「‥‥‥‥‥ねー有咲。有咲ってさ大切な人っている?」
「なんですか突然」
昼休み。いつもは猫耳たちと一緒に昼を食べているらしい有咲だが、今日はりみちゃんが休みで猫耳とおたえが補習だとかで私と沙綾の三人で一緒に食べていた。
私は一足先にお昼を食べ終わり寝転がっていた。有咲は「食べてすぐ寝ると太っちゃいますよ」なんて言ってたがそんなもん迷信に決まってる。
沙綾は飲み物を買いに出て行った。
有咲と二人きり。特に何か話すわけでもなく各自適当に過ごしていた。そんな時不意に頭をよぎった質問をそのまま有咲に投げる。
スマホを眺めていた有咲は「何企んでるんですか」と言いたげだが私は何も企んでいないから。怪しげに見ても何も起こらねーぞ。
「いいから。いるの?いないの?」
「‥‥そりゃあ、いますけど‥‥‥‥」
「それってさ、有咲にとってどんな立ち位置の人」
「‥‥ばあちゃんとかですね」
家族か。そうだよな。一般的にはその答えが正しいよな。
私も間違っちゃいないが、半分くらいは不正解。
「なんでそんなこと聞くんですか?」
「‥‥なんとなく、としか言えないよ」
「先輩の大切な人は紗夜先輩と日菜先輩ですよね?」
「‥‥‥‥」
私の大切な人。紗夜と日菜。
間違いない。間違いないはずだけど。なんだろう少し腑に落ちない感じは。今までは自信を持ってそうだと言えていたはずなのに。
「‥‥‥‥先輩‥‥?」
有咲は心配そうに私のことを覗き込む。
ダメだダメだ。有咲にそんな顔させたら。
「いや。有咲の言う通り、私の大切な人は紗夜と日菜で間違いないよ」
「‥‥そうですか」
怪しんでるな。仕方ない、ここはおちょくってやろう。
「あー。心配しなくても有咲も大切だから。拗ねるなよ」
「は、はぁ!?そんなんじゃないです!!」
「私に名前があげられなくて寂しかったんだろ?仕方ないなー抱きしめてやるよ」
「ちょ!先輩!」
私は起き上がって有咲を抱きしめる。腕の中で抵抗されるが離してやらない。
有咲には間が空いていたことを不思議に思われただろう。無理に気を紛らわせようとした結果がこれだが、なんか急に恥ずかしくなった。それを誤魔化すように言葉を並べる。
「ホント有咲は可愛いなー。恥ずかしがらなくても私はわかってるから」
「か、からかわないでください!てか離して!」
「離さないよー」
今顔見られたら絶対赤いだろうし。
けど、なんかあれだな。こんなやり取りしてたら少し不安になってきた。
私はいつまで有咲とこんなくだらないことを続けられるのかな。
「‥‥ねえ有咲。有咲は私のこと、裏切ったりしないよね。私から離れたりしないよね」
「え、あ、当たり前じゃないですか」
「‥‥ホント‥‥?」
「朝日先輩?今日どうしたんですか。なんか変ですよ」
理由を問われてもただ不安になっただけとしか言えない。
これは何も有咲だけに限ったことじゃない。
私がいくら紗夜と日菜を大切に思っていても二人は何とも思ってないかもしれない。
そっぽ向かれて諦められて私の手の届かないところまで行ってしまったら、私はどうすればいい。
それはありえない未来じゃないんだ。
手を伸ばせば届いてしまう位置にある。
だから私はいつだって怯えてしまう。
抱きしめる力が自然と強くなる。もう有咲は抵抗なんかしなくなっていた。それをいいことに有咲の肩に顔を埋めた。
抵抗しないのは私も同じ。それどころかしっかり抱きしめられて頭を撫でられる始末。これじゃあどっちが年上なのかって感じだ。
「大丈夫ですよ朝日先輩。私は何があっても先輩の側にいますから」
その言葉はとても温かくて私はしばらく有咲に抱きついているのだった。
カシャッ!という音が聞こえるまでは。
「これはレアな写真が撮れたなー」
「さ、沙綾!?」
「え、や、山吹さん!?」
私の目の前、有咲の真後ろ。そこにいたのは沙綾でニヤニヤしている。それに加えて何か企んだような笑みを浮かべている。
嫌な予感しかしない。
「おい沙綾。今お前写真がどうのって言ったか‥‥?」
「はい。珍しく弱気な先輩と珍しく大胆な市ヶ谷さんがいますけど」
「消せ!今すぐに消してください!」
「えー。どうしてですか?こんなレアな写真これから先も撮れるかわかりませんよ?」
「撮れなくていい!いいからスマホ寄こせ沙綾!」
「嫌ですよ。しばらくの間、このネタでいじれそうですし」
今までは家族思いの天使にしか見えなかった沙綾が今は悪魔にしか見えない。
すぐにでも写真を消去しないと、私だけでなく有咲までからかわれる。それは有咲のためにも阻止せねば。
「それじゃあ先輩また後で」
「逃げるな沙綾!」
屋上から早足で去って行く沙綾。私は有咲から身体を離して追いかけた。
結果としては沙綾が自身の教室に入った直後にチャイムが鳴ったことにより私が勝負に負けた。一、二週間は確実にあの写真をネタに色々こき使われる気がする。
♢♢♢
「沙綾。いい加減写真消して」
「嫌ですよー。いいじゃないですか一枚くらい恥ずかしい写真があったって」
「嫌だよ!お願い!なんでもするからその写真消して!」
放課後。帰り道で昼休みの写真を消すよう朝日先輩に頼み込まれていた。私はあの写真を消すつもりはなかった。ホントにレアだし、もう二度と見られないかもしれないから。
だけど「なんでもする」と言われてしまったらちょっと期待。先輩、そんなこと簡単に言っていいんですか。私、調子に乗っちゃいますよ?
「ホントになんでもいいんですか?」
「私の叶えられる範囲なら!」
「そうですか。ならお願いがあります」
予防線張られたのはしょうがないよね。朝日先輩って見た目のわりに臆病だし。でもこれは先輩にしか頼めないことだし、叶えられる範囲だからいいよね。
「朝日先輩、週末泊まりに行ってもいいですか?」
「…泊まり?うちに?」
「あ、さすがに紗夜先輩たちのいる方じゃないです。仕事場の方でいいのでお泊まり会しましょう」
「……お願いって、それだけ?」
「はい。何か変ですか?」
「いやそんなことはないけど。 ……わかった。週末な」
「やった!ありがとうございます」
朝日先輩はどうして私がお泊まり会を提案したのか首を傾げている。
残念ですけど教えてあげません。これは完全に私情だから。
「それじゃあ私こっちだから」
「今日は仕事場行くんですか?」
「突然沙綾が泊まりに来るらしいからな、少し片付けるんだよ。またな」
そんなことしなくても充分片付いてる。というか何もないのに。あいかわらず朝日先輩は真面目だ。
背を向け歩き出した先輩の背中を見送る。そして週末のお泊まり会を取り付けることに成功した、元凶の写真をスマホに映した。
朝日先輩と市ヶ谷さんが抱き合っている写真。
先輩はやけに弱々しくて今にも壊れてしまいそうな雰囲気だ。
市ヶ谷さんはそんな先輩の頭を撫でていた。市ヶ谷さんの表情は映ってはいないがきっと優しい顔をしていることだろう。仲良いもんね二人は。
おかしくない。何も変なところはない。単純に仲の良さを表しているだけじゃないか。
だからこんな感情、持っちゃいけないのに。
こんな先輩、私は初めて見た。私には無理にでも強がってお姉さんぶってるところしか見せないくせに。
「ズルいな、市ヶ谷さんは。きっと私の知らない先輩の顔も知ってるんでしょ…?」
嫉妬心と独占欲が、ただ溢れていく。