不良少女(仮)   作:茜崎良衣菜

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疑問、溢れる。

 

 

 

「嫌いになったことなんてないよ」

 

 

 

嬉しかった。

 

 

 

「おいで」

 

 

 

温かかった。

 

 

 

「おはよう」

 

 

 

幸せだった。

 

 

 

「ほら撮るぞ」

 

 

 

笑顔になれた。

 

 

 

「行け!」

 

 

 

辛かった。

 

 

 

 

 

幸せな時間が長く続かないことをこの日初めて知った。

 

 

 

 

あたしはただおねーちゃんと。

 

私はただ姉さんと。

 

 

 

「「一緒にいたいだけなのに」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

次の日学校に行って私が真っ先に向かったのは二年生の教室だった。朝日先輩のクラスであるA組を覗く。しかしそこに朝日先輩はいなかった。

 

 

 

「あれ有咲ちゃん?二年生の教室でどうしたの?」

 

 

「ま、松原先輩。あの、朝日先輩いますか?」

 

 

 

現れたのは朝日先輩と同じクラスの松原先輩だった。文化祭の時の鋭い雰囲気を思い出して恐縮するがそんな様子はなくおっとりとしている。

 

 

 

「朝日さん?」

 

 

 

松原先輩は首を傾げた後に教室内を見渡した。そしていないみたいだよと返す。私は松原先輩にお礼を言って早々に二年生のフロアから去った。

 

 

次に先輩がいそうな候補である屋上へと足を進めた。

 

 

正直紗夜先輩たちと仲直りしたというのなら学校で不良のような態度を取る必要はない。元の朝日先輩の性格を考えれば孤独よりもみんなでワイワイ騒いでいる方が性に合っている。

容姿や落ち着きは紗夜先輩、けど性格は日菜先輩。それが本来の朝日先輩。

それが見られるのは、やっぱり嬉しい。だからこそ早くそんな朝日先輩を見たかった。

鼻歌が零れる。今日は調子がいいみたいだ。

 

 

 

「朝日先輩!」

 

 

 

屋上の扉を捻り私はそこにいるであろう人物の名前を呼んだ。

しかし返ってくる声はない。屋上に出ていつもいる場所を見るが誰もいない。

 

ここじゃないのか。なら旧校舎だろうか。

 

 

 

「あれ、有咲?」

 

「‥‥‥なんだよ沙綾か」

 

「何その反応。酷くない?」

 

 

 

屋上から教室へ移動しようとしたら聞こえてきた声。朝日先輩かと思って振り返ればそこにいたのは沙綾だった。朝日先輩ではないという事実に沙綾には悪いがテンションが下がってしまう。

 

 

 

「なんでここにいるんだよ」

 

「朝日先輩のこと探してて。有咲もそうでしょ?」

 

「ああ。けどここに朝日先輩はいねえぞ。教室にもいなかったしまだ来てねえんじゃねえか?」

 

「かもね」

 

 

 

そう言う沙綾だが私の言葉に少なからず落ち込んでいた。

 

 

 

「そう言えば有咲。あの後朝日先輩から連絡来たの?」

 

「いや全然。家にも行ってみようと思ったんだけどそれはさすがに迷惑かと思って‥‥‥」

 

「まあ朝日先輩としても両親のこととかあるし家に来てほしくないかもしれないね」

 

「それは私も思った。とりあえず今日会えるからいいかなって」

 

「‥‥‥もうそろそろHR始まっちゃうし昼休みにまた朝日先輩の所行こっか」

 

「そうだな。HR遅れると面倒だし行くか」

 

 

 

私の声に頷いた沙綾と一緒に屋上を降りていく。

そこには紗夜先輩がいた。今登校してきたのか鞄を持っている。いつもなら朝早くに登校して風紀委員の仕事をしているのに珍しい。

私たちに気づいたのか挨拶をしてくれる。

 

 

 

「市ヶ谷さん、山吹さん、おはようございます」

 

「おはようございます紗夜先輩」

 

「おはようございます。この時間に登校してくるなんて珍しいですね」

 

「今日はやることがあって。お二人は屋上で何をしていたんですか?」

 

「朝日先輩のことを探してて‥‥‥」

 

 

 

朝日先輩との仲を戻したというのなら別に言ってもいいだろう。そう思って呟いた言葉。紗夜先輩は「それなら」と返す。

 

 

 

「姉さんでしたら風邪で休みですよ」

 

「え、そうなんですか?」

 

「はい。数日前から拗らせていて、今日も看病をしてから来ました」

 

「けどそれならどうして連絡がつかないんですか?」

 

「それは、姉さんが最近スマホを水没させたからです。買い替えに行かないといけないんですけど姉さんが本調子じゃないので行けていなくて‥‥‥」

 

 

 

最近まで色々なことに気を遣っていた朝日先輩。その疲れが今になって現れたってことだろうか。紗夜先輩の発言的に朝日先輩は寝込んでいるんだろうし、やっぱり家には行かなくて正解だったな。けどいくらスマホが水没していたとしても連絡する手段はいくらでもあったはずなのに。なんか、朝日先輩らしくないと思った。

それに家で寝ているのならあの両親から何かされるんじゃないか、とも。正直そこが一番心配だ。

 

 

 

「‥‥‥大丈夫です。姉さんのことなら心配しないでください」

 

 

 

私たちの顔を見て紗夜先輩は優しくそう言った。そんなに朝日先輩への心配が態度に出ていたのか。それは紗夜先輩にしかわからない。

 

 

 

「私と日菜がちゃんと見てます。お母さんたちは近づかせませんから」

 

 

 

紗夜先輩の真面目な言葉に私たちは顔を見合わせる。そしてお互いに頷いた。

今の紗夜先輩になら朝日先輩のこと任せられそうだと思った。

 

 

 

「紗夜先輩。朝日先輩のこと頼みますね」

 

「お願いします」

 

「はい。もちろんです」

 

 

 

なぜかその瞳には決意が揺れていて、少し疑問が湧いたが気づかないフリをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

Roseliaの練習に初めて紗夜が来なかった。いつもなら10分前にはスタジオにいるのに何時間待っても来る気配すらない。電話やメッセージを送っても返答はなくて、さすがに変だと思った。

日菜にも同じことをしたけど結果は変わらなくて。心配になったアタシは様子を見に行くことにした。

 

練習終わりにそれを告げれば友希那たちも行きたいと言い出し、4人で紗夜の家に訪れた。

しかしインターフォンを押していくら待っても誰かが出てくる気配はない。おかしいと思った。だってその日は日菜もオフだって言ってたし。家の駐車場には車が止まっていたから親もいるものだと思った。

 

 

 

「紗夜も日菜もいないのかなー?」

 

「‥‥‥何か‥‥‥あったんでしょうか‥‥‥?」

 

「急にどこかへ出かける用事だったのかもしれないわね」

 

「なら次の練習の時に聞けばいいんじゃないですか?」

 

 

 

仮に友希那の言っていることが正しいとして果たして紗夜が何の連絡もなしに練習を休むだろうか。ただでさえ真面目な性格で、大切なものや譲れないものに対する執着心が強いのに連絡を入れないということがありえるだろうか。性格が正反対の日菜ならもしかしたらありえるかもしれないけど紗夜相手なら十中八九ありえない。

燐子の言った通り何かあったに違いない。けどあこの言ったように次の練習に来た時に話してくれるかどうかは微妙だろう。それは多分日菜相手でも同じこと。

 

まあ連絡が取れないなら今日は諦めるしかないんだけどね。

 

 

 

「あれ?リサちー?」

 

「日菜!」

 

「友希那ちゃんに燐子ちゃんにあこちゃんもこんな所で何してるの?」

 

 

 

アタシたちの後ろからひょっこりと顔を出した日菜に驚き声を上げる。こっちは何度も連絡して連絡が取れなかったことを心配していたというのに当の本人はいつも通り。あっけらかんとした態度に張っていた気が抜けてしまった。とりあえず、会えてよかった。

 

 

 

「日菜。何回も電話したのに全然出てくれないから心配したんだよ?」

 

「え、そうだったの?スマホの充電なかったから家に置いたままだったんだよね。ごめんね取れなくて」

 

 

 

そういうことらしい。日菜らしい答えに胸を撫で下ろした。

 

 

 

「それでどうしたの?何か用事だった?」

 

「あ、そうそう。あのさ日菜。紗夜って今どこにいるの?」

 

 

 

ただそう伝えた。それなのに何故か日菜の肩が揺れる。不思議で首を傾げた。

 

 

 

「日菜?」

 

「あ、いや‥‥‥うん。隠してても仕方ないよね‥‥‥」

 

 

 

ごめんねみんな。

下がったトーンで最初にそう謝った日菜。続いた予想外の言葉に絶句する。

 

 

 

「おねーちゃん、しばらくRoseliaの練習休むから」

 

 

 

簡潔で、重みのある言葉。

何事もなく家の中に入ろうとする日菜の腕を咄嗟に掴んだ。

 

 

 

「ま、待って日菜どういうこと」

 

 

 

日菜は何も言わない。振り返った時に見せた表情は悲しげで身を引きそうになる。

日菜のそんな表情、初めて見た。

 

 

 

「‥‥‥今はただ待っててよ。あたしだって‥‥‥‥なんでこうなったのか、知りたい」

 

「日菜。ねぇホントに何があったの。紗夜は無事なんだよね?」

 

「‥‥‥多分、近いうちに知ることになるよ。だから今日は放っておいて」

 

 

 

焦った声ではそれ以上追求できなかった。

数分後、鞄を片手に出てきた日菜はアタシたちに目も向けず横を真っ直ぐ通り過ぎて行った。

 

 

 

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