「なぁ…答えておくれよ…鬼童丸」
いつもは飄々としている同胞の初めて見る妖しい艶姿、幼女の姿の筈なのに色気だけなら勇儀にも劣らない。長年生きてきた鬼としての魅了が遺憾無く発揮されていた。
どうしてこうなったかと説明するためには少し時間を巻き戻さなくてはいけない。あれは俺が紅魔館の主催する宴に知り合いを誘う為、妖怪の山に立ち寄った時である。
==============================================
「あやや!宴ですか、中々面白いネタがありそうですね!」
「ネタを提供するために呼ぶんじゃないぞ」
「わかってますよぅ!鬼童丸様はお堅いんだから!」
文が失敬な!という顔で俺の方を見てくるが新聞の為ならば何処までも潜入するマスゴミに対しては慎重にならざるを得ない。
見た目だけなら傾国の美少女とも呼べるくらいには整ってるのに勿体無いなぁ…
だが文はこんな性格だから親しみやすいのだろう、妖怪の山に入る時はいつも椛を初めとした色々なやつにめちゃくちゃオドオドされるから落ち着かせるのにいつも必死だ。
「それで私は行ってもいいということですね!?」
「何もしなければな」
「清廉潔白で通ってる文屋の射命丸文とは私の事ですよ?」
「それを言うなら悪逆非道だろ」
「そんなことありません!鬼童丸様ひどいです!」
あぁ…いいなぁ…この何か気安い感じ、凄い安心する。多分こいつとは一生こんな感じだろうな、文がボケて俺がそれにツッコミを入れる。別に示し合わせたわけじゃないけど淡々と途切れることなく話が続いていく。割りと付き合いが長いから出来ることだ。
「そういえば鬼童丸様の嘘のような噂をお聞きしましたが」
「ん?なんだ」
「お、お嫁さんを探していると」
「あぁ、あれか」
「嘘ですよねー!まさかあの鬼童丸様が」
「本当だぞ」
「ははは…はは」
「本当だぞ(二回目)」
「えぇえええ!!嘘ですよね!」
どんだけ聞いてくるんだこいつ、ていうか失礼じゃない?俺そんなに女っ気ない感じするの?「あの人めっちゃ童貞感凄いww」って裏で馬鹿にしてたの?(被害妄想)
「中々失礼だな、その言い方は」
「あぁ!痛い!痛いです!アタマガワレルー!!」
少し緩めにアイアンクローしながら顔を近づける、こいつはこんな性格しているが腐っても大妖怪の一角。余り手加減はしなくていいから助かる。
「うぅ…ひどいです…か弱い乙女の頭蓋骨を砕こうとするとは…」
「何処にか弱い乙女がいるんだ…?」
「鬼童丸様なんか私にだけ酷くないですか!?」
「それだけお前には遠慮していないということだ、喜べ」
「えっ…!?いや、その…うへへ…はっ!うまいこと誤魔化された!?」
ちっ、すぐ気づきやがった。烏頭だから上手くいくと思ったんだがな…
「それでお嫁さん探しというのは…」
「独り身が嫌になったんだ、ただそれだけだよ」
「ほうほう、独り身が…妖怪でそんなこと考える方は珍しいですね」
「別におかしな話じゃないだろう?人も妖怪も等しく孤独は怖い、だから寄り添い合う。何も違いは無いさ」
「ふーむ、わかりました!あと、女性の好みを教えてください!」
「待て、取材になってないか?」
「取材ですよ?」
「ならこれ以上は話さない」
「鬼童丸様、ですがこれはチャンスかと」
ほう…マスゴミだから記事であらぬことを書かれそうだと思って拒否したが聞く価値はあるかもしれんな。あといきなり真面目な顔するのやめて、顔が整ってるから余計怖い。
「鬼童丸様が嫁を探しているということが幻想郷に広がれば、それだけ出会いも増えるのでは?」
「だが余り顔や名前が目立ちたくない、結婚するにしても落ち着いた環境がいいと考えているからな」
「鬼童丸様、それは無理です(無慈悲)」
なん…だと…(驚愕)文にあるまじき真顔で突きつけられた言葉は余りにも残酷で冷徹だった。ちょっと真顔怖過ぎて漏らしそう。
「鬼童丸様は自分の影響力がいかにこの幻想郷において重要になっているのか本当に自覚していらっしゃるのか…」
「なんだと?」
勇儀と同じことを言ってくる文、どいつもこいつも俺のことを過大評価し過ぎなんだよ。俺が結婚したところで何も起きないよ。
「これは烏天狗の射命丸文としての言葉です、このままだと貴方の奥様になられる方は殺されます」
「嘘だろ…」
「妖怪の山を自由に行き来できるほどに上役にパイプを持っている鬼なのにも関わらずどこにも属さずに勝手気ままに生きているのは流石にヤバいです、絶対奥様が人質に取られます」
「じゃあどうすれば…」
「だから記事にして広めるのです、貴方の奥様が誰かがはっきりと周知されればそんなことをしようとする不埒な輩は減るはずです」
「ふむ…一理あるな…」
俺の影響力がどうこうとかわからないが文がこんな真面目な顔で言うんだ。絶対間違いない、けして俺を騙して記事を盛り上げたいからじゃない筈。
「分かった、従おう」
「流石鬼童丸様!さすきど!」
「変な略し方するな」
だがきちんと俺のことを考えてくれる文はやはり良い奴なんだろうな、いつも能天気な顔で色々な妖怪に冷たくあしらわれても文句一つ言わないところも性格が良いからできることだ。
「ありがとな、文」
俺は文の艶やかな黒髪を手櫛で解くように撫でた、いつもならこんな気取ったことはしないが今日はどうしてもしたくなった。思えば、ここで調子に乗らなければあんな酷い目に合わなかったんだな。
「も、もう!鬼童丸様は相変わらず私の事大好きですね!」
「ははっ、ぬかせや」
「なに…してるんだい…?」
そこには百鬼夜行の主、伊吹萃香がいた。そして今の状況をシンプルに表現をすると、かなりヤバい。逃げたいです(切実)
============================================
「あのメイドを守った時からちょっとおかしいと思ってたんだよ」
「何がだ?」
「アンタがどんどん毒されていってるって思ってね」
「俺は元々こんな感じだろう?」
「違う!!!!!!!」
うわっ、びっくりした。かろうじて心肺停止で済んだ(即死)どうしよう…めっちゃ怒ってるじゃん…俺なんかしたっけ?
「アンタは昔はまるで研ぎ澄まされた刀のようなやつだったよ…誰一人妖怪退治の陰陽師達を触れさせることも無く追っ払ってた、そんな姿に憧れたんだ…私は」
溜め込んだ感情を爆発させるように萃香は吠えた、それは鬼本来の怖さなのだろうが俺にはまるで駄々っ子のように見えた。
「認めない!!何が嫁探しだ!もっとアンタは…鬼童丸は…もっとかっこよかった!!!」
……えっ、普通に傷ついたんですけど。友達にいきなりお前カッコ悪くなってるなって言われた時の気持ちだわ、そのままだな。
「せいぜいその烏天狗とイチャコラしてるといいさ、首を洗って待ってろ」
「き、鬼童丸様…」
文が涙目でこちらを見てくる、自分のせいだと思っているのだろう。しかし俺から言わせれば萃香の言い分などただのガキの我儘だ。誰だろうと時代を経て変わっていく、不変の存在などただの無機物でしかない。それを認められないのなら一人で生きていくことだ。
「文、気にするな。三日もしたらアイツも元通りになってるだろう」
「で、でも私のせいで」
「何かあっても俺が何とかする」
「鬼童丸様…」
正直な話をすると確かに俺は弱くなった、全盛期の六割も満たない程に。だが俺はそれを良しとしてる、誰かを守れる最低限の力があればそれで十分だ。
昔のようにはなりたくない。無差別に喧嘩を売り、傷つけ合いながら生きていくのはもうたくさんだ。
とかカッコつけてみたが、もし萃香が何か仕掛けてきたら今度こそ俺は殺されると思う。アイツ強すぎィ!!(恐怖)