不良少女(仮)   作:茜崎良衣菜

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妹属性を発揮されるのは困るから。

 

 

私がそれに気づいたのはネットサーフィンをしていた時。トレンド上位に上がっていた記事に少なからず目を奪われていた。

 

 

『Pastel*Palettes』ライブで観客を騙す!?

 

 

そんな見出しとともに写真に映っていた五人のうちの一人は私の妹。

内容を読んでみればそこに書かれていたのは昨日行われたライブのことだった。

 

 

 

『Pastel*Palettes』の初ステージ。楽器の生演奏を披露する。そんな新たなプロジェクトに期待を持ち集まった観客だったが、曲の途中で全ての音が止まるというハプニングが発生。生演奏ではなく音源が流れていたことが判明した。

これに一部の観客は激怒。「騙された!」「チケット代を返せ!」などと事務所への問い合わせが後を絶たないという。

 

 

 

こりゃ酷いな。全部当て振り、口パクでやってたってことか。楽器演奏するって言っておいてそれはないだろ。客も怒るに決まってる。

 

 

だけど変だな。日菜の担当はギター。楽譜さえ貰っていれば間違いなく完璧に弾けただろう。元々芸能人ではなかったのだからオーディションで選ばれたと思うし、弾けることは前提だったはずだ。

 

ドラムの大和麻弥ってのも昔ライブハウスで見たことがある。確かバンドメンバーというよりはサポートスタッフ的な感じだったけど記憶ではどのバンドよりも上手かった。

 

…ベース。白鷺千聖、か。天才子役って呼ばれてた同じクラスのやつ。白鷺千聖はドラマに出ずっぱりだ。恐らくビジュアル的なのを考えて入れたのだろう。だが彼女が楽器経験者だとは聞いたことがない。

よく見りゃボーカルの丸山彩は隣のクラス。しかし丸山彩に歌が上手いイメージは全くない。

キーボードの若宮イヴってのも聞いたことないな。

 

 

ギターとドラム以外は素人。いやギターも素人か。それに加え結成日は一ヶ月ほど前。ぶっちゃけ素人が楽器を練習して披露するにはどう足掻いても足りないと思う。

 

それなのに昨日お披露目だったってのか?

 

これ、スタッフは最初から音源で流す気だっただろ。そんなの最初は上手くいってもいつかはバレてファンがいなくなってもおかしくないのに何考えてんだか。

 

客の反応を見ても「がっかりした」だの「金払って損した」だの散々だ。

 

 

 

「おねーちゃん!何見てるのー!」

 

「っ!?……日菜」

 

 

 

突然部屋に入って来た妹に驚く。私の後ろに回った日菜はパソコンを覗き込んだ。

 

 

 

「あ、この前のライブの記事だ。うわぁー色々書かれてるねー」

 

 

 

妹が自分たちの記事を見て一番に出てきた言葉はやけに他人事だった。

 

 

 

「おねーちゃんあたしの記事見ててくれたんだー」

 

「トレンド上位に上がってたからだ。見たのは偶然にすぎない」

 

 

 

この記事読んで言うセリフはそうじゃないだろう。日菜は人に何か言われて落ち込んだりすることはあまりないがこれ見ても落ち込まないというのは人間性を疑う。本当に我が妹は人か?

 

 

 

「日菜、お前ギター弾かなかったのか?」

 

「うん。だって事務所の人たちが弾かなくていいって言ってたし」

 

「オーディションでギター審査もあったんだろ?それなのにか?」

 

「別に審査なんてなかったよ?そもそもあたし以外はみんなオーディションしてないし、どの楽器がいいか事務所の人に選ばされたんだー」

 

 

 

衝撃的すぎる事実に私はつい黙ってしまう。

え、そんなことある?事務所がそんな適当でいいの?今の時代のアイドルってそんなんで務まるの?いいのかそれで。

 

 

 

「それにあたしは何言われても気にしないし。この企画も楽しそうだったからオーディション受けただけで飽きたら辞めるよ。千聖ちゃんもきっとあたしと同じ考えだと思う」

 

 

 

日菜のと白鷺千聖のは訳が違うだろ。

日菜は楽しいかそうじゃないかの判断だが白鷺千聖はそんなこと思ってないと思う。学校で話したことがあるわけじゃないが彼女は情に流されてどうこうするタイプでもなかろうに。これ以上自分のメンツに傷がつくようなら白鷺千聖は辞める。勘だがきっと間違いない。そうでもしないと子役からずっと売れ続けられまい。

 

 

 

「…そう。好きにすればいいんじゃない?」

 

「おねーちゃんはアイドルやってるあたしとそうじゃないあたしだったらどっちがるんっ♪てくる?」

 

「『るんっ♪』てのがよくわからんがどっちでも私には関係ない」

 

「えぇ〜!冷たいこと言わないでよー」

 

「言われたくないなら早く自分の部屋に行け。邪魔だ」

 

「別にいいじゃーん。たまにはお喋りしよーよー」

 

「お喋り?」

 

「うん!おねーちゃんは聞いてるだけでいいから。…ダメ?」

 

 

 

…可愛くお願いなんかするなよ。断れないだろ。突然縮こまって遠慮ガチに見つめて。可愛い声だしやがって。妹属性存分に発揮するなよ。

 

 

 

「……私は聞いてるだけだからな」

 

 

 

パソコンを閉じ英単語帳を開いた。これはあくまでも勉強の片手間に聞いてるという口実を作るためだけ。正直勉強などせずに聞きたいが、後が怖いからな。

それに、たまには妹に構いたいと思うのは姉の宿命ではなかろうか。

キラキラ目を輝かせた日菜はとても嬉しそうだ。

 

 

 

「あのねおねーちゃん!この前学校でね!」

 

 

 

そこから数十分に渡って続いたマシンガントーク。

学校のこと、アイドル活動のこと、ギターのこと。色々なことを話してくれた。時々相槌を打ってやればさらに嬉しそうな顔をするもんだからつい日菜の話に耳を傾けていた。

英単語なんて一つも頭に入っちゃいない。

 

だけどたまにはこういう時間もないと本当に妹たちと話す機会がなくなりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

 

 

朝日おねーちゃんは天才だった。

テストではいっつも満点で、スポーツをやったらどの部にもスカウトされて、なんでもできる人だった。

紗夜おねーちゃんも同じくらいなんでもできる人だった。それでも自分の実力を故意に見せつけることもなく、誰にだって優しい、困ってる人がいたら助けて、あたしの面倒をよく見てくれた。

 

 

あたしはそんな二人のおねーちゃんが自慢で同時に憧れていた。

 

 

けどいつからかおねーちゃんはおねーちゃんじゃなくなった。

真っ先に変わったのは朝日おねーちゃん。あたしとおねーちゃんに好きじゃないと言って距離を取った。おねーちゃんの方からは話してくれなくなったし一緒の登下校もなくなった。

けどあたしは構わず話しかけた。何度遠ざけられてもその度に近づいた。そうしないとおねーちゃんの存在がなかったことのようになる気がしたから。そんなのは嫌だった。

懸命に話しかけても結局は変わらない。多少は口を利いてもらえるようになったけど小学生の頃みたいに笑い合うことはなくなった。

悲しくて仕方なくて、同じように悩んでいたおねーちゃんに相談もした。

おねーちゃんは「大丈夫」「すぐ元に戻ってくれるわよ」って言って頭を撫でてくれた。その言葉に安心してあたしは泣いていた。

 

けど、その紗夜おねーちゃんも変わった。

どうやら朝日おねーちゃん同様紗夜おねーちゃんもあたしのことをよく思っていなかったらしい。おねーちゃんに追いつきたくてマネしていた行動は否定された。

 

おねーちゃんはあたしにマネされたくないと、あたしにマネされるとおねーちゃんが劣っているように見えると言った。

そんなことないのに。あたしの中ではおねーちゃんがやっていることが全て輝いて見えていたからそのおねーちゃんを目指していたのに。

逆効果だった。あたしが輝いてしまうとおねーちゃんは影のように見えなくなるらしい。

 

三つ子は、ケンカしてもすぐに仲直りできると思っていた。けどそれは間違いだった。

あたしたちは仲良くなんてなかった。血の繋がりだけの存在だった。

 

 

 

そうだとわかったら、世界なんてつまらないものになった。

人が何を考えているのかわからなくなった。

なんで簡単なこともできないのか理解できなかった。

 

 

でもおねーちゃんに話しかけることだけはやめられなかった。それをやめると今までの思い出が全部ウソになるから。楽しかった、笑い合った日々はウソ偽りのないものだったって信じたかったから。

 

 

あたしはおねーちゃんたちに戻ってほしい。

いや、あたしがおねーちゃんたちを元に戻さないといけない。

 

 

だっておねーちゃんたちが変わったのは全部あたしのせいなんだから。

 

 

 

 

 

 

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