不良少女(仮)   作:茜崎良衣菜

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息の止まるその瞬間。

 

 

 

「朝日さん!咲祭一緒に回らない?」

 

 

 

咲祭当日、屋上でくつろいでいた私に元に現れたのは有咲でも沙綾でもなく松原だった。

昨日許した(松原に言ったつもりはない)呼び方で私を呼ぶのに少し違和感を覚える。

笑顔なのが、いやそもそも昨日のことがあったのに構ってくるのが不思議で仕方ない。

 

 

 

「‥‥‥断るって選択肢は?」

 

「香澄ちゃんに見張ってるように言われてるからないよ」

 

 

 

猫耳のやつ、何勝手なことしてんだ。こうなったら練習の時にいつもの倍厳しくしてやる。

 

 

 

「それにシフトの前に逃げられたら困るから」

 

「逃げねえよ」

 

 

 

さすがにあのメンツとの約束を破ったりしない。破ったらりみちゃんにがっかりされる。妹に落ち込まれるのは辛い。

それに多分、しばらくの間有咲に口利いてもらえなくなるし沙綾に着せ替え人形にされる。それはそれで面倒だ。

 

 

 

「もしかしたら目を離した隙にいなくなってるかも!」

 

「私をなんだと思ってるんだよ」

 

 

 

それただの迷子じゃねえか。

松原なら私が逃げないことくらいわかってると思ってたけど気のせいだったか。

 

 

 

「いいから行こう朝日さん」

 

「‥‥‥はいはい。行きますよ」

 

 

 

どうせ行かないって言っても無理矢理連れていかれるんだろう。

それなら今言うこと聞いてる方がマシだ。

 

 

 

「それじゃあどこから回ろうか。香澄ちゃんたちのところ?」

 

「松原に任せる」

 

 

 

ほんと、私の周りは強引なやつばっかだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ!朝日先輩!」

 

 

 

 

1-A。猫耳たちのクラスはカフェのようでお客さんもそれなりに入っていて賑わっていた。

ただ私が教室に入った途端生徒の空気が変わった。それを気にしていないのは猫耳とおたえだけのよう。りみちゃんと沙綾の姿は見えないが裏方なのだろうか。てか待てなんでおたえはギターなんか持ってやがる。

 

 

 

「珍しいですね花音先輩と一緒なんて」

 

「私は一緒に行動する気なかったけど、どっかの後輩がこう仕向けたんだよ」

 

「えぇ!?誰がですか!?」

 

「‥‥‥無自覚ならタチ悪いぞ」

 

 

 

元々は猫耳とおたえが松原に私のこと頼んだのが原因だってのに。数日前のこともう忘れたのかよ。

 

 

 

「香澄ちゃん。とりあえず席に案内してくれると嬉しいな」

 

「あ!そうでした!奥のお席にどうぞー」

 

 

 

猫耳に案内され奥の席に通される。その間も幾人かに注目されるのは完全に自分が悪いのだけど無性に嫌な気になった。

席に置いてあったメニューに目を通す。ドリンクの他にパンがリストアップされていた。

 

 

 

「ここに載ってるパンはやまぶきベーカリー提供なんですよ!」

 

「やまぶきベーカリー?」

 

「沙綾の家だよ」

 

「へえー。そうだったんだ」

 

 

 

松原は沙綾の家がパン屋だと知らなかったらしい。まじまじとメニューを眺めていた。

私もメニューに視線を落とす。

 

 

 

「何にしますか?」

 

「私はチョココロネとカフェラテ」

 

「うーん。じゃあ私はメロンパンとオレンジジュースにしようかな」

 

「わかりました!しばらくお待ちください!」

 

 

 

猫耳はオーダーを取ると早足で教室を駆けて行った。

文化祭でもいつもの落ち着きのなさは変わらない。むしろ増していた。

気持ちはわからなくもないが。

 

 

 

「ふふっ‥‥‥」

 

「なんだよ急に笑ったりして」

 

「ううん。朝日さんって、香澄ちゃんのこと好きなんだなーと思って」

 

「は?」

 

 

 

私が猫耳を好き?Why?何故?何故そうだと思われている?ちょっと理解が追い付かない。

 

 

 

「だって香澄ちゃんを見守っている目が温かいもん」

 

「‥‥‥まあ、一応師匠ってことになってるからな」

 

 

 

そういう意味ね。沙綾のこともあったしちょっと焦った。

そもそも松原は告白のこととか知らないんだしその発想には至らないか。

 

 

 

「優しいね朝日さんは」

 

「優しくねーよ」

 

 

 

松原は私の言葉に首を振って「優しいよ」と続けた。

 

 

 

「じゃなきゃ私のことを助けてくれたり、ワガママに付き合ってくれるわけないもん」

 

「別にそれくらい誰だって」

 

「朝日さんは優しいよ。誰が何と言おうとも私はそう思う。だって」

 

 

 

____だからこそ氷川さんを、妹さんのことを避けてるんじゃないの?

 

 

 

 

 

息が止まった。

それはどういう意味だ。

松原はそれ以上は何も言わなかった。

 

 

 

「お待たせしました!チョココロネとメロンパン、カフェラテとオレンジジュースです!」

 

「‥‥‥あ、ああ。ありがとう」

 

「ありがとう香澄ちゃん」

 

 

 

猫耳がタイミングよく持ってきたカフェラテにすぐさま口を付ける。

そんなに喉乾いてたんですか?という猫耳の言葉は一切無視。

想定外のことが起こっている。必死に脳を回転させた。

 

確かに昨日私は傷を見られた。だけど見られただけ(・・・・・・)。どうしてそれが私が紗夜を避けていることに繋がるんだよ。繋がらないだろ普通。まさかバレたってのか‥‥。

いや落ち着け。まだ気付いたと思うには早い。

 

 

ケンカしてるから紗夜が巻き込まれないように避けてる。

 

 

そう思われているだけだ。そうだろ。じゃなきゃこんな少しの情報で、身体中の傷(・・・・・)だけで私の秘密(虐待)がわかるわけない。そうだろう。だったら焦る必要もない。

いつも通りの氷川朝日を演じればいいんだ。

 

数秒落ち着くのに、カフェラテは割と有能だった。

 

 

 

「朝日さん。次はどこ行こうか?」

 

「え‥‥‥あ、あーそうだな‥‥‥」

 

 

 

いつの間にか猫耳は他のお客さんの対応をしていた。

また松原と二人。覚悟して松原の言葉を待つが、口にしたのは文化祭のことだった。表情から察するにこれ以上追及するつもりはないようだ。ありがたい。だが‥‥‥。

 

 

 

「じゃあ、有咲のところにでも行こうかな‥‥‥」

 

「わかった。有咲ちゃんのところね」

 

 

 

何も追求されないのは逆に怖かった。

 

 

 

 

 

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