不良少女(仮)   作:茜崎良衣菜

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言い争いはしたくないが。

 

 

「紗夜!この点数は一体なんだ!?」

 

「朝日ちゃんと日菜ちゃんより15点も下なんて、ちゃんと勉強したの!?」

 

「…ごめんなさい」

 

「謝れと言っているんじゃない!結果を出せと言っているんだ!」

 

「次のテストはこれより上がっていないとダメよ!わかっているわね!」

 

 

 

返ってきたテスト。日菜と私は1位と2位。

喜び、褒められた私たちと違い20位ほどだった紗夜は怒鳴られ、罵倒された。

中学1年の後半。

 

 

その光景を偶然影から覗いていた私は見てしまった。

 

怒ることでもないのに両親が紗夜にキレたのを。

そのことに対して、紗夜が泣くのを堪え、震える身体を無理矢理押さえつけ、拳を握りしめているところを。

それが中学生の私には許せなかった。

 

 

ただそれだけの話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

 

 

「付き合ってくれてありがとうございます朝日さん!」

 

「いいよ全然。それより、買う物ってそれだけでよかったの?」

 

「はい!助かりました!」

 

 

 

日曜日、私はあこちゃんと共にショッピングモールに来ていた。

なんでもあこちゃんが学校で使うシャーペンの芯やらノートやらが切れたらしく、今日までに買いたかったそう。それでオフ会ついでに買い物に付き合ってほしいと連絡が来たのだ。予定はなかったため了承した。

りんりんは家の用事で来られなかったらしい。

そして買い物も無事終わったためカフェでお茶をしていたのだ。

 

 

 

「今日Roseliaの練習はなかったの?」

 

「練習はこれからです。なので忘れないうちにと思って…」

 

「そっか。練習、頑張ってね」

 

「はい!」

 

 

 

あー可愛い。なにその笑顔。あこちゃん天使かよ。見てるだけで癒されるわ。妹にでもならないかな。

 

 

 

「あ、あこそろそろ行かないと…」

 

「そう?私はまだここにいるから練習行ってきていいよ」

 

「そうですか?ならお金渡しておきますね」

 

 

 

は?天使にお金を払わせるだと?できない。そんなことしたら天から罰が下る。天使にお金払わせるなんてできない。

 

 

 

「いやいいよ。奢ってあげる」

 

「え!?で、でも」

 

「いいからいいから。ほら、早く行かないと遅れちゃうよ」

 

「…本当にいいんですか?」

 

「いいって。頑張ってきなよ」

 

「ありがとうございます!!」

 

 

 

あこちゃんは勢いよく頭を下げてカフェから出て行った。笑顔で手を振ってくれる。マジ天使。

 

残っていたカフェオレに口を付ける。何気なくスマホでSNSを眺めること約10分、目に入ったものに驚く。思わず二度見していた。

私の対面の机の下、そこにあったのはNFOのコラボバッグ。誰のものかなんて考えなくてもわかった。

手に取り中身を確認すればスマホ、財布、ドラムスティックが入っていた。頭を抱える。

 

 

あの子は一体何しに行ったの。バンド練習じゃないの。スティックいらないの。しかもお金払おうとしてたのに財布ここに入ってるってどゆこと。いやそもそもスマホ入れたままにされたら連絡の取りようがないし。はーバカ。ホントおバカ。でもそんなところも可愛くて好き。愛嬌しかない。

 

とりあえず、と思ってりんりんに連絡を取ることにした。

この前交換した連絡先に電話を掛ける。

 

 

 

「…もしもし」

 

「あ、りんりん?私、朝日だけど」

 

「…朝日、さん…?どうか…しました、か?」

 

「今からバンド練習なんでしょ?そこにあこちゃんいる?」

 

「あこちゃん…?まだ、ですけど…」

 

「あのねさっきまであこちゃんとお茶してたんだけど鞄忘れてったみたいで。今からそっちに届けるからあこちゃんが来たら伝えといてくれると助かるんだけど」

 

「…わかり、ました……位置情報…送ります…」

 

「ホント?ありがとうりんりん。それじゃあまた後で」

 

 

 

私はあこちゃんの荷物を背負い会計を済ませ店から出た。その間に送られてきた地図に少しばかり驚いてしまう。しかしあこちゃんのためだと思い歩き始めた。

 

15分後。辿り着いた場所はライブハウス「CiRCLE」。この文字を見るのですら実に二、三年ぶりだ。

懐かしいな。まさかまたこのライブハウスに訪れる日が来るなんて。

 

扉を開けば冷気と共にスタッフであろう声が耳に届いた。視界に入った人物に固まる。相手も同じ様子だった。

 

 

 

「え、あ、朝日ちゃん!?」

 

「…お久しぶりです。まりなさん」

 

 

 

CiRCLEの従業員、月島まりなさん。

私がまだギターを弾いていた頃にお世話になった人だ。

 

 

 

「久しぶりだね。会わない間に、なんか印象変わった?」

 

「そうですか?」

 

「うん。なんだか大人っぽくなったって言うか」

 

「そんなことないですよ」

 

「ううん、絶対そうだよ。私が保証する」

 

 

 

最後に会った時とか変わらない。明るくて話しやすい。会わなくなって二、三年ほどだが五年くらい会ってなかった気分だ。

 

 

 

「それで、今日はどうしたの?またギター弾きに来た?」

 

「…いえ。今日は知り合いの忘れ物を持って来ただけで。まりなさん、Roseliaってどこのスタジオに入ってますか」

 

「Roselia?…あ!朝日ちゃんってもしかして紗夜ちゃんの姉妹か何か?」

 

「紗夜は私の妹ですよ」

 

「そっか!納得だよ。すっごく似てるもんね!」

 

 

 

それは外見だけで性格は正反対だけど。知ったらまりなさん驚くかな。

 

 

 

「ああ、引き留めてごめんね!Roseliaなら三番のスタジオだよ」

 

「ありがとうございます」

 

 

 

お礼を言って三番のスタジオに向かう私に付け足しでまりなさんの声が届いた。

 

 

 

「朝日ちゃん!いつでもここでギター弾いていいからね!」

 

「…考えておきます」

 

 

 

できないとは言えない。だってまりなさんは私のことを最後まで応援してくれて、突然消えた私にも何も言わず笑顔を向けてくれたから。

 

そんな人にギターはもう弾けないなんて言えるわけがない。

手首を握った。

 

 

三番スタジオはすぐそこだ。あこちゃんに荷物を届けて、任務は完了。仕事場でゆっくり小説のネタでも考えておこう。

 

 

扉を開けば人が5人いた。

あこちゃんの隣にはりんりんがいて、何やら楽しげに会話をしていた様子。対してギターのチューニングをしていたのであろう紗夜はキョトンとしていた。他の二人は首を傾げている。

 

 

「あの、どちら様かしら?紗夜によく似ているけど」

 

「えーっと?」

 

「あ!朝日さん!」

 

 

 

そんな空気を破るようにあこちゃんはこちらに駆け寄ってくる。そんな彼女に荷物を渡せば笑顔が返ってきた。可愛い。

 

 

 

「はいこれ。次からは忘れないでね」

 

「はい!ありがとうございます!」

 

「それじゃあ用事は済んだから帰るね」

 

「待ってください」

 

 

 

引き止めたのはやはり分身様。

明らかなあこちゃんとのテンションの落差を感じる。ギターを置いて私の元へと向かってきた。

 

 

 

「…何用かな?練習、しなくていいのか」

 

「それはこの後します。それより、どうしてここにいるんですか」

 

「そりゃ、彼女の忘れ物を届けに来たからだよ」

 

「…宇田川さんと知り合いなんですか」

 

「だったら何?紗夜には関係ないことだろ?」

 

「どうして宇田川さんの物を持ってたんです」

 

「今日会ってたからね。その時に」

 

「…変なこと吹き込んだりしてませんよね」

 

「変なこと?私が何を吹き込むってのさ。いい加減学校以外で風紀委員モードやめなよ。お堅くて呆れる」

 

「それは姉さんの素行の問題でしょう!私が悪いみたいに言わないでもらえますか!?」

 

「いちいち声荒らげるなようるさい。感情のままに行動するから紗夜はダメなんだよ。寛大になれば?そうすれば日菜とも向き合えるでしょ?」

 

「姉さんだって私のことは何も言えないじゃないですか!日菜から逃げてるのは姉さんも同じ」

 

「自分のこと棚に上げんな。そういうことは自分が向き合えてから言えよ」

 

「っ!?姉さん!」

 

「なあ紗夜。いつまで私と言い争ってる気?」

 

 

 

後頭部を掻きながらいつもより低いトーンで呟けば、驚いたのは紗夜だけではない。りんりんも隣のあこちゃんも、茶髪ギャルに銀髪も。その場の空気が一瞬で固まった。

 

 

 

「日菜に負けたくないって言うんなら、今のままじゃダメだってわかってるだろ。なら、ちゃんと考えて行動しろ。私なんかに構ってるな。それが紗夜の敗因でもあるんだから………ッ!?」

 

 

 

目の前の紗夜は悔しそうな表情のまま俯く。拳は握りしめられ震えていた。泣いてはいないだろうけどやってしまった。

 

あの日の姿が蘇る。

 

言い過ぎた。いくら嫌われようとしたからってこれはやり過ぎだろ。紗夜の努力も気持ちも知っておきながらこの言い方は酷い。最低だ。

 

 

でも今更否定することもできず私は紗夜をそのまま、逃げるようにスタジオから立ち去った。

 

 

 

 

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