クラスに行けば机の中に入れられていた二枚のプリント。それに私は眉をひそめた。
咲祭が始まるらしい。
咲祭。花咲川で進級してすぐに行われる文化祭。夏休み前に行うのはクラス内の親睦を深めるためだとかなんとか。まあ私には関係のない話だ。
サボっている間にクラスの出し物は決まったようだ。もう一枚入っていた紙にはこれまた親切に「執事喫茶」と書かれていた。仕事内容やメンバーまでメモられている。
だがこれがなぜ私の机の中に。非協力的な人間は必要ないと思うが。てかこれ手書きだし。一体誰が‥‥。
「あ、氷川さん。それ見てくれたんだ」
声のした方を見ればそこにいたのは隣の席の松原花音だった。
私を見てニコニコしている。
「なんで私の席に?」
「なんでって咲祭の出し物が決まったから。氷川さん前の時間いなかったでしょ?知らなかったら困るかなって」
「いや私咲祭出る気ないから。渡されても困る」
「えぇ!?な、なんで!?」
「興味ないからだ」
私は自分のクラスのことをどうでもいいと思っている。出し物には興味もやる気もない。
「じ、じゃあ料理とかできたりしない?私、裏方やることになったんだけどあまり得意じゃなくて‥‥」
「できるが面倒だから断る」
「そ、そこをなんとか~~!!」
なんでこの子私に頼むの。料理くらいクラス内にできる奴いるだろうに。
謎だ。前に話したときはめっちゃオドオドしてたのになんで今はこんなにしつこいの?
「嫌だっての。友達いねーの?そいつに頼めよ」
「い、忙しいから頼めないよ‥‥!」
「なら諦めろ。それが
「氷川さんー!!」
私が暇だとでも思ってんのか。
しかも友達がみんな忙しいってどんな状況だよ。そんな少ないのかよ。
「花音?そんな大声出してどうしたの?」
彼女の数少ない友達が現れた。その人物に私は驚く。
「ち、千聖ちゃん‥‥!」
白鷺千聖。子役の頃から芸能界に足を踏み入れていて、今でもドラマや舞台に出演している。最近は日菜と同じバンドでベースを担当していたはずだ。
まさか彼女の友達が芸能人とは。予想外だ。そして面倒な展開になる気がする。
「氷川さんと何話してたの?」
「あのね、氷川さんに料理習おうと思って」
「そうなの?よかったわね料理できる人が見つかって」
「私は許可してないからな。そいつが勝手に言ってるだけだからな」
なんで私が教える流れになってるの。全力で拒否したいんだが。
「ほ、放課後に少しだけでも?」
「放課後は先約がいるから無理だ。他を当たれ」
「先約?」
あの猫耳にギター教えるって約束は多分咲祭前でも続いているのだろう。てか咲祭でバンド演奏するのかあいつ。それなら尚更みっちり教えねーと人になんか到底見せられねーし。
なら今すぐに有咲の家の蔵に行かねーと、猫耳は休ませてやらねぇ。
私はカバンを持って席を立った。
「つーわけで帰るわ」
「ちょ、氷川さん!」
面倒ごとに巻き込まれる前に私は教室を飛び出した。
♢♢♢
「へぇー。先輩たちのクラスは『執事喫茶』やるんですね!」
放課後の蔵練。休憩時間。
そんな時振られた話題はやはり咲祭のこと。猫耳は外部生だったと聞いている。高校初めての文化祭に少なからずテンションが上がっているのだろう。
「クラスは、な。私は参加する気ない」
「え!なんでですか!?」
「お前にギター教えないといけないからだろ猫耳。咲祭まで時間ないのわかってるのか?」
「朝日先輩ぃー!!私のこと、そんなに好きなんですかー!!!」
「よし有咲。私用事ができたから帰るな」
「ちょっと!朝日先輩!帰らないで!!」
鞄を手に取った私を猫耳が止める。
それに私はため息をついた。鞄を元の位置に置く。
「ねえ猫耳。そんなくだらないこと言ってる暇があるんなら練習するべきだと思うんだけど私だけかな?」
「いえごもっともです!!」
「香澄、完全に手の平で転がされてるな‥‥」
有咲は呆れたような声を出す。おたえは真剣な表情をし、りみちゃんは苦笑いしていた。
「朝日先輩のクラスは、執事喫茶‥‥」
「ん?どうしたおたえ」
「執事は男の人。つまり朝日先輩は、男子‥‥?」
いやなんでだよ。男装するって話だろ。
まさかそれで真剣な顔してたのか。わかるだろそれくらい。もっとマシなこと考えてろよ。
考えてる顔が整ってるのが異常に腹立つわ。
「そもそも私は男装する気もないから」
「えー!なんで!?」
「なんでと言われても興味ないからな」
「いいんですかせっかくの咲祭なのに」
「それ、有咲には言われたくないよ」
「‥‥朝日先輩の男装、見たかったなー‥‥」
「ホントりみちゃん?りみちゃんになら見せてもいいよ?」
「先輩りみに甘すぎです‥‥」
妹に優しくしたくなるのは私の性格なんだから仕方ないんだよ。
有咲は少し不服そう。
「心配しなくたって有咲にも見せてあげるから」
「べ、別に見たいわけじゃ‥‥」
「本当は?」
「‥‥まあ、ちょっとは見たいですけど」
素直になれよ。
「わ、私は?」
「お前はとりあえずギターの練習でもしてろ」
「あーさーひーせんぱぁーいぃ!!」
「ああもう鬱陶しい!くっつくな!!」
私の右腕に縋りつき額を擦りつけてくる猫耳の頭を押して遠ざける。
だが離れる様子のない。遠ざければ遠ざけようとするほど強い力で私にくっつく。
なんだよそんなに見たいのかよ。別にいいものでもないだろうに。
「わかった!お前にも見せてやるから!だから離れろ!!」
「ほんとですか!?わーい!!」
私の言葉にあっさり手を離す猫耳。掴まれていた右腕をさすりため息をつく。
猫みたいな見た目なのに性格完全に犬だ。
「‥‥‥‥」
視線を感じてそちらを見ると有咲がじっと私のことを見ていた。
「どうした有咲」
「‥‥なんでもないです」
そう言ってそっぽ向いてしまう。なぜか不機嫌そうで首を傾げた。
それにりみちゃんは再び苦笑していた。
「それじゃあ朝日先輩は咲祭サボれないですね」
「うわぁー‥‥めんどくせぇ‥‥‥‥なあ」
別の機会じゃダメか?
そう口にしようとしたが四人の期待の目が刺さってそれ以上は言えなかった。
ミスしてりみりんが瞬間移動してしまった‥‥。修正修正。