不良少女(仮)   作:茜崎良衣菜

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結託の日。

 

 

 

「日菜。ちょっといいかしら」

 

「え、おねーちゃん!?」

 

 

 

家に帰って夕食とお風呂を済ませた私は日菜の部屋に訪れていた。

 

内容は帰りながらずっと考えていた市ヶ谷さんたちの会話。結局市ヶ谷さんたちの言っていたことは何一つわからなかった。

ギターの練習をしていても全く集中できなくて、ただ迷走して。日菜の部屋に来たのも姉さんと仲の良かった日菜なら姉さんのことを何か知っているかもしれないと思ったから。

核心に迫れるんじゃないかって淡い期待があった。

 

 

ノックをして開いた扉。中には急に現れた私に驚く日菜がいた。

けど次の瞬間には目がキラキラ輝いていてとても嬉しそうだった。

 

 

 

「どうかしたの?おねーちゃんがあたしの部屋に来るなんて珍しいね!」

 

「話したいことがあって。時間大丈夫?」

 

「うん!」

 

 

 

いつも以上に明るい声。そんなに私が来たことが嬉しいのだろうか。

扉を閉じて部屋の中に入れば日菜は自分の座っていた椅子を私に譲ろうとしていた。さすがに部屋の主である日菜を退かしてまで座ろうと思わないから断った。椅子に腰かけたままの日菜とは対照的に私は立ったまま話すことにする。

 

 

 

「それで話って何?るんっ♪ってすること?」

 

「るんとするかはわからないわね」

 

 

 

日菜の言う「るんっ♪」の意味が大方楽しいことなのは理解してるつもりだった。ならるんっとはしないと言うべきだったか。

 

 

 

「‥‥‥日菜」

 

「ん?」

 

「姉さんが私たちを突き放した日、貴方は何を思ったの」

 

「え‥‥‥」

 

 

 

突然の私の発言に日菜は目を丸くした。

 

 

 

「‥‥‥それ、どういう意味?」

 

「‥‥‥今日、姉さんのことで気になったことがあるのよ」

 

 

 

なんでもいい。だから教えて。

そう私が言えば日菜は真剣な表情で考え始めていた。日菜とこうやって話をすること自体久しぶりだからこんな真剣な日菜を最後に見たのはいつだろうと思う。明確な時は覚えていないが姉さん関連だったことは覚えている。

 

 

 

「‥‥‥あの日のことであたしが覚えてるのは、ただ悲しかったってことだけだよ。初めておねーちゃんに拒絶されてショックだった」

 

「日菜‥‥‥」

 

「けど‥‥‥それ以上におねーちゃんは悲しそうにしてた」

 

「え‥‥‥?」

 

 

 

姉さんが、悲しそう?

あの日にも姉さんはそんな顔を‥‥‥?

 

 

 

「あの日、おねーちゃんがあたしの知ってるおねーちゃんじゃなくなった。言動も口調も行動も。

けどね、おねーちゃんの悲しそうな顔だけは変わってなかったよ。

おねーちゃんは知らないでしょ。おねーちゃん、あたしたちを突き放した日、自分の部屋で泣いてたんだよ」

 

「泣いてた‥‥‥?」

 

「うん。泣いてた。多分、あの日の夜偶然部屋から出てなかったら気づくことなかったと思う」

 

 

 

すすり泣く声とあたしたちへの謝罪が込められていた。そう日菜は言った。

 

 

 

「それを聞いておねーちゃんがあたしたちに言ったあの言葉が嘘だって知った。だからあたし、決めたんだ。どんなにおねーちゃんがあたしから離れようとしてもあたしはおねーちゃんについて行くって。

その結果で落ち込むこともあったけど、でも後悔はしないようにしたかったから」

 

「どうして、教えてくれなかったの」

 

「だってあの後すぐにおねーちゃんと、その‥‥‥仲悪くなっちゃったから」

 

「っ‥‥‥」

 

 

 

日菜に聞けば聞くほど私の知らない姉さんが増えていく。

それが少しだけ私の心をもやもやさせた。

 

 

 

「あと、あの日からだよ」

 

「何が」

 

「お母さんたちがおねーちゃんに冷たくなったの」

 

「冷たくって‥‥‥日菜?何言って」

 

「お母さんたちはおねーちゃんがああなっても全く表情が変わらなかったの。今までもちょくちょく変だなぁって思うことはあったけど、次の日くらいから完璧に変わってた。

おねーちゃんのことなんてどうでもいいって態度を取り始めて、あたしたちのことは大切そうなのにおねーちゃんはそうでもないって言ってるようにあたしには見えてた」

 

 

 

人に興味なかったあたしがそれだけわかったんだから間違いないよ。

そう日菜に言われて今までの姉さんとお母さんたちのやり取りを思い出す。

見たことはあまりない。多分数も多くない。けどどれも私たちと比べるとその差は明らかに違う。

 

 

 

「おねーちゃん、本当に気づいてなかったの?」

 

 

 

考えれば姉さんのことを両親に何か言われたことがあっただろうか。

急に私たちにあんな態度を取ったのにも関わらず両親は気に留めることは一度だってなかった。それはなぜ?

そんなにわかりやすい変化にどうして私は気づいていなかった。

 

 

 

「‥‥‥私はずっと、姉さんが一方的に私たちを嫌って両親に反抗しているだけだと思ってた。けどもしそれが違うとしたら‥‥‥」

 

「おねーちゃんがああなったことについてお母さんたちが何か知っててもおかしくないと思う」

 

 

 

確かにそう考えると今までの行動も納得できるかもしれない。

だけどそうなると姉さんとお母さんたちの間で何が起こっていたのかはわからないからそれを見つけないと。ただ直接お母さんたちに聞いていいものなのかは微妙だ。

 

けどやっぱり、どう考えても不自然だ。姉さんが態度を変えたのに私たちと両親の接し方が何も変わらないのはおかしい。どうして今までそれに気づかなかったのかも考え物だが、本当に市ヶ谷さんたちの会話を聞いていなかったら永遠に気づかなかったかもしれない。そもそもどうして市ヶ谷さんたちは姉さんの抱えていることを知っていたの。

 

 

 

「それで、おねーちゃんはあたしにそれを聞いてどうするつもりなの」

 

「‥‥‥決まっているでしょ。姉さんを助けるのよ」

 

「助ける?」

 

 

 

私は今日市ヶ谷さんと山吹さんが話していたことを話した。要約して簡潔にではあるけど話せば話すほど日菜の表情がコロコロ変わっていく。最終的には私と同じように悩んだ顔になっていた。

 

 

 

「ただ今姉さんの抱えている問題が昔と同じなのか否かはわからないわ。もしかしたら前の悩みはもう解決していて、今は違う悩みを新たに抱えているのかもしれない。私たちにできることも、本当はないのかもしれない。

 

けど、それが姉さんと向き合わない理由になってはいけないと私は思っているわ」

 

 

 

姉さんに突き放された過去がある。

日菜を突き放してしまった過去がある。

自分が孤独だと思っていた過去がある。

 

思い返してみれば日菜にも姉さんに対しても向き合わずにずっと逃げてばかりだった。

そんなのは、もう終わりにしよう。

 

私が後悔しないように。

日菜にも姉さんにも後悔させないように。

 

 

 

「ねえ日菜。私に協力してくれる?」

 

「もちろんだよ」

 

 

 

日菜は頷いた。

 

 

 

「なら早速で悪いけど姉さんの部屋に行かない?」

 

「おねーちゃんの、部屋‥‥‥?」

 

「簡単に話してくれないのはわかってるわ。けど話さないと何も始まらないでしょ」

 

 

 

今更遅いかもしれない。突き放されたことに勝手に怒って勝手に傷ついて、今までたくさん迷惑かけた。向き合えなかった分、これからは全力でぶつからないといけない。

どんなに傷つけられても姉さんが離れていかないように。

 

 

 

 

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