咲祭を翌日に控え私たちのクラスも最終確認の段階に入っていた。私は衣装合わせのために教室に向かう。
その時には日が暮れかかっていた。
それも仕方のないこと。私が他のやつと衣装の試着が被りたくないと言ったから。咲祭の準備は完璧で今日クラスのやつらはほとんど残らないと事前に聞いていたのだ。松原たちには悪いが私はどうしても隠したいことがあるから誰かと一緒に着替える訳にはいかなかった。
教室に入れば松原だけでなく衣装係のやつも待っていた。
それについてはサイズ変更があった場合の手直しとしているのだろうから問題はない。だが松原と一緒ににやけているのはどういうことなのか。訳が分からない。
不審に思いつつ今更約束を破る訳にもいかないから大人しく着替える。
「うわぁー!似合ってるよ氷川さん!」
「そうか」
白の長袖のYシャツに黒のベストに黒のズボンというシンプルな格好。シンプルなのは着やすいから助かる。だが一つ言いたい。
なぜこの執事の衣装は私にピッタリなのだろうか。
元々咲祭に出る予定なかったからスリーサイズなんか伝えてないのに。え、ほんとになぜこんなピッタリ。
そう思っていたら衣装係が得意げな表情で私を見ていた。
「やっぱりあたしの見立ては間違ってなかったね!」
「うん。氷川さんピッタリだよ!」
「‥‥‥一体何者だよお前」
すると衣装係は得意げな顔で言う。
「あたしの家仕立て屋だからこういうの慣れてるんだよねー。昔からよく家の手伝いしてて。身に付いた特技は相手のスリーサイズ当て!」
「それ特技にするのは色々不味いと思うぞ。法的に」
最近は特に厳しくなってるし。
普通に明るそうなやつだと思ってたけどそれ以上に中身やべぇ。
「あははっ。なにそれ。あたしのこと心配してくれてるの?氷川ちゃんって見た目の割には優しいんだね!」
「そうだよ。氷川さんはとっても優しいんだ」
「おい勝手なこと言うなよ。優しくねえから」
「照れるなよ~。それにあたしがスリーサイズ当てるのは女子限定。男子にはやらないよー」
「いや、そういう問題じゃねえだろ‥‥‥」
同性だから許されるとかじゃないだろ。明らかに当てずっぽうの域超えてるし、どうやって服の上からちゃんとした数値測ったんだよ。
「ちなみに身長体重体格からある程度大雑把なスリーサイズを出すこともできるよ」
「聞きたくなかったそんな変態特技」
なんだそれ何に使うんだよ。仕立てもはや関係ないただの趣味だろ。
「ところでその衣装どう?キツイ所とかない?あたしの仕立てに間違いはないだろうけど一応聞いとくね」
「‥‥‥ない」
衣装係の態度はなんかうざったいが仕立てはどうやら完璧みたいだ。
「ふふーん。氷川ちゃんに褒められたー」
「よかったね。氷川さんはあんまり人のこと褒めないんだよ!」
「褒めてないし。頭の中お花畑かよ」
「氷川ちゃんの表情でわかるよー」
もうこいつらダメだ。私じゃ手に負えない。
「あ、そうだ氷川ちゃん。ちょっとベスト脱いでもらっていい?」
「なんで」
「その絵も見たいから」
よくわからない注文だったけど断る理由もなかったからベストを脱ぐ。
それに衣装係は満足した様子だった。
「てか氷川ちゃんってなんだよ」
「んー?氷川ちゃんは氷川ちゃんでしょ?」
「ちゃん付けはやめろ」
「えー。じゃあ名前呼びでいいってこと?」
「‥‥‥‥‥‥勝手にしろ」
私の言葉に衣装係は喜んでいた。松原と一緒に。いやなんで松原も喜ぶんだよ。
ため息をつき着替えようとすると松原に呼び止められた。
「あ、待って。シャツのボタン取れかかってるよ」
「あーホントだねー」
指摘され初めて気が付いた。最初に着替えた時にはそんな感じはしていなかったからベストを脱いだ時に引っかかったのか。でもそんなことで取れかかったりするか?
「じゃあ朝日。脱いで」
「は?」
「縫うから。脱いで」
「あー。今から着替えるから」
「いや。今ここで脱いで」
「‥‥は!?」
何言ってんのこいつ。
「着替えるから待っとけよ」
「えー。大丈夫だよここには女の子しかいないから」
「いやそういう問題じゃ!」
「もー!恥ずかしがるなよー!」
衣装係はそう言って私のシャツを脱がせようとする。今の状況だと簡易更衣室に逃げ込んだところで意味はない。だから逃げることにした。
「おい頼むから脱がそうとすんな!」
「大人しく捕まりなよあーさひー!」
ホントになんなんだよこいつ!今脱がされるのは本気で困る。
私は見られたくないのに!
「花音ちゃん!そっち行ったよ!」
「う、うん!」
「おい松原!そこどけ!」
松原が教室の出入口を塞ぐ。退く気はないらしかった。
「うわっ!?」
「よーし朝日つっかまえた!花音ちゃん!今だよ!」
「わかった!」
「おい待て!本当にやめろ!」
衣装係に両脇から手を通され動きを制限される。見た目の割に筋力があるようで離れられない。必死の抵抗にと松原に懇願するもノリノリの人間を止めるのに私の言葉は力不足だった。
ボタンが一つ一つ外されていく。最後のボタンが外されると衣装係は私の着ていたシャツを勢いよく剥ぎ取った。
私の背中が露わになり腕の関節まで脱がされたところで小さく「え……」と言う声が聞こえてきた。目の前の松原も目を見開いている。
見られてしまった。
背中に、お腹に、胸元にできた無数の傷を。
私は顔を逸らして緩んだ衣装係の拘束を解く。シャツをボタンまで締めないものの着直した。
「あ、さひ。何その傷」
「……お前らには関係ない」
「いやでも……」
「関係ない。だから関わるな」
バレてしまったかもしれない。私の秘密が。
もしそうなら二人はどうするのかな。
やっぱり同情してかわいそうな子だと言うのだろうか。
更衣室に入ってすぐに制服に着替え直す。
衣装係に衣装を押し付けて私は教室を後にした。
教室に立ち尽くす二人。
どちらかが私の後を追ってくることはなかった。