不良少女(仮)   作:茜崎良衣菜

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無力な私たち。

 

 

 

朝日先輩が屋上からいなくなった。

授業をサボって何時間待ったって朝日先輩はあの後から一度も屋上に訪れていない。かと言って教室を覗いてもいない。松原先輩や白鷺先輩に聞いても知らないと帰ってきた。

蔵練にだって、一度も来ていなかった。そのせいでポピパの雰囲気は最悪だ。

……いや朝日先輩のせいじゃない。私のせいだ。私があの時に朝日先輩を引き留められなかったから。あの日、私がちゃんと朝日先輩を連れ戻せたら。あの人の心に住めていたら。もっと諦め悪かったら。

無理矢理にでも朝日先輩を帰さなければよかった。私が傷つくくらいで朝日先輩を助けられるのならそれでよかったんだ。

なんで、朝日先輩のことを逃がした。好きなら離さなければいいのに。どうして私はそうしなかった。

 

 

 

「有咲。練習行こう」

 

 

 

香澄の声で現実に戻される。クラスにはもう私以外のクラスメイトは数名しかいなくて、ギターやベースを背負ったメンバーが目の前にいた。

笑っているその表情は、ただのカラ元気だ。

 

 

 

「……おう。行くか」

 

 

 

席を立って皆の隣に並ぶ。蔵に向けて歩き出した。

多分、私や沙綾よりも香澄たちへのダメージの方が大きいと思う。

私たちは知ってたんだ。朝日先輩最大の本当は誰にも知られたくない秘密を。

けど香澄たちはあの日初めて知った。包帯の正体も、その時に初めて知った。しかも一番最悪な方法で知ってしまった。その代償はきっと私たちの比じゃない。

 

 

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 

 

静かだ。世間話なんて、くだらない話なんて、誰もしない。ここ最近ずっとそう。

蔵練に行くはずなのにこの雰囲気はまるで誰かの葬式に行くみたいだ。

 

 

 

「…………ねえ。今日は朝日先輩、来てくれるよね」

 

「……そんなの先輩次第だろ」

 

 

 

もう来ないかもなんて口が裂けても言えない。

朝日先輩は頑固だ。普段なら簡単に折れて相手に合わせるからそう思うことが少ない。けど自分が大切だと思うことに対しての意思は絶対に曲げない。

あの日朝日先輩は言った。「もうここには来ない」と。私はハッキリ、言われたんだ。真剣で、真っ直ぐで、悲し気な眼差しで。

それなのにどこに可能性があるって言うんだよ。あの人はもう蔵には来ないんだ。そしてきっと私たちに会うつもりもない。

また自分一人で抱え込んで、解決しようとしてる。本当にバカなんだよ。

私は言ったのに。一人じゃ解決できないこともあるから私を____。

 

 

 

「ッ!?」

 

「え、さーや!?」

 

「は?」

 

 

 

突然耳に届いた香澄の焦った声。いつの間にか下がっていた顔を上げれば沙綾が走っていた。訳が分からない。なんで急に。みんなで同じ場所に向かってるんだから走る必要なんてどこにも……。

 

 

 

「まさかっ!」

 

 

 

あった。一つだけ沙綾が走る理由が。だとしたら。

 

 

 

「香澄、りみ、おたえ。先に蔵に行っててくれ!」

 

「あ、有咲!?どこ行くの!?」

 

「心配すんな!用が済んだらすぐ行くから!」

 

 

 

沙綾を追いかけるように校内を走る。途中で風紀委員の人が走るなと注意していたけど全部無視だ。そんなものに従っている場合じゃない。

階段を駆け下りて渡り廊下を越えていく。この先は旧校舎だ。授業の時くらいしか使われないからめちゃくちゃ静か。そのうえ用がなければ誰も来ない。なんでこんな絶好のサボりポイントを見落としてたんだよ私は。

 

 

 

「朝日先輩!!」

 

「……やっと、見つけた」

 

 

 

旧校舎の一番奥。今は使われていない社会科準備室。そこに朝日先輩はいた。

息を切らす私たちと対称的に朝日先輩は狼狽して、私たちを睨んでいた。

 

 

 

「……何か用かよ」

 

「ずっと探してました。朝日先輩、どうしてこんなところに……」

 

「それは私のセリフだ。なんでお前らがここにいる」

 

「先輩がここに入っていくのを見かけたからです」

 

 

 

沙綾が気づかなかったら朝日先輩の居場所を見つけるのにもっと時間がかかったと思う。

今見つけた以上、逃がしたくない。

 

 

 

「知るか。出てけよ」

 

「朝日先輩。なんで私たちのこと避けるんですか」

 

「はぁー?」

 

「蔵練には来ない、屋上にはいない、連絡しても全部無視。これで避けてないなんて言いませんよね」

 

 

 

おかしなことだらけなんだ。こんなの朝日先輩じゃない。

朝日先輩がどれだけのものを抱えているかはわからないけど、だけどこれはいくらなんでもやりすぎだ。

先輩のこと、あんたが教えてくれたんじゃないか。それなのに私たちから逃げんなよ。

 

 

 

「避けてたら何?避けたことでお前らに何か迷惑かけた?」

 

「迷惑って……本気で言ってるんですか」

 

「……私はお前らには関わる気はない」

 

「だから、避けてるんですか」

 

「ああ。これ以上お前らに迷惑はかけられない」

 

 

 

そんなこと言うなら、先輩の秘密を知る前に突き放してくれた方がマシだった。

 

 

 

「迷惑だなんて、私たちは思ってません!」

 

「香澄たちだって心配してます。だから戻ってきてください朝日先輩!」

 

「戻る気はない」

 

「朝日先輩!」

 

「私は!!」

 

 

 

私たちを遮った朝日先輩は苦しげな表情で、歯を食いしばっていた。

 

 

 

「……私のせいで誰かが傷つくくらいなら、味方なんかいらない。お前らだって、そうだろ」

 

 

 

その言葉はやけに私の心に刺さっていた。私はずっと朝日先輩の隣にいたいがために行動していた。だから朝日先輩の目線で物事を考えたこと、なかった。

多分私も朝日先輩の立場なら同じことをしたかもしれない。周りを遠ざけて勝手に抱え込んで。だって大切な人に傷ついてほしくないから。いくらその人に頼れと言われても傷つけたくない意思の方が強いに決まってる。

なんでそのことに私は気づかなかったんだ。

 

 

 

「……頼むから、もう近づくな」

 

 

 

また、先輩のこと助けられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

 

「……氷川、さん……」

 

 

 

宇田川さんの一件があり、急遽スタジオ練が休みになった今日。家でギターの練習をしようと帰る支度をしていた私を呼び止めたのは同じクラスで同じバンドメンバーの白金さんだった。

カバンを片手に私の前に立つ。バンド内で話すことはあってもクラス内で話すことはほとんどない。そもそも彼女の方から話しかけてくることも少ないから珍しいなと思った。

 

 

 

「白金さん。どうかしましたか?」

 

「……氷川さんは……朝日さんのこと、何か知っていますか……?」

 

 

 

予想通り、と言えばそうだ。

白金さんと宇田川さん、そして姉さんは仲が良い。何故かは全く分からないが気が付いた時には下の名前で笑顔を向けあっていた。

それなのに数日前の姉さんは私のイメージと異なっていた。

 

宇田川さんに吐いた暴言は、おかしなものだ。

素行の悪い姉さんの姿しか見たことのない方々は何も不思議に思わなかっただろう。宇田川さんに向けて「可哀そう」と適当なことを思ったはずだ。

だが私たちからしたらケンカをしているように、いや。あれは一方的に姉さんが嫌っているようにしか見えなかった。

そう見せている(・・・・・)ように見えた。きっと最後の呟きがなければただ姉さんに文句を言うだけだっただろう。

その一言のせいで、姉さんがわからなくなるなんて思ってもいなかった。

 

 

 

 

「……先に、聞いてもいいですか」

 

「……なん、ですか……」

 

「姉さんと宇田川さんが話している時って、変な雰囲気とかありました?少しでも不満そうだとか」

 

「…………そんな素振り、一度も……だから私は……驚きが隠せないんです」

 

 

 

白金さんは辛そうな表情で首を振った。

近くにいた白金さんが知らないというのなら、あれは一体……。

 

 

 

「なら私にはわかりません。正直な話。あんな姉さん、私も初めて見たので」

 

 

 

姉さんは授業をサボったり、両親と揉めることはあっても、根は優しいはずなのに。

宇田川さんや白金さんのことを避けて日菜との距離が縮まった理由。

 

それを突き止めれば私たち姉妹の仲は戻るのだろうか。

 

 

 

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