「「理不尽!」」

「知ってる」 

 

☆☆☆☆

 

 

 

風呂が滅茶苦茶騒がしくなっている。ご近所に迷惑では無いだろうか?そんな事を考えながらも学校から出された課題を解いていく。

 

綺羅家の家訓と言うか、父親の理念が“勉学は出来て当たり前。綺羅の人間ならば他にも一芸に秀でるべき”だそうだ。今時古い考えだとは思うが別に勉強が出来て困る事は無いので従っている。ツバサの一芸、と言うのは正しくは無いと思うが、スクールアイドルとして秀でている。俺はと言うと“システマ”と言う格闘技だ。軍用格闘技だな。絡まれるの嫌だから護身も兼ねて。

 

父親だけではなく、母親も仕事でいつ帰って来るかも分からないから実質ツバサとの二人暮らしみたいな物だが、先程の親の理念のお陰か、お互いに熱中する事が出来て両親が居ないという寂しさを感じる事は少ない。

 

「帰ってきたら、それはそれで面倒だしな……」

 

不意に出た独り言だったが気にしないでおこう。そんな時、部屋のドアが開いた。

 

「ツカサ、お風呂空いたわよ」

「お前、ノックくらいしろよ。究極のプライベート空間だぞここは」

 

そんな言葉も聞かずに平然と俺の部屋に入ってくるツバサ。そして俺の部屋を見渡して溜め息を吐いた。失礼だな全く……

 

「本当に統一性の無い部屋よね、参考書の隣にライトノベルに漫画。その下には洋書とゲームの攻略本と格闘技の本」

「良いだろ別に……」

「それで色々と網羅出来てるのが凄いわよね。普通は大抵が器用貧乏で終わるのに」

「まどろっこしいな……無駄な会話が1番嫌いだぞ」

 

普段はしない会話をしてくるツバサ。何か裏があるな。面倒な話は勘弁だぞ。

 

「……そうね。単刀直入に聞くわ。音ノ木坂にはツカサが興味を持つ程素敵な人が居るの?」

「パジャマパーティーの理由はそれを聞くためか。外の2人の提案か?」

 

俺の言葉が聞こえたのか、観念する様に二人が出てきた。いや、だから何で平然と部屋に入ってくるの?男の部屋だよ?

 

「バレたか……「部屋に平然と入らないで下さい」いや、君が興味を持った人がどんな人物なのかが「部屋に入るな」気になって「部屋から出ろ」な……教え「出ろ」てくれないか?」

「メンタル凄いな英玲奈さん!俺の話を聞いてます!?」

「ゴメンね?でもやっぱり気になって……A-RISEの私達に興味を示すのには時間が掛かったし……もしかして彼女さんかなぁ?って」

「アンタもだよ!何を平然と俺のベッドに腰掛けてるんだよ!」

「ベッドの下漁ろう。何か隠してるでしょ?」 

「俺の姉は頭が沸いたのか!?」

 

何このサイコパス集団。本当にスクールアイドルの頂点なの?高坂もそうだったけど、頭のネジが弛んでる奴がスクールアイドルやるのか?

 

「俺にはやっぱり荷が重いかも」

「何よ急に……」

「いや、ベッドの下に上半身の殆どを入れた状態の姉を見てると何かな……スクールアイドルって、やべーやつしか居ないのか?」

「やべーやつって失礼ね。……何もなかった。つまんない」

 

やべー姉がベッドの下から出てくる。何を期待したんだお前は。

 

「ツカサ君はベッドの下とかに本とか隠さないの?」

「隠す物なんて無いですし、はよベッドから降りろ。しれっと横になるな」

「えー」

「ツカサよ。ベッドの下が空いているのなら私はベッドの下で寝ても良いだろうか?」

「良いわけ無いだろサイコパス」 

 

スクールアイドルのトップ怖い。何とかして部屋から追い出さなければ。

 

「英玲奈、冗談はそれくらいにしなさい。本題に戻れないでしょ?」

「私は本気だが」

「良し、俺はリビングで寝る!!」

「では私はリビングのソファーの下に」

「もうやだ野宿する」

「土の下に」

「サイコパス過ぎるだろアンタ!!」 

 

コミュ障に対する仕打ちが酷すぎる。何それ。自分が寝てる場所の真下に、常に人が居るとかコミュ障じゃなくても怖いわ!

 

「ツカサ……本題に戻るわね?」

「コレを放っておくつもりかリーダーさんよ?」

「手遅れだもの」

「ひでぇ……」

「本題に戻るわ。どんな人に興味を持ったの?」

 

真面目な表情になるツバサ。あんじゅさんは寝てる。いや待て。何で寝てるんだ。

 

「せめてあんじゅさんを起こしてから……」

「本題に戻るわ。どんな人に興味を持ったの?」

「いや、だからあんじゅさんを」

「本題に戻るわ。どんな人に興味を持ったの?」

「だから」

「本題に戻るわ。どんな人に興味を持ったの?」

「ループ!?思考を放棄するなよ!何とかしろよ!」

 

取り敢えず質問に答えてあんじゅさんを起こして貰って、英玲奈さんも引き取って貰おう。

 

「とにかく人を巻き込むタイプだよ。何事にも全力で、視野の狭いバカだ」

「成る程……巻き込まれて嫌な感じはしてないみたいね。なら私は構わないけど……ほら、あんじゅ、私の部屋に行くわよ。英玲奈も」

 

思ったよりもあっさりと済んだ……訳無いよな。俺の言葉を聞いた後のツバサは滅茶苦茶楽しそうに笑ってたし。

 

「私はベッドの下で寝るぞ!」

「眠いわ……ここでツカサ君と一緒に寝る……」

「俺リビング行こう……」 

「なら私も」

「寄るなサイコパス」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局リビングで寝ました。英玲奈さんは何とか部屋に閉じ込めたから大丈夫だった。俺のコミュ障の悪化の原因は英玲奈さんじゃないよな?




ベッドの下潜ろう

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