不良少女(仮)   作:茜崎良衣菜

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はじまりの合宿デイズ。

 

 

 

合宿一日目が始まった。

メッセージと共に添付されたマップを頼りに弦巻家の所有する別荘に移動した。

さすがは弦巻家と言うべきか。別荘の大きさが段違いだ。みんな入った瞬間に度肝を抜かれていた。ハロハピのメンバーはちょくちょく来るらしく薫、はぐみ、こころは明るく、花音と美咲は苦笑していたが。

それぞれが泊まる部屋に荷物を置き、防音整備のされている部屋に集まっていた。こころのところの黒服を着た使用人さん?が施設の説明をしてくれるそうだ。

 

 

 

「練習スタジオはここを含めて四つあります。バンドの皆様で合わせる場合はこちらを利用ください。また皆様が泊まっているお部屋は全て防音室になっておりますので個人練習はいつでもしていただいて構いません。部屋の物は飲食自由ですし好きなようにお使いください」

 

 

 

黒服さんが私たちを引き連れて別荘内を歩きながら施設を一つ一つ丁寧に説明していく。

その途中、目の前に現れた見慣れた姿。肩に手を置けば何故かため息をつかれた。

 

 

 

「人の顔見てため息って酷くない?」

 

「そんなことないわ」

 

「紗夜をそんな子に育てた覚えはないぞ」

 

「私だって別に姉さんに育ててもらった覚えはないわよ」

 

 

 

あいかわらずつれないことを言う妹に私はわざとらしく肩をすくめた。再度ため息をつかれる。

 

 

 

「だいたい、どうしてここに姉さんがいるのよ。この合宿は次の合同ライブの打ち合わせも兼ねてやっているのよ?姉さんは関係ないでしょ?」

 

「ポピパのメンバーに来てほしいって頼まれた。私だって行く予定はなかったけど、ダメ元で花音に頼んだら普通に来ていいって言われたから来たんだよ」

 

「だったら家にいる時に言ってくれればよかったじゃない。そうしていればここについて早々驚かなくて済んだのに。最初何かの見間違いかと思ったわよ」

 

「そっちにまで話が伝わってるもんだと思ってたから言わなかったんだよ。言わなかったことに拗ねるなって」

 

「別に拗ねてないわよ」

 

 

 

紗夜は私がいることに驚いていたらしい。理由を話せば納得はしてくれたようだがどこか不満げだ。

 

 

 

「そもそも合宿に参加して大丈夫なの?」

 

「それは、どういう意味?」

 

「手のこと、忘れたわけじゃないでしょ?最近は病院にも通って回復しつつあるってことは聞いていたけど後輩に教えるために無理をしたら元も子もないじゃない」

 

「無理なんてしてないよ。今回の合宿だって調子を見るのがメインだし。無理するほどギターを弾く気なんて最初からないから大丈夫だって」

 

 

 

それは最近日菜からも指摘されたことだったから思わず頭を掻いた。うちの妹たちは私のことになると途端過保護になるから困ったものだ。

「ほら、テーピングもしてるしさ?」と補足するも紗夜は私にジト目を向けるだけだった。

 

 

『姉さんの大丈夫は正直あまり信じていないわ』

 

 

紗夜からそう告げられたのはつい先日。担当医に少しでも痛みを和らげるためにと勧められたテーピングを風呂あがりにリビングで巻きなおしていた時のことだった。

テーピングを巻く手を止め、紗夜を目の前に目をパチパチと開け閉めする私。紗夜は当然と言いたげな表情をしていて私に向けて大きめのため息を吐く。

 

 

『姉さんは何かとすぐに無理をするもの。大丈夫なんて言う時は大抵大丈夫じゃない時よ』

 

『いやいや。そんなことないだろ?』

 

『そんなことなかったら私はこんなこと言わないわよ?』

 

 

まあ自覚がないわけではない。だけどそこまで深刻にとらえるようなことでもないだろう。軽い気持ちで日菜に「そんなことないよな?」と問う。

 

 

『おねーちゃん。本当に何ともない人は大丈夫なんてそもそも言わないんだよ?』

 

『一気に現実見せてくんなよ』

 

 

そんなこともあり、今や私の大丈夫は信用に値しないものと認識されている。まあ多少のことは目を瞑ってくれるらしいけど本気で不味いと判断されたらギターを取り上げられるようになった。心配してくれているとわかっているからこそ正直二人には頭が上がらなかった。

 

 

 

「無理してるって思ったら誰が何と言おうとすぐに止めるわよ」

 

「わかってるって。大丈夫だよ」

 

 

 

紗夜はそれ以上何も言わなかった。少しは私の大丈夫を信じてくれるらしい。ありがたい限りだ。

 

 

 

「パスパレは午後から合流だってさ」

 

「聞いてるわ」

 

「そうか。日菜と仲直りはできたのか?」

 

「日菜が折れるまで仲直りする気はないわ」

 

 

 

譲る気は未だにないらしい。いくらなんでも長引きすぎだろ。

でもそれなら仲直りさせがいがあるってものだ。

 

一通り説明が終わり各バンドでの練習をすることになった。パスパレが合流するまではこの体制で練習を続けるようだ。

 

 

 

「香澄。新曲の途中、フレーズ間違ってたぞ」

 

「わかってます!」

 

「有咲はリズムずれてたから直せよ」

 

「は、はい!」

 

「沙綾、おたえ、りみちゃんは完璧。グッジョブ」

 

 

 

三人に向けて親指を立てれば香澄から「ずるい!」という声が上がる。がいつものことだから特に気にしない。「どうせやれるんだろ?」そんな表情を向ければ嬉しそうに笑う。

この表情を見れるのが嬉しいと思うようになったのはいつからだろうか。こいつらと出会ったのはつい最近のはずなのに長らく一緒にいた気がする。やっぱり期間よりも時間の密度の問題なのだろう。みんなの体調は手に取るようにわかるし今日は音がノっている。ライブ前だと考えると最高のコンディションだ。

 

 

 

「朝日先輩は練習しないんですか?」

 

「やるとしたら後でやるよ。なんで?」

 

「いえ。今日は一度もギターに触れてないなって、そう思って」

 

「あー」

 

 

 

香澄とおたえの音色が室内に響く。水分を取る私に近寄ってきた有咲。彼女の指摘に思わず苦笑いをしてしまう。不思議そうに首が傾げられた。

 

 

 

「紗夜に無理したらギター取りあげるって言われてるんだよね。だから下手なことできなくてさ」

 

「あー……。朝日先輩、紗夜先輩と日菜先輩には弱いですもんね」

 

「否定はしない。だってあの二人、私が無理してたらぶちぎれるから……」

 

「まあその時は私もぶちぎれるので安心してください」

 

「おっと安心できない案件が増えたぞ?」

 

 

 

茶化す声に笑い合う。そんな関係が心地いい。

 

 

 

「朝日~。ちょっといい?」

 

 

 

扉の開閉音と共にリサが私の名前を呼んだ。有咲に断りを入れて扉の方にかけていく。壁に隠れて見えなかったが美咲も一緒のようだ。

 

 

 

「どうした?何か問題?」

 

「ううん。そうじゃないよ。もう少しで千聖が着くみたいだから打ち合わせの時間決めようと思って」

 

「そういうことね。確認できることは今日中にやっておきたいよな」

 

「その件ですけど黒服さんには事前に話を通してるのである程度のことは終わってますよ」

 

「そうなの?じゃあその件も含めて千聖が来たら話すか」

 

「そうしよう。部屋は朝日のところで大丈夫そう?」

 

「ああ。大丈夫だよ」

 

「わかった。じゃあまた後でね」

 

 

 

練習中だったのだろう。二人は早々とそれぞれの練習スタジオに戻って行った。

 

 

 

「朝日先輩、リサさんと美咲と何の話してたんですか?」

 

 

 

いつの間にか背後にいた沙綾に驚く。だけどその問いを聞いて自然と口角は上がっていた。

 

 

 

「ちょっとしたお楽しみの話だよ」

 

 

 

 

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