不良少女(仮)   作:茜崎良衣菜

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後輩にキスされるってなんて名前のギャルゲー?

 

 

重たい瞼を開く。

いつもより低い視線にため息を吐いた。その行動だけで色々な部位が痛むのは重傷だろう。

時計の針はてっぺんを2週も過ぎていて、正直寝すぎだ。昨日のことと床に倒れ込んだこともあって身体は痛かった。

起き上がろうにも動きたくない。だからその場でダラダラしていることにした。

 

容赦なんてなかった。

自分たちが誘ったのになぜ電話一本も取らないのか。なぜ掛け直さないのか。舐めているのか。

言われたことは記憶にうっすらとしか残っていない。多分そんな感じだった。

そして殴られる。念入りに、出かけた時に買ってきたのであろうロープで腕を縛られて、動けないところを一方的に。いつも一方的なのにどうして縛ったのか。

紗夜たちにバレないようにロープは外されたけど痕は残っている。

痛々しい、赤い傷が。また包帯を巻かなければ。

 

今日は、ここにはいないでおこう。ここ以上に気の休まらない所なんてないから。そう思えば行動は早かった。

 

無理矢理身体を起こして私は鞄に着替えとスマホ、充電器、一応筆記用具を詰めて部屋を出た。とりあえず包帯を巻くまでの間は黒のパーカーを着ることにした。下は長ズボンだし、傷がバレることもない。

偶然にも誰かに会うことはなく家から出ることができた。スマホを取り出し、電話履歴を遡る。見つけた名前に速攻掛けた。

 

 

 

「もしもし」

 

「今時間あるか?」

 

「どうしたんですか?」

 

「折り入って頼みがあるんだけどいいかな?」

 

 

 

痛む足によろけそうになるのを必死に堪える。それが伝わったのか彼女も聞く耳を立ててくれた。

 

 

 

「やまぶきベーカリーでパン買って来てくれない?お金は後で払う」

 

「……あっちに持っていけばいいんですか?」

 

「話が早くて助かるよ。お願いしていい?」

 

「すぐ行きます」

 

 

 

淡々とした声に電話を切られる。

ホントに頼みを聞いてくれるのはありがたいけど、やってたこと後回しにして私のこと優先してないよな?それは彼女の為にもやめてほしい。

 

思い通りに進まない身体に苛立ちを覚えつつ歩を進める。

 

見えてきたのはとあるアパート。新しく建てられたばかりの新築。ポケットから鍵を取り出し借りている部屋の扉を開いた。電気を付ける。数日前に訪れた時と同じく、部屋の中は変わっていない。

最初から備え付けられていたベッドに冷蔵庫、キッチン。私が買い足したのは机、パソコン、本棚、あとは思い出の品くらい。無論本棚には数々の有名小説が並んでいる。ここから学校に直行することもあるためクローゼットの中には夏服と冬服どちらも置いていた。

とりあえず荷物を下ろし彼女が来るのを待つ。

机の下から救急箱を取り出し机の上に置く。

ベッドに転がり天井を見上げた。今日は仕事をする気にもなれない。

 

しばらくボーッとしていたらチャイムが鳴った。起き上がり扉を開けば呼んだ人物以外にもう一人いた。

 

 

 

「持ってきましたよ朝日先輩」

 

「こんにちは。市ヶ谷さんについてきちゃいました」

 

 

 

有咲と沙綾が目の前にいた。

有咲は私が呼んだ。けど沙綾は一体どこから?やまぶきベーカリーに行った時か?てかこの二人って仲良いのか?

 

 

 

「まあいいか。上がって」

 

 

 

二つの「お邪魔します」が重なる。そのまま中へと入ってきた。

 

 

 

「朝日先輩。もしかして足怪我してますか?」

 

「…そう見える?」

 

「そうにしか見えないですけど」

 

 

 

隠し通せるはずないしその気もないから早々と白状する。自分一人だとやらないといけないこともやりたくないと思ってしまうから彼女たちの存在はありがたい。

どこからか取り出された袋に氷を入れたのは沙綾だった。

有咲は机の上にパンを置き、入れ替えで救急箱を手に取った。沙綾も私をベッドに背を向ける形で座らせる。そして痛む足首に氷を当ててくれた。

 

 

 

「じゃあ朝日先輩、脱がせますね」

 

「いや一人でもできるって…」

 

「甘えるのも大事ですよ」

 

 

 

甘える必要ないのでは?と思うも言っても聞かないだろうから沙綾の好きにさせることにした。パーカーのジッパーを下ろし抜き取る。その下の肌を見て二人は息を飲んだ。眉をひそめている。

 

 

 

「…酷い……」

 

「今回は、何されたんですか」

 

「ロープで縛られて殴られた。それだけ」

 

 

 

二人は納得いってない様子。でも事実だから仕方ない。盛ってるわけでも控えめに言ってるわけでもない。

 

 

 

「…どうして、朝日先輩だけがこんな目に遭わないといけないんですか……」

 

「どうしてだろうね。私も知りたいよ」

 

 

 

沙綾は家族と仲良しだから信じられないんだろう。けどこれが現実だ。変えられはしない。

沙綾はなぜか悔しそうに歯を食いしばる。見ていられなくて頭を撫でた。

 

 

 

「沙綾が苦しまないで。私は大丈夫だよ」

 

「…子供扱い、しないでください」

 

「私からしたら年下は子供だよ」

 

 

 

いつか似たようなことをした。頬を膨らませ不服です、とても言いたげで口元が緩んでしまう。

普段大人っぽく見えても中身はまだまだ子供だ。

 

 

 

「……そんなことしてねーで早く手当するぞ」

 

「あれー?市ヶ谷さん拗ねてる?」

 

「有咲も頭撫でてやろうか?」

 

「は、はぁ!?そんなんじゃねぇし!朝日先輩も撫でようとすんな!」

 

 

 

顔を赤くして怒る有咲。やっぱり有咲はいじりがいがある。本人も内心は嬉しいだろうしいいよね。

 

 

 

「ごめんごめん。手当お願いね有咲」

 

「私も手伝うよ市ヶ谷さん」

 

「からかってねーで最初からそうしろよな」

 

 

 

呆れたように有咲は言う。有咲の反応が好きでやってるって気づいてるのかな?

 

私は二人に腕を取られ処置をしてもらう。両手が使えないため何もやることがない。だから天井でも眺めることにした。茶色のそれを見ていれば腕に別の感覚。

 

 

 

「‥‥沙綾?何してるの」

 

「見てわからないですか?」

 

 

 

いや何されてるかはわかってる。だがなぜそうしたのか理解できない。

有咲に関しては顔を赤くしていた。こっちだって恥ずかしい。

 

 

 

「‥‥どうして?」

 

「傷が痛々しくて見てられなかったからです」

 

 

 

薄く笑う沙綾に頭を抱えた。

なんでこの子は腕にキスなんかするかな。

 

 

 

「なら包帯巻くだけでもいいでしょ」

 

「まあそうですけど‥‥つい」

 

 

 

ついって‥‥ホントになんなんだ。

 

 

 

「朝日先輩は、嫌でしたか?」

 

「‥‥それはズルい」

 

 

 

嫌ではない。恥ずかしいだけ。てか私が嫌でないのを見越して聞くのはダメだろ。

私と有咲とは対照的に沙綾は普段通りの笑みを浮かべる。変なところで余裕発揮するな。

 

 

 

「い、いいからそんなことしてないで!手当終わらせろよ山吹さん!」

 

「何怒ってるの市ヶ谷さん?別に私は先輩のこと独り占めしてるわけじゃないよ?」

 

「は、はぁ!?何言ってるんだよ!そ、そんなんじゃねぇ!勘違いすんな!!」

 

「え、有咲私のこと独り占めしたかったの?気付けなくてごめんね。抱きしめてあげようか?」

 

「先輩も悪ノリすんな!!」

 

 

 

ふざける私たちに有咲のツッコミが炸裂。二つの笑い声が部屋中に響いた。

有咲を宥めつつ手当を再開してもらう。

有咲は丁寧に、沙綾は慣れた手つきだった。

 

 

 

「はい、終わりました」

 

「ありがとう二人とも。助かったよ」

 

「いいですよ。私たちが勝手にやってることですし」

 

「そうだったとしてもだいぶ楽になったからさ。素直に受け取ってほしいな」

 

 

 

お礼に今度何か奢ってあげよう。二人には借りしかないし。

 

 

 

「…あ、すみません。家から電話です。ちょっと出てきますね」

 

「おーわかった」

 

 

 

沙綾はスマホを片手に部屋から出て行く。

有咲と二人。いつもは流れない静寂が訪れた。私の腕を見つめたまま有咲は動かない。

 

 

 

「…有咲?」

 

 

 

だから、驚いてしまった。

有咲の意外な行動に。

 

 

 

「なん、で急に…」

 

「……ちゃんと元に戻ってほしくて」

 

「なんだそれ」

 

「私は朝日先輩の音が好きだったから」

 

 

 

少し大胆な行動に頬が緩んでしまう。

が、ストレートな言葉には泣きそうだった。

 

 

 

「…朝日先輩の方が私なんかより辛いってことは知ってます。でもそれでも私は、あの音が好きだった。今でもまた聞きたいって思ってるから」

 

 

 

有咲は再度手首にキスを落とす。くすぐったくて身じろいだ。でも有咲が手を離してくれない。

…変な気になりそうだ。

 

 

 

「……ワガママですよね。すみません」

 

 

 

離してくれた時には同時に謝罪が飛んできた。申し訳なさそうに眉を下げている。

その表情はこっちが悲しくなるからやめてくれ。

 

 

 

「朝日先輩、市ヶ谷さん。私店に戻らないといけなくなったのでもう帰りますね」

 

「私も帰る」

 

「え、市ヶ谷さんも?」

 

「なんだ?私が一緒は嫌なのか?」

 

「いやそんなことないけど…」

 

 

 

部屋に戻って来た沙綾がチラッと私を見る。不安げに見えた。その顔を見ていたくなくて私は二人を帰るように仕向ける。

 

 

 

「ほら、明日は学校なんだから帰りなよ。私なら二人のおかげでもう元気だから」

 

「…わかりました。それじゃあまた明日」

 

「……さようなら」

 

 

 

二人を見送り、扉に鍵をかける。使っていた氷嚢は流し台に置きベッドに座った。

視線を机の横に移動させる。

 

ライトグリーンのギターがこちらを見ていた。

 

 

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