不良少女(仮)   作:茜崎良衣菜

40 / 87
知らない私。

 

 

「姉さんのことを教えてください」

 

 

 

そう紗夜先輩が私たちに言った時、私は腹が立って仕方なかった。

 

 

 

「私たちが教えることは、簡単です。けどそれだと多分紗夜先輩たちは納得できないと思います。正直私も初めて聞いた時は信じられませんでしたから」

 

 

 

朝日先輩から直接聞いた方がいいですよ。

そう続けたら紗夜先輩は訳がわからないという顔をしていた。そんな紗夜先輩の横をすり抜けて沙綾の手を引いて生徒会室から出て。

 

 

 

「待ってください」

 

「紗夜先輩も多分日菜先輩も。朝日先輩のこと、見てなさすぎなんです。ちゃんと見てたらこうはなってないんですよ」

 

 

 

私たちを呼び止める声も私が一蹴する。

紗夜先輩はそれ以上何も言わなかった。きっと、朝日先輩と向き合って来なかったことを改めて認識したからだ。それ以外ありえない。

 

 

 

「……有咲って、朝日先輩のことになると相手が誰であっても平気で酷いこと言うよね」

 

 

 

正門に辿り着いた所でそう言われた。

 

 

 

「そんなことねぇよ。気のせいだ」

 

 

 

手を離して蔵に向けて歩き出す。

 

 

 

「すごいブーメラン発言だったけど?」

 

「……わかってるよそんなこと」

 

 

 

私がちゃんと見てたら朝日先輩はああはならなかったかもしれない。

いつだってそう思うんだ。紗夜先輩に言った言葉が自分にも響いている。

 

 

 

「あーりさ」

 

 

 

後ろを歩いていた沙綾が隣に並ぶ。

心配そうに垂れ下がる眉が気に食わなかった。

 

 

 

「有咲は、バンドのことと朝日先輩のことになるとすっごく真面目だよね」

 

「……なんだよ急に」

 

「私は何かに必死になってる有咲好きだよ」

 

「…………うぜぇ」

 

 

 

そっぽ向く私に沙綾はクスクス笑った。

こんな時にからかうのはやめてほしい。

 

 

 

「絶対、また朝日先輩と笑い合おうね」

 

 

 

急に真面目なこと言うのもやめてほしかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♢♢♢

 

 

誰かと話している時に第三者のように客観的に物事を見られる自分がいることはなんとなく気づいていた。

 

 

あこちゃんやりんりんと話している時。

松原や猫耳たちと話している時。

有咲や沙綾と話している時。

紗夜や日菜と話している時。

 

 

全て話していることとは違うことを思っていた。

 

 

 

『朝日さんかっこいいです!』

 

「本当?ありがとう」

 

 

__お前はかっこよくなんかない。

 

 

 

『‥‥‥頼りに、なります‥‥‥』

 

「そう言ってもらえると嬉しいな」

 

 

__頼りにだってなりやしない。

 

 

 

『朝日さん、これ教えてほしいんだけど‥‥‥』

 

「はぁ。仕方ないな」

 

 

__どうせお前に期待なんてしていない。

 

 

 

『朝日先輩!ギター教えてください!』

 

「必要なのは往復練習だぞ」

 

 

__みんなただお前を利用してるだけさ。

 

 

 

『練習、一緒にしませんか?』

 

「少しだけな」

 

 

__ご機嫌取りもそのためだよ。

 

 

 

『チョコ、食べます?』

 

「ありがとう。もらうよ」

 

 

__仲良くすることに他意はない。

 

 

 

『好きです朝日先輩』

 

『愛してます世界中の誰よりも』

 

「待ってて。ちゃんと答えを出すから」

 

 

__こんなお前を好きになるはずないだろ。お前は弱い自分が嫌いなのにその自分を好きと言うヤツラを好きにはなれないさ。好きって言葉は偽りなんだよ。

 

 

 

『姉さんの抱えているものは何。私たちには言えないようなことなの?』

 

『あたしは何があってもおねーちゃんの味方だよ!』

 

「ありがとう。もう少しだけ待ってて」

 

 

____本当は嫌いなくせに心配そうなフリなんかするなよ。私に味方なんていない。適当なこと言うな。ワタシはこれまでもこれからもずっと独りなんだから。惑わせるのはやめてくれ。

 

 

 

「違うそうじゃない!あいつらは誰一人そんなこと思ってない!」

 

 

 

____どうしてそうだと言いきれる。お前には人の心が読めるのか?

 

 

 

「読めなくたって一緒に過ごしてたらわかるさ!」

 

 

 

____本当に?彼女たちがお前のいない所で何か言っている可能性はゼロパーセントで間違いないんだな?

 

 

 

「っ……」

 

 

 

____おいおい黙るなよ。ワタシはお前に確認しているだけじゃないか。お前だってその自信があるからそう言ったんだろ?

 

 

 

「うるさい」

 

 

 

____また逆ギレする気か?お前の悪いところだぞ。

 

 

 

「知ってるよ。何が悪い」

 

 

 

____お前散々ワタシにキレてるけどさ、ちゃんと自覚してんだろ?

 

 

 

「やめろ」

 

 

 

____あいつらはみんな、多分お前のことを信頼してくれている。

けどお前は、心の奥ではあいつらを信用も信頼もしていないだろ。

 

 

 

「ちがう」

 

 

 

____信用と信頼をしているように見せて本当は誰もお前の心には住んじゃいない。

有咲も沙綾も紗夜も日菜も。お前は誰にも期待していないし信じないようにしている。

理由は簡単だ。裏切られたくないんだよ。

両親みたいに信じていた人たちに裏切られたくないから、だから最初から誰も信じようとしなかった。信じていた人たちも遠ざけた。

お前は弱いうえに卑怯なヤツだよ。

あいつらはお前のことに逃げずに向き合おうとしてくれているのにお前はいつだって自分のことから逃げている。

この案件だって、本来ならもっと前に解決していたはずだ。もっと早くに紗夜や日菜との仲を戻せていたしわざわざ不良児を演じる必要もなかった。

全部お前が悪い。お前が________。

 

 

 

わかってんだよ!!……わかってるんだ。本当は全部無意味なことだって、変わりやしないことだって」

 

 

 

____だったらなんでその可能性を捨てられない。他の人間への信頼なんて皆無のくせに、どうして信じようとするんだ!!

 

 

 

「バカな自覚はあるさ。けど……仕方ないだろ」

 

 

 

____…………ワタシは嫌いだよ。お前のそういうところ、大嫌いだ。

それさえなければ地獄から抜け出せるのにそれをせずイタズラに時だけが過ぎていく。無駄だよ全部。考え直せ。

 

 

 

「…………私は、考えを改める気はない。黙っててくれ」

 

 

 

____そうか。それならワタシはもう止めないよ。好きなように壊れてくれ。そしたら私がお前を支配するから。

 

 

 

「できるもんならやってみやがれ」

 

 

 

____お前がどう足掻いていくか楽しみだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スマートフォンに送られたメッセージ。

それに目を通す。

 

 

 

朝日先輩。

先輩は一人じゃないです。

だから一人で悩まないで。

一人で強がらないで。

 

 

朝日先輩。

悩んでいることを抱え込まないでください。

言ってくれないと、わからないです。

私は貴方の本心が知りたい。

 

 

 

 

沙綾と有咲から。他にも色々な人からの心配そうなメッセージ。胸が痛い。

だけどそんなの送られても無理だよ。

 

言えない言いたくない。強がってない強がろうともしてない。問題なんて抱えてない抱えた覚えもない。本心を隠したつもりもその気もない。

 

私は嘘つきじゃないよ嘘ついたことないでしょ。

 

 

 

 

 

 

ねぇ。

 

優しくなくても優しいと。

かっこよくなくてもかっこいいと。

頼りにならなくても頼りになると。

大切だと思っていなくても大切だと。

好きでなくても好きだと。

 

貴方は、そう言ってくれますか?

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。