嫁探しの前に異変解決
「嫁が欲しい」
「いきなり何を言ってんだい」
「俺もいい年だろ?そろそろなんかそういうのもいいかなって」
体操服にしか見えない奇妙な衣装に身を包んだ同胞の一人にツッコミを入れられてしまった。仕方ないじゃない!俺は今までそんなこと考える暇がなかったんだから。今までいろいろなことがあったせいで良い女と出会っても逃げなければならなかった。しかしこの幻想郷という魅力的な人物が沢山いる地ならば嫁を探すのも可能ではないかとこの俺、『鬼童丸』は思ったのだ!(確信)
「あんたのその一言がどれだけの影響力を持つか考えなよ?」
「いや、だって…」
「曲がりなりにもあんたは鬼の四天王と互角に戦えるんだ、そのくせ自由奔放という稀有な存在。色仕掛けで利用する輩も確実に出てくる」
「強さは今関係無いだろう…」
「いーや、関係あるね」
「じゃあどうすればいいんだよ」
「だ、だからさ……その…」
「見ちゃいました!」
この軽快な声は…カメラをこちらに向けシャッターを押すその烏天狗の名は射命丸文。自らの作る新聞の為ならばどんな相手であろうと追い回し最後には情報を吐かせるというマスコミの鑑だ。率直に言うとマスゴミ。
「おいそこの烏天狗」
「あやややや、星熊勇儀様がまさか鬼童丸様と…これは新聞が売れますねぇ!」
「今すぐその写真を消すのなら見逃してやる…」
「ヒィッ!む、無駄ですよ。この射命丸文、脅しには屈しません!」
「そうかい…三歩必殺…」
「退避!!」
そう言って逃げていく文、幻想郷最速の名は伊達では無い。あの逃げ足の速さは見習いたい。鬼はパワーはあるがスピードは烏天狗には数段劣る、流石の勇儀も追いかけるのは諦めたようだ。
「い、いやー!困ったね!明日の新聞に私達が載っちまうなんて!」
「あぁ、そうだな。俺が止めておくから安心しろ」
「い、いや!でも無理に止める必要は無いんじゃないか!?」
「なんでだ?お前も俺と噂が立つのは嫌だろ?」
「そ、そんなことは…」
別に勇儀が嫌な奴とか嫌いとかでは無い、あくまで俺は勇儀とは友達でいたいんだ。この距離感が一番勇儀と心地のいい関係だったのにそれを邪魔されるのは流石に看過できない(揺るがぬ意思)
「とりあえず能力で捕獲して脅してくるから待ってろ」
「あっ…待っ…」
「フッ!」
俺は全速力で烏天狗の本拠地まで走った。後ろから後悔するような声色の勇儀の声が聞こえてきたがスルーした。ここは旧都、妖怪の山まではかなり遠いが俺の能力なら一足で事足りる、早々に捕まえて勇儀と飲み明かそう。
これは俺が幻想郷に来て嫁探しをしつつ異変にもちょこちょこ手を出す物語。
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しかし、嫁というのはどうやって探せば良いのだろう。俺自身恋愛というものをした事が無いからどういう過程を通ればいいかが全く分からない。ひとまず地上の方でブラブラと歩いているが一向に何かが起こる気配はない。幻想入りしたあのラブコメ漫画のようにはいかないか…
「ふぅ…このまま一人で寂しく死んでいくのだろうか…」
独り言を言いながら行く宛もなく歩き続ける。そんな俺の前にスキマが開いた、古くからの友人によるものと分かっているので躊躇いもなく飛び込む。
「何か急ぎの用か、紫」
「ええ、結構急ぎの用なの。いきなりごめんなさいね?」
「俺達は友人なんだから遠慮しなくていい、それで何があったんだ」
「それがね…外の世界から侵略者が来るみたいなの。もう相手は自分の住んでる館ごと転移して来てる。大体戦力は集まって万全の体制なんだけど少し不安だから鬼童丸にも居てもらおうかと思って」
「任せておけ。月の住人すら蹂躙したこの俺の力、存分に使うが良い」
この紫とはかなり古い仲だ、幻想郷を作る前からの付き合いで幻想郷の為の手伝いなどいろいろなことを紫にしてあげたのはいい思い出となっている。
「きちんとお礼はするわ、勿論何でもいいわよ?」
…これだ!今天啓が舞い降りた。お礼に嫁探しの手伝いをしてもらおう、かなりの数の貸しが紫にはある。今更それをどうこう言う気は無いがそんな俺の頼みなら渋々でも了承してくれるだろう。流石に友人の男の嫁探しを手伝うのはキツいかと思ったが紫ならば友好関係も広いから何とかなる筈だ。
「なら、嫁が欲しい」
「は?」
流石の紫もこの言葉には呆けた顔をしている。信じられない言葉を聞いた、という顔だ。俺自身、そんなことを言う奴でもないからな。
「ちょっと聞き間違えたみたい、もう一回言ってくれるかしら?」
「ああ、嫁が欲しいんだ」
「藍ー!!異変よー!!鬼童丸が壊れたわー!!!」
「紫様!それは本当ですか!?ならば今すぐ幻想郷を厳戒態勢に!」
「二人とも落ち着け」
「これが落ち着けるもんですか!流石の妖怪の賢者もお手上げよ!」
「別におかしな話では無いだろ、独り身は流石に寂しく感じてきたってことだよ」
「独り身が…ですか?」
「あぁ、友は沢山いるがな。横に寄り添って一緒の時間を過ごせる者がいて欲しいと思うのは不自然か?」
「い、いえそのようなことは…」
「貴方は今までそんなこと言う人じゃなかったから…ごめんなさい…」
謝らなくていいんだよ!俺がちょっと結婚したいと思っただけだから!俺はこの口調と怖い顔のせいでかなり厳格な性格だと思われている。心の中はひょうきんだからこの際心を読んでほしい。
「とりあえず手伝って欲しい、それが俺が紫に望む報酬だ」
「…」
「紫様…」
めちゃくちゃ悩んでいる、そんな深刻なこと何だろうか。ちょっと友人の婚活を手伝うだけだぞ?逆だったら…ちょっと迷うな、確かに。
「鬼童丸…ごめんなさい、それはできないわ」
「な、何故だ!?…まさか俺のこと嫌いになってしまったのか?」
「い、いえ!そんなことありえないわ!…ただそれをしてしまうとアプローチしにくいというか…」
「紫様、頑張ってください…!!」
とりあえず協力はできないということか、まあ仕方ないことだろう。妖怪の賢者である紫は俺には考えつかない未来を見通している、恐らくここで俺の婚活を手伝うと何かダメになるに違いない。
「協力出来ないなら仕方ないな、無理を言ってすまなかった。報酬は適当に美味い酒を何本かくれ、それで大丈夫だ」
「本当に…ごめんなさい」
「良い、紫には無理をして欲しくないからな。他に変え難い友を困らせるのは俺の本意では無い」
そう言って少し笑ってみせる、かなり表情筋は固いが友の為ならば頑張って笑顔の一つ二つ作ってみせよう。多分今日は顔が筋肉痛になるだろうけど気にしない気にしない。
「ありがとう、貴方と友人になれて良かったわ」
「俺もだよ」
少し切なそうな顔はしているが笑顔になってくれたのは嬉しいことだ、とりあえず今はそんな友人の笑顔を守る為に侵略者と戦おうではないか。
「紫、その侵略してきた者達はどんな奴らなんだ?」
「そういえば言ってなかったわね、吸血鬼と呼ばれる妖怪よ」
力は鬼に及ばずとも強く、速さは烏天狗にも劣らず、そして多種多様な戦法を見せると噂のあの吸血鬼か。
「その吸血鬼の長がレミリア・スカーレットよ、見た目はただの高圧的な幼女だけど実力は大妖怪クラス、厄介ね」
「こちらの戦力は?」
「まあいつものメンバーって感じね」
「萃香は?」
「いるわよ」
「そうか」
あいつなら一人でも事足りるだろう、そう思ったが強いやつと戦いたいだけのあいつなら何が起こるか予想がつかないのが不安要素だな。
「入口の門番は幽香にやらせるわ」
「幽香も乗り気なのか?」
「ええ、戦えるなら何でもいいって」
「相変わらずだな…」
俺にも躊躇無く襲い掛かってくるその様は幻想郷最強にふさわしいだろう。今の戦績は26085戦13509勝12576敗だ、少し俺の方が勝っている。だがそれは能力の相性が良いからにすぎない。あと戦闘のあとはお茶とお茶菓子をご馳走してくれるところを見ると嫌われてはいないようだ。
「中にいるメイドは相性的に萃香かしら」
「メイド?能力は何なんだ?」
「恐らく瞬間移動か時間に関係する能力ね」
「あぁ、なら萃香は戦いにくいわな」
どれだけ離れて距離をとってもあいつの密と疎を操る程度の能力で距離すら無意味にされる、それに時を操っても霧のようになれば攻撃は当たらない。萃香を倒すなら能力消去系の能力か圧倒的な暴力で一方的に攻撃し完封するしかない。チートだ…(恐怖)それよりメイドとは趣深いな、是非知り合いになりたい。
「館の中の図書館に居る魔法使いは幽々子ね、臨機応変に仕掛けてくるけど幽々子なら何とかしてくれるわ」
「幽々子か…」
紫には悪いが俺は幽々子が苦手なのだ、あの何とも言えないゾクゾクする視線が苦手だ。心臓を直接握られているような…俺は直接攻撃に対する耐性は強いがそういう精神的なところはガラス程の強度しかない。もっと優しくして欲しい(切実)
「幽々子では不安?」
「そんなことはない、実力は十二分に知っているからな」
紫ちゃんは安心した表情をした。ここで俺が幽々子を苦手だと言ってしまったら少し気まずい。やめておこう(決意)
「最後はこの館の主、レミリア・スカーレットね。こいつは私がやるわ」
「ん?そうなると俺は誰をやればいい」
「貴方はここでこの水晶玉を見てヤバそうになったところがあれば、そこに駆け付けてあげて」
「あぁ、そういうことか。わかった」
いわば俺を最後の手段として残しておきたいのだろう。自分で言うのもなんだが俺は結構強いからな。俺だけ仲間外れにされた訳では無いだろう、たぶん。
「作戦は今日の夜決行よ、お願いね」
「あいわかった、ここに居ておいてもいいか?」
まだ時間は夕方頃だ、作戦までは少しかかるだろうからな。橙や藍とも話したい。
「いいわよ、晩御飯も食べて行きなさい」
「いいのか?悪いな」
今から侵略者と戦うとは思えない程に和気あいあいとした会話をしながら俺はこの作戦に少しの不安を心中に抱えていた。気のせいだといいんだけどな…
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「林檎と蜂蜜、紅茶のジャムはアップリコット♪銀色のティースプーン、壁に放り投げた♫」
少女は歌う、助けを求める鳥の様に、陸に上がることの出来ない人魚の姫のように。自らの現状を嘆きつつ右手を握りしめる。
「つまんないなぁ…ギュッとして…ドカーン!!」
その瞬間部屋中にあった人形の首が弾け飛ぶ、しかし少女は嗤う。可笑しくてたまらないといった様子で。
「ふふっ、やっぱり気持ちいいなぁ。次は人形じゃなくて誰かが実験台になってくれないかなぁ…」
言っていることは凶悪に違いないというのにその少女の顔は至って普通だ。むしろ愉快そうですらある。
「でもでもぉ…アイツじゃないけどこれから何か起きそうな気がする!フランにとっても嬉しいことが!」
その囚われの姫君を助ける勇者は、まだ来ない。