「うわぁ…」
一瞬だった、正直な感想を言うならばドン引きだ。幽香は殴られつつもそれをものともせず前に出てただただ殴り続けた。門番は門にめり込み気絶している。不憫だ…
『中々良いパンチだったわよ、やるじゃない』
もう全く傷が回復した顔に笑みを浮かべながら幽香は帰っていった。本当に戦いに来ただけかい!
他のとこも見てみるか…次は…あ!メイドさんだ!萃香と戦ってるみたいだな、どれどれ?
『ほれほれどうしたどうした?』
『くっ!何で当たらないの…!』
一瞬メイドが消えたかと思えばナイフが大量に出現し、萃香がそれを全て避ける。どちらが優勢なのかは火を見るより明らかだろう。萃香ももっと性格良ければアタックしてたのになぁ…(諦観)
『お前、時止めてるみたいだね?』
『な、何故わかった!』
『いや瞬間移動だったらどうしても行く先に目線が行くんだよ、けどそれがお前には無い。それにこのいきなり現れたナイフ、これは瞬間移動系の能力じゃ出来ないだろうしね〜。後はカンだよ』
相変わらず性格の悪い鬼だな、あんなふうに全部お見通しみたいな態度取られたら時間操作なんて強い能力持ってる奴にとっては焦りの元だろうに。
『私は…私はレミリア・スカーレットお嬢様の従者!負ける訳にはいかない!』
『はいはい…そういうの興味無いから…はぁ…やっぱり幽香と代わってもらうべきだったかなぁ…』
うわぁ…えげつないなこいつ、こういうある種戦うための理由を他人に預けている奴はこんな態度取られたら激昴する筈だ。
『舐めるなぁあぁぁあ!!!』
『別に舐めてないよ、最初からこっちはお前なんてアウトオブ眼中だからさ』
萃香はそう言いメイドに向かってスタスタ歩いていく、まるで散歩しているような優雅な足取りだ。
『ザ・ワールドォ!!』
『無駄だよ』
『なっ!!』
『餞別に教えておいてやるよ、私の能力は密と疎を操る程度の能力。それでお前の能力の密度を疎めたんだよ。疎めた能力は発動しないかもしくはレベルがかなり落ちる、お前はまだまだ弱いから完全に使えなくなったみたいだね』
『私の…能力を…』
『ちょっと時間はかかったけどねぇ、じゃあさよならだ』
そう言って拳を振り上げる萃香、これはやばくないか!?あの子人間だぞ!くっそ!間に合え!
「ちぇりゃ!」
「ぐっ!」
「えっ…!?」
ふー、ギリギリセーフ。ヤバかった、この異変はできるだけ死人は出さないことを前提にしてる。紫ちゃんが言うにはこの館の住人にはまだ利用価値があるとのことだ。別にメイドだからといってこの子に義理は無いが友人の紫の頼みなら仕方ない。
「鬼童丸、なんの真似だい?」
「この子は人間だ、下手したら死ぬぞ」
相変わらずの眼力、膝がガクガク震えそうだ。ていうか何でこいつこんな怖いの?宴の時はあんな明るいのに。
「関係ないね、勝者は敗者に何されても文句は言えない。そうだろ?」
「ならここで俺がお前を敗者にしてやろうか?」
あぁ!言っちゃった!ビッグマウスなとこ出ちゃった!俺と萃香が戦ったら五分五分と言ったところだ。鬼としてなら萃香、能力なら俺。俺が能力で萃香の能力を封じても鬼として殴りあったら俺が負ける。
「言うねぇ…やってみるか?」
「……」
無言で睨み合う俺達(俺はビビって何も言えなくなってるだけだ、強い強くないじゃなくてただ萃香の眼力がヤバい)
「…あぁもう!!わかったよ!やめりゃいいんだろ!やめりゃ!」
諦めたように萃香が頭をガシガシ搔く、そしてため息をついた後こちらをチラリと見る。
「その人間の為に鬼童丸、アンタがそこまでする必要はないと思うんだけどねぇ…」
まあこっちは紫ちゃんに言われてるからな、できるだけ生かしておけって。
「そこのメイド」
「何よ…」
「私は戦いたいから戦った。けどお前さんはどうだ?目の前の私そっちのけでやれ紅魔館だ、やれお嬢様だと言ってたじゃないか。そんな中途半端なこと言ってるから負けるんだよ、出直してきな」
そう言って萃香はいつものように霧になって姿を消した。便利だなぁ、その能力。
「言っておくけど…」
「なんだ」
「礼は言わないから」
「言われても困る」
めっちゃ目線冷え冷えやないですか、普通助けられた女の子がこんな目する!?するんやったら言うといてや!(半泣き)
「そう、ならいいわ」
「お前達には利用価値があるからな、それだけの話だ」
「…お嬢様に何か手を出すなら刺し違えてでも殺す」
そう言ってメイドも萃香と同じように姿を消した、萃香と違うところは一瞬で消えたところか。流石時を操る能力。
「ちょっと言い過ぎたか…」
後悔するように独り言を言う。何であんな言い方しか出来ないんだ俺は…
「気にしていてもしょうがないな、とりあえず館まで来たんだ。見て回るか」
歩いて回れば誰かしらには会うだろう、強いて言うならこのまま何も無く紫ちゃんの元まで着けばいいんだけどな。
「お兄さん、誰?」
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「フゥー…フゥー…」
「諦めなさい、そこがあなたの限界よ」
「ほざけ、クソ売女。貴様なんぞの攻撃かすり傷にもならんわ」
愚か、なんと愚かなのだろう。勝てないとわかっていながらも何度も何度も挑み続ける。その槍が届くまでに5回は殺せる。だというのに何故こんなにも粘る。何が目的なんだこいつは。
「もう降伏しなさい、貴方の運命はもうこれまでよ」
「私の、運命か…くっ、クックックックック…アッハッハッハッハッ!!」
「…何がおかしいのかしら」
気でも狂ったのかこの吸血鬼は、ならば私が介錯してあげましょう。ただし殺さないわ、ちょっと素直にさせる為に私の家に連れていくだけ。ふふっ、きっと今私の顔は鬼童丸には絶対見せられない顔になってるわね。
「いいかへっぽこ妖怪、私はな」
「もう御託はいいわ、終わりよ」
「私は、元から私の運命なんぞ勘定に入れてないのさ!!」
その時、後から何かが爆発するような轟音が聞こえてきた。なんだ!?これは…まさかこいつが何かしたのか!いや…無理だ、こいつの能力は直接働きかけるものでは無い。
「あぁ、フラン起きたんだな、存分に暴れて来い。そいつがお前の、運命だ」
「何を…まさか!?」
「お前の愛しい愛しい男を使わせてもらったぞ、悔しいか?」
「貴様ァ…!」
「さぁどうする?私を殺すか?だがそれはお前にとって悪い運命にしかならないだろうなぁ!」
「後で死ぬほど後悔させてやる…」
「吠え面がお似合いだぞ、三下」
私はひとまずクソ吸血鬼を無視し爆音の聞こえた方にスキマを開く。無事でいて…!鬼童丸!
開いたその先には、右手から先がない、鬼童丸の姿があった。
「…ぁあ、そんな、嘘、ごめんなさい、ぁ、鬼童丸、私のせいで」
「フラン、もう一発」
「ご、ごめんなさいお兄ちゃん。次はもっと上手くやるね」
「失敗は成功のもとだ、次はいける」
「うん!」
「へ?」
「紫か、もう少し待ってくれ。あともう少しだけ」
「お兄ちゃん、いけそう!」
「よし、やってみろ」
その瞬間、鬼童丸の左手に何故か持っていた林檎だけ綺麗に弾け飛んだ。
「や、やったぁあ!!お兄ちゃん!フランやったよ!」
「あぁ、見てたぞ。よくやったなフラン」
「えへへぇ…」
何故あの吸血鬼の、恐らく妹が鬼童丸に撫でられているんだ。何が何だか分からない…
「何が何だか分からないって顔ね」
こいつは…図書館の…確かパチュリーとかいう名前の魔法使いだ。何でこいつもここにいるんだ。
「私もあの恐ろしく強い亡霊に見逃されて玄関ホールに逃げてきたらこれよ、あいつの妹もいつの間にか出てきてるし理解が追いつかないわ」
「紫、終わったぞ。どうした?何かあったのか?」
「現在進行形で異常発生中よ…」
「そうか、俺に任せておけ」
貴方のせいなんだけど…けど優しい鬼童丸だ。私が何を言っても謝罪の言葉が出てくるだろう。それは私の望む答えではない。
「あの…何であんなことしてたの?」
「ん?いやあのフランって子が悩んでたみたいでな。その悩み改善の為に色々やってたんだが…久しぶりに片腕を無くした。能力で治すのは嫌いだから自然に治すことにするよ」
「あ、あのお兄ちゃん大丈夫?痛くないの?」
「フランの嬉しそうな顔を見たら全部吹っ飛んだよ」
「そ、そっかぁ…フラン嬉しいな!」
「後はお姉さんに直談判だ、俺もついて行くか?」
「う、うん。でも何も言わないで…見てるだけで良いから…」
「そっか、フランは偉いな」
「えへへ」
何この甘い雰囲気はぁ〜!?初めてあったにしては馴れ馴れしすぎでしょ!私飲みに誘うのでさえめちゃくちゃ緊張したりするのに、まさかこのぽっと出の吸血鬼は私の立ち位置を取ろうとしてる…!?
「じゃ、じゃあ行こう!お兄ちゃん!」
「あぁ」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って!鬼童丸!」
「どうした紫」
「いや、その」
「何か不具合でもあるのか?」
「そ、そう!私も行くわ!これも異変解決者筆頭としての義務ですから!」
「そうか、じゃあ一緒に行こう」
絶対負けないんだから…!いきなり現れてかっさらわれていくなんて耐えられないわ!これもあのレミリア・スカーレットの策略というのならあの吸血鬼の厄介さを舐めていたわね…
八雲紫は焦り出す、全て想いを早く打ち明けない自業自得だというのに。