「姉さん!なんですかその格好は!」
「何って?ちゃんと制服着てるでしょー?」
「そういうことじゃありません!ピアスに指輪、あと髪も染めてるなんてどういうつもりですか!?」
「どうも何もしたいからそうしてるんだよ。放っておいて」
「そういう訳にはいきません!」
朝、学校へ登校すると廊下ですれ違った風紀委員長に声をかけられた。
風紀委員長である私の分身の一人は私の身なりや態度に随分ご機嫌ななめの様子。
「擦り傷や包帯だって、また喧嘩でもしたんですか!?」
「紗夜には関係ないことでしょ」
「関係はあります。姉妹ですし、話してください!」
「嫌だよ。めんどくさい」
紗夜も毎日このやり取りするの疲れないのかな。
私は疲れる。というより傷の正体がバレないか心配している。
紗夜の小言を聞き流し特等席の屋上へと向かった。
授業なんて留年しない程度の出席日数を稼げればいいのだ。就職先の決まっている身としては卒業さえできればいいくらいしか考えていなかった。
まあ真面目な妹はそんなこと知りもしないが。
一人は好きだ。誰にも関与されずに過ごせるから。
そう思いカバンの中に入れていたノートパソコンを取り出した。
部屋にあったものとは別の重量がどれよりも軽いヤツ。じゃないと持ち運びも憂鬱だし。
それを起動させUSBを挿す。仕事の下準備はこれで終了。あとは書き進めるだけ。
私は小説家だ。ペンネームは「
ぶっちゃけ本が売れてくれれば名前なんてなんだって構わないと思っていたし。
一作目はありがたいことに5万部売れているので高校生にしては高額な貯金を持っている。パソコンもそのお金で買った。
妹たちや両親は知らない。私の秘密。
だって知られたら今まで苦労して貯めてきた貯金取られちゃうでしょ?嫌だもんそんなの。お小遣いなんてものが貰えていない以上、なくなったら生活できないし。
「先輩、またこんな所でサボってるんですか?」
「やあ後輩、ここで会うなんて奇遇だね」
「なんで少し爽やかなんですか…」
「遠回しに拒否ってるの汲み取ってくれないかな?」
「それだと私の居場所がなくなっちゃうじゃないですか」
「サボっといて何言ってんだか」
「そっくりそのまま先輩に返しますよ」
隣いいですか?という律儀な言葉に仕方なく了承を出す。
時計を見ればもう既に授業は始まっている時間だった。
「それに私たちのクラスは今自習なのでサボりじゃないですから」
「それ、抜け出していい理由でもないだろ」
「先輩は?」
「私は登校してすぐここに来たから知らない」
「サボり常習犯ですね」
「不登校児に言われたくはないかな」
これじゃあ集中なんてできやしない。そう思いパソコンを閉じた。
そして隣の後輩、
「頭良けりゃ別になんでもいいじゃないですか?」
「さすが学年一位。でもちゃんと出席してないと大学も就職もキツいと思うよ」
「先輩も同じでしょ」
「小説家は関係ないよ」
サボり常習犯だろうが不登校児だろうが高校中退だろうが。小説家には何も関係ない。話さえ書ければ問題ないんだ。それが面白ければやめる必要もないしアニメ化やドラマ化、実写映画化すればなおさら。
「今日はあっち行くんですか?」
「んーどうだろーねー。早く帰らないとまた殴られるし、って早く帰らなくても変わんないけど」
家族の話を有咲と出来るのは、彼女が私の事情を知る数少ない人の一人であるからだ。じゃなきゃこんな話他人と出来るわけがない。
「証拠抑えて警察に行けば一発で逮捕確実なのにどうして行かないんです?」
「確かにそうだよ。あいつらはそれだけの罪を犯してるからね。でもその時は今じゃない。
私はね、有咲。あいつらを絶望の淵まで落としたいんだ。けど今警察に行かれたら困るのは妹たちなんだよ。
高校生の間は学費に生活費もかかっちゃう。大学に行くとなるともっとだよ。そんな中であいつらを消したら金がなくなっちゃうじゃん。せっかく妹たちには甘いATMなのに。引き出せるだけ引き出さないともったいないよ。
それにもし親戚の家に行くってなったら?親戚への負担が大きくなる。いきなりお世話になるわけにもいかないだろうし。
二人くらいなら私の貯金でどうにか出来るけどそれだと二人が納得しないから。それでバイトとかしてやりたいことに費やす時間が減ったら嫌だもん。
だから落とすのは今じゃないんだ。もっと後、姉妹が自立してこれから幸せになっていくって時に落としてやる。妹たちの幸せな空間にあいつらはいらない。刑務所の中で永遠に妹たちのことを想って泣き喚けばいい。そして私にやって来た仕打ちを後悔すればいい。
そうなってこそ私の復讐は成功するんだ。そうじゃなきゃ意味が無いから」
「……うわぁ…」
少し早口めで話す私に有咲はドン引きした様子。
学校屋上で後輩に向けて何を話しているんだって感じだけど彼女相手に本心を隠す意味もないだろうから躊躇わなかった。
「先輩って重度のシスコンですよね。聞いてるだけで狂気を感じたんですけど…」
「そう?普通だよ」
一般的なのがどの辺かわからない以上私の中で姉妹愛はこれくらいあって当然なのだ。それにあいつらをずっと妹たちとくっつけて置くなんて姉として許せない。
「とりあえずそういうわけだから有咲は邪魔しないでね。邪魔するならいくら有咲でも容赦しないから」
「わかってますわかってます。だから殺気は仕舞ってください」
少し焦りながら有咲は言う。
別に殺気なんて出してるつもりないのにな。あいつらの話になるとどうしても出ちゃうだけ。
「でも近いうちに紗夜先輩にはバレちゃうんじゃないですか?」
「紗夜が?いやいや気づかないよきっと。今までがそうだったし」
どんなに酷い怪我をしてもバレてなかったのに今更バレてたまるか。
私は私の使命を成し遂げる。絶対に、何がなんでも。
授業終了のチャイムが鳴る。
1時間目が終わるのなんてあっという間だ。
「ほら有咲、授業終わったぞ。さっさと教室戻れ」
「言われなくてもそうしますよ。それじゃあ先輩また後で」
素直に屋上から出て行く有咲の後ろ姿を見送る。
扉が閉まり完全に姿が見えなくなったところで再度パソコンを開くのだった。