幻想郷で嫁探しする鬼の話   作:社畜マークII

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白玉楼の庭師

ぬわああああぁん!疲れたもぉおおおん!くっそ汚い叫びを心の中でしつつ鬼童丸は労働に勤しんでいた、薪が足りないので自分で木を切り斧で割らなければならない、風呂を沸かすのも料理を作るのもこの作業無しには成り立たないのだ。

 

「鬼童丸、梅酒いるかい?」

 

「ああ、助かる」

 

エプロンをして長い髪を後ろで束ねた萃香がキンキンに冷えた梅酒を渡してくれたので何とか気を取り直し作業に集中することが出来た、日差しがかなり強い今日のような日は水風呂に入り素麺でも食べたい気分になる。人里で買ってくるのもいいかもしれない。

 

「ほら鬼童丸、こっちに来なよ」

 

「ん?どうしたんだ萃香」

 

「いいから」

 

言われるがままに萃香に近づくと、ガッと顔を掴まれる。なんだこの攻撃は…と呆然としていると萃香の手がひんやりとしていることに気づく。思わず目を合わせると、にやっと笑った。これはイタズラが成功した時にする顔だな、可愛い。

 

「さっきまでスイカを川の中に入れてたからついでに水浴びしてたのさ、どうだ冷たいだろう?」

 

「ああ、冷たい…ありがとう」

 

萃香がスイカを川に入れていたのか…(激寒) オヤジのようなギャグを恥ずかしげもなく心の中で披露しながら鬼童丸は自分の顔の熱が目の前の可愛い鬼に吸い込まれていくのを感じていた、天国だ…。

 

「堪能したかい?」

 

「もう少し頼む」

 

「これ以上やると私が茹だっちまうよ…」

 

 

「嘘…信じて送り出した鬼童丸が…(絶望)」

 

 

「紫、よく来たな」

 

「理解してるなら私たちのイチャイチャを邪魔しないでくれるかい?」

 

「なんでそんなこと貴方に遠慮する必要があるのよ」

 

「は?(殺意)」

 

萃香は相変わらずの威圧感で紫に迫っているが紫はまるで柳のように受け流す、どっちも怖いなぁと思いながら涼める位置を探す。ちょうどいい影を見つけたので大の字になり少し休憩する。どれだけ身体が強くても暑さや寒さにはなんの意味も成さないということを改めて実感させられた。夏には勝てなかったよ…

 

「そういえば鬼童丸に頼みたいことがあるのだけど…良いかしら?」

 

「別に良いがどんな事だ?」

 

 

「幽々子の従者の妖忌って居たじゃない?居なくなったのよ」

 

 

「居なくなった?」

 

「ええ、忽然と姿を消したの」

 

「俺にそいつを探して欲しいと」

 

「違うわ」

 

「何?」

 

「貴方にはその妖忌の孫に剣術の指南をして欲しいの」

 

「剣術か…俺は槍の方が得意なんだけどな…」

 

「剣も達人レベルに扱えるじゃない、報酬は弾むから、ね?」

 

というか本当に探しに行かなくて良いのだろうか、まあ依頼してきた紫がそう言っているので良いのだろう、それに俺は妖忌との関わりなどちょっと見かけた程度だしな。

 

「行くのかい?鬼童丸」

 

「ああ、少し出てくるから留守を頼めるか」

 

「晩飯期待してなよ?」

 

「お礼に晩酌のツマミは俺が作ろう」

 

「なら手羽先の唐揚げが良い!」

 

「了解だ」

 

「早く行くわよ!」

 

「ああ、今行く」

 

何故か紫が怒っていたが(すっとぼけ) スキマに入り目的地に向かう、行先は冥府だ。幽霊達の中間地点、迷った幽霊の居場所。率直に言うと俺はあの場所が─苦手だ。

 

==============================================

 

お爺様が居なくなってしまわれた、師匠であり唯一の肉親、心がポッカリと穴が空いたような感覚に陥る、寂しくて辛いから何もしたくない、しかし庭師としての仕事や従者としての仕事も山のようにある。お爺様が居なくなった今私がどうにかしなければならないのだ。

 

「妖夢、今日はお客様が来るの、だからちょっと傍に着いておいて貰えるかしら〜」

 

「畏まりました幽々子様」

 

誰が来るのだろうか、やはり紫様だろうか、いや閻魔様も有り得るかもしれない。なんにせよ私が付いておかなければならない程の相手であることは確かだ、気を引き締めねば。

 

「幽々子、お邪魔するわよ」

 

「あら〜いらっしゃ〜い、あ、鬼童丸も来てたのね〜」

 

「ああ、紫に呼ばれてな」

 

「会うのは久しぶりね〜、いつぶりかしら〜?」

 

「前に紫に連れられて宴に来た時以来だな、元気にしてるようで何よりだ」

 

「亡霊に対して元気にしてる、だなんて相変わらずね〜」

 

あの御方は誰だろうか、紫様と対等に話しているところを見ると幻想郷でもかなりの実力者だろう、角が生えている所を見ると半獣か鬼という妖怪だと予測した。

 

「じゃあ妖夢は鬼童丸と初めて会っただろうから挨拶して〜」

 

「はい、私の名前は魂魄妖夢です、この白玉楼において庭師と従者を兼任しております」

 

「丁寧にありがとう、俺の名前は鬼童丸だ。一応鬼という種族をやっている、特技は武術全般、あとは…料理かな」

 

「りょ、料理ですか?」

 

「ああ、やってみると中々に奥が深くてな、今では和食、洋食、中華なんでもござれだ」

 

「凄いですね…」

 

失礼だが料理などしないようにしか見えない、むしろ出来たての料理を机ごとひっくり返しそうだ。「気分が悪いから作り直せ」とか言われそうな程に威圧感が凄いのでこんなことを考えてしまうのも無理はないと思う。

 

「ちゃんと鬼童丸を連れてこられたってことは了承してくれたのね〜」

 

「ああ、断る理由も無いからな」

 

「でも幽々子探すのは良かったの?」

 

「まあ元々妖夢がちゃんと成長したら居なくなると思っていたし、仕方ないわよね〜…」

 

「えと、皆さんなんのお話を…」

 

「あ、妖夢この鬼童丸が明日からの貴方の剣術指南役よ〜」

 

「は?」

 

今幽々子様はなんと仰られたのだろうか、脳味噌が言葉を拒んだのか理解が遅れてしまった、しかし言われた言葉を一つ一つ噛み締めていく、そうすると怒りが湧いてきた、私にとっての師匠とはお爺様以外には居ないのだから、そんなの絶対に認められない。

 

「ふざけないでください!私は祖父以外から剣術を学ぶ気はありません!」

 

「だって…妖忌居なくなっちゃったし〜…仕方ないじゃない?」

 

「〜っ!ならば私が探しに行きます!」

 

「じゃあその間白玉楼は誰が管理するのかしら」

 

「!!」

 

「妖忌はそんなヤワな従者ではないわ、どうせ今頃武者修行とか言って何処かに飛び回っているわよ、それを安心して出来るようになったのは妖夢に自分が教えられることはもう無いと判断したからじゃない?」

 

「…ですが…」

 

「もしここを出て妖忌を探しに行きたいというのなら最低限までは強くなりなさい、そうしなければ危なっかしくて眠れないのよ」

 

それでも認めたくない、強くなるのは良いことだ、しかしその指導者はお爺様でなくてはならない、そうではないと納得出来ない。

 

「…ならば試してみるか」

 

「え?」

 

「俺がお前の師匠に相応しいかどうか」

 

そう言うと部屋の障子を開ける鬼童丸様、どうやら外に出ろということらしい。上等だ、ここで私の覚悟を見せて幽々子様にも分かってもらう、私の思いを。外に出て、背中に差してある白楼剣を引き抜き構えた。

 

「俺は自分の武器を使わない、何処からでもかかってこい」

 

「私を、舐めているのですか?」

 

「違う、俺はな」

 

「違うなら何故ですか!」

 

振り下ろす、何百、何千、何万と繰り返した動き、完全にやったと思った。お爺様の指導は間違いでは無かったと満足しつつ自分の持っている白楼剣を鞘に収めようとした。

 

しかし、何故か自分の両の手に白楼剣は無かった。魂魄家の家宝の刀が何処かに消え失せていたのだ。

 

「中々良い刀じゃないか、しかもこれは特定の家系しか使えなくなってる、レアな武器だな」

 

何故、自分が振り下ろした筈の刀をお前が持っているんだ。私はそれしか頭に無かった。

 

「何でって顔してるな、単純な話だ、隙だらけだったから抜き取らせてもらった」

 

お爺様に聞いたことがある、相手の懐に入り込み刀を抜き取る神業、その名は『無刀取り』

もし敵が真剣勝負でその技を使って自分の刀を余裕の顔で取ってきたというのなら、迷わず逃げろ。それがお爺様の言葉だった。

 

「一刀に全てを乗せるのは結構だが周りを見るのを忘れるな、力は乗せても頭は乗せるな、いつでも外側から自分を見る感覚だ」

 

「ぐぅぅ…認め、ない…」

 

楼観剣を抜く、これが自らの切り札だ、楼観剣は妖怪の打った刀がだ、これがあれば…切れぬものはあんまり無い!

 

「うわぁぁぁあ!!」

 

「脇が甘い、腰が引けてる、踏み込みはもう半歩先に。まだまだお前は強くなれる」

 

その声が聞こえたと同時に視界が真っ暗になり意識を完全に手放した。最後に見えたのは余りにも美しい剣の残光だった。

 

================================================

 

妖夢をボコしてしまった、これは確実に幽々子に殺されると思ったがお礼を言われた。俺は指導者が俺なのが気に入らないと言われたので、じゃあ試してみる?(イキリ) と言っただけだ。特に何か考えていた訳では無い。

 

「う…うぅ…ん」

 

「ようやく起きたか」

 

「…ん、はっ!白楼剣!」

 

「枕元にきちんと置いてある、ついでに全て掃除して研いでおいた」

 

「あ、ありがとうございます…」

 

「それで妖夢、俺はお前のお眼鏡にかなったか」

 

「はい…悔しいですけど…本当に認めるのは嫌ですが…」

 

「それだけ悔しい思いがあればお前は俺よりもっと剣が上手くなれる、これからよろしく頼むぞ」

 

「…よろしく、お願いします」

 

手を差し出すと一応返してくれた、まあこれぐらいの年頃の子が一番ややこしいからね、仕方ないね。俺はとりあえずどんな修行方法がこの子に向いているのかを模索し始めるのであった。

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