周りはみんな咲祭の準備に熱が入っていた。
どこもかしこも準備中の必死で、でも楽しそうな声が耳に届く。ただ歩いているだけなのにやる気のない私はその雰囲気を壊してしまいそうで怖い。やっぱ飲み物はどうせ暇している有咲に買わせるんだった。
どこのクラスも気合が入っているように見える。辺りを邪魔しない程度に見渡していると、ふと一枚のポスターが目に入った。
驚き、そのポスターを凝視する。
Poppin'Party。猫耳たちのバンドのポスターだった。日程と時間が書かれている。当たり前だ。咲祭の体育館のステージで披露するのだから。
そこじゃない。問題はポスターの下の方にあるメンバー紹介。星の先端に一人ずつ書かれたローマ字の名前。
Kasumi___猫耳ギターボーカル
Arisa___ツンデレキーボーディスト
Tae___天然リードギター
Rimi___癒しベーシスト
Saya___私はこの名前のドラマーを一人しか知らない。
山吹沙綾以外きっといない。
だけど沙綾がバンドでドラムを…?いつの間に。Poppin'Partyに加入していたのなら、またバンドを始めることになったのなら。笑顔で私に報告があってもおかしくはない。いや間違いなくそうなるだろう。
でも私は沙綾からそんな報告を受けた覚えは…。
刹那一つの考えが頭をよぎる。
いくらなんでもありえないだろう。と思いつつもあの猫耳ならやりかねないとも思った。なんて言ったって猫耳は強引なのだから。
そう思っているとこちらに近づいてくる足音が一つ。
「何見てるんですか先輩」
一度彼女のことを見て再度視線を戻す。
「バンドのポスター見てる」
「あ、これって市ヶ谷さんのやってるバンドですか?」
「有咲と知り合いだったんだ」
「同じクラスですから」
「て言っても有咲は友達も知り合いも少ないし」
「なかなか酷いこと言いますね…」
事実しか言ってないのが悲しいくらいだけどね。
有咲のやつ最近はマシになってるけど基本は不登校生だし。
「仲良いんですか?市ヶ谷さんと」
「そこそこね。
「用がある時くらいですかね。話しかけるといつも驚かれますけど」
そう言って
こうして学校で話すのも数ヶ月ぶりだ。懐かしくて仕方ない。私が
「沙綾、やるんですか。バンド」
「……さぁ。私は本人からは何も聞いてないよ」
「もしそうなら、嬉しいなぁ……」
私だって嬉しい。そうなってほしいと思っている。
だけど。
きっと沙綾はバンドやらないと思う。
その言葉は胸の中にしまった。
だって少し頬を緩めて微笑んでいる夏希にそんな残酷なこと言えるわけないじゃないか。
「
「はい。市ヶ谷さんたちの前に」
「そっか。頑張りなよ」
「朝日先輩も見に来てください」
「いいよ。どれだけ成長したのか見に行く」
「うわぁ…プレッシャー……」
「緊張するなって。いつも通りやればいいから」
「わかってますよ」
「楽しみにしてる」
そう呟いて私はこの場を後にした。
「朝日先輩は、もうバンドやらないんですか?」
背後からの声には何も答えなかった。
♢♢♢
「…………つまり。許可もなしにポスターに名前を書いた挙句、やらないと言い張っている沙綾に何度も何度もしつこくアタックしてるってことか?」
「は、はい…」
目の前で正座している猫耳。私はその前に立っていた。
原因はあのポスター。蔵に着き次第そのことを問い詰めると色々おかしな答えが帰ってきた。私はいつもより少し低めのトーンで猫耳の言ったことを要約すると声を震わせながら頷いた。
やっぱりそうかとため息をつく。
ちなみに有咲たちは巻き込まれないよう数分前に買い出しに出かけた。
「あのな猫耳。なんでならないって言ってる人間を何度も誘うの?バカなの?沙綾は店の手伝いもあるんだから一回断られたら諦めろよ。んで?断られてるくせになんでポスターに名前書いた。あれはいくらなんでも迷惑だろ。お前には考える力がないのか?本当に高校生か?小学生からやり直した方がいいんじゃないか?そんな常識ないやつは弟子にいらないんだけど?」
「本当にすみませんでした!!」
猫耳は体勢そのまま勢いよく頭を下げた。世に言う土下座というもの。珍しいものが見れた。
猫耳の強引さは有咲やりみちゃんを引っ張って行くのには最適かもしれないが今回ばかりは裏目に出たな。
沙綾は優しいから怒らない分私が怒ってやらねーと。繰り返されちゃたまったもんじゃねぇ。
「はぁー…………とりあえず顔上げろ」
恐る恐る顔を上げた猫耳は私の様子を気にしている様だった。
「お前ホント強引すぎ。ちょっとは相手のこと考えて動けないのかよ」
「すみません……」
「いやまあお前がそんなことできるわけないのはわかってるから謝られてもって感じだけど」
「それはそれで酷い!」
「自業自得だ。それが嫌なら考えを改めろ」
多分改められないと思うけどな。
「いいから沙綾はもう誘うな。あいつがやりたいって言わない限り」
「___なんでですか?」
「なんでって、お前は私の話を聞いてなかったのか?沙綾は…」
「だってさーや。バンドのことやりたそうに見てましたよ」
「っ…………」
いつから気づいてたんだ猫耳のやつ。こいつ何気に人のこと見てるからな。しかも沙綾と同じクラスで仲良いって聞くからなぁ。
「朝日先輩はさーやがバンドやらない理由知ってるんですか?」
知ってる。知ってるさ。嫌な程。家族のために自分を犠牲にしてやりたいことを我慢して。悩んでいることは私と程遠いようで近い。私が説明するのは簡単だ。だけどそれじゃ意味がない。こういうのは自分で話さないといけないから。
「___さぁな。私が知るかよ」
120%の嘘をついた。