不良少女(仮)   作:茜崎良衣菜

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行方不明と確信事項。

 

 

 

「それじゃあ三人共、頑張ってね!」

 

 

 

弦巻さん発の肝試しはみんな嫌がりながらもスムーズに進んで行き、トリを飾る私たちの番になった。

自分の番が終わったからか今井さんは楽しそうに笑っていた。姉さんが軽く返事を返す。

今井さん、自分が行く時はあんなに青ざめていたのにいざ終わったらあんな良い笑顔をするのね……。

私たちを応援する声をほどほどに、先頭に立つ姉さんに誘導されるまま私たちは森の中に入って行く。

正直私自身気は乗らなかったのだが一人だけ参加せず輪を乱すのは避けたいことでもあった。

 

夜も八時を過ぎて、夏と言えど完全に日は落ち切っているため森の中は真っ暗。いくら懐中電灯があるとはいえ一グループ一本だけだしその明かりも照らせる範囲も精々二メートルが限界だろう。その明かりもLEDというわけではなくオレンジ色のぼんやりとしたものだ。心もとない。

先が見えなくて闇の中で鳴く鳥や虫たちが不気味さを演出する。微細に肌を撫でる風が少しずつ冷たくなっている気がした。時間が経つにつれ恐怖心を煽られる。

 

 

 

「意外と何もないんだね~」

 

 

 

しかしそう思っているのは私だけらしい。

いつもの調子で日菜が呟く。

私とは生きている空間が違うのか興味津々といった様子で辺りを見渡していた。

 

 

 

「まあ、夜ってだけでただの森だからな」

 

 

 

姉さんにも変わった様子はなくとても落ち着いていた。

あの二人と行くことになったのはある意味幸いであり、同時にただ夜の森を散歩しているだけという感覚に切り替わる。

この二人がこうなら私がいつもと違う態度を取るのは姉さんにからかわれそうな気がしてならなかった。

 

 

 

「けど肝試しなら何かしら出て来てもおかしくないじゃん?ほら、怪談話してたら幽霊が集まってくるってやつ」

 

「あー。訊いたことある。でも今日のこれは度胸試し、みたいな感じだからあんまり関係ないんじゃないか?弦巻家がずっと管理してる土地らしいし」

 

「んー、そうかな?あたし的には何かあった方がるんっ♪ってくるんだけどなー!」

 

「何馬鹿なこと言ってるのよ。何もない方がいいに決まってるでしょ」

 

 

 

日菜がとんでもないことを言うから思わずため息をつきながらそんな言葉を返す。

しかし日菜から返ってきたのは不思議そうな毒のこもった言葉だった。

 

 

 

「え?あたしおねーちゃんには話しかけてないよ?あたしとおねーちゃんの会話に入って来ないでくれる?」

 

「日菜が馬鹿げたことを言うからでしょう」

 

「冗談だし、別におねーちゃんに向けて言ったわけじゃないんだからおねーちゃんには関係ないよね」

 

「ちょ、おい。こんなところに来てまでケンカするかよ普通」

 

 

 

姉さんは呆れたように呟く。二人して「黙ってて」と言えば「はいはい」と適当な返事が返ってきた。

姉さんにはケンカに巻き込んで申し訳ないという気持ちがありはするものの、今回のケンカは日菜が折れるまで絶対にやめる気はない。というか譲る気はない。こればかりは姉さんにも止められることではないと思っていた。

 

 

 

「別にいいよ。おねーちゃんのことなんか知らないし。おねーちゃん、早くお札見つけて戻ろう」

 

「ああ。そうだな」

 

 

 

日菜は姉さんの横にぴたりとくっつく。私の方を見て勝ち誇ったような顔をしていた。

姉さんに笑顔を振りまいて味方にでもしているつもりなのだろう。子供のような行動に眉をひそめた。

 

 

 

「――なあ……なんか嫌な予感しないか?」

 

「嫌な予感?」

 

 

 

突然素のトーンで姉さんは私たちに問いかける。心なしか進む速度が遅くなっているように感じた。

私には思い当たるようなことがなくて聞き返すことしかできない。日菜に視線を向ければ日菜も私と同じような表情で姉さんのことを見ていた。

 

 

 

「なんか、上手く言えないんだけどさ。良くないことが起こる気がするんだよ……」

 

「良くないことって?」

 

「それはわかんないけど」

 

 

 

複雑そうな表情をしていた。姉さんの勘は良いものも悪いものもよく当たる。だからこそ良くないことが起こると言われてしまえば嫌でも気にしてしまう。きっとそれは日菜も同じだった。

 

 

 

「だったらなおさら早く戻った方がよさそうね。少し急ぎましょうか」

 

「いや、大丈夫だよ。気のせいだと思うし」

 

「え、けど……」

 

「大丈夫だって。ほら、お札の置いてある石ってあれだろ?」

 

 

 

姉さんが懐中電灯で先を照らす。肝試しだと言っていたからもっと奥にあるのかと思っていたけれど意外と近くにあったようだ。

木々の前。楕円と四角が合わさった形の石が地面に突き刺さっていた。その石の前には確かに肝試しを始める前に説明されたものと同じお札が置かれていた。

姉さんは両手が埋まっていたからか日菜にトランシーバーを渡してから石の前にしゃがみ込みそのお札を手に取った。

これであとは戻れば肝試しは終わる。しかし引き返そうとする私と日菜をよそに姉さんはしゃがみ込んだまま動こうとしなかった。

 

 

 

「この石……」

 

「何かあるの?」

 

「なんか文字が書かれてたみたいなんだけど所々掠れてるんだよ」

 

 

 

手招きされ、日菜の隣に私が並ぶ。懐中電灯で照らされた先を見れば姉さんの言う通り石には何か書かれている様だった。読めるところだけを読んでみたが文章として成立しているのかさえ不明だ。

 

 

 

「これ、名前が書いてたんじゃない?」

 

 

 

数秒してそう声を上げたのは日菜だった。

 

 

 

「名前?」

 

「ほら、ここ」

 

 

 

首を傾げる私に日菜が指を指す。指差した所は確かに名前のように読める。だが仮に名前が書いてあったとして、それが何を表しているのかはわからないまま。

 

そんな私の考えは最悪の形で裏切られた。

 

 

 

「しかもここの部分、墓って書いてるように見えない……?」

 

「え……?」

 

 

 

次に届いた声は聞きたくなかった。日菜の声も震えている。この石に書かれている文字が、否、この石自体が何なのか理解してしまったからだ。

 

 

 

「ね、ねえさ……」

 

 

 

――カラン。

 

その音と共に私たちを照らし支えてきた光が一瞬で消えた。コロコロ転がり私の足にぶつかって止まる。視線を落とせばまた明るさがあって、立ち上がった姉さんの足元が照らされていた。

 

 

 

「おねーちゃん……?」

 

「笑い声だ」

 

「姉さん……?何言って」

 

「子供の、笑い声」

 

 

 

暗闇だから姉さんの表情を上手く読み取れない。だけどその声は動揺が混ざっているように聞こえた。

 

 

 

「聞こえるだろ。子供の笑い声が」

 

 

 

子供の笑い声。私にはまったく聞こえていない何かを姉さんは聞いていた。

日菜も私と同じく姉さんの言葉に恐怖を覚えたらしい。姉さんを呼ぶ声が震えていた。

姉さんは私たちから数歩遠ざかる。私たちは金縛りにかかったようにその場から動けなかった。

 

 

 

「――行かなきゃ」

 

 

 

使命感のような言葉。その言葉を聞き届けた瞬間、目の前から姉さんがいなくなった。

 

 

 

「姉さん!?」

 

「どこ行くのおねーちゃん!!」

 

 

 

慌てて懐中電灯を拾い私たちは姉さんの後を追って走り出した。知らない土地のはずなのに姉さんは迷いなく進んで行く。

姉さんにいくら呼びかけても反応のない以上、私たちは見失ってしまわぬように後を追うことしかできなかった。

 

 

 

「うわっ!」

 

「日菜!!」

 

 

 

足場が悪くて転んでしまった日菜に気づき私は足を止めた。暗闇の中に置いていくことなんてできるはずもなく起き上がる手伝いをすれば「ありがとう」とお礼の声が聞こえた。

懐中電灯で日菜の足元を照らす。木の根元が地面から突き出していた。これに引っかかったようだ。

 

 

 

「日菜、大丈夫?」

 

「あたしは大丈夫!おねーちゃんは!?」

 

 

 

焦る声に私も慌てて先を照らす。既に姉さんの姿はなかった。

静かで、どこに行ったのかもわからない。

 

 

 

「ど、どうしようおねーちゃん!おねーちゃんが!」

 

「落ち着いて」

 

 

 

そんなこと言いはしたものの私だって落ち着けるような状況ではない。

姉さんがいなくなった。どうすればいい。闇雲に探したってこんな暗闇で土地勘のない場所で簡単に見つけられるはずがない。必死に頭を悩ませる。その時ふと日菜の手に持っているものが目に入った。

 

 

 

「日菜!トランシーバー使って連絡とって!」

 

「あ、そっか!その手があった!」

 

 

 

日菜はトランシーバーを操作する。すぐに出てくれた。相手は今井さんだった。

 

 

 

『どうしたの?何か問題?』

 

「た、助けて!おねーちゃんが!!」

 

『え?な、何どういうこと?』

 

「助けてください今井さん!姉さんがいなくなったんです!」

 

『えぇ!?朝日がいなくなった!?なんで!?ていうか本当にどういうこと!?』

 

「わからないから困っているんですよ!」

 

「おねーちゃん、なんか笑い声が聞こえるって言ってどこか言っちゃって!そんなのどこからも聞こえないのに!」

 

『な、何それ!?ちょ、ちょっと待ってて!』

 

「リサちー!?」

 

 

 

焦った声と共に通信を切られた。今井さんも焦っていたのか私たちの声は聞いていなかったらしい。

また静かになる。動揺で不安になる。

耳を澄ませてもやはり姉さんの言う笑い声なんてまったく聞こえない。

知らない何かが私たちに襲いかかっている。幽霊だなんて、笑えない。

 

 

 

「お、おねーちゃん……」

 

 

 

日菜の不安そうな目が私を見つめる。

姉さんの消失はこれで二度目。不安になるのもわかる。だからこそ私がしっかりしなくてはいけないと思った。

 

 

 

「大丈夫よ。姉さんなら平然とした顔で戻ってくるから」

 

 

 

日菜の手を握って私は微笑む。表情が少しだけ和らいだ気がした。

ここで私まで不安がってはいけない。そんなことではただ日菜の不安を煽るだけだ。

 

 

 

『紗夜ちゃん、日菜ちゃん』

 

「白鷺さんですか?」

 

『ええ。リサちゃんに変わってもらったの。今黒服さんたちが探しに行ったから紗夜ちゃんたちも近くを探してみてほしいの』

 

 

 

黒服さんたちが探しに来ているのならひとまず安心できる。だけど。

 

 

 

「そうは言われてもどこから探せば……!」

 

『お札を置いてた石の近くにいる?』

 

「い、いえ。姉さんを追いかけて走ったので」

 

『石を正面にしたらどっち側に走ったの?』

 

「えっと、左側だよ」

 

『そう。それなら今の位置で右折して進んで行って。しばらく進めば開けた場所にたどり着く。祠があるの。朝日は多分そこにいるわ』

 

「ど、どういうことですか!?」

 

 

 

完全に立地を把握している発言だった。しかしそんなことは今はどうでもいい。私が何よりを知りたいのは、どうして白鷺さんに今の姉さんの居場所がわかるのか、だ。

 

私の質問の意図を汲み取ってくれたのであろう白鷺さんは一つ間を置いてとんでもない真実を打ち明けた。

 

 

 

『これはさっき黒服さんに聞いたことなんだけれど……実はこの土地、弦巻家が買い取る前に女の子が行方不明になっているらしいの』

 

「え……?」

 

『行方不明になった少女、十年経った今も見つかっていないらしいわ。日菜ちゃんの言ってた、朝日の聞いた笑い声っていうのは多分その子のものね』

 

 

 

白鷺さんは幼少期から芸能界にいることもあって話の組み立てが上手い。どんな時だって落ち着いて、相手に伝わりやすいように話してくれる。

それでも今日はわかる気がしない。

 

 

 

『その少女、よく祠に訪れていたらしいから笑い声を聞いたのなら朝日はきっと……』

 

「本当に、そこに姉さんが……?」

 

『わからないわ。だけど、探してみる価値はあると思うの。私たちはここで待機するように言われているから、紗夜ちゃんと日菜ちゃんに任せたわ』

 

 

 

また何か異常があったら連絡してちょうだい。

そう続け白鷺さんは通信を切った。

私たちは互いに顔を見合わせ、覚悟を決め、頷き合った。

 

 

 

「行きましょう、日菜」

 

「うん。早くおねーちゃんのこと見つけよう!」

 

 

 

もうどこかにいなくなってしまわないように私は日菜の手を握った。

 

歩き出してしまえば道などわからないはずなのに足は早々と進んで行く。恐怖は普段通りなんて望んでいなくて、想定外ばかり私たちに与えていく。

しばらく歩いていれば白鷺さんの言う通り祠があった。想像していたよりも大きくて立派だった。

 

 

 

「……ここ、かな?」

 

「そう、ね。多分ここね」

 

 

 

この森に祠が何個あるかはわからない。だけど多分これで間違いはないのだろう。

辺りを見渡す。もしも白鷺さんの憶測が正しいのであれば姉さんはこの近くに……。

 

 

__ガサッ!

 

 

 

「誰!?」

 

 

 

茂みの揺れる音。驚き懐中電灯を向ければ私たちを見つめる人が一人。

 

 

 

「姉さん!」

 

「おねーちゃん!」

 

 

 

いた。見つけた。会いたかった。離れていたのはたった数分なのに一年くらい会っていなかった気分だ。

不意に姉さんの口角が上がる。

 

 

 

「――――――――――」

 

 

「え……?」

 

「へ……?」

 

 

 

小さな声だった。私たちの耳にその言葉が届くことはない。口パクだけでは何を言っているのかまではわからない。

姉さんがまた私たちに背を向ける。振り返る寸前の表情はついて来いと言いたげに見えた。いつもの根拠なんてないくせにどこか自信満々な姉さんだった。

 

 

 

「ま、待って!」

 

 

 

走り出す後を追いかける。今度は姉さんを見失わないように死にもの狂いで追いかける。

転びそうになりながらも足を止めることはない。さっきよりもスピードが遅い。というよりも姉さんが合わせてくれているようにすら思えた。

 

 

 

「姉さん!!」

 

「おねーちゃん!!」

 

 

 

やっとのことで掴んだ手。ぴったりと足を止めた。両手を私たちに掴まれているから動けないことだろう。

肩で息をする私たち。姉さんも同じように肩を揺らす。ゆっくり、姉さんは振り返った。

 

 

 

「――お前らなら絶対追いかけて来てくれると思ったよ」

 

 

 

想像もしていなかった言葉に私たちは目を丸くする。してやったりと姉さんはイタズラに笑った。状況とまったく合っていなかった。

姉さんの真後ろでは今井さんがバラエティ番組の企画で出てくるような看板を手にしていて白鷺さんもやり切った顔だ。

 

 

何がなんなのか、本当に訳がわからなかった。

 

 

 

 

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