「今日はありがとうございました朝日さん!」
「楽しかったよ、ありがとね。あこちゃん、りんりん」
「‥‥私も、楽しかった‥‥です‥‥」
NFOのコラボカフェは思いのほか満足できるものだった。
料理は味方だけでなく敵キャラのもあって、敵をどんどん駆除しているようで少し楽しかった。
二人に共感を求めれば目を合わせて苦笑された。
「…印象…変わりました……」
「目キラキラさせてるし、朝日さんって意外と子供っぽいんですね」
仕方ないじゃないか。コラボカフェなんて初めて来たんだから。テンション上がるのも無理ないだろう。
そんなこんなで楽しんだオフ会。日も暮れてきたことだし今日はもうお別れだ。
「またオフ会誘ってよ。予定が合えばいつでも付き合うよ」
「ホント!いいの!!」
「うん。りんりんもいい?」
「‥‥はい‥‥もちろんです‥‥」
とは言っても学校ではこんな優しく接せないんだけどね。
ごめんね、と心の中で謝っておく。
「あー、ただ一つお願いがあるんだけどいいかな」
「なんですか?」
「今日私と会ってたこと、紗夜と日菜には黙っててほしい」
「‥‥どうして、ですか‥‥‥‥」
「言ったでしょ。二人とは仲良くないって。バレて色々話聞かれるのが面倒なの。だからお願い」
二人に仲良くしてるってことがバレたら問い詰められるに決まってる。特に日菜に。紗夜にも多少は責められるだろう。
ダメだよそれは。
「よくわからないけど、わかりました!」
「家まで送って行こうか?」
「…すぐ近くなので、大丈夫…です…」
「そっか。じゃあまたね」
そう言って私は二人に背を向け歩き出す。背後からの元気な声には振り返らず軽く手を振った。
今日は楽しかった。誰かとどこかへ行って何かをするの自体久しぶりだったし、何より終始笑顔であってくれたことが嬉しかった。
また、があればいいんだけど。いつになるのかな。そもそも次なんてあるのかな。学校で会った時今日との落差でりんりんをびっくりさせてしまう気しかしていない。
一体どうしたものだろう。今更学校での態度なんて変えれないし変えたところで受け入れてもらえるわけない。
「あれおねーちゃん?」
家に着き自分の部屋へ戻ろうとした私を呼ぶ声。目を向ければそこにいたのは日菜だった。テレビでバラエティ番組を見ていたようだ。
が、私を見た途端不思議そうにしていた。
「なんで一人なの?」
「はあ?一人じゃ悪いのか?」
「え、だって、お母さんたちと出掛けてたんでしょ?」
「は?」
誰があいつらと出掛けるかよ。
「何の話だ」
「朝お母さんたちが『今日は朝日と出掛ける予定だったんだけどどこに行ったか知らない?』って聞いてきたから。昼には家から出て行ったし、てっきり合流して出掛けてたんだと思ってたよ」
着信入ってなかった?
そう聞かれて私は思い出す。りんりんに連絡を入れて以降電源切ってたんだ。着信なんか入ってても気付くわけがない。
朝早く家から出て仕事場で時間潰してたのが仇になってしまった。
これはキツくやられるな。
「……あー、報告どーも」
「あ、おねーちゃん!」
「…何?」
「一緒にテレビ見よう!おねーちゃんが好きな動物番組録画してたんだ!」
「…紗夜と見なよ」
家のリビングで好き勝手してたらどんなお仕置きが待ってるか。日菜には悪いけどその提案に乗ることはできない。
それに日菜の言っていた動物番組は朝から観ていた。可愛くて悶え死にそうだったよ。
「おねーちゃん帰ってくるの遅いって連絡あったんだよ!だからいいでしょー!」
「嫌だよ。紗夜と見た方が喜んでくれるだろ」
いつの間にか二人が連絡取るまで仲良くなってる。進歩じゃん。
日菜のこと遠ざけてたのに、やっぱしつこく声掛けられてると変わるんかねぇ。
「確かにおねーちゃんとも見たいけど、先におねーちゃんと見たい!」
「付き合いきれないな。私、部屋戻る」
「ちょっとおねーちゃん!」
日菜の声は無視して二階への階段を登っていく。
日菜がどうにか私と紗夜のことを繋ぎ止めようとしてくれていることはわかっていた。持ち前の明るさと元気さで元に戻そうとしているのだって。私だって、戻りたいんだ。
けどだからってそれに乗るわけにはいかない。
必死に興味ないフリしているんだからやめてくれ。
想いが溢れて止まらなくなるから。
部屋に鍵を掛けてパソコンを開いた。
早く今日手に入れたアイテム使ってみたい。
画面を進みコード入力する。読み取りが完了すればプレゼントボックスにアイテムが追加されていた。
《ロードリエスのローブ、ロードリエスのブーツを手に入れた》
SEと共にそんな文字が表示された。
ロードリエスのローブは耐久性が高く、物理攻撃に対する防御力を10%減らしてくれる。ロードリエスのブーツも同じく耐久性が高く、地形変化の物理ダメージを10%減らしてくれる。
装備の説明を見て思ったことがある。
え、これ普通にいいアイテムじゃね?ちょっとリアルマネー使っただけでこんなアイテム手に入るの?めっちゃ得じゃん。
〈ひっさー!コラボアイテムゲットした!?〉
〈うん。装備した時の能力が思いのほか強くて驚いてる〉
〈だよね!あこもびっくりだよ!〉
あこちゃんが話しているのを想像して頬が緩んだ。今日会ったからか文字だけでその熱量が伝わってくる。可愛くて仕方がない。
〈りんりんは?まだ入ってないみたいだけど〉
〈りんりんは家族と夜ご飯食べに行くってさっき連絡があったよ〉
〈あこちゃん、りんりんと仲良いよね。元々知り合い?〉
〈ひっさーと同じでオフ会で初めて会ったんだよ〉
マジか。あこちゃん君中学生だろ。身の危険とか感じなかったの?
りんりんもりんりんだ。あの性格でよくオフ会参加できたよね。絶対怯えてたでしょ。
〈最初は緊張してたんだけど、段々楽しくなっちゃって気付いたら仲良くなってたの!〉
〈凄いね。さすがあこちゃん〉
人懐っこいし可愛いし素直だし。こんな子が目の前に現れたらそりゃ仲良くするよ。
何にでも興味津々って感じだったし、怒られるかもって思った時なんて完全に子犬だった。
〈あこちゃんはこのままクエスト行くの?〉
〈うん!そのつもり!ひっさーは?〉
〈私はアイテム受け取りに来ただけだからもう落ちるよ〉
〈そっか。じゃあまたオフ会でね!〉
〈またね〉
チャットを終え、ゲームからログアウトする。パソコンもシャットダウンした。
明日の日程を確認しようとスマホの電源を入れる。
ロック画面になればえげつないほどの通知が表示されていた。
100件とか、引くレベルである。ここまでくると逆にあいつらは私のことを気に入っているのではないかと思えるくらいだ。
そんなことは天地がひっくり返ってもありえないが。
こりゃ何されるかわかんないな。
どうせ今しか休める時間はない。なら今休まなければ。そう思いベッドに転がった。思い出すのは楽しかった記憶。
可愛かった。楽しかった。またねの言葉が嬉しかった。次が楽しみで仕方ない。こんなことを思う私は単純だろうか。
緩む頬はそのままにそっと目を閉じた。