生まれた時から不思議だった、何か満たされない、違和感がある、何故だろう、何故だろう。剣を持たされ振った時にその違和感がわかった、こういう事だったのかと。
「一撃食らわしたくらいで…私を倒せるとでも…?」
口ではどうとでも言えるが足は生まれたての子鹿のように震えている、恐らく肋骨が何本かイカレてしまってるだろう。それでも立って戦わなければならない。
「…もう立たない方がいいよ、これ以上は手加減出来ないからねぇ…」
「………」
「ふん…」
相手が突っ込んでくる、右の殴打、辛うじて避ける。腹から激痛が上ってくるが無視して動く。動いて避け続ける、鬼童丸様の攻撃に比べたら速さが足りない。大丈夫、避けられる。
「へぇ…避けるのは中々うまいじゃないか」
「お褒めに預かり光栄ですね…」
「けど他はてんでダメだね、何より圧が全く感じられない。本当に戦う気あんのかい?」
そう言った瞬間目の前からその少女が消える、そして横からの衝撃に吹き飛ばされた。何が起こったか全く理解ができなかった。
「ほら、ちょっと小細工をしたらこれだ」
「ガハッ、ゲホッ、オェエ!」
血反吐と吐瀉物が同時に口から出てきた、ガタガタと身体が震える。相手は完全に私を殺しにきていることに心の底から恐怖している。けれど幽々子様だけは助けなければと恐怖を振り払う。
「幽々子様だけは…助けてくれませんか…」
「は?」
「私はどうなっても構いませんから…幽々子様だけは…」
「戦いの最中にそんな萎えること…言うなよっ!!」
また蹴られる、倒れたままの体勢で転がるように吹き飛んだ。まるで自分の身体が紙屑にでもなったかのようだ。もう自分はここで死ぬんだという思いが頭を駆け巡る。その瞬間に走馬灯のように自分の人生がフラッシュバックした。
『妖夢、お主に剣をもたせたのは、儂がお主に道を違えて欲しくなかったからじゃよ』
『道を…ですか…?』
『お主が元々持っておる気質は強いものじゃが、荒々しく他者を傷つけるものじゃ。だから儂が生まれた時からお主に剣を教えたんじゃよ。妖夢、お主はそれを恨んどるか?』
『…いえ!私は剣を握った時に確信しました!これこそ我が人生だと!』
『そうか…それを聞けて満足じゃ…』
祖父との最後の会話がこれだった。今思えばこの会話がお爺様の放浪を後押ししたんだと思い至る。なんだ、私の影響じゃないか。
『妖夢、お前はもっと自由に戦える筈だ、剣を使うことだけを自らの武器にして可能性を狭めるな。もっと本能に任せて戦ってみろ』
『ですが私の能力は剣術を扱う程度の能力なので…』
『その能力にしたってもっと自由に解釈しろ、いいか、剣というものは振られて初めて剣となり得るんだ』
『それはどういう…』
『俺が言えるのはここまでだ、後は自分で考えろ』
鬼童丸様、普段はあんなに優しいのに稽古になると人格が変わったようになる。けど本当に自分に向き合ってくれる、素直に尊敬出来る人の一人だ。そんな素晴らしい人達の弟子の私がこんなザマとは笑えるな。
────それでいいのか?お前は
良くない、ここで勝たなきゃお爺様や鬼童丸様や、何より幽々子様に合わせる顔が無い。
────ならば立たなきゃダメだろう
けどもう相手に勝てる確率はゼロに等しい、もうどうしようもないんだ。
────ならば、何故剣を握ったのかを思い出せ。そうすればお前はまだ戦える。
何故、剣を握ったのか……
そうだ、思い…出した!
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もうお終いだと萃香は倒れた妖夢に近づいた。どれだけ努力しようとまだまだ若輩に過ぎない半人半霊など萃香にとっては敵では無かった。光るところも見つけられず本当に鬼童丸の弟子なのかと疑うばかりだった。
「鬼童丸、お前の弟子はとんだ弱虫だったよ」
「今だ」
「!!」
ゾクリと、この戦いが始まって初めて萃香が相手の攻撃に警戒をした。それはただの倒れた状態から横一文字に剣を振っただけ、しかしそこにはさっきとは違い、明らかな『殺意』が乗っていた。萃香はそれを拳で受け流し飛び退く。
「お前…一体何をした…?」
「私は戦うことが好きなわけじゃなかった」
「何…?」
そう言った後突っ込んで荒々しく剣を振るう妖夢、そこに稽古で積んだ型など全くと言っていいほど無かった。あるのは剥き出しの闘争心。まるで獣が人の形をして剣を振るっているようだった。
「フゥー…!フゥー…!当たれ…!当たれ…!」
「さっきよりは速くなってるけど避けられないほどじゃないね」
「私は…殴られるのも蹴られるのも大嫌いだ…!」
「ふーん、そうなのかい」
「私はお前らのように被虐趣味は持ち合わせてないからな…!」
「言ってくれるね…!」
萃香は少しイラつき自分も攻撃を仕掛けた、右の殴打、しかし妖夢はそれに合わせて白楼剣の柄をぶつける、勿論弾き飛ばされるが構うことなくまた剣を振るう。もう避ける分の気力も体力も残っていないようだった。
「私は何故戦っていたのか…剣を握ったのか…それは」
「ごちゃごちゃとうるさい!さっさと死ね!」
萃香がまた蹴りを入れ、それを妖夢は剣を交差させて防御する。反応は出来ていても足が避けてくれない。腹に何発も食らい、もう歩くことすら困難だった。
それでも妖夢は笑った。そして叫ぶ。
「私は戦うことが好きなんじゃない!!『勝つ』ことが誰よりも大好きなんだ!!斬って斬って相手を完膚なきまでに叩き斬って勝利する!これに勝る愉悦は無い!だから戦うことをやめられないんだ!!」
狂ったように笑い続ける妖夢。刀を振り回し笑うその姿に、いつもの真面目で優等生な妖夢はいなかった。
「化けの皮が剥がれるっていうのはこういうやつを言うんだねぇ…」
萃香が呆れているその間も妖夢は鬼童丸との今朝のやりとりを思い出していた。
『それも踏まえて明日の試合では必ず当ててみせます!』
「そうだ!勝たなきゃ『明日』など無いのだから!勝たなきゃ死ぬ、それが戦うということなのだから!」
「ふーん、まあそれには同意見だけどねぇ…それを弱い奴が言うのは中々ムカつくよ!」
「負けるかぁああ!!!」
妖夢は斬る、自分の迷いすら斬り捨て、そして自らの壁をも斬り崩した。
「剣術と自分が認めたものが全て扱えるというのならば、こんなことも出来る筈!」
「なっ」
「ちぇりゃぁああ!!」
妖夢は自分の斬撃を霊力で飛ばした、機動力や体力を失った妖夢が出来る最善の方法。それは遠距離攻撃の作成だった。それは功を奏し萃香が面を食らったような顔でその攻撃を受けた。肩から胸のあたりまでを斬られ血が吹き出す萃香。
「よしっ!」
「チッ、面倒臭いね…」
「次は首を斬る!」
「もういいか…強くなったみたいだし」
そう言ったと思うと萃香は姿を消し妖夢の背後に立った。そして首筋に手刀を叩き込み妖夢を夢の国に誘った。
「鬼童丸の弟子に相応しくないっていうのは撤回させてもらうよ、あの時の覚悟を決めた時の目は師匠そっくりだった、まあお前個人を認める気はないけどね」
そう言うと萃香はふん、と鼻を鳴らしどこかに消えていった。そこに取り残された妖夢の顔はどこか満足気な顔をしていたという。
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「…んぅ、はっ!!幽々子様は!?」
「ここに居るわよ〜」
「ゆ、幽々子様!ご無事でしたか!?」
「あ〜…その事なんだけどね〜?」
「妖夢、すまなかった」
「き、鬼童丸様!?どうしたんですか!顔を上げてください!」
「今回のことなんだが、これは俺の仕組んだことだ」
「はえ?」
「お前に強くなって欲しくてな、それでも今回のことは全て俺の責任だ、どんな罵声でも受けよう」
「じゃ、じゃあ幽々子様は何もされていないのですか…?」
「えぇ、無事よ〜」
「よ、良かったです…本当に…」
「本当にすまなかった」
「別に良いですよ、私を強くする為だったんでしょう?それに、あの戦いは私に今までに無かったものを授けてくれました」
「いや、だがな」
「良いんですよ!!もう!それでも本当に悪いと思っているなら幽々子様の料理作るの手伝ってくれたらそれでいいです!!」
「わかった、手伝おう」
「鬼童丸様」
「なんだ?」
「ありがとう…ございました…あの戦いが無ければ自分の気質のことに戸惑い腐っていたかもしれません」
「お礼を言う必要は無い、さっきも言った通り俺が勝手にした事だからな」
「お礼は素直に受け取ってください!もう!」
「…わかった、受け取ろう」
妖夢は不貞腐れたように痛む身体を楽にするように寝転がった、それを見て微笑ましそうにする幽々子に鬼童丸。それを見て気恥しい気持ちになりながら、益々強くなりたいという気持ちが湧いてきた妖夢であった。