「まあ私の家の話はどうだっていいよ」
これ以上話すつもりもないし。
それよりも気になってることがある。
「そういえば聞きたかったんだけどさ。りんりんが紗夜のこと知ってるのはわかるんだけど、なんであこちゃんは紗夜のこと知ってたの?」
「紗夜さんとあことりんりんは同じバンドのメンバーなんです!」
「バンド、メンバー?」
「はい!Roseliaって名前で、ちょーかっこいいんです!!」
待て待て、紗夜って少し前は違うメンバーとバンド組んでたじゃんか。変わり身早くね。いや紗夜の性格的には当然かもしれないけど。
てかこの二人が紗夜と同じバンドにいることが全く想像がつかないんだけど。
「結成してどれくらい経った?」
「んー、一カ月くらいかな‥‥」
妥当な数字だな。まだまだ始まったばかり。
だけど紗夜は日菜と比べられたくないからってギター全力すぎるからな。そのせいで舐めた演奏や態度、音楽に対する向き合い方にはだいぶ辛口だ。
今まで色々なバンドに加入して脱退してきた。長くても半年くらいまでしか続いていないのも事実だ。
二人には悪いけどRoseliaも続くとは思えなかった。
「そっか。頑張りなよ」
「はい!」
どうしよ可愛すぎるよあこちゃん。
「あこちゃんはどの楽器担当してるの?」
「あこはドラムです!」
「へー、ドラムか」
小さいのにドラムなんてよくやれるね。私なら無理だよ。
多分バンドに必要な楽器の中だと一番合っている気はするけど。
「大変じゃない?」
「確かにRoseliaの曲は難しいし練習も大変だけど、それ以上に楽しいんだ!」
「……そうなんだ。よかったね」
楽しいならそれに越したことはない。それならきっとこの先もバンド続けていけるだろうし。
「でも、体調管理はしっかりしなよ。体調崩したらせっかくの曲も台無しだからね。特にドラムは崩れちゃったら演奏が全部ダメになることだってあるから」
「はい!わかりました!」
言った後で中学生相手にプレッシャーになる発言かもと思ったけどあこちゃんは素直に頷いていた。ニコニコしている。
「あの朝日さん。紗夜さんって家でもずっとギターの練習してるんですか?」
「…どうして?」
「紗夜さんの演奏ってちょーかっこよくて痺れるんです!そう感じられるくらい練習してるってことですよね?だから家でも練習してるのかなって!」
「…そういうことね。興味津々なのはいいけどあこちゃんの望むような回答はできないよ」
「え?」
「私は、妹たちと仲が良くないから。紗夜のことも日菜のこともよくは知らないんだ」
ずっと関わって来なかった。今更だ。二人が何をしていようが把握なんかできるわけない。それだけもう離れてしまっている。
「ごめんねあこちゃん」
「う、ううん。あこの方こそごめんなさい…」
「なんであこちゃんが謝るの?怒ってないから安心して」
不安げな瞳に笑いかけた。対面に手を伸ばしてあこちゃんの頭を撫ででやる。
「今日は楽しく遊ぶために集まったんでしょ?これからどこ行くか決まってる?」
「‥‥近くでNFOの‥‥コラボカフェがあって‥‥」
「ならそこ行こうか」
私は席から立ち上がり二人に手を差し出す。渋々と言った感じで二人は私の手を取った。
ファストフード店を出てコラボカフェを目指す。
「コラボメニュー頼むと限定アイテムが手に入るんですよ!」
「そうなの?」
「……はい…楽しみ、です…」
私から話を振れば最初は戸惑っていたもののすぐに会ったばかりの時と同じテンションに戻っていた。
「そういえば朝日さん!朝日さんは何か楽器やってるんですか?」
「私は?私は紗夜と同じギターだよ」
「そうなんですか!かっこいいですね!!」
かっこいい、か。かっこいいなんて、そう言われたのはいつぶりだろう。
声を上げるほどのことでもないのに。あこちゃんは無邪気で少し羨ましいや。
「まあ今はもうやってないけどね」
「えぇっ!なんで!?」
「私が先に始めたのに紗夜の方が上手くなってやる気なくしちゃったんだよ。めちゃくちゃ演奏が正確で引け目感じたから」
嘘は言ってない。
本当の理由でもないけど。
「そうなんだ‥‥あこ朝日さんのギター聞いてみたかったなー」
「…私も…です……」
「ごめんね。落ち込まないで。機会があれば弾いて見せてあげるからさ」
「ホント!!」
「もちろん。約束するよ」
「わーい!楽しみにしてますね朝日さん!!」
嬉しそうに頬をほころばせるあこちゃん。なんか本当に妹みたいだ。りんりんは優しく見守っていて、姉だな完全に。
『おねーちゃんこれ教えて!』
『教えてって、日菜の方が上手いでしょ…』
『できない技があるの!ね、お願い!』
『日菜、姉さんが困ってるじゃない』
『…今日はやらないといけないことがあるからさ、また今度でもいい?』
『わかった!約束だよ!楽しみにしてるね!』
「っ!?」
……あぁ、一体どこで私は。
「…朝日、さん?」
「どうしたの?」
「なんでもないよ。それでなんだっけ?」
「そうそう、この前学校でね…」
せめて彼女たちとは、真摯に向き合おう。
きっとそれも私に課せられた使命の一つかもしれないから。