「うわぁ!かわいい!りんりん、朝日さん!見て見て!!」
「うん‥‥かわいいね‥‥‥‥」
「うん。すごく可愛いな。あこちゃん」
猫を抱えて満面の笑顔を見せるあこちゃんに私の心は奪われていた。ホントに可愛い。猫も可愛いけどあこちゃんが一番輝いてるよ。
一面には至る所に猫、猫、猫。何を隠そう今日は猫カフェに来ていた。
そうだと決まったのは数十分前のこと。
放課後、家へ帰ろうとした私。しかしこの前の歌姫さん同様に正門には違う学校の制服を着た少女がいてつい足を止める。少女も私に気がついたらしい。元気よく手を振っていた。
「朝日さん!」
「あこちゃん、こんなところで何してるの?りんりんのお迎え?」
「はい!これから猫カフェに行くんです!」
猫カフェ。猫に癒しをもらうための場所。いいね。動物好きとしては堪らない。
まあ私はあこちゃんに癒してもらってるから充分だけど。
「ちょ、あの子氷川さんに絡まれてない?」
「ほんとだ。中学生くらいなのに可哀想」
そんな声が私の耳に届く。幸いあこちゃんの反応を見る限り聞こえてはいないだろう。
陰口ならもっと分かりにくいところでしろよ。あこちゃんに聞かれたらどうする気だ。それに可哀想なのはお前らの脳内だよ。私をなんだと思ってるんだ。
「そっか。楽しんで来てね。私は帰るから」
「朝日さん、今日はもう帰るだけなんですか?」
「そうだよ。どうして?」
「ならあこたちと猫カフェ行きましょう!」
「もちろん喜んで」
あこちゃんの周りにキラキラエフェクトが見える。
いや断れないね!あこちゃんに誘われて行かないなんて言えるわけないじゃん!断らないよMy Angelのお誘いとあらば!
それにきっと断ったらあこちゃんは悲しい顔すると思うし、天使に悲しい顔はさせられない。
私の反応にあこちゃんは喜んでくれている。うん、可愛い。
「‥‥お待たせ、あこちゃん‥‥‥‥朝日さんも…一緒、ですか‥‥?」
「そうだよりんりん!猫カフェ朝日さんも連れてっていいよね?」
「‥‥うん‥‥!‥‥‥‥もちろん‥‥」
かけつけたりんりんは私を見て首を傾げていたけどすぐに笑って受け入れていれた。ホント優しくていい子だ。
「それじゃあ時間も限られてるし行こうか」
「はい!」
元気のいい返事とともに私たちは歩き出した。
場所はショッピングモールの3階奥。受け付けのお姉さんが笑顔で接客してくれる。代金を払ってドリンクを取り中に入った。
入るや否や、ドリンクを私に渡したあこちゃんは冒頭の言葉で私たちを癒していたのだ。
はー、どうしてあこちゃんはこんなに可愛いのかな。今日来てよかった。
「朝日さん!りんりんも!こっち来てよ!猫ちょーかわいいんだから!!」
私とりんりんは顔を見合わせ笑う。
テーブルにドリンクを置いて、あこちゃんの元へと向かうのだった。
♢♢♢
学校に登校すれば私を見るなりヒソヒソと話し出す生徒たち。今日は授業に出ようと思っていた日だからと真っ直ぐ教室へ入る。それまで騒がしかった教室が一瞬で静かになった。いつも私を腫れ物のように扱う彼女たちだが今日は何かが違う。何か良くないことが起こっている気がした。
授業は、正直つまらない。教師の教え方は上手くない。かと言って内容が面白いわけでもない。そう思っているのは私だけでなく他の生徒もらしく話し声があちこちから聞こえてくる。私はそれを耳に入れたくなくて机に突っ伏した。
「じゃあこの問題を‥‥氷川」
「‥‥‥‥」
「氷川!」
無視無視。聞く理由もない。問題なら他の人に当てればいいのに、どうしてわざわざ寝てる私に当てるかね。バカなのか。
「あ、あの‥‥氷川さん、当たってるよ‥‥‥‥!」
「‥‥‥‥あーもう、起きりゃいいんだろ」
誰も声なんてかけないのに隣の席の弱々しい声の彼女は勇敢にも私に話しかける。さすがにそれを無視するのも悪い気がして仕方なく身体を起こした。
ホッとしている視線は一つだけ。他は笑ったり怒ったりしている。
うわぁ、面倒。
「氷川、この問題を解いてみろ」
「‥‥」
「ねぇ、氷川さんわからないんじゃない?」
「授業ほとんど出ないもんね。そりゃわからないよ」
「あんた教えてあげたら?」
「えーやだよー」
なんて底辺の会話してんだ。この程度がわかんないわけないだろ。問題を認識してただけだわ。ていうか誰が恩着せがましいお前らなんかに教えてもらうか。
私は立ち上がって黒板に向かう。チョークを手に取り数式を書いていく。5行ほどの数式を書き終えれば教師やクラスの奴らは目を丸くしていた。解けないと思ってたのかよ。
「正解ですよね?」
「あ、ああ‥‥‥‥」
席に戻りまた机に突っ伏せば今度は何も言われることはなかった。
人を見た目で判断するな。わかってねーのはお前らだ。
「‥‥‥‥朝日、さん‥‥!」
昼休みも半分が過ぎた頃。屋上の扉が結構大きな音を響かせた。目線の先にいたのは珍しい人物で私も目を丸くしてしまう。
「りんりん?どうしたの?」
「朝日さん‥‥‥‥今日は、その‥‥すみません‥‥‥‥!!」
「へ?」
突然すぎる謝罪に戸惑う。
私は何か謝られるようなことさせたか?いや相手はりんりんだ。私が謝ることがあったとしてもりんりんから謝ることなんてないはず。
とりあえず話を聞くために頭を上げてもらう。
「待って何。何かあった?」
「‥‥今日朝日さんに‥‥視線が集まって‥‥いたの‥‥‥‥私のせいかも、しれなくて‥‥」
「‥‥‥‥どういうことだ?」
詳しく話を聞けば昨日あこちゃんとりんりんと猫カフェに行くところを見ていた生徒が「氷川朝日が白金燐子と中学生をカツアゲしていた」と噂したらしい。素行の悪い私のことをほとんどの生徒が知っているため信ぴょう性が高かったとかなんとか。
りんりんも朝からコソコソ噂されていたらしく昼休みにお昼を食べていたら「昨日大丈夫だった?」と心配されたようだ。それで急いでそのことを話に来たらしい。
道理で見られているとは思っていたけどそんなことになっていたのか。これは二人に申し訳ないな。
「‥‥そっか。ごめんねりんりん、面倒なことに巻き込んで」
「い、いえ‥‥!‥‥‥‥私は、全然平気‥‥です‥‥‥‥」
「誤解ではあるけど解こうとしなくていいからね」
「‥‥え‥‥でも‥‥‥‥」
「りんりんがそんなことされてないって言ってもあいつらは聞かないよ。むしろ私にそう言うように命令されてると思われるだけだから」
「‥‥けど、朝日さんは‥‥悪くないじゃ、ないですか‥‥‥‥」
「別にいいんだよ。私はその役割に慣れてるから」
そんなことよりりんりんが孤立することの方が怖い。ただでさえ人見知りで話すことが得意ではないのに。それが私のせいでというのは後味が悪い。
そもそも「私がりんりんとあこちゃんをカツアゲした」という事実は存在していない。
「‥‥‥‥朝日さんが、そう言うなら‥‥」
「うん。‥‥心配しないでよ」
心配そうな瞳に私は優しく微笑む。
納得してくれたのかりんりんは教室へと戻って行った。
屋上の日陰に私は寝転ぶ。
午後の授業はサボろう。そう決意した。