「鬼童丸の背中は安心する…」
「そうか?」
「うん、凄く大きくて硬くて暖かい」
「眠いならそのまま寝てもいいぞ」
「そうさせてもらおっかな…」
ああぁあ!!恥ずかしい!泣いてしもた!(今更) いや、泣くつもりは無かったんだけど余りにも情けなくて…本当にクソ野郎だわ俺は。(周知の事実) 萃香があんなにも苦しんでいたとは知らなかった、兄貴分失格だな俺は、そんなことを思いつつ自分の家に向かう俺。
え?定住の地が無い筈じゃないかって?実は立派な屋敷を一応持ってる、使っていないがな。元々は紫がくれたもので、偶に橙や藍が来て掃除してくれているようだが使っていない屋敷を掃除させるのをいつも申し訳なく思っていた。
玄関を上がり広い和室の一つに二つの布団を敷く、もちろん俺と萃香の分だ。離れて寝ないのかという声が聞こえてくる気がするが構うことなく横ぴったりに布団をつけて一つの布団に背中でスヤスヤと寝てる萃香を降ろす。慎重に枕に頭を乗せ、掛け布団を掛ける。頭を少し撫でると安心したような顔で笑った、可愛い。
「俺も寝るか」
そういえば気になることに今気がついた、何故慧音は俺を見つけることが出来たんだ?俺は神出鬼没で何処に現れるかも分からないことで友人達から不満が出ている程なのに。俺をいち早く見つける為にはまずは紫を探すしか無い、ということは紫が俺の居場所を教えたのかな。
まあ幻想郷を荒らされることを何より嫌う紫の事だから今回は俺にどうにかするように任せたんだろう。それにしたって何か言ってくれればよかったのに。そう思いながら俺は瞼を落とし眠りについた。横に確かにある小さな寝息をBGMにしながら。
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「ん…ふ…」
「やっと目を覚ましたか」
「あっ、鬼童丸…おはよう…」
「ああ、おはよう。朝飯の時間だぞ、食べるか」
「へへ…食べる…」
起きた時一番に目に入るのが想い人の顔だという事に幸せを隠しきれない。鬼童丸、鬼童丸、鬼童丸、即興で作ったメロディに想い人の名前を乗せて歌う。布団を畳みながらそんなことをグルグル頭の中で反芻する。これはもう夫婦と言っていいんではないだろうか、思わずにやけてしまう顔を引き締めることもせずに大広間に向かう。
「今日の朝飯は鮭の西京焼きとらっきょの味噌汁、あとはきゅうりの浅漬けだ」
「美味そう…これ鬼童丸が作ったのか?」
「ただ魚を焼いて味噌汁作っただけだがな、晩飯もしっかりしたものを作るから期待しておけ」
「何か申し訳ないな…私に手伝えることないか?」
「それもまた言うからひとまず食べよう」
「そうか、じゃあ」
「「いただきます」」
まずは魚に手をつける、確か西京焼きとか言ったな、とりあえず口に運ぶ。っ!なんだこれ!めちゃくちゃ美味しい!塩焼きとはまた違い、何処か奥深い甘みのようなものが鮭を包み込んでいる、これは…味噌か!子供から大人まで大好きな味だろうと思った。これは酒にも合うな…今度飲む時に焼いてもらおう。
「めちゃくちゃ美味しい!」
「そうか…それはよかった…」
にこりと微笑む鬼童丸を見てどきりと心臓が跳ね上がった、こいつは自分を過小評価しがちだが顔はかなり整っているのだ、目付きが鋭いから怖がられてしまうが。しかし自分にしてみれば普段笑わない顔の整った惚れている男が自分に屈託の無い笑顔を向けてきているのだ、冷静さを失ってしまうのも無理の無い話だと思う。
「朝から誘ってんのかお前(次はきゅうりの浅漬けを食べてみるよ)」
「いきなり、なんだ…!?」
しまったぁあ!!本音と建前がぁあ!!うわあああ!私は冷や汗をダラダラと垂らしつつ自分の起こした失態をどう誤魔化そうかと考えていた。絶対に引かれた、はしたない女だと思われた、死にたい。そんな思いが次々去来してくるが、どうにかしないと同棲初日で追い出されてしまう。
「えっ、えっと鬼童丸今のは違うんだよ」
「わかっている萃香」
えっ?わかってくれた?鬼童丸理解早すぎない?しかし今はその言葉に縋るしか活路は無いので黙って鬼童丸の言葉の続きを待つ、まるで死刑宣告だ。
「戦いたいのだろう、食事の片付けが終わったら相手をしてやるから少し待て」
「あ、ああ!そうなんだよ!昨日の雪辱を晴らしたくてねー!」
「とりあえず今は朝飯を早く食べよう」
「そうだね!」
助かったぁ…!私は鬼童丸に失望されたらその場で自刃する覚悟がある、鬼童丸が私の生きている意味だからね。まあ鬼童丸が誰かに対して失望して見放すなんてこと絶対に起こりえないから安心だけど。
「浅漬けパリパリで美味しいよ!」
「にとりに貰ったんだ、この家の冷蔵庫はマヨイガの冷蔵庫とも繋がっているから漬けていたのが残っていた」
「へぇ…あの河童がねぇ…」
あの河童はどうやら鬼童丸に対して恋愛的な感情は持っていないようなので特に嫉妬はしない、私的に気になるのは烏天狗の新聞記者と紅魔館の姉妹だね、あいつらは絶対に敵対すると確信してる。
「ところで味噌汁にらっきょとは珍しいね、美味しいけどさ」
「ああ、健康に良いからと香霖におすすめされたんだ」
「香霖っていうとあの眼鏡かけた古道具屋の店主?」
「ああ、それで合ってる」
「仲良いのかい?」
「旧い知り合いの一人でな、かなり付き合いは長い」
「へぇ、意外だな」
ああ、でも確かに性格的なものは似ているかもしれない。二人共あまり余計なことは喋ろうとしない感じだ、香霖とやらはちらっとしか見たことは無いがそういう印象があった。
「まあ結構面白い奴だよ」
「ふぅん…」
興味は無いが鬼童丸がそう言うんだ、そうなのだろう。ちょっと嫉妬してしまう、こいつにとって今の私はどんな風に見えているのだろうか。ふとそんな思いが頭の中を駆け巡った。
「そろそろ食い終わったな、下げるか」
「なぁ鬼童丸」
立ち上がろうとした鬼童丸の首に前から両手を回す、顔が真正面にありほとんど距離がない、少し前に突き出すだけで接吻してしまいそうだ。
「どうしたんだ萃香、寂しくなったか」
「それもあるかもしれないけど、一つだけ聞きたいんだ」
「なんだ」
「今の私のこと…お前はどう思ってるんだ、誤魔化さずに答えて欲しいんだ」
「今の…お前のことか…」
少し思案顔をする鬼童丸、攻めすぎたか?いやでも、これぐらいしないと気づいて貰えないし、好きって言って欲しいし、グルグルと同じ考えが脳内で飛び跳ねる。
「好きだぞ」
「っ!それって…」
「どっちの意味かはわからん」
「えっ」
「そもそも恋やら愛やらといった感情が俺には理解できん、大切にしたいと思う気持ちが好きという感情なのだとしたら、俺は萃香のことが好きだぞ」
「っ!っ!〜〜っ!」
「いきなり座布団に顔を突っ込んでどうしたんだ、萃香」
恥ずかしい、けど嬉しい、絶対今の自分の顔は見せられたものでは無いと確信している。ユルユルの表情筋に少し苛立ちを覚えながらもそれを凌駕する喜びに打ち消される。
「も、もう大丈夫だひょ」
「ひょ?」
「大丈夫!」
「そうか、なら今日の予定について話すぞ。まずは人里に行って謝罪だ、もう救出されて完全に人が戻ったとはいえお前がやったことには違いはないからな」
「う、うん…わかってるよ…」
「そう落ち込まなくていい、俺も一緒に行ってやるから」
「ありがとう…」
優しく頭を撫でられる、手を置いたところからじんわりと熱を持ち全身に広がっていく。それはいわば幸せの波で、完全に受け入れ甘受するべき素晴らしいものなのだ、そこ、ガンギマリとか言うなよ。
「じゃあ行くか、洗い物は後でで構わないから先にそっちを済ませよう」
「うん」
「手、繋いで行くか」
「うん!」
二人の間に昨日までの溝は完全に無かった、代わりに溢れんばかりの愛情がまるで輪っかのように二人を包み、一生ちぎれることの無い縁になるだろう、全愛情のうちの9割は片方の鬼であることは言わずともわかると思うが。