不良少女(仮)   作:茜崎良衣菜

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頼むよ、あいつを連れて来て。

 

 

 

黒いカーテンが閉められ薄暗くなった体育館のステージが照明で明るく照らされていた。その中央で演奏をする四人の少女たち。

ポップで明るい曲調にギターボーカルの彼女の歌声は合っていた。新メンバーであろうドラムの子の演奏もなかなかのもの。四人の息が合っていてついつい引き込まれる。あの子が合わせているようにも感じた。

演奏が終わり四人がステージからはけていく。新たな四人がステージに上がった。

ランダムスターを持ち、マイクに向かって軽くMCをするあいつはやっぱりどこにいてもうるさかった。

 

 

 

「皆さん初めまして!私たちPoppin'Partyです!」

 

 

 

続けて色々なことを話していく猫耳。

正直鬱陶しい。けど嫌ではなかった。あいつらしいと思った。

 

ステージから下り体育館の出口に向かう人影に声を掛ける。

 

 

 

「夏希、お疲れ」

 

「お疲れ様です朝日先輩」

 

真結(まゆ)文華(ふみか)、あと君もお疲れ」

 

 

 

「お疲れ様です」とそれぞれが零す。ドラムの彼女は少し恐縮していた。

私相手だからだろうか。

 

 

 

「良かったよライブ。前に見た時より上手くなってた」

 

「ほんとですか!?やった!褒められた!」

 

「ナツはしゃぎすぎ」

 

「でもそう言ってもらえるのは嬉しいよね」

 

「う、うん‥‥‥」

 

 

 

猫耳たちの演奏が始まる。ちょっと上手くなったギターの音が耳に届く。

 

 

 

CHiSPA(チスパ)のライブって、なんだかんだ初めて見たからさ。うん。良かったよ。バンド続けてくれて本当に」

 

「‥‥‥確かに沙綾が抜けちゃったのはショックでした。けどさとちゃんが入ってくれたから今も続けられているんです」

 

「そっか。なら君が救世主だな。さとちゃんだっけ。ありがとう」

 

「いえ。私もこのバンドに入れてよかったと思ってます」

 

 

 

私が素直に感謝の言葉を伝えると微笑みを返してくれた。

りんりんに近しいものを感じる。

 

 

 

「市ヶ谷さんたち楽しそうですね」

 

「まだまだ必死だけどな」

 

 

 

おたえは技術的に安心できる。有咲とりみちゃんは緊張気味だ。猫耳に関しては完全に楽しむことしか考えてない。

おたえと猫耳の二人は良い所で、有咲とりみちゃんは直すべき所。だけどそれを見られるのは今だけかもしれないから嬉しくてたまらない。

 

ここに、沙綾もいたらなぁ__

 

 

 

「‥‥‥ねえ夏希」

 

「なんですか?」

 

「沙綾のこと、任せていいかな」

 

「え?」

 

 

 

気が付けばそう口にしていた。夏希たちが目を丸くする。そんな四人とは視線を合わせずに私はステージを見ていた。

 

なんでこんなことを言ったんだろう。

やっぱ沙綾に笑顔になってほしいから?

沙綾にドラム続けてほしいから?

こいつらが元バンドメンバーだからかな。

いや、違うな。

 

 

私だと沙綾をバンドに引き戻すには力不足だと思ったからだ。

 

 

私は沙綾と何度かセッションしたことはある。

だが共に練習した時間は明らかに夏希たちの方が長い。私は暇な時に沙綾に付き合ってただけ。

 

 

沙綾はここに来ると信じていた。ただ本当に来る保証はない。

けどもしもここに沙綾が来るなら、ここに連れてくるのは悔しいけど私の役目じゃない。

 

 

 

「頼むよ」

 

 

 

ステージから目を離し真剣な瞳を夏希に向ける。

また目を丸くして、そして笑った。

 

 

 

「朝日先輩が沙綾のことでそんなに困った顔してるの初めて見ましたよ」

 

「可笑しいか?」

 

「全く」

 

 

 

沙綾とはそれなりの時間一緒にいた。それなのにどう対応すればいいのかわからないのは初めてだった。

そんなの困るに決まってるだろ。

 

 

 

「任せていいよな」

 

「へへー。任されました」

 

 

 

夏希は笑っていた。

他の三人も笑っていた。

それが嬉しくて私もつられて笑った。

 

 

 

CHiSPA(チスパ)の四人がいなくなって私は一人Poppin'Partyの演奏を聞いていた。

咲祭で三曲もできるのはいい経験になるだろう。まだ所々の間違いは目立つ。特に猫耳のミスはわかりやすい。今はおたえのアドリブでどうにかごまかせてるが。

これは次のライブまでに特訓を積ませねーとな。

上手くなってるのは事実だけどまだまだだ。

 

今のところ沙綾は体育館に来ていない。

猫耳たちはもう三曲目に入る。

 

 

 

「次に歌う曲は今日のために作った曲です。みんなで作った曲。

今日は一人いないけど、いつか一緒に歌おうって約束しました」

 

 

 

猫耳の想いは一途だった。そこは私と同じみたいだ。

 

 

 

「いつかはまだだけど、信じてる。一緒に歌うこと。できるって」

 

 

 

失笑が漏れる。

やっぱ私の声じゃ、あいつには届かなかったかな。

 

 

 

「えっと。そんな気持ちを込めて歌います。聞いてください」

 

 

 

その時だった。

突然体育館の出入り口が開いた。暗かった空間に光が差す。

 

 

それは私が求めていた光だった。

 

 

 

「沙綾!」

 

「沙綾!」

 

「沙綾ちゃん!」

 

 

 

猫耳たちの声がマイクにのる。周りは急なことにざわついていた。

私は驚いて、でも同時に胸が温かかくなった。

 

 

 

「沙綾‥‥‥」

 

 

 

その声は周りにかき消される。

そのはずなのになぜか沙綾には届いていてやる気に満ちた笑顔で私に手を振っていた。

手にはドラムのスティックが握られている。

 

沙綾は真っ直ぐステージへ向かう。猫耳の手を取って舞台に上る。

 

その行動が、すごく、嬉しかった。

 

 

ドラムセットをいじって音を出す。その姿に笑顔が零れた。

どうかしてるよ。ぶっつけ本番でこんなことするだなんて。だいたい曲知ってるのかよ。

本当にどうかしてる。けどそんなところが私は好きだ。

 

 

 

「それじゃあ聞いてください。STAR BEAT~ホシノコドウ~」

 

 

 

でたらめなドラムだった。

スティック落としそうになるし全然違うフレーズ叩いてたり、でもリズムはちゃんと刻んでいて他の四人と目を合わせて。

 

周りに見られて恥ずかしそうなことはない。

むしろ今までにないくらい楽しそうで。

 

 

 

今日のライブは今までにないくらい最高なものだった。

 

 

 

 

 

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