合宿二日目が始まった。
バンドごとに分かれて、午前午後ときっちり練習をこなす。
夕食を終えて、そして迎えた楽しいことが起こる時間。
「レクリエーション、ですか?」
「ああ。せっかくの合宿だしやろうってことになったんだ」
黒服さんと打ち合わせを終え、準備を進め、その話を各部屋に伝えに行った時の反応はそれぞれで。
部屋の配置的に最後に呼びに行った有咲は今日一番少ない困惑の表情になっていた。
「詳しいことは歩きながら話そうか」
「わかりました。けどどこに行くんですか?」
「ま、それはついて来たらわかるよ」
有咲のことだから場所を聞いても逃げたりはしないだろうけど、実際香澄は逃げ出しそうだったし、保険をかけておくのは大切だ。
有咲を連れ出し私は今回のレクリエーションの舞台となる建物裏の森に向かう。
なんとなく何をするのか察していそうな有咲は目が泳いでいた。
「どうした有咲」
わかっていないフリをして私は彼女に問いかける。
「な、なんでもないです」
見え見えの強がり意地っ張り。そんなところも愛おしい。
「朝日!やっと来た!早く始めちゃおうよ!」
私のことを見つけたリサが駆け寄ってくる。私の腕を掴んで引く。
「お、おいリサ?何をそんなに慌ててるんだよ」
「は、早く始めないとみんな待ってるよ。説明もあるんだし」
「それはわかるけどそんなに急ぐようなことでもないだろ?」
明らかにリサの様子がおかしくて、そしてその理由がおそらく有咲と同じであるとなんとなく察する。
「ははーん。さてはお前怖いんだな?」
「そ、そうだよ!だからさっさと始めてさっさと終わりたいの!」
意外とリサは怖いものが苦手らしい。
グリーンスムージー以来の弱みだな。
「わかったわかった。さっさと始めてやるからとりあえず手離せよ」
「あ、ご、ごめん」
やっとのことで手を離してくれたリサはバツが悪そうに乾いた笑みを向けていた。
遠目の位置で日菜と話していた千聖が目線で合図を出す。それを見て美咲に視線を送れば「わかりました」と後頭部を掻いていた。
「みんなー!今から肝試しをするわよー!」
通る声をしているこころが全員に呼びかける。
はしゃぐ者、困惑する者、絶望する者。反応は様々だった。
「あ、の、朝日先輩。レクリエーションってこれですか?」
裾を掴みおそるおそる有咲が声をかける。
「ああ。夏と言えば肝試しだろ?せっかくだからやろうって話になったんだよ」
「ま、まじですか……」
すごく嫌そうな表情をしている。というか震えてることを考えるとただ怖いのだろう。怖がってる姿もただ可愛いだけだ。
「……楽しそうですね、朝日先輩」
「ん?そんなことないけど?」
「嘘つかないでくださいよ。楽しそう且つ悪い顔してますよ。朝日先輩もしかしてこれがあるってこと知ってたんですか?」
「んー?さぁね」
いくら察しがよくたってここに来た以上逃がす気はないんだ。
有咲含め無関係な連中には悪いが、最後まで巻き込ませてもらおう。
「チームは時間短縮のためにこっちで勝手に決めさせてもらいました。今泊っている部屋分けごとに入る順番はくじ引きで決めようと思います」
「部屋ごとに分かれてちょうだい!」
だけど私にとっては、これから始まるのは完全な賭けなんだよなぁ。
「ここでもおねーちゃんと一緒なの?あたし他のチームがいいんだけど」
「あら奇遇ね。私も同じ意見よ」
正直、このレクリエーションで解決しなかったらもう解決できる気がしないんだよな。今回の姉妹喧嘩は。
「えーっと、ルール説明しますね」
美咲がこころに邪魔されながらも続けたルール説明を要約するとこうだ。
ここからまっすぐ進んで行くとチェックポイントがあってそこにお札が置かれているらしい。それをグループで一個とって戻ってくれば終わりのようだ。
ただ雰囲気づくりのためにスマホや時計などは没収。その代わりに一グループ一つずつ懐中電灯と緊急用でトランシーバーは持って行けるらしい。トランシーバーで助けを呼べば黒服さんが飛んでくるんだとか。その辺はさすがとしか言えない。
まあ、とりあえず一つだけ言えることがあるとすれば。
「ねぇ必要以上に近づかないでよ」
「なっ、そんなこと言う必要ないでしょ!」
「私のこと挟んでケンカするのやめてくれないかな?」
日菜と紗夜の会話が思春期の子供のそれでしかないということだろうか。
「代表の人はくじを引いてください。その時に懐中電灯とトランシーバーを渡すので」
「私が引きに行くから手を離してもらっていいかな?」
「いやだ」
「いやよ」
行くまでに一分かかったうえに順番は最後だった。
♢♢♢
理由があるとするなら。
仲が悪いままなのは嫌で、犠牲になってでも解決したい問題だから。
それ以外の理由なくて。
だから私は。
「姉さん!?」
「どこ行くのおねーちゃん!!」
一つ事件を起こすことにした。