鬼という種族だからといって皆が皆酒が好きと言うわけでは無い、しかし俺は結構酒が好きだ。個人的に萃香や勇儀のようにドバドバ飲むのではなくゆっくりつまみと一緒に友人と語らいながら飲むのはたまらなく楽しい時間だと思う。
「おお、豪勢ですねー」
「きゅうりのつまみはあるかなー?」
テーブルに並ぶ数々のご馳走、ローストビーフに焼き立てのピザ、カルパッチョ。和食ももちろんある、天ぷらやら刺身に炊きたての白ご飯まで何でもござれだ。酒飲みに来たのにガッツリ食事が用意されてる…
「驚いたかしら?」
「ああ、正直かなりな」
「和食はあのスキマ妖怪の従者に用意して貰ったわ、洋食が口に合わなかったら大変だもの」
「藍の手料理か…楽しみだ」
「あら、うちの咲夜の手料理は楽しみじゃないの?」
悪戯っぽい顔でそう言ってくるレミリアさん、俺はこういう場合どうしたらいいんだろう。ほんとこういう質問困るわ、言ってる本人は楽しんでんだろうけど。ふざけんな!(憤怒)とりあえずちょっと予想してみよう。
「はい!楽しみです!」→「は?うちの可愛い咲夜になに色目使ってんのよ!!!」
「いえ!楽しみじゃないです!」→「は?殺す(豹変)」
どっちにしろ死だな、ここは無難に切り抜ける為の最適解を探そう。
というか俺とあのメイドさんは全然仲良くないからあんまりグイグイいったら不自然だな。
「楽しみではあるが…」
「が?」
「俺なんかに期待されてもあの子は煩わしいだろう」
「はぁ一…自己評価低すぎよ貴方、出来れば直接味の感想を咲夜に言ってあげて?多分喜ぶから」
「そんなもんか?」
「ええ、そんなもんよ」
ええーほんとぉ?と疑心暗鬼になりつつビュッフェ形式なので皿に料理を入れ始める。最初は温かいもので固めよう、ローストビーフに…フライドチキンもあるのか。酒のツマミとしてはボリューム感満載過ぎるかもだが美味そうなので盛り付ける。先に行ってたにとり達が席に座っているようなのでそこに皿を置く。
「いやー美味しそうですね!鬼童丸様!」
「そうだな、食べ過ぎてしまいそうだ」
「鬼童丸!きゅうりの浅漬けあったよ!」
「そうか、俺も後で取りに行こう」
もう一度和食のコーナーに料理を取りに行く、こういうのいいな。紫に連れられて何回か外の世界に食べに行ったことがあったがこのいろいろ料理を決めている時間がたまらないと感じる。少し子供っぽいと言われても致し方ないがな。
「鬼童丸様、楽しんでますか?」
「藍」
「和食は私が作ったので新鮮味に欠けるかもしれませんね」
「そんなことは無い、いつも新鮮に感じているよ」
「ふふ、ありがとうございます。そういえば、後で紫様と共に鬼童丸様のテーブルに行っても宜しいですか?」
「ああ、いつでもくるといい」
そう言うと満足そうにテーブルに戻っていく藍、紫はもう飲んでるようだ。少し赤くなりながら幽々子とワインを開けている姿が見える。
「ねぇ」
その妖怪は緑髪を揺らし、いつも肩に掛けている日傘を折りたたみ、優雅にこちらに声をかけてきた。
「貴方、めちゃくちゃ弱くなってるわね」
「幽香、来てたのか」
「来てちゃ悪いのかしら」
「そんなことは無い」
「じゃあ話を逸らそうとしない、貴方の悪い癖よ」
この風見幽香とも前言ったように結構付き合いが長い古くからの友人だ。そういえば最近はガチで殴り合うことは無くなったな。俺に飽きたのか幽香が優しくなったのか。
「それで、貴方何でそんなに弱くなったのよ」
「別にいいだろう、弱くなろうが俺の勝手だ」
「誰かに封印でもされてるのかしら、それならばそんなことしたやつを嬲り殺しにしてくるのだけど」
「やめろやめろ、俺はお前にそんなことして欲しくない」
こんなこと言っていても根は優しい花妖怪なのだ、幽香が怖がられているのは花畑を荒らそうとした奴に対しての制裁が過激過ぎるからでしか無い。実際、花を好きな子供に無償で花をプレゼントしたり老人の為にわざわざ家まで花を届けに行くほどに良い奴なんだよな。
「…理由としてはもう俺が戦う必要が無くなっていくからだ」
「それはどうゆうことかしら」
「幻想郷はどんどん平和になっていく、紫が奮闘してくれてるおかげでな。そんな幻想郷の時代の流れで俺の力は余りにも過剰過ぎると感じたんだよ」
「貴方、腑抜けたわね」
「…そうだな」
「大体貴方は鬼の癖にいつも優しすぎるのよ、花を踏まずに歩こうとする鬼なんて今まで見たことないわよ私は」
「お前が必死に育てた花だからな、当たり前だろう?」
「そういうとこよ」
まあ踏もうとするとビーム飛んでくるからしょうが無い、それに美味い紅茶と茶菓子を出してもらえなくなるのは痛いからな。
「私は貴方が弱くなろうが強くなろうが関係無いわ、喧嘩は売るし一緒にお茶は飲む、この関係性は何処までも変わらない。でも私以外は違う、そうでしょう?それは一番貴方が理解してる筈よ」
「それは、そうだな…」
いつも幽香は俺のことを見透かしたような目で見てくる、萃香のこともこの調子ではバレてそうだな…まあバレてないにしろ勘づいてはいるだろうな。
「辛くなったら私の家に来なさい、せいぜいこき使ってやるわ」
「ではそうならないように気をつけよう」
「ええ、気をつけることね。じゃあまた」
そう言って幽香は帰っていった。俺に用があっただけのようだ、それにしてもあの何者にも縛られないスタイルは見習いたいものだなぁ…
「鬼童丸様〜!乾杯しましょ〜!!」
「鬼童丸〜!」
「あぁ、今行く」
とりあえず今は何も考えずに飲みたいだけ飲むに限るな。あ、あと俺は『鬼殺し』でお願いします。
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「すぅー、すぅー」
「ぐがー、うへへ…」
二人とも飲み過ぎて寝てしまったようだ。相変わらずにとりのいびきはおっさんみたいだなぁ、そう思いながら上に羽織っていた着物を二人に被せる。風邪を引かれたら申し訳ないからな。
「優しいのね」
「優しくはない、これもただの自己満足だ」
「またそんなネガティブなことを…」
レミリアさんにまたいきなり声をかけられてしまった。この人と話すと無意識に緊張するんだよな、多分俺の方が年上だろうけど。それにしてもこの人は容姿に反して大人っぽいよな、フランのように歳相応の性格ならば自然な感じで接することが出来るんだけど…容姿と態度が一致しない。
「咲夜には感想言ってきた?」
「ああ、表情がひとつも変わらなかったがな」
「喜んでるわよ、緊張して顔に出ないだけで」
「それは無いだろう」
「あるのよ」
「そんなもんか」
「ええ、そんなもんよ」
そう言ってまた悪戯っぽく笑う紅魔館の主、酒が入っているせいか顔が赤くていつもよりかは笑顔が多い。こっちの方が可愛いな。
「ごめんなさいね」
「何故謝る」
「私は貴方がフランを救ってくれるという未来が見えていた。そしてその運命を掴むために貴方を利用したの、正直罵倒されても仕方ないと思っているわ。私はフランを救うために貴方の本来の運命を捻じ曲げてしまった」
「まさかレミリアさんの能力は…」
「そう、私は『運命を操る程度の能力』そして、本筋の運命から伸びている数々の可能性を手繰り寄せることが出来るのがこの能力の力。つまり、貴方の今のこの状況はお世辞にも正史とは言い難いのよ」
そう言って目を伏せてしまうレミリアさん、本当に後悔しているものの顔だった。姉としては正しいことをしたと思っているのだろうが、やはり罪悪感が残ってしまった。数々の心の棘が抜けようともレミリアさんの心はまだ傷だらけなのだろう。
「レミリアさん、いやレミリア」
「ええ」
「俺は君を許すよ」
「え…何で…」
「そもそも俺はそれを聞かされても怒ってない」
「そ、そんな筈は無いわ!普通なら自分の運命を勝手に使われていたと知れば怒り狂う筈よ!」
「フランの顔を見たか」
「!」
「楽しそうな顔だった、本当に」
「それ、は…」
「レミリア、俺の運命を使ってフランを笑顔にしてくれてありがとう。俺はあの笑顔を見れて本当に嬉しかった」
「…!!」
エゴでも、偽善者と呼ばれようとも男という生き物に生まれたからには可愛い女の子の笑顔が見たいと思うのは普通のことだ。自分の運命如きで笑顔になってくれたならばそれは本望とも言える。
「俺は根っからの阿呆だからな、細かいことは考えず生きてる。だがこれだけはわかるんだよ」
「みんな笑ってるんだ、それでいいだろう?」
「ああ………──そうね、そうだった。そういう男ね貴方は」
「これからもお前とは長い付き合いになりそうだから言っておくがな、とりあえず笑っとけ。それだけで俺は喜ぶからな」
「ふふっ…何よそれ」
「おお、いい笑顔じゃないか。女は笑顔の時が一番綺麗だからな。それに、レミリア」
「何?」
「女の笑顔を見ながらの酒が一番美味いんだよ」
そう言って残っていた『鬼殺し』を飲み干した。