不良少女(仮)   作:茜崎良衣菜

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第二章 君たちと過ごす日常。
山あり谷あり。


 

 

「日菜。そっちの箱は隣の部屋に持って行って」

 

「うん。わかった!」

 

「姉さん、これはこの部屋でいいの?」

 

「そこに置いてていいよ。私のだから」

 

 

 

あの事件から約二週間後、私たち姉妹は新居に越してきていた。

理由は、あの床に私の血痕が染みついていて事件のことを思い出してしまうから。そして、あの人たちが帰って来ても鉢合わせないように。

全部姉妹で話し合って決めたことだった。

 

だがその時にも色々問題があった。それが主に金銭面。引っ越すとしたらお金がそれなりにかかる。ただの高校生の私たちにはキツイ。それが紗夜の意見だった。

だから私は自分の通帳を取り出して、ついでに自分で書いた小説も渡して私の仕事のことを全部話したのだ。

最初は驚いていたものの金銭面の問題は、とりあえずなくなった。三人で物件を決めて、そして今日越してきたのだ。

 

 

 

「おねーちゃん。運ぶのってこれで全部?」

 

「だね。紗夜はこれから練習?」

 

「ええ。湊さんたちには休んでもいいと言われたけど、頂点を目指すのなら休んでいられないもの」

 

「頑張るのはいいけど無理はするなよ?」

 

「それは姉さんでしょ。私はちゃんと管理してるわよ」

 

 

 

ぐうの音も出ないな。

 

 

 

「おねーちゃん、お茶飲む?」

 

「飲む。紗夜は?」

 

「私もいただくわ」

 

「おっけー!」

 

 

 

日菜がキッチンでお茶を入れるのを待つためにリビングに置いてある椅子に腰を下ろした。テーブルに肘をついて手の甲の上に顎を乗せる。私の隣に紗夜も椅子に座り息を吐いた。

 

 

 

「お疲れ紗夜」

 

「姉さんこそお疲れ様。大丈夫?」

 

「まあ、二人が手伝ってくれたから」

 

 

 

私の手首を気にして重い荷物を何一つ運ばせてくれなかったから私はほとんど疲れていない。むしろ二人の方が疲れているだろう。けどそんな表情をしていないのはどうしてか。

 

 

 

「紗夜、練習っていつ行くの?」

 

「そろそろなのだけど、今井さんが新居を見たいから迎えに来ると言っていたので‥‥‥」

 

「おねーちゃん、リサちー来るの?ならリサちーの分のお茶も用意しとくね!」

 

「いつの間に仲良くなったんだよ」

 

「同じバンドメンバーだからじゃないかしら」

 

「そんなこと言って、どうせ最初はああいうタイプ苦手だって思ってたんだろ?」

 

「そ、それは‥‥‥」

 

 

 

紗夜の性格はよく理解してるんだから素直に認めればいいのに。

 

家のチャイムが鳴った。

私が出るわ。そう言って紗夜は玄関へと足を運んだ。

 

 

 

「うわぁー!いい感じの所に引っ越して来たんだね〜」

 

「いらっしゃいリサちー!」

 

「やっほー日菜。朝日」

 

「おはよ。わざわざ紗夜のこと迎えに来てもらって悪いな」

 

「姉さん。その言い方だと私が来るように頼んだみたいじゃない」

 

「どっちでも変わんないって」

 

「あははっ」

 

 

 

くだらない言葉を投げながら椅子に座るよう誘導する。

私の斜め向かいに腰掛けたのを確認して、日菜が運んでくれたお茶に口をつけた。

 

 

 

「そう言えば、最近どうよRoselia。SPACEのラストライブに向けて頑張ってる?」

 

「まあ、それなりにね。友希那も紗夜も厳しいから気は抜けないんだよ〜」

 

「だろうな。紗夜、バカみたいに真面目だから」

 

「姉さん!」

 

 

 

怒る紗夜にクスクス笑う。それを見て日菜たちも笑っていた。

 

 

 

「朝日ってほんと明るくなったよね。冗談言う姿なんてアタシが初めて会った時には想像できなかったよ〜」

 

「私は元々こういう性格だっつーの。リサ(・・)が知らなかっただけだろ」

 

「‥‥‥やっぱ、慣れないなぁ‥‥‥」

 

「は?」

 

「いや‥‥‥朝日に名前で呼ばれるの、慣れないなって」

 

 

 

 

そう、リサの言う通り私は一部の人間の呼び方を変えた。というのにも理由があって、まあ簡単に言えば遠ざける必要性がなくなったから。

今までは関係ないやつへの気遣いもあってむやみに相手の懐に入ろうとしなかった。

だが今はもう違う。そんなことしなくてよくなった。だから統一して名前で呼ぶようにしたのだ。

 

最初松原を花音(・・)って呼べば驚きつつも嬉しそうに笑って、白鷺を千聖(・・)と呼んだらしてやったりという感じの顔されて、猫耳は‥‥‥なんかそのままでいいと思った。まあ、ここまではいいんだ。問題はリサ。

何故か今井をリサ(・・)と呼べば未だに微妙な反応をされる。なんだよ名前で呼ばない方がいいのかよと思ったがその件は本人に否定された。単純に違和感を覚えていただけだというからリサと呼び続けているが、これならもう今井って呼ぼうかな。

 

 

 

そんな時ポケットに入れていたスマホが鳴った。相手は有咲。

 

 

 

『朝日先輩。今時間ありますか?』

 

 

 

そんな短い文章。私は何かあったのかと思って返信を返す。

 

 

 

「あっ、朝日!有咲からメッセージ来たんでしょ!」

 

「‥‥‥なんだよ急に」

 

「朝日って意外と感情、表に出るよね。嬉しそうにスマホ眺めてたし、口元緩んでるよー?」

 

 

 

ニヤニヤしながらそう言うリサに思わずそっぽ向いて口元を隠した。

まさかリサにバレるくらいニヤけていたなんて思ってもみなかった。

どんだけ嬉しかったんだよ私。つーか恥ず。

 

 

 

「ほんとおねーちゃんって有咲ちゃんのこと好きだよね」

 

「見てるこっちが恥ずかしいくらいだらしない顔してたわよ‥‥‥」

 

 

 

マジですか‥‥‥。

もうこいつらの前でメッセージ見れない。絶対見ない。

 

 

そんな時返ってきたメッセージ。それを横目で見た私は、思わず勢いよく立ち上がった。狼狽しているのがわかる。

 

 

 

「姉さん?どうしたの?」

 

「悪いちょっと出かける!」

 

「え!?どこ行くの!?」

 

「猫耳の家!!」

 

 

 

私はスマホだけを手にして家から飛び出した。

 

 

 

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

 

 

 

 

ここに来るのは初めてで、有咲から送られてきた地図を頼りに進んできたから本当にここがあいつの家なのか確信はない。だが表札には「戸山」とあるのだから多分あっているのだろう。

 

インターホンを押す。「どちら様ですか」という声が聞こえた。

 

 

 

「猫耳‥‥‥香澄さんの知り合いの氷川と言います」

 

『え、氷川先輩!?』

 

 

 

インターホン越しの驚いたような声。どうして私のことを知っているのだろう。声的に猫耳ではないことはわかる。先輩、という口調から後輩であることは確定した。

玄関前で待っていればゆっくりと開いた扉。おそるおそるこちらを覗き込む影が一つ。

 

 

 

「‥‥‥お姉ちゃんに、何の用ですか?」

 

 

 

猫耳のことをお姉ちゃんと呼んでいるってことは妹か。あいつに妹がいるなんて初めて知った。私のことを知っているというのなら花女の後輩だろう。

 

 

 

「さっき、声が出なくなったって聞いて。それで様子を見に来た」

 

「‥‥‥どうぞ。入ってください」

 

 

 

何故か警戒した素振りを見せる猫耳の妹。

やっぱり普段の素行が悪かっただけに信用は薄いのだろうか。

こればかりは自分のせいだからどうしようもない。

 

階段を使って二階に上がって、一番奥。そこが猫耳の部屋らしい。

 

 

 

「お姉ちゃん。お客さん来てるよ」

 

 

 

ノックしながら妹さんが言う。聞こえてきそうな元気な声が何一つ聞こえない。静かに部屋の扉が開いて猫耳が顔を出した。

私のことを見て、元気に笑う姿はない。ただ私の名前を小さく掠れた声で呼んで、困ったように笑った。

 

 

 

 

妹さんが自分部屋に戻って猫耳の部屋に二人きり。

前みたく、自分から何か話してくれる気配はない。ベッドに腰かけて俯く猫耳の目の前に立つ。

 

 

 

「‥‥‥SPACEのオーディション、受けたんだろ。どうだった」

 

「‥‥‥」

 

「確かにあのオーナーは厳しい人だよ。音楽に対して本気だから、だから認めてもらえないバンドも多かった。けど、それは気にしなくていいんだってお前はまだまだ初心者でこれからなんだよ。だから‥‥‥」

 

「それじゃ、ダメなんです!」

 

 

 

小さくても力のある声。咳き込む猫耳に何も言えなくなる。

 

 

 

「ずっと、元気だけでどうにかしようとしてたから、それで迷惑かけちゃって。下手だから、みんなの足を引っ張って。もっと上手くならないといけないのに」

 

「猫耳」

 

「‥‥‥オーナーに言われたんです。私が一番できてなかったって。だからもっと練習しないといけなくて。オーディションも、後一回しかないのに」

 

 

 

私はどうしたらいいんですか?

顔をあげて涙を零す猫耳。初めて見た泣き顔。胸が締め付けられる。

 

 

けどどうして声が出なくなったのか。ショックだったのか。プレッシャーだったのか。

ただ私には何もできなくて、そっとその身体を抱きしめた。

 

 

 

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