SPASEのライブが終わり、私とポピパのメンバーは蔵で打ち上げをしていた。ジュースやお菓子をテーブルに広げてライブのことを話し合って。話が尽きることはない。
RoseliaやCHiSPAとの打ち上げはまた別日にやるらしくそこに私のことも呼んでくれると言ってくれた。嬉しい限りである。
「朝日先輩!今日のギター演奏すごかったですね!!」
「うん!すっごくかっこよかったです!!」
「私、感動しました!」
「そんなに褒めるなよ。別に大したことなかったろ?」
「いやいや。あれは本当にすごかったですって!」
「本当ですよ。いつの間に練習してたんですか?」
さっきから似たようなことばかり言われている気がする。
「私の演奏がすごかった」。皆、同じだ。個人個人感想を言ってはいるものの私のことばかり褒める。今回の主役は私ではなく目の前の五人なのに。私はあくまでも繋ぎでしかなかったのに。
「私の話はいいんだって。それより、今回のライブどうだった?」
「はい!楽しかったです!」
「そうだろうな。お前はいつも楽しそうだ」
「けど楽しくできたのは朝日先輩のおかげですよ」
「へ?」
「だって朝日先輩があの時私たちを元気づけてくれたから。だから私はステージに立てたんです」
ありがとうございます、なんてお礼を言って頭を下げる五人。顔を上げた先には笑顔があった。それに安心する。
よかった、引きずってなくて。よかった、壊れなくて。
「私の音楽で救えるならいくらでも演奏するって。いくらこの身体がボロボロになってもそれは変わらないよ」
「それはダメです。朝日先輩にはこれからも支えてもらわなきゃ困るので」
「だいたい香澄やおたえが暴走した時に誰が止めるんですか」
「それは有咲の役目でしょ?」
「一人でどうにかなるわけないじゃないですか」
「そこをどうにかするのが有咲の役目じゃん。がんば」
「ノリが軽いんですよ!」
「有咲のつっこみ、私は大好きだよ!」
「私も好き」
「誰のせいでつっこみすることになってると思ってるんだよ!!」
そんなやりとりに笑って、どれだけ私にとって心地のいいものなのか実感して、このメンバーが大切なんだと、守るべき場所なのだと改めて思った。
ここは私を認めてくれる居場所なのだから。
「よし。香澄、これからも有咲のつっこみが繁盛するように私たちで一曲歌っちゃおっか」
「そうだね!歌っちゃおう!」
「ちょっと待て猫耳」
自身のギターを持ち出して歌おうとしていた猫耳を引き止める。不思議そうな顔をしたのは猫耳だけじゃない。
「朝日先輩?どうしたんですか?」
「猫耳。ちょっとギター見せろ」
「はい」
差し出されたギターを受け取ってストラップと本体を見る。
ランダムスターに傷ついた痕はない。ストラップはオーナーの計らいでか新しいものに変わっている。これなら多分、これから使う分にも問題はないだろう。
「ねえ猫耳」
「はい?」
「猫耳はさ、ギター上手くなったよね」
「……え?」
「うん。上手くなった。師匠の私が言うんだから間違いないよ」
聞き間違いだと思ったのか猫耳が聞き返す。私はそれにクスっと笑ってギターを渡した。
カバンから楽器店の袋を取り出して猫耳の前に立つ。
これはただの私の気持ちだ。だから受け取ってもらわなければ困る。
「今回のライブが終わったら渡そうと思ってたんだ。師匠から弟子に向けてのプレゼント」
猫耳は目を丸くして私の手から袋を受け取った。
「な、なんですかこれ」
「開けてみればわかるよ」
それだけ言って私は笑う。中身を取り出す猫耳が目を見開いた。私に目で訴えかけてくる。
「朝日先輩これ!」
「どう?びっくりした?」
袋の中身はストラップ。赤い本体に刺繍でPoppin'Partyと書かれたそれは数日前からこの日に合わせて知り合いに作ってもらっていたもの。喜ぶ顔が見れると思っていた。予想は的中。
「かっこいいライブをありがとう____」
『そう言えば気になってたんですけど、先輩ってどうして香澄のこと猫耳って呼んでるんですか』
『どうしてって?』
『だって弟子って言うわりには扱いが雑だし、考えてみたら先輩が香澄のこと名前で呼んでるところ見たことないなーと思って』
『別に大した理由なんかないよ。初めて出会った時からそう呼んでる。それに今更呼び方変えるのもおかしくないか』
『そうですか?名前で呼んだら香澄喜ぶと思いますよ』
『そんなの求めてないから』
猫耳と呼ぼうとした時不意によぎったあの日の光景。
あーあ。私の負けだよ沙綾。
名前で呼んで、こいつの笑顔が見たいと思ってしまった。
「ありがとう
「__!?」
私の言葉を聞いた瞬間、香澄の目から涙がこぼれた。拭いても拭いても、それはとめどなく流れ続ける。泣き声が蔵内にこだまする。そんな香澄の頭を撫でればお腹に軽く頭突きされた。
「私、朝日先輩の弟子で良かったです!!」
顔を上げた香澄の顔は涙に濡れていた。
そして何にも負けないくらい眩しい笑顔だった。
♢♢♢
「有咲。今日有咲の家に泊まってもいい?」
「はい。……え?」
蔵での打ち上げが終わりみんなで片づけをしている最中、私が投げた問いに有咲は頷いた。その後にキョトンとした表情を見せる。久しぶりに見たそんな顔に笑みが隠せない。
「な?いいだろ?」
そんな声に顔を赤く染める彼女は少なからず期待しているようだった。
♢♢♢
「有咲の部屋に来るのって久しぶりだなー。最後に入ったのっていつだっけ」
「私が高校に入る前でしたから三か月くらい前じゃないですか?」
ポピパのメンバーが全員帰った後、私は有咲の部屋に訪れていた。有咲曰く三か月ぶりの訪問だが前上がった時となんら変わりはないように思う。本棚の本の数が増えたくらいだ。並ぶ私の作品に嬉しくなる。
「三か月。……もうそんなに経つんだな」
「とは言っても蔵練の度に会ってるので久しぶり感はないですけどね」
「確かに言えてる」
まだ二年生になって三か月しか経っていないのに、思えば色々なことがあった。
新しいクラスメイトと仲良くなれた。
新しく愉快な後輩が増えた。
新しい思い出ができた。
紗夜と日菜と仲直りできた。
私の秘密を打ち明けられた。
両親に想いを伝えられた。
大変なことも多かったけど乗り越えて今がある。
全部大切な思い出。
そして今日、新たな一ページを綴ることができたことだろう。
私は有咲の部屋のベッドに寝転がってそんなことを思っていた。
「有咲」
「なんですか?」
「今日のライブ楽しかった?」
「____はい。とっても」
ああ。そんな幸せそうな顔が見られるなら私は何度だってお前に尽くせる。
「朝日先輩が守ってくれたからですかね」
「え?」
「今日のライブ、不安だったんです。文化祭の時は知ってる人たちばかりだったから大丈夫だったんですけどライブハウスで演奏するのって初めてだったから緊張して、そんな時に香澄のアクシデントが起こって。正直失敗する未来しか見えなくて震えてました。もうダメだって、思ってました。
諦めムードが漂って、怖くなって、そんな時に朝日先輩は現れたんです。
ギターを弾いて私たちに勇気を与えて、そのうえ会場を盛り上げて、本当にかっこよかった。
やっぱり朝日先輩は私たちのヒーローですね」
ヒーローなんてたいそうな言葉、私に似合うものではないだろう。
それでも君たちの、君のためのヒーローになら何度だってなれる。そうだと自信を持って言えるから。
「有咲」
「はい?」
「好きだよ」
その言葉は引っかかることなくすんなりと口から出てきた。何度か瞬きをした有咲は少しだけマヌケな顔をしていて、そんな顔もかわいいと思った。
「文化祭の時の返事、まだしてなかったから。遅くなってごめんね」
「いや別にいいんですけど……」
有咲は困ったように頭を掻いていた。有咲のことだから照れると思っていたのにそんなことはないらしい。
「ん?どうかした?」
「なんか、告白の返事にしてはあっさりしてるなーって」
「もっと照れた顔でやった方が良かった?」
「そういうことじゃないですけど……」
これは疑われてる感じ?けど私が冗談でこんなことを言わないことくらい有咲なら理解してると思っていたのに。
まあ、わからないというのならわからせてやるだけだけど。
「確認ですけど後輩としての好きとかではないですよね?」
「あの日の告白は友愛としてだったの?」
もしそうなら有咲のことを惚れさせるまでだけど。
ねえそうじゃないでしょ?
有咲の好きは、それじゃないでしょ?
「有咲、こっち来て」
「な、なんでですか?」
「いいから」
私は寝転んだまま有咲に手招きする。疑問を持ちつつ近づいてくる彼女。手の届く範囲に来た瞬間、両手を有咲の首に回して引き寄せた。ギョッとした表情に笑いかけてそのまま唇を奪う。
私の身体を潰してしまわぬように彼女はどうにか離れようと試みているけど私がそれを許さない。私に覆い被さるその熱が私のことを温める。
離れた時には二人して肩で息をしていた。赤らんだ表情についにやついてしまう。今の私はイタズラが成功した子供のように映っていることだろう。
「私の好きは、こういう好きだよ」
「っ……心臓に、悪いですよ……」
そんなこと言ってまんざらでもないくせに。
脱力した私の上で息を整える有咲はきっと傍から見たら私を襲っているように見えることだ。
そう言ったらどんなかわいい表情を見せてくれるのだろうか。わくわくしてしまう。
「私、有咲のこと大好きだよ」
「わ、私も好きです!」
「これからもずっと、有咲のヒーローでいてもいい?」
「もちろんです。むしろそんな人、朝日先輩以外いませんよ」
満面の笑みを向けられ心臓が荒々しく脈打ちだした。たまらなくなって有咲の背に腕を回した。
触れる体温に安心する。こみ上げる大好きって気持ちが伝わるように力を少し強くして、永遠にも感じるこの時間にただ目を閉じた。