二人の鬼は向かい合う、今までの空白を埋めるかのように、そして童女のような鬼が益荒男のような鬼に飛び込んだ。童女は打撃を打ち込み続けるが益荒男が受け流し、カウンターを決める。
「鬼童丸、私は源氏の奴らから私を守ってくれた時に完全にお前にやられちまったんだ、自分が守られる側になんてその時まで思ってもみなかったんだよ、けどあのでかい背中を見たら普通の女としての生活ってやつを幻視してしまった、夫婦になって、子供を作って、誰にとっても幸せと思えるそんな生活さ」
「ならこんなことをもうやめろ、俺はお前が完全な悪にはなりきれないことも知っている、だから俺はお前が好きだったんだ」
「妹分として、同胞として、だろう?」
童女は、萃香はその言葉に悲しみを抱く、自分はどこまでいっても仲間でしかないという事実を突きつけられたから、悪意の無い言葉というのはどこまでも深く心を傷つけるものなのだから。鬼童丸にも鬼童丸の周りに居る奴らにも、そして自分にも怒りをぶつけることしか出来ない、しかしそれは理不尽では無く、ある意味正当な理由のある怒りなのだろう。
伊吹萃香は元々人間の事が大好きとは行かずとも気に入っていた、力や速さは及ばずとも技や戦術で鬼を屠ってきた種族、それが萃香にとっての人間だった。だが人間は次第に知識をつけ、どれだけ効率よく安全に戦いを有利に進める事ができるかを考えるようになっていった。罠を使い、毒を使い、騙し、利用し。そんな人間達に嫌気のさした萃香は人間とあまり関わらなくなった。
しかし鬼童丸は違った、人間の中にも色々な奴らが居ると言い、八雲紫と人間と妖怪が共存できるように幻想郷を変えると言い始めた。だから私は勇儀や他の鬼達が続々と地底に行く中で鬼童丸が居るこの幻想郷に中途半端な気持ちで残っていたのだった。
「だから嫌だったんだよ、お前は年々弱くなっていく、幻想郷が平和になるにつれて、ならば幻想郷が平和じゃ無くなれば、お前が危険な目にあえばまた前みたいな鬼童丸に戻ってくれると思ったんだ」
「その為に人を攫い人里を危険に晒したのか」
「…安心しなよ攫った奴らは全員無事だ、むしろ豪華な食事とかを用意してあるから喜んでるんじゃないか?」
人間を心配するなよ、私をもっと見てくれよ、萃香はそう思うが鬼童丸には届かない、もしかしたら鬼童丸はわかっているかもしれないがこの男は自分の気持ちを自分で言わない奴にはとことん厳しいのだ。フランや咲夜、レミリアは気持ちを吐露してくれたから鬼童丸はあそこまで紅魔館に固執して、足繁く通っている。
「お前が好きだ、鬼童丸」
「俺は今のお前は嫌いだ」
「結構傷つくなぁ」
「ならこんなことやめろ、そんで一緒に酒でも飲もう、萃香」
「もう無理だよ、鬼童丸」
そう言うと霧になり背後にまわり蹴りを入れる萃香、しかし鬼童丸はそれに反応しガード、そして軸足を刈り取るように右のローキック、それを受け、軸足一本でバク宙をし逃れる萃香。
この間1秒にも満たない攻防、それ程までに鬼の力というのは凄まじいものなのだ、人里を破壊しないように手加減をしていてもこれだ。鬼という種族の戦闘能力の高さが伺える。
「萃香、場所を変えるぞ」
「ああ、わかってるよ」
二人は同時に消える、そして何も無い草原のような場所に着いた。萃香は着いた瞬間に飛び出す、技もクソも無いただの右の殴打、鬼として生まれた時点で技や理合など不要といわんばかりの攻撃だ。
それを鬼童丸は打ち終わりの瞬間掴み取った、そして合気道の要領で相手の力を抜き、投げ転がした。鬼童丸は人間と触れ合い人間の技を吸収してきた、そしてこの両者の戦いを見るものがいたならばこう言うだろう。
「まるで反対の戦い方だな」
「お前、人間の格闘技でも覚えたのかい?ますます気に入らない…」
「お前が忌み嫌った人間との時間は無駄じゃなかった、女なのに鬼ぐらいに力を持った奴、僧だというのに戦うことが大好きな奴、しまいには90を超えたジジイが俺を投げ飛ばした、これが人間だよ」
「…何が言いたい」
「弱くて狡くて醜くて、そんな奴らばかりだと俺も昔は思っていた、しかし触れ合い、話を聞いて、その人生の一端を見守っていると違う事に気がついた」
「違う?」
「ああ、人間は弱いからこそ優しくなれる、他者の気持ちに寄り添える存在だということに」
「違う!私達を襲い、卑怯な手を使って殺してきたのが人間だろう!?お前はそんな人間を叩きのめす、英雄だったはずだ!」
「ならば教えてやろう、人間の強さを」
「やってみろ…」
鬼童丸の手に一本の槍が現れる、使い古されていることが誰にでもわかる槍だ、しかしその穂先の刀身は磨き抜かれ輝いていた。
「これはさっき言っていた僧から貰った槍だ、その人間の技お前の身をもって知るがいい」
「舐めるなぁぁあ!!」
突き出した右手を槍で受け流しそのままの勢いで切り払う、体勢を崩した萃香に神速の三段突きが迫る、霧になって避けようとするが鬼童丸はもう既に能力を使っていた。逃れられぬと判断した萃香は身体を捻り致命傷を避けた。
「俺が教えを乞うた僧はもっと速かった、突きにしたって今の合間ならば正中線に正確に五段突きを見舞っていただろうよ」
「ヒュー、ヒュー」
腹に一発、腕と足に一発、それが萃香のできる精一杯の避けだった。唐突に鬼童丸は槍をしまった、そして空手のような構えをとる。萃香もそれにつられてまた突進を始める。
「ここで終われない!鬼童丸を元に戻すんだ!人間の技なんかで終わってたまるかァ!!」
「フッ!!」
突っ込んできたタイミングで右の正拳突き、そして怯んで隙ができたその頭に上段蹴り、こめかみに正確に当たる。いかに鬼といえどもその体内にある器官は人間と同じ、脳を揺らされた萃香は膝をついた。だがそれでも戦おうと自分の足を殴り続ける萃香。
「何で、何で、足動け!動けよぉ!!」
「もうやめろ、終わりだ」
「終わらない!だって、戻さないと、私と一緒に居てくれないもん!またあの頃みたいに、一緒に…」
「萃香…もういい……」
鬼童丸は萃香を抱きしめる、鬼童丸は泣いていた、やるせなくて情けない自分に対して悔しくて思わず溢れてしまった。萃香はいきなり抱きしめられ放心している。
「泣きたいのはお前だよなぁ、本当に今まですまなかった、俺がもっと早くお前のことを気づいてやれれば…」
「本当に何で鬼童丸が泣いてるんだよ…悪いのは勝手にこんなことした私だろう…?」
「俺はお前のこと軽んじて考えていた、萃香ならばどうにかなると」
「………」
「けど今回のことで俺は自分のあまりの不甲斐なさに気がついた、だから萃香」
「なに…?」
「俺と一緒に居てくれないか、一緒に住んで、一緒の飯を食べる、夜は一緒に酒を飲むんだ、今までお前に寂しくさせた分、俺に埋め合わせをさせてくれ」
「…何で…そんなに優しくするんだよぉ…悪いのは私じゃんか…」
「お前も確かに悪かったかもしれない、だから一緒に謝りに行く、もし許されなかったとしても俺だけはお前と一緒に居てやる」
「…っ、うっ、ぐすっ、私、めんどくさい奴だよ?」
「いくらでも受け止めてやる」
「うぅうぅ、うっ、ぐすっ、ごめんね、鬼童丸…」
「こっちこそごめんな」
ここに異変は終結した、そして二人の鬼は泣きながらお互いのことを認め合ったこの話は後にこの戦いのあとの美談として語り継がれ、童女の鬼の方がその度に顔を真っ赤にして止めてくるのはもう少し先の未来である。