「パンケーキとクレープ一つずつ」
「おっけー!」
「わ、わかった!」
声を掛け伝票を横に並べる。パンケーキ担当の生徒とクレープ担当の松原は少し投げやりに返事をする。
私たちの執事カフェは繁盛していた。オーダーを通すも忙しそうで時間がかかりそう。忙しい時ほどミスは生まれやすい。お節介だろうが頼まれたドリンクをコップに注ぎつつ松原がへましないか見守っていた。
「朝日さんこれ三番テーブルね」
「了解」
できた商品を指定のテーブルに運んでいく。一応商売だから笑みくらいは向けているが反応はバラバラで内部生はほとんどが驚いていた。そんなに変な顔してたんだろうか。
シフトに入る前にとりあえず有咲のところに行った。
だけどなんか姫みたいな格好で、よくわからない出し物だったからつい教室のドアを閉めてしまったのだ。可愛かったけど理解不能すぎて、写メだけ撮って逃げた。
ドアを閉める直前目が合った有咲が顔を赤くして何か言おうとしていたけどいいことでないことは確かだったから聞かなかった。
松原は「いいの?」と確認していたけど有咲に怒られるのが確定している中に入るつもりはなかった。
多分有咲も恥ずかしがっているだけだから気にする必要もない。
シフト的に一緒に回れないから思い出の写真はそれだけで満足だった。
と思っていたら新たな来訪者。時間が少し空いたタイミング。
猫耳とその後ろに隠れたお姫様。恥ずかしそうにしている姿が愛らしくてついついイタズラゴコロが湧いてしまう。
「おかえりなさいませお姫様」
片膝をついて姫に手を伸ばす。
赤くした表情に、黄色い悲鳴が室内から聞こえて来た。
「ただいまです朝日先輩!」
「お前に言ったんじゃない。ちょっと黙ってろ猫耳」
「酷い!」
猫耳に反応してほしいわけじゃない。
でも猫耳の笑顔も普通に可愛いからな。これが妹ならポイント高かったのに。
有咲はまだ照れている様子だった。
「ほーら姫様。手、取ってくれないの?」
「い、いやあの‥‥‥」
「‥‥‥はぁ。さすがにこれはやってくれないか。残念。手繋げたら散々に弄ってやろうと思ってたのに」
「なっ!ちょっと朝日先輩!」
「ははっ。冗談冗談。奥のお席にどうぞ」
立ち上がって二人を空いている席に案内する。
猫耳は嬉しそうに、有咲の顔は赤に染まったまま席に座った。
「朝日先輩。オススメって何ですか?」
猫耳の質問に私は顎に手を当てた。
オススメと言われてもどれも美味しいことに変わりはないし特に何がいいとかない。
なんて答えようか。‥‥‥あ、そうだ。
「クレープとかどうだ」
「クレープ!美味しそう!じゃあ私それでお願いします!」
「有咲は?どうする?」
「わ、私もクレープで」
「クレープ二つね。ちょっと待ってろ」
松原が作ってるからって理由だったけどほとんどメニュー見ずに決めたな。そんな適当でよかったのだろうか。て、薦めた本人が言えないけど。
「松原。クレープ二つ」
「香澄ちゃんたちの?」
「そう。クレープがいいってさ」
「なら後輩のためにも頑張って作らないとね」
「じゃあ私はドリンク入れる」
私は二つのグラスにそれぞれアイスティーを注いでいく。
その行動に松原は首を傾げていた。
「‥‥‥あれ?でもオーダー入ってないよ?」
「有咲たちにサービス。代金は私が払う。そう伝えとけ」
「朝日さん。やっぱり香澄ちゃんたちのこと好きだね」
「‥‥‥自分を慕ってくれる後輩を嫌いになれるわけないだろ」
それは完全に本心だった。目を合わせないように準備を進める。横目で見れば松原は驚いて、でもなんだか優しく微笑んでいた。
「松原はさっさとクレープ作ってろ。後がつっかえてるぞ」
私はドリンクを持って二人の元へ向かった。
「お待たせ。これドリンクな」
「え?私たち頼んでませんよ?」
「私の奢りだ」
「ほんとですか!?ありがとうございます!」
猫耳は何の躊躇もなくグラスに刺さっていたストローに口を付けた。
有咲もお礼を言って飲んでいた。
「てかずっと聞きたかったんだけどさ」
「はい?」
「なんで有咲はそんな格好してるんだよ」
「‥‥‥悪いですか」
姫は機嫌が悪いようだ。
「悪くはないけどどうしてここに来る時まで姫の格好してるんだよ」
「クラスのやつらに、嵌められて。安易に引き受けるんじゃなかった‥‥‥」
「朝日先輩。有咲はまだクラスの出し物中なんですよ。有咲姫を見つけたら豪華賞品をゲットできるんです!」
なら今すぐにクラスに連行してあげようかな。
いや、それしたら多分姫様の機嫌が最高に悪くなるからやめよう。
「そうか。なら見つからない程度にゆっくりしてけよ」
「わかりました!」
「先輩があんなことしちゃったからとっくに見つかってますけどね‥‥‥」
否定はしない。けど仕方ないだろう。有咲姫が現れたんだから。
「姫には優しくしないと執事じゃないでしょ。もし願いがあるなら叶えてあげるよ」
「ほんとですか!?」
「お前に言ってないっての」
「……なんでも、いいんですか?」
「叶えられる範囲でな」
どうやら有咲には叶えたい願いがあるらしい。「じゃあ」と口を開いた有咲は続けてこう言った。
「この後、エスコートしてくれますか?」
「……私はしてやりたいけど、どうしようかな」
ここで勝手に逃げ出すわけにはいかないだろう。何のためのシフトかわかんないし。誰か代わりのやつがいれば…。
「あ、朝日ー。そこにいるのって朝日の後輩ちゃん?可愛いじゃん」
「いいやつがいた」
「え?」
タイミングよく現れたのは衣装係の彼女。
これは神が行けと告げている。
「お前、名前なんだったっけ?」
「へ?新田だけど?」
「よし新田。今すぐ執事になって来い」
「いやどういうこと」
困惑している彼女の肩を叩き笑いかけた。
「私は宣伝活動をしてくる。だからお前は私の代わりな。よろしく」
「え、ちょっと朝日!」
「お待たせ香澄ちゃん、有咲ちゃん。これクレープね」
「花音先輩ありがとうございます!」
「ありがとうございます」
「じゃあクレープは歩きながら食べるか」
「ちょっと待ってホントに行くの!?」
焦った声が耳に届いた。どうせちゃんとやってくれるんだろうという期待を込めて言う。
「おう。あと任せた」
「いいけど‥‥‥はぁー。あとで何か奢ってよ」
「猫耳。有咲。行こうぜ。あ、猫耳は残ってていいぞ」
「行きます!」
クレープを片手に立ち上がった二人。
先に教室から出て荷物をまとめて置いていた教室に入って財布を取る。
会計を終えた二人と合流して宣伝活動を始めることにした。