土曜日、運命の日。
朝は11時20分。私は待ち合わせで指定された場所に来ていた。
理由は楽しみであり不安でもあったあこちゃんとりんりんとのオフ会のため。
予定の時間は11時30分。あと10分だが人が多くて二人がどこにいるかわかりやしない。唯一の連絡手段であるSNSでダイレクトメッセージを送る。すぐに返事が返って来た。
〈着いたけどどこにいる?〉
〈近くのファストフード店にいるよ。あこちゃんも一緒だよ〉
ファストフード店はすぐに見つかった。
席は入って一番右奥らしい。それを頼りに進んで行けば楽しげな声が段々と大きくなっていく。
「ねぇりんりん、ひっさーってどんな人だろうね!あこ会えるの楽しみだよ!」
「うん、そうだね‥‥私も楽しみ‥‥だよ」
どうやらここで間違いないらしい。二人の声質的にも女の子だ。
ひとまずお持ち帰りされる心配はないだろう。
だけどすごく仲良さそうだな。私が間に入ってもいいものなのか。ダメそうなら先に帰らせてもらおう。
「あの、あこちゃんとりんりんで‥‥えっ!?」
声を掛けた相手に私は動揺を隠せなかった。
だって彼女は‥‥。
「ひ、氷川さん!?」
「え、紗夜さん!?いやでもピアスなんてしてないし、だ、誰ですか!?」
同じ高校の
今年はクラスが違うが昨年は同じクラスだったから覚えている。静かで休み時間も本を読んでいるようなタイプ。クラスでも目立たない存在だった。サボりがちな私が覚えているのも奇跡に近い。
が、その彼女がここにいるというのはそう言うことなのだろう。
まさか初オフ会で知り合いと出会うハプニングが起こるなんて誰が想像していたことか。
「二人があこちゃんとりんりんなんだよね。色々説明したいから座ってもいいかな?」
コクリと頷く彼女たち。片方のソファに移動し対面に私が座る。
目に見えて困惑している二人にふぅーと息を吐いた。
「とりあえず自己紹介しようか。わかってると思うけど私が『ひさ』。本名は氷川朝日よ。よろしく」
「えっと、『聖堕天使あこ姫』の宇田川あこです」
「‥‥『りんりん』、白金燐子、です」
プレイヤー名ほとんど名前変わってないのか。
ネットゲーマーにしては珍しいな。
「あこちゃんは紗夜のこと知ってるみたいだね。私は紗夜の姉だから」
「紗夜さんのおねーさんなんですね。最初紗夜さんが来たのかと思ってびっくりしました」
「‥‥‥‥」
あこちゃんの方は元気で話しやすい。予想していた人柄と同じだ。りんりんに関しては確かに優しい人だろうけど、どちからと言うと断れない人だろう。
無邪気さが前面に押し出されていていかにも後輩って感じだ。りんりんは緊張しているというか怯えているというか。普通腕に包帯巻いて目つき悪い奴が現れたら誰だって怯えるけどね。
「りんりん?大丈夫?」
「‥‥う、うん‥‥」
あこちゃんが不安げにりんりんを見つめた。
りんりんが怯えているのが私のせいだとわかっているがどうしたもんか。
「‥‥呼び方はりんりんでいいのかな?色々思うことはあるだろうけど学校の時の私と学校外の私は別人だと思ってほしい。今は学校みたく無関心な態度も反抗的な態度も一切取らないと約束する。だからお願い。話を聞いてくれない?」
なるべく温厚に、これ以上怯えられたりしないように、優しく話しかける。
そもそもあの態度は好きで取っているわけじゃないからその方が助かる。怯えられたままは辛いし。
「‥‥わかり‥‥ました」
「ありがとう。助かるよ」
これで断られたらショックだった。
「まず聞きたいことはどうして今日オフ会をしようと思ったのか。雰囲気から察するに二人の仲は良いんだろうから二人の方が良かったんじゃない?」
「確かに二人でオフ会やるのも楽しいけどひっさーにも会ってみたくて‥‥」
「だからって女子高生二人が急に会おうって、相手が男だったらどうするつもりだったのさ」
「もし変なことされそうになったらおねーちゃんに連絡するつもりだったから大丈夫だよ!」
「‥‥あと、あこちゃんは‥‥中学生、です‥‥」
「なおさらダメでしょ」
中学生って、余計危ない。
でもなんか納得だ。やけに子供っぽい高校生だと思ってたし、あこちゃん、妹感強いし。
「あこちゃんはどこの中学?」
「羽丘の中等部です!」
「羽丘か‥‥」
なら日菜の後輩ってことになるのか。道理で見たことないわけだ。
「朝日、さんは紗夜さんと同じ花女ですか?」
「そうだよ。意外かな」
「いえ、そんなことないですよ!制服も似合ってるだろうし、カッコいいと思います!」
「かっこいい、のかな‥‥?とりあえずありがとう」
「ただピアスなんてしてたら紗夜さんが怒りそうだけど‥‥」
ちゃんと紗夜の性格わかってるね。正解だよ。
紗夜は堅物風紀委員長だから。
「実際怒られてるよ。ほぼ毎日」
「ほぼ毎日!?」
頬杖を突きながら言えば見事なオウム返しが耳に刺さった。紗夜のイメージが強いのか意外とでも言いたげだ。
「私は紗夜と違って不真面目だし、日菜と違って才能もない。だから何の役にも立たないことばっか趣味にしてくだらない日常を楽しんでるんだ」
本気なんか出さなくていい。二人が輝いて見えるなら私はどれだけでも落ちてやる。そのためだったらなんだってしてやる。
「‥‥でもテスト‥‥毎回高得点じゃ、ないですか‥‥」
「80点は別に高得点じゃないよ。だって天才は100点しか取らないし秀才は常に90点以上だからね。毎回80点でも素行不良が重なれば姉妹内の評価は下がるもんだよ」
「そんなことないと思いますけど」
「あるよ。私たちの家ではね」
だから仲の良かった姉妹の関係は変わった。変えられてしまった。
私は孤立して落ちぶれて、グレた。
紗夜は日菜からの期待の目に耐えられなくて拒絶した。
日菜は空気を読めずに避けられた。
全部全部比べられてきたせい。
それぞれがそれぞれの重荷になってしまっている。
ただ同じ時に生まれたというだけでどうして私たちはすれ違わないといけなかったんだろう。