私は姉妹の落ちぶれです。
授業を聞くだけで勉強が学年で一番できる。
スポーツは言うまでもなく完璧。
絵を描けば何かしらの賞に入賞する。
何でもできるその人のことを周りは「天才」と呼んだ。
♢♢♢
「朝日!これは何!?」
「何って見ればわかるでしょ、英語の答案用紙」
「じゃあこの点数は!?私たちの顔に泥を塗るつもり!?」
「85点で汚れるなんて、相変わらず心が狭いね母さんは」
「っ!親に対してなんて物言いをするの!」
「さあ?アンタが育てた子じゃん」
85点で怒られるテスト。
自分のことしか考えていない親。
放任主義のくせに変に絡んでくる。
私は全てが嫌いだった。
「あれー?おねーちゃんとお母さんどうかしたの?」
「あら日菜ちゃん。なんでもないのよ」
そして何より使える駒には猫を被る。
日菜は優秀だから手元に置いておきたいんだろう。
自分の子供はこんなに出来る子なんです、って言いふらしたいだけ。
子供は親を輝かせるためのアクセサリーだとでも思っているんだろう。
考えることが見え見えで吐き気がする。
「…はぁ、私部屋に戻る」
「おねーちゃんご飯は?」
「食欲ないからいらない」
こんなクズの作る物なんて食べたくない。それが本音。
この人の作った物を食べるくらいなら一食抜いたって構わない。
何より自分で作った方が上手い自信がある。
私は部屋に戻ってすぐノートパソコンを立ち上げた。慣れた手つきでマウスをクリックしゲームの画面を開く。
本当ならデスクトップのパソコンを3台ほど並べてやりたいところだがあの親に見られたら最後、売られるか破壊される未来しか見えない。
見慣れたタイトル画面を進んでいけば既にフレンドがログインし待ち構えていた。
〈あっ!ひっさー!待ってたよー!〉
悪魔の格好をした少女は笑顔で出迎えてくれる。
隣にいたウィザードも微笑んでいた。
〈ごめんね、りんりん、あこちゃん。遅くなった〉
〈全然大丈夫だよひさちゃん〉
〈今日は入るの遅かったね。何してたの?〉
〈ちょっと親と話してて…〉
嘘は言ってない。
ちなみに「ひさ」というのは私のこの世界での名前だ。
〈今日は期間限定クエスト行くんだっけ?〉
〈うん!激レアアイテム出現率アップと聞いたら行かないと損だよ!〉
〈私も今回のアイテムで新しい装備を作りたいので〉
〈おっけー。なら早速行こうか〉
彼女たちはネット上で最近知り合ったパーティメンバー。このゲームに潜っている時は高確率で遭遇する。
いわゆるネッ友さん。一人称が私だから女の人だと思っているけど実際どうかわからない。明らかに女性のプレイヤーネームでも男性の可能性がある。
というかこういうゲーム自体男性のプレイ率が高いんだから仕方のないことだろう。
〈やったぁぁ!激レアアイテムゲット!!〉
〈よかったねあこちゃん〉
〈今日の目的はこれでクリアかな〉
〈うん!ありがとうりんりん、ひっさー!〉
〈いいよ。どうせ暇だったから〉
そうキーボードに打ち込みつつ手元の置き時計の時間を見た。
22時。頃合いだろう。
〈もう私は寝ようかな〉
〈ひっさーちょっと待って!〉
〈どうしたのあこちゃん?〉
〈あのね今週の土曜日って空いてる!?唐突なんだけどオフ会しませんか?〉
オフ会。ネット上で知り合った共通の趣味を持つ同志達がリアルで会うこと。全世界の人達のいくらかはやったことのある行為ではなかろうか。
だが自分がやるとなると覚悟がいる。
もし相手が年上のガタイのいい男性だった場合逃げたくても逃げられない。傷物になってしまうこともありえるからだ。
だから普通に考えてオフ会というものは相手のことを前もって知っていなければやるのは危険だと私は思っている。
なので私としても結構悩みどころだが‥‥まあ、いいか。
私の身に何かが起こったところで両親が心配するはずがない。
妹たちは心配するかもしれないが、もしそーゆーことになったとしても隠し通せる自信はある。
今まで周りを騙して来た演技力舐めるなよ。
〈いいよ。私も二人と会ってみたいと思ってたし。場所はどこにするの?〉
〈ひさちゃんは東京に住んでる人?〉
〈そうだよ〉
〈場所決まったらSNSで連絡するね〉
〈わかった。じゃあ今週土曜日ね!楽しみにしてるよ!おやすみ〜〉
〈おやすみー!〉
〈おやすみなさい(*˘︶˘*)〉
ゲームからログアウトしパソコンをシャットダウンする。
椅子の背に体重を預けふっーと一息吐いて目を閉じた。
脳裏によぎるのはやはりフレンドの彼女たち。
私の予想ではあこちゃんは明るい子でりんりんは優しい子だと思う。
まあゲーム内とリアルじゃ全然違う可能性もあるから何とも言えないんだけど。
せめて女子であってほしいなー。
もうそろそろかな。
「朝日、来なさい」
扉越しに聞こえた1オクターブ低い声。ため息を吐いて腰を上げた。
また今日も悪夢の時間が始まる。
♢♢♢
「っ!かは…っは!」
「あんたがいなければ私の顔に泥を塗らなくて済むのに!なんであんたは!!」
理不尽な理由で殴られるのほもう日常茶飯事で、だいたいやられるのは夜遅く。紗夜と日菜が部屋にいる時。
殴ったり蹴ったり、腕や足だけでなくお腹までやるもんだからさすがに死にそうにもなる。背中を全力で蹴られた時は息が止まって本当に死ぬかと思った。
言うんだこいつらは。
テストの点が悪い。
スポーツなんか出来もしない。
その上素行不良。
なんでそんな面汚しがここにいるんだ、って。
私がそうなっているのは全部こいつらのせいなのに。
私が全部悪いということになっている。
「お前、何してるんだ」
「あらお父さんおかえりなさい。今丁度悪い子にお仕置きをしていたところよ」
何がお仕置きだ。ただのストレス発散だろ。
「そうか。なら俺からも教育が必要だな」
そう言ってこいつらはまた私を殴ったり蹴ったりする。さっきと違うことといえば一人が私を押さえつけた上で殴れるところだろうか。
正直意識が朦朧としすぎて何をされてるかよくわからない。
「今日はこのくらいで勘弁してやる。感謝しろ」
「あと誰かに相談なんかしないでね。その時はもっと酷い目に遭わせるから」
寝室に戻る両親の後ろ姿を眺めながら下がっていく瞼を受け入れた。
次に目が覚めたのは夜中も3時を回ったところ。
痛む身体を無理矢理起こして自分の部屋へと足を進める。リビングで寝ていたとなると紗夜や日菜に勘づかれてしまう。それだけは困るんだ。
右足に力を入れれば激痛が走るし頭がフラフラして壁伝いじゃないと真っ直ぐ歩けない。
なんとかして自分の部屋の扉を開け中に入った。鍵をかけてその場に倒れ込む。
本来ならケガのケアをしないといけないんだろうけど今の私にそんな気力はなくて、自然と下がる瞼をまた受け入れた。
それが週一以上のペースで行われる。体調崩すのも素行不良になるのも無理ないだろう。
だって、誰かがこうならなきゃいけないんだから。
誰もが望んでいるはずのハッピーエンドを私はきっと迎えることができない。